【 HONEY?】
第一章『アスカ』
それは…
その身についてまわる全ての煩雑な事象から逃れることを許される唯一の免罪符。
この果てしなく忙しない社会の荒波の中で荒みきってしまった人々に心の休息と魂の安寧を
もたらす。
『パリポリ』
雲一つない、どこまでも透き切った空が。
遮るもののない太陽から降りそそぐ陽光を受けとめる、真っ白な洗濯物が。
レースのカーテンを柔らかく揺らし、部屋の中を穏やかに吹き抜ける涼しな風が。
過不足なく、演出する。
『パリ、ポリ』
それは…?
『パリポリ』
そう…それは誰にも訪れる安息の刻。
『パリポリ』
そう…それは、休日。
『パリポリ』
そして、その休日は、無論この僕にだって訪れるものである。
『パリポリ』
…訪れることになっている。
『パリポリ』
…訪れる筈。
『パリポリ』
…訪れるといいんだけど。
『パリポリ』
…訪れて欲しいなあ?
「んなこと、アタシに言われても知らないわよ…『パリポリ』」
…………。
『パリポリ』
…………。
『パリポリ』
…………。
『パリポリ』
…ねえ、アスカ。
「…ん〜なによう?」
…そんな、あからさまにメンドくさそうな声出さないでよ。
「…うっさいわねえ…実際メンドくさいんだから仕方ないでしょ。今アタシテレビ観てるんだから
話しかけないでよ」
あのさ、僕だってゆっくりして本でも読もうかと思ってるんだけど。
「そんなの知らないわよ」
…………。
…はあ。
頭が痛いってのは多分こういう事を言うんだろうな…。
だからね、ゆっくりしたいのにお腹の上に頭乗っけられて、あげくのはてに服の上にポテチ
ぱらぱら零されてるとさ、気になって仕方ないんだけど。
「なによう、ここが一番アタシの頭にフィットするんだから仕方ないじゃない?」
…せめてそこで少しでも恥じらってくれたりするんだったら、まだ救いがあるのに。
「…なんか言った?」
…………。
「…………」
…ううん、なにも。
ところで、アスカ?
「なによ?」
その、『うしゃしゃしゃ』って笑い方、みっともないからやめた方がいいよ?
「むぅっ…余計なお世話よ」
でもさあ…
「あ〜もうっ! ったく…休日だってのに口うるさいヤツねぇ、アンタ」
…………。
「…なによう? それにここには、誰も居ないんだからいいじゃない」
…僕が居るんだけど。
「…あんた。…アタシの家族でしょ? 家族にまでいいカッコなんてしてられないわよ」
…でもさ、親しき仲にも礼儀ありって言うだろ?
「はあ…あー言えばこー言う…アンタ将来娘が出来たら絶対嫌われるタイプね?」
…はあ…もういいよ。
なんかこうしてると泣きたくなってくる。
僕も気にせず本でも読むことにするね。
「はいはい。そーしなさい」
『グリグリ』
『カプカプ』
『コショコショ』
『ペロペ…』
…アスカぁ。
「へ?」
…いや、「へ」じゃなくてさ。
「ん?」
…だから「ん」でもなくて…なにしてるの?
「だって…暇なんだもん…」
…テレビ見てたんじゃなかったの?
「そんなのもう飽きちゃったわよ」
…あのね。
まあいいや、いつものことだし。
…それで?
「えへへぇ…かまって?」
…それもいつものことなわけね。
「えへへぇ」
嫌だよ、僕本読んでるんだから。
ただでさえお腹の上、我慢して貸してあげてるのに。
「…むう…言ったわね?」
あ、ああ、言ったとも。
いつも僕が下手に出ると思ったら大間違いだよ、アスカ。
そうさ、僕だってちゃんと言う時は言うんだ。
なにせね、なにせ今日は休日なんだから。
「…結構根に持つわね、アンタ」
…ほっといてよ。
「…いいわよ。それなら」
…そ、そんな笑い方したって駄目だよ。
「ぬふふふ…実力行使っ!!」
ちょっ、なっ、なにするんだよっ!
いたたたたたたっ!
ちょっっ! ど、どこ触ってるのさっっ!?
くっ、くすぐったいてばっ!!
アスカっ! アスカってっ…むぐぅっ!?
…………。
「…………」
…………。
「…………」
…………。
「…………」
…………。
「…ふう」
…な、なにするんだよいきなりっ!!
「…なにってキスじゃない」
しかもしっかり舌まで入れてるし。
「ふふん、ありがたく思いなさい?」
…思う訳ないじゃないか…そんなレイプまがいの、しかもポテチ臭いキスなんて。
「…んふぅ」
って行ってる傍から首筋に舌を這わせるのはやめてよっ!!
「…ふふ〜ん、嬉しいくせにぃ」
だからそうやって下品に笑うのやめなよ…
「…ね、シンジ?」
…なにさ?
「なによう、あからさまに警戒したような顔して」
…『ような』じゃなくてしてるんだよ、実際。
「むぅ…なんでよう?」
…アスカの方はなんなのさ、一体。
「ん〜あの…さ?」
…なに?
「…しよ?」
駄目。
「…なによ、その即答は」
い・や・だ。
「何をするか位聞いてくれてもいいじゃない」
…アスカがそういう表情して「しよ?」なんて言うのはアレ以外ないじゃないか。
「あはは」
笑って誤魔化そうとしても、とにかく嫌だ、駄目。バツ。
「あんたねえ…純情な乙女が死ぬほど恥ずかしい思いして誘ってるのよ…?」
…どこの誰が『純情な乙女』だよ。
「…少なくとも、その純潔を奪った本人が言う台詞じゃないわね?」
…うっ。
「とにかくこんなカワイイ娘が誘ってあげてるのよ? しかもそんじょそこらの美女じゃないのよ?
普通の人間だったら狂喜乱舞するとこよ? アンタそれでもオトコ?」
…喜ぶのはアスカだけじゃないか。
「…な、なによう?」
…昨日…っていうか今朝何回させかおぼえてないの?
「えっと…4回…だっけ?」
外れ。5回だよ。
「あははは」
…笑い事じゃないよ。
…冗談抜きで腰の奥が痛いんだから。
「な、なによう…爺臭いこと言ってぇ」
…アスカはいいよね、あの後ぐっすり眠れたみたいだから。
「うっ…」
…僕なんてひりひりしてなかなか眠れなったよ。
「…だって」
…なにさ?
「…だって…スゴク良かったんだもん」
…う…そんなしゅんとした顔したって駄目だよ。
「…………」
…あ、あれからまだ7時間しかたってないんだよ?
「…だって…せっかく二人っきりなのに」
…はあ。
「…………」
…よいしょっと。
「?」
…寝室、行くんでしょ?
「…うんっ」
…トホホ…結局いつもこうやって負けるのは僕なんだよね。
「まあまあ、そのうちいいことあるわよ。…はいっ」
…なに?
「んっ」
…だからさ、手広げて何やってんの?
「アンタばかぁ!? だっこに決まってるでしょっ」
…だっこって…寝室なんてすぐそこなんだから自分で歩いてよっ!
「んぅっ」
…アスカぁ。
「んぅっ!」
…トホホ…じゃあいい?
「うんっ」
…よい、しょっと。
「んふふぅ」
…満足ですか? お姫様?
「お、わかってるじゃない。もっちろん大満足よ?」
…それはそれは有り難き幸せ。
「なによう、もっと気持ちを込めなさいよぉ。でもアンタもでかくなったわよねえ… 昔はこうやって
アタシのこと横抱きにしようものなら、すぅぐにフラフラヨタヨタして危なっかしいったらなかった
のにね?」
…我が侭な誰かに思いっきり鍛えられたからね。
「フフフぅ…ありがたく思いなさいよ?」
…………。
「…………」
…………。
「…………」
…そうだね、ありがとうアスカ。
「んぅ…くすぐったいってばぁ…」
…………。
「…………」
…………。
「…………」
…………
「…アタシも…ありがと、シンジ」
…どういたしまして。
…でもホントに、洒落抜きでお手柔らかにね?
「なによう、そんな本気で泣きそうな顔しないでよ」
…だからさ、ホントにお願いだからさあ。
「…はいはい…いっぱいサービスしてあげるねっ」
…トホホ。