ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「みんな…………いなくなっちゃった…………」








ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「僕の中から…………いなくなっちゃった…………」








ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「僕…………ひとりになっちゃったよ…………母さん…………」








ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「天国ってなに…………?」








ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「幸せってなに…………?」








ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「………………………………」








ザザァァ……ン





ザザァァ……ン








「一人ぼっちの幸せなんて……………………天国なんて………………………………」

























「僕は……………………いらない」

































 全てが終わり、何もかも亡くなった世界。


 サードインパクト


 一部の人間の妄執が招いたそれは、世界を絶望と歓喜とで埋め尽くした。




 一瞬の絶望。


 一瞬の歓喜。




 それを同時に覚え、人は一つになった。





 欠けた心を補い合い、心に隙間を持たぬ完全な人間へと人工進化する。


 それが人類補完計画と呼ばれたサードンインパクトの正体であり、老人たちの望みであった。




 果たしてそれは起き、エヴァンゲリオンと呼ばれた福音の名を持つ人造人間、第二の使徒リリス…………


 そして欠けた心を持った少年をイケニエとして、人間は進化の階段を駆け上った。





 しかし少年――――碇シンジは思った。


 「これは違う…………」


 だから彼は否定した。




 補完された世界を。


 満たされた心を。


 閉塞した時間を。




 そして少年は望んだ。




 他人のいる世界を。


 傷つけあうも、暖かな心を。


 緩やかにすぎていく時の流れを。




 しかし









 人類はそれを望まなかった。








 故に――――――彼は一人ぼっちだった。

























 運命の日 当日




 「アスカ…………行かないでよ。

 僕を一人にしないで……アスカ。もう一度……僕を叱ってよ」


 わずかに開かれた少女のうつろな瞳。


 そして、開かれた心は今、終焉を迎えようとしていた。


 「なんとか言ってよ、アスカ。どうしてだよ……やっとアスカの心がわかったのに…………

 そんなの嫌だよ…………ウソだと言ってよ!」


 彼女の身体を力いっぱい抱きしめ、呼びかけるシンジ。


 しかし、無常にも少女の瞳は力を失っていく。




 そして――――――


 「アスカ……?」


 彼の頬を撫でていた少女の細い腕が…………落ちる。




 パシャッ




 「…………あすかぁ…………」


 オレンジ色の液体に濡れる赤いプラグスーツ。


 「アスカ…………アスカァ…………!」


 シンジはぬくもりをわずかに残したそれに縋るように、力いっぱい抱きしめた。


 少年の心に残る彼女の笑顔は、その日、思い出へと変わってしまった。


















 一ヶ月




 「一人っきりの食事…………」


 廃墟となった建物から見つけた食料を食みながらシンジはつぶやいた。


 「みんなはあそこで…………なにを食べてるのかな…………?」


 目の前に広がる赤い海を見つめながら昔のことを思い出した。


 いや……昔と呼ぶにはまだ早い、ほんの少しの過去の出来事。


 「……………………

 ミサトさん……アスカ……綾波……」


 思い出の中にまだ生きている大切な人たち。


 「みんな…………ちゃんと食べてる……?

 ミサトさんはビールばっかり飲んでたらダメですよ………………

 アスカも、お菓子ばっかりじゃダメだよ。

 綾波も…………ちゃんと栄養のあるの、食べなきゃ……………………」


 虚しさに心を啄ばまれながらも呼びかける。


 「トウジは…………委員長がいるから大丈夫だよね…………

 ケンスケは…………少し心配だな…………」


 知らぬ間に頬を涙が伝っている。


 今日の食事は…………少しだけしょっぱかった。


















 三ヶ月




 眼下に広がる瓦礫の街。


 「僕がかつて守った街…………」


 ミサトが最初に連れてきてくれた高台。


 シンジは最近よくここに訪れるようになっていた。


 「みんなが住んでて…………暮らしてた街。

 今は………………………………僕だけの街……か」


 全部覚えている。


 どこになにがあるのか、どこに行けば誰に会えたのか。


 「あそこは学校…………その隣りにあるのは、トウジたちと行ったゲーセン。

 あのスーパーはお魚が安くて、おじさんによくおまけしてもらったっけ…………」


 一つ一つを指差して、そこにある思い出に浸る。


 目を閉じると、光に包まれたその光景が今でも鮮明に蘇る。




 ああ…………なんと美しく暖かい時間!人々!




 そしてその思い出が、一番大切な場所でのものになる前に、シンジは瞳を開けた。


 そこに広がっているのは、黒々としてどこまでも寒い、壊れた世界。


 …………寂しい、現実…………




 「あそこにあるのは…………僕たちの家で…………

 綾波の家は…………あの時、壊れちゃったんだっけ。

 確か芦ノ湖…………はじめてだったな…………デートなんて…………

 それから、あの道は本部に続いてる道だったな…………」


 自分が一番自分でいられたあの時の思い出…………


 思い出したら、泣いてしまったから…………


















 六ヶ月




 『わたしが死んでも…………代わりがいるもの…………』




 「……はっ!!」


 砂浜でシンジは目を覚ました。


 「ゆめ…………か…………」


 汗でシャツが背中に張り付いている。


 「今日は綾波の夢か…………昨日はミサトさんの夢だったな…………」


 最近シンジは夢をよく見る。




 昨日はミサトが撃たれた夢。


 3日前はカヲルを殺した時の夢。


 一週間前には、アスカが引き千切られた夢とマナが光の中に消えた夢をいっぺんに。




 「今日はあと……綾波が壊れた時の夢を見るのかな。

 それとも父さんを殺した時の夢かな…………どっちだろ…………」


 笑う。


 自嘲気味な、暗い笑い。


 「他に夢…………ないのかな…………

 …………こんなのばっかりだよ…………」


 自分の目元に手をあて、シンジはつぶやく。


 「なみだ…………でないや。

 はははっ、もう、慣れたもんね…………」


 流れぬ涙に、シンジは悲しいウソをつく。


 固く握った砂が、爪に食い込んだ。


















 十月十日




 痩せ細ったからだ。




 こけた頬。




 虚ろな瞳。




 なにも見えぬ心…………




 「なにも思い出せないや…………もう…………」


 最初の砂浜で、シンジは膝を抱えていた。


 「夢も……見ないんだ…………」


 そのかたわらには、乾いた赤いプラグスーツがある。


 「……………………」


 プラグスーツを手に取り、立ち上がるシンジ。


 ふらふらとおぼつかない足取りで赤い海へと向かう。


 「……………………」


 打ち寄せる波を見つめ…………


 「……………………」


 シンジはそれを海へと流した。








 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 「みんな…………いなくなっちゃった…………」




 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 「僕の中から…………いなくなっちゃった…………」




 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 「僕…………一人になっちゃったよ…………母さん…………」




 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 「天国ってなに…………?」




 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 「幸せってなに…………?」




 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 「一人ぼっちの幸せなんて……………………天国なんて………………………………」




 「僕は……………………いらない」




 絶望につぶやき、横たわるシンジ。




 空には満天の星に真ん丸の月。




 悲しいほどに美しいその空に




 シンジは涙を流し




 瞳を閉じた。













 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 ザザァァ……ン


 ザザァァ……ン




 ザザァァ……ン


 ザザァァァァァ…………ン








 横たわるシンジを浸すほどの大きな波。


 それが引いていく。









あああ…………あああ










 心を閉じ、瞳を閉ざすシンジ。


 その横に生まれるぬくもり。









あああ!…………あああ!










 誰かが泣く声。


 でも悲しみの泣き声ではない。









おぎゃあ! おぎゃあ!









 「…………あかちゃん…………」










 シンジはその声に導かれ、瞳を開いた。





























プロローグ









 「…………あかちゃん…………」


 自分の隣りに大きな泣き声を上げている赤ん坊がいる。


 「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」


 「なんでこんなところに…………

 僕以外の人は…………みんないなくなっちゃったのに…………」


 自分以外のはじめての人。それを前にして、シンジは喜びの前に驚きが先立った。


 小さなからだ。


 大きな声。


 「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」


 「……………………」


 シンジは泣きつづけるその赤ん坊をそっと抱き上げた。


 壊れ物を扱うように、おそるおそる…………


 「わあ…………」


 暖かい。とても暖かかった。


 「…………あー、う」


 そして不思議なことに、その赤ん坊もシンジが抱き上げると途端に泣き止んだ。


 シンジの腕の中で小さな手足を一生懸命ばたつかせ、自分の存在を主張する。


 「あったかい…………生きてるんだ」


 「ばーぁ、あうー、ぶー……」


 ほんの少しだけ生えた黒い髪。


 宝石のような蒼い瞳。


 ちょっとだけたれ気味な目元。


 透けるほどに白い肌。


 そして…………とても、とても元気な…………


 女のあかちゃん。




 小さな手を一生懸命にシンジに伸ばす。


 まるでなにかを求めるかのように。生まれたばかりで、自分の一番大切なものがわかるかのように。


 「うー、う。うー」


 「あ……ああ…………」


 腕の中から感じるぬくもりが、なにかをシンジに訴える。


 伸ばされた小さな手のひらが、なにかをシンジに投げかける。


 「あぶーう、あー、あー」


 「う、うん……わかるよ…………

 そうだね……僕にはわかるよ…………」


 シンジの瞳から涙の粒が零れ、赤ちゃんの白い頬にぽつぽつと落ちる。


 それを知ってかしらずか、ぺちぺちと小さな手でシンジの頬をたたく。


 「ぱー……

 ぱー、ぁ。ぱーぁ」


 「うん……そうだよ…………そうだよ……!」


 小さな手をきゅっ、と握り、優しくその子を抱きしめる。


 「はじめまして…………

 僕が君の……………………パパだよ…………!」


 そうしてシンジは、運命の日から十ヶ月目にしてようやく心からの笑みを浮かべることができた。


















 新しき運命の日 当日




 「まずは君の名前を決めなくちゃね」


 慈愛に満ちた瞳を向けながら、シンジは幸せそうに微笑む。


 「そうだねー

 う~~~~ん…………」


 「あうー……」


 あごに片手をやって悩むシンジの頬をぺちぺちとやりながら、自分も悩むような声をあげる。


 「…………うん。決めた」


 「あー」


 「君の名前は、マイ。

 今日から……おまえは、碇マイだよ」


 大切な自分の娘の名前。シンジはそれをマイとした。




 どこにもこの子が自分の娘であるという証拠などない…………


 しかしシンジにはわかった。この子は…………マイは間違いなく自分の娘であると。


 直感のようなものだ。言ってしまえば、親娘の絆のようなものを感じたのかもしれない。


 だから、誰にでも胸を張って言える。




 「仲良くしようね、マイ。

 大切な、大切な僕の娘…………」


 シンジがそう微笑みかけると、マイもきゃっきゃと喜び、笑った。


 それを見たシンジの瞳には、また、涙があふれてきた。


















 一ヶ月




 「マイー、ちょっと動かないでねー」


 「ぶー、あう。あーあー」


 慎重にオムツを換えているシンジをよそに、マイはどこか楽しげにぱたぱたしている。




 シンジとマイは、廃墟と化した第三新東京市の、比較的きれいだった家で生活していた。


 赤ちゃんの世話というのはこれでなかなか手がかかる。


 オムツの世話にミルクの世話。夜になれば夜泣きもするし、病気にもかかりやすい。


 たとえシンジが家事万能とはいえ、普通なら相当の苦労を重ねるはずだった。


 しかし、シンジには心強い味方がいた。


 それは、あのマイが誕生した砂浜で見つけた一冊の本だった。


 今までどこにもなかったのに、マイの誕生と共に忽然とそれは現れ、シンジにあらゆる知識を与えて
くれた。まさに、今のシンジにとってはバイブルともいえる一冊である。




 その本を横に開いて置き、今もオムツを換えている。


 「よいしょ……と。はいできた。

 きれいになったよ、マイ」


 「ひゃうー、あー!」


 気持ち悪いのがなくなったためか、新しいオムツに身を包んだマイは嬉しそうに笑っている。


 シンジもその笑顔に心を和ませながら、クマさんのベビーウェアをマイに着せてあげた。


 ちなみに他にウサギさんとネズミさん、ネコさんのベビーウェアを持っている。


 「さてと……次はミルクか…………

 もう少ししたらゴハンだから、もうちょっと待っててね」


 忙しい毎日が、とても充実していた。


















 三ヶ月




 「あああーー!!あああうううーー!!」


 「…………これは…………」


 部屋がずたずたになっていた。


 その部屋の真中では、マイが大きな声で泣いている。


 シンジがいつものように、マイが寝た隙を見て出かけた間の出来事だった。


 「よしよし…………もう大丈夫だから…………

 パパがいるから、もう大丈夫。泣かないでマイ」


 「ああーう…………ぱぁー、ぱぁー…………」


 抱き上げたシンジの顔に、一生懸命小さな手を伸ばすマイ。


 きれいな蒼い瞳の端には、玉のような涙が残っている。シンジは、それをそっと指で拭ってやり、改
めて部屋の惨状に目をやった。


 「…………これ…………もしかして」


 壊れた机、ずたずたになったカーテン。


 それら全てが、鋭い刃物で切断されたようになっている。


 こんな小さなマイの手で刃物など握れるはずもないし、それ以前にシンジはマイの手の届くところに
刃物など置かない。


 だとすれば、シンジの知る限りでこんなことができるのはただ一つ。


 「…………ATフィールド…………」


 LCLの海から誕生したマイだ。なにができても不思議ではない。


 不思議ではないが…………


 「…………とりあえず、掃除しなきゃ」


 余計なことを考えるのは後でよかった。


 なんせ、マイがどんな力を持っていようが、自分の娘であることに変わりはないのだから…………


















 五ヶ月




 自分の腕の中で眠っているマイのほっぺたを指先でくすぐると、小さな指先がふにふにとさまよう。


 それが可愛くて、愛しくてシンジはなんどもそれを繰り返した。


 「……うー……」


 「くすっ……」


 愛しい。なによりも愛しかった。


 この全てが終わってしまった世界で、こんな幸せを手にできるとは思っていなかった。


 「マイ……おまえがいてくれてよかったよ……

 ありがとう。生まれてくれて。愛してるよ、マイ…………」


 微笑んで、マイの小さな指を握るシンジ。


 「僕は幸せだよ…………おまえさえいてくれれば、きっと他になにがなくても耐えられる。

 でも…………おまえは違う」


 握った指を弄びながら、シンジの笑みは、寂しげなものになった。


 「どんなに僕が幸せでも…………おまえを護ってやれても…………

 おまえより先に僕は死ぬ。そしたらおまえはこの世界に一人ぼっちだ…………

 そしておまえの中にはアダムの力が…………いや、おまえは女の子だからイブか…………

 その力が眠ってる」


 この数ヶ月の間でたどり着いたシンジの結論。


 マイはLCLの海に包まれている間にアダムの力を手にして、この世界に生まれてきたのだ、と。


 相変わらず根拠のない確信がシンジにはあった。


 「僕がおまえのそばにいてやれる間はその力を僕が制御してやれる。

 僕とおまえは親娘だからね…………二人の間にできないことなんてないから…………

 だけど僕がいなくなったら…………おまえは制御できないその力を手に、この壊れた世界で永遠に一
人ぼっちだ……………………マイは泣き虫だから、ずっと泣いて暮らすことになるんだろうね…………

 …………そんなの、僕は許さないよ」


 握った指を解放してやる。と、その指をマイは自分の口にくわえた。


 もごもごと動く指と小さな口元が愛らしくて、シンジは思わず泣きたくなった。


 「マイのお母さんも捜さなきゃいけないしね……………………

 …………来月、来月になったら行こう。懐かしいあの場所に。きっとマイも気に入るよ…………」


 最近、少しずつ伸びてきたきれいな黒髪を撫でながらシンジは決意した。


 もう一度…………もう一度だけあの刻を…………


 「マイにはどんな髪型が似合うのか…………ミサトさんたちと相談したいんだ…………!」


 ひどく個人的な理由をつける父親は、まさしく親バカの顔をしていた。


















 六ヶ月




 全ての準備は整った。


 最初の砂浜で、シンジは空を見上げていた。


 「マイ…………そろそろ行こうか」


 「あー、あーう」


 シンジの背中で、お気に入りのネコさんのベビーウェアを着たマイが返事をする。




 赤い空。赤い海。


 壊れた街。誰もない世界。


 張りつけられた量産型エヴァ。薄ら笑いを浮かべたレイ。




 一年以上過ごしたこの場所のそれらをシンジは見渡す。


 悪いことだらけの世界だった。自分が第三新東京市に来てからというものの、辛い思い出ばかりがあ
ったような気がする。


 でも…………


 (綾波、アスカ、マナ、ミサトさん、カヲル君…………みんな…………)


 思い出の中の人たち。


 辛いことばかりだったけど…………その人たちとの思い出は、限りなく輝いていた。


 だからもう一度…………自分のために、なによりも愛しい娘のために…………




 「この世界のみんな…………さようなら…………」




 「ぶうー……ぱーあ、ぱあー、うー」


 マイのからだがほんのりと輝いたかと思うと、今度はシンジの瞳の色が変わった。


 その色は、紅の色。


 二人を真紅の光の玉が包み込む。


 ゆるやかに宙に浮かびゆく二人。


 そして、一定の高さに達した途端、その光は揺らめく蜃気楼のように掻き消えた。




 この日、この世界は最後の人間の消失を持って完全な死の世界へと姿を変えた。

































 血の色をしたLCL。


 ここはそれで構成された海の中…………




 「行ったわね…………」


 「ええ。ここまではシナリオ通りだわ」


 「でも、よかった~~、シンちゃんが立ち直ってくれて♪」


 なにやら響くかしましい声。声の調子からすると…………10台半ばくらいか?


 三つの影が車座になってなにやら話をしていた。


 「そうね…………それだけが心配だったけど…………」


 「ま、結果オーライってやつかな?」


 平坦な口調の少女と、底抜けに明るい少女の声。


 そこに、今度は勝気な口調の少女の声が響く。


 「それにしても、ホンットに可愛かったわね~~~、マイってば♪

 さっすが、あたしとシンジの娘だわ♪」


 なにやら嬉しそうにクネクネと身をよじらせる影。いや……よく見れば、輪郭も見てとれるし、色彩
もないことはない。


 どうやら…………背中まで伸びた紅茶色の髪に、蒼い瞳を持つ少女のようだ。


 「ちょっと…………聞き捨てならないわね!マイちゃんはあたしとシンちゃんの子供でしょ!?」


 激昂して蒼い瞳の少女に詰め寄る影。


 こちらは…………ブラウンの髪に同色の瞳。目元が少したれている少女。


 「あんたバカァ!?マイの目を見ればわかるじゃない!

 あのきれいなブルーの瞳は間違いなくあたしからの遺伝よ!!」


 「それを言ったら、あの目元はあたしとそっくりじゃない!

 そ、それに!あたし、シンちゃんと…………ひ、一つになったんだからぁ!キャッ♪」


 「ふふん!お生憎様ね。あたしはあんたより先にシンジと一つになったわ!

 だからマイはあたしとシンジの娘ってことよ!残念だったわね!」


 「そ、そんなの不発に決まってるじゃない!!」


 「ふ……って!なぁんですってぇぇぇ!!?」


 互いに暴発。


 そしてはじまるサルとイヌの不毛な取っ組み合い…………




 それを尻目に残されたもう一つの影がニヤリと笑みを浮かべた。


 (ふっ……全てはわたしのシナリオ通り…………)


 もう言うまでもないことだとは思うが、いちおうこの影の特徴を語っておこう。


 髪の色は空のような蒼銀色。瞳は対照的に真紅に彩られ、肌は透けるほどに白い。


 一目でそれとわかる、アルピノの少女だ。


 彼女は先ほどからの両者の言い合いを、時折、額に青筋を浮かべつつも黙って見つめていた。


 (あなたたちの行動は全て計算通り。サルとイヌはいつまでもそうしているといいわ…………

 待ってて、碇君、マイ…………あなたの妻が……母がいま行くわ…………)


 どこで覚えたのか、寒気がするほどのニヤリ笑いを貼り付けたままそっとその場を離れ始める少女。


 慎重に、慎重に…………二人に気づかれぬように慎重に…………


 ここが彼女の計画の一番の要。失敗するわけにはいかないのだ。




 「…………」


 一定の距離を取ったところで改めて二人を見やると、




 「あんたみたいな『エグレ』の色気無しをシンジが相手にするわけないじゃない!」


 「えっ……『エグレ』ですって~~~!!?

 で、でかけりゃいいってもんじゃないもん!量より質よ、質!!」




 「……………………(怒)」


 途中、気になる一言があったものの、そこはそれ。彼女は言いたい言葉をぐっとガマンした。


 とにかく、チャンスは今をおいて他にない。


 (一生そこでそうしているといいわ…………クス)




 瞳を閉じ、精神を集中する。


 自分の魂をあの刻へ…………


 愛する人たちの還ったあの刻へと…………!




 彼女の周囲に紅い光が集まっていく。


 そしてそれはやがて球形となり、彼女のからだを持ち上げはじめた。


 (……我が事成れり……!)


 彼女が内心で激しくガッツポーズを掲げようとしたその瞬間、




 ガシィッ!





 「!」


 「そうは問屋が卸さないわよ、ファースト!」


 「そういうこと~~~♪」


 アルピノの少女の右足に蒼い瞳の少女が。そして左足にはたれ目の少女が掴まっていた。


 「あなたたち……いつの間に……」


 「ふふん。ど~せあんたのことだからこんなこったろうと思ってね。

 なんせ悪巧みはあの司令直伝ですもんね。きっと最後であたしらを出し抜くだろうと思ってたわよ」


 「だから~、引っかかったふりをしてタイミングを計ってたってわけ。

 まあ、途中から半分本気になっちゃったんだけど…………」


 てへへ、と笑って舌をペろっと出すたれ目の少女。


 「そんな…………」


 アルピノの少女は、事ここに至って計画が破れたことを悟り、白い顔をさらに白くした。


 (だめなのね…………もう、だめなのね…………)


 脳裏に描いていた親子三人のバラ色生活。それが崩れていく音を、彼女は確かに聞いた。


 「くっ…………」


 「ふっ………………無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」


 それでもやはり諦めきれず、足をふんふんと振ってみるが全く効果なし。


 がっつりと絡みついた腕は、カミナリが鳴っても外れることはないだろう。




 三人を包んだ紅い光の玉はどんどん高度を増し、やがて海から抜け出して、赤い空に舞い上がる。




 「さぁ~、待ってなさいよシンジ、マイ!!」


 「今、行くからねぇ~~~♪」


 「…………あなたたち、ジャマ…………」




 そして一定の高度に達すると、彼らの時と同じように溶けるように掻き消えた。





























 「ふふ…………彼女たちも行ったようだね…………」


 少女たちの消えた空を見上げてシニカルな笑みを浮かべる少年が一人。




 多分、説明するまでもないことだと思うがいちおう彼の特徴を説明することにしよう。


 輝く銀髪に、アルピノの少女と同じ真紅の瞳。肌はこれまた彼女と同じく透けるほどに白い。


 そして何よりも特徴的なのは、彼の全身から発散される濃厚な薔薇色空間。


 十人の少女に聞けば十人が、


 『ス・テ・キ…………』


 と、別の意味で言うこと間違いなしの少年だ。




 「それじゃあ、僕も行くとしよう…………彼らのもとにね」


 水面に浮いていた少年の足元から紅い光が生まれてくる。


 「破瓜の時を免れた上で娘を与えられる母親は一人しか選ばれないんだ…………

 そして彼女たちは……………………選ばれるべき存在では、ない……………………」


 紅い光に包まれ宙に浮きながら、ばっ!と大きく両手を広げる。


 「さあ、シンジ君!僕を選んでおくれ!!

 大丈夫!愛があれば性別なんて関係ないさ!!

 リリンの科学力なら…………僕だってお乳を出すことができるようになる…………!」


 なにやらとてつもなく妖しいことをシャウトする少年。


 ちなみに言うまでもないが、その瞳はあっちの世界を見つめている。


 「待ってておくれ、マイちゃん!

 君の本当のママが、今行くからね…………!」


 広げた腕できつく自分の両肩を掻き抱き、少年は激しくアレな笑みを顔に浮かべた。




 そして彼を包んだ光の玉もまた、赤い空の向こうへと消えた。


 いや、むしろ消えてしまったと言うべきか……………………






























かくして役者は舞台に揃った。








時はAD2015




場所は第三新東京市








彼らの物語が、今一度……………………















 作者の戯言


 この作品を某K・K氏に捧げます…………一方的に(^^;)


 というわけで新作ですね。もう一つのほうと違って、こちらはほぼ全編ギャグものです。

 プロローグはさすがにちょっとイタイ感じのシリアスシーンもありましたが、それは最初だけ。中盤
はほのぼので後半はギャグ、という構成になっております。

 まあとりあえず、お気に召していただけましたら同時に公開しております第一話の方も読んでやって
くださいね。こういうギャグものはまだあまり慣れていないので、お目汚しの点もあるかとは思います
が…………


 では続きを読んでいただけることを祈って…………ぽけっとでした♪




ぽけっとさんへの感想はこちら


Anneのコメント。

いやぁ~~、すっかり騙されちゃいました(笑)
最初はLASかと思ったら、レイとデートしてるとの事でLRSかと想い、シリアスな展開だなぁ~~っと思っていたのに・・・。
レイ、アスカ、マナが出てきた途端にギャグ物へ様変わりしちゃうとは(^^;)
それにしても・・・。3人の喧嘩の内容、一部だけ14歳の乙女には相応しくない言葉を使ってますね(爆)

そして、何よりも忘れてはいけない存在がカヲルですね(ニヤリ)
ああ、この調子だとカヲルはカヲルさんになってシンジの前に登場するのでしょうか?
フフ・・・。私の夢は膨らみます(笑)

しかし、マユミはシンジと1つになれなかったのね・・・。(^^;)



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