Childrenに祝福を…

                   by ZUMI



    第七話
    「彼女がソコに潜るワケ」
    後編


 エヴァ全機はネルフ所属の巨人輸送機で浅間山へ向かった。
 浅間山火口の近辺にはすでに移動指揮車が到着している。
「エヴァ零号機、初号機び弐号機及、到着しました」
「全機はその場にて待機。データの打ち込みとクレーンの準備を急いで」
 マコトの報告にミサトが答える。
「了解」
 火口に架るようにクレーンを移動させるマコト。
「あれ?加持さんは?」
 アスカはあたりを見回している。
<あのバカはこないのよ。仕事ないもの>
「ちぇー、せっかく加持さんにもいいとこ見せようと思ったのに」
 ミサトの返事にむくれるアスカ。


***


 浅間山とはやや離れた、志賀高原のロープウェー。
中には加持と平凡な外見の女が二人だけで乗り合わせている。
「A−12の発令ね。それには現資産の凍結も含まれているわ」
「お困りの方もさぞ多いことでしょうな」
 普通の女ではないようだ。おそらくどこかのエージェントだろう。
「なぜ止めなかったの?」
「理由がありませんよ。発令は正式なものです」
「でもネルフの失敗は世界の破滅を意味するわ」
「彼らはそんなに傲慢ではありませんよ」


***


 浅間山の上空を光点が三つ旋回している。
「なんですか?あれ」
<UNの空軍が空中待機してるの>
<この作戦が終わるまでね>
 シンジの問いに、仮設テントの中からリツコとマヤが答える。
「手伝ってくれるの?」
 期待したようなアスカの声。
<後始末よ>
<私たちが失敗したときのために>
「どういうこと?」
<使徒をN2爆雷で熱処理するのよ。私たちごとね>
「ひどい!」
 リツコとマヤの答えに絶句するアスカ。
「で、その命令、誰が出すんですか?」
<碇司令よ>
「…」
 空を睨んで憮然とした表情のシンジ。


***


 クレーンからレーダーが投下される。
「レーダー、作業終了」
 オペレーターから報告が入る。
「進路確保」
 モニターを睨むマコト。
「D型装備、異常なし」
 整備員より報告が入る。
「初号機および弐号機、発進位置」
 クレーンで釣り下げられ、火口の真上へ進む二機のエヴァ。
「了解。アスカ、シンジ君、準備はどう?」
「いつでもどうぞ」
「行けます」
 ミサトの確認に応えるアスカとシンジ。
「発進!」
 溶岩めがけて降下を始める二機のエヴァ。
「うっわー!熱そー」
 画面を見て悲鳴を上げるアスカ。
「すごいサウナだね」
「蒸し焼きになっちゃうわよ」
「弐号機、溶岩内に入ります」
 モニターを見つめるマヤが報告する。
「見て見て!シンジ」
「え?」
「ジャイアントストロークエントリー!」
 両足を大きく広げて溶岩に没していく弐号機。
「はあ」
 ため息をつくシンジ。
「続いて初号機、溶岩内に入ります」
 いよいよだな。
 レバーを握り直すシンジ。


***


「現在、深度170、沈降速度20。各部問題なし。視界は、ゼロ。なんにもわかんないわ。CTモニターに切り替えます」
 可視光線からレーダー探査に切り替える二号機。それに倣うシンジ。
「これでも透明度120か」
 二機のエヴァは降下を続ける。
「深度400、450、500、550」
 マヤの深度を読み上げる声が響く。
<600、650>
 降下する初号機と弐号機。周囲は灼熱の地獄である。
<900、950、1000、1050。安全深度オーバー>
 アスカの表情が険しくなる。
「深度1300。目標予測地点です」
「アスカ。何か見える?」
 マヤの声にミサトが問い掛ける。
「反応なし。いないわ」
 確かにモニターに反応はない。
「思ったより対流が早いようね」
「目標の移動速度に誤差が生じています」
 リツコの指摘にマコトが応じる。
「再計算、急いで。作戦続行。再度沈降よろしく」
「え?」
 ミサトの冷徹な声にマヤが振り向く。
 二機のエヴァは更に降下を続ける。
「深度1350、1400」
 バリン!
「第二循環パイプに亀裂発生」
 二号機のパイプが一部損傷する。そろそろ危険域だ。
「深度1480。限界深度オーバー」
目標とまだ接触していないわ。続けて。
アスカ、どう?」
 マヤの声にもミサトは動じない。
「まだ保ちそう。さっさと終わらせてシャワーを浴びたい」
<近くにいい温泉があるわ。終わったら行きましょう。もう少しがんばって>
 ミサトの声がするそばから、どこかが壊れた音がする。
「くっ」
<アスカ、大丈夫?>
「まだまだ、どうってことないわ」
 シンジの声にアスカが応える。
「限界深度、プラス120」
 マヤの声が上がったとたん、弐号機にくくり付けられていたプログナイフが落下する。
「はっ!」
「エヴァ弐号機。プログナイフ喪失」
「シンジ君!?」
「こっちはだいじょうぶです」
「限界深度、プラス200」
「葛城さん!もうこれ以上は!今度は人が乗っているんですよ」
 マヤの声にマコトが悲鳴を上げる。
「この作戦の責任者は私です。続けてください」
 どこかで聞いたセリフだなあ、などと緊迫感のないことを考えるシンジ。
「ミサトの言う通りよ。大丈夫。まだいけるわ」
 更に降下が続行されていく。


***


 アラームがけたたましく鳴り出す。
「深度1780。目標予測修正地点です」
 マヤのけ声にあたりを見回すアスカ。
「いた」
 溶岩の中に巨大な卵のようなものが浮かんでいる。
「目標を映像で確認」
「捕獲準備」
 マコトの報告にミサトが命令を下す。
 捕獲用のキャッチャーを展開する弐号機。
「お互いに対流で流されているから、接触のチャンスは一度しかないのよ」
「わかってる。任せて」
 リツコが注意を促す。
「アスカ、気をつけて」
「だいじょうぶだったら」
 黒い楕円形の影が迫る。
「目標接触まで、あとサンマル」
 マコトが時間計測を始める。
「相対速度2.2。軸線に乗ったわ」
 ゆっくりと影に近づく弐号機。
 四角い箱のような電磁柵が展開し、使徒を捕らえる。
「電磁柵展開。問題なし。目標、捕獲しました」
 アスカの声に、移動指揮車の中にため息が広がる。
「ナイス、アスカ」
 ミサトは小さな声でつぶやく。
 ため息をつくアスカ。
「捕獲作業終了、これより浮上します」
 クレーンが動き出し、巻き取りが始められる。
「アスカ、だいじょぶ?」
「あったりまえよ。案ずるより産むが安しってね。やっぱ楽勝じゃん。でもこれじゃプラグスーツと言うよりサウナスーツよ。
はぁー、早いとこ温泉に入りたい」
 饒舌なアスカ。やはり緊張していたのだろう。
「緊張がいっぺんにとけたみたいね」
「そお?」
 リツコの言葉にとぼけるミサト。
「あなたも今日の作戦、恐かったんでしょう?」
「まあね。ヘタに手を出せば、あれの二の舞ですもんね」
「そうね。セカンドインパクト。二度とごめんだわ」


***


 ビー!
 いきなりアラームが鳴り出す。
「なによ!?これえ!」
「アスカ!」
 使徒のサナギが咆哮する。使徒の触手が電磁柵を突き破ろうともがく。
「まずいわ!羽化を始めたのよ。計算より速すぎるわ」
「キャッチャーは!?」
 リツコの言葉にミサトはマコトに問いかける。
「とても保ちません!」
「捕獲中止!キャッチャーを破棄!」
 キャッチャーのロックが外される。使徒は電磁柵を突き破り、外へ飛び出す。
「作戦変更!使徒殲滅を最優先。弐号機は撤収作業しつつ、戦闘準備」
「待ってました!」
 ミサトの言葉に叫ぶアスカ。
 使徒が迫る。
「しまった。ナイフは落としちゃったんだわ。
はっ!正面!バラスト放出」
 間一髪、浮きあがって使徒を避ける弐号機。
「速い!」
 使徒はすさまじい速さで泳ぎ去り、視界から外れて見えなくなる。
「まずいわね、見失うなんて。おまけに視界は悪い。やたらと暑い。スーツがべったりしてて気持ち悪い。もう最低ね」
「アスカ、僕のナイフを使って!」
 初号機が二号機に接近する。
「シンジ!?」
「僕はナイフを二本持ってきた。早く受け取って」
「気が利くわね、ダンケ」
 アラームがけたたましく鳴る。
「うわ!またきた!もーう!早くしてよ!バカシンジ」
 ナイフを渡す初号機。
 ナイフを構える弐号機。
 二機のエヴァの中間に使徒が突っ込んでくる。
 弾き飛ばされる初号機。弐号機はナイフを振り下ろす。
 ナイフが使徒に突き刺さり、火花を散らす。
 使徒の触手が伸び、弐号機に巻きつく。
「しまった!」
 そのまま巨大な口を開ける使徒。ぞろりと歯が生えそろっている。
 使徒が弐号機にかみつく。
「まさか!?この状況下で口を開くなんて」
「信じられない構造ですね」
 モニターを見てリツコとマヤが絶句している。
「ううっ!」
 弐号機の左足が握りつぶされる。
「左足損傷!」
 マヤが叫ぶ。
「耐熱処置!」
 思い切りよく弐号機の左足を切り落とすアスカ。
「こんちきしょーっ!」
 使徒にナイフを突き立てる弐号機。すさまじい火花が飛び散る。
 ナイフに辟易したのか、使徒は弐号機を放すと、初号機へ向きを変える。 
「くそっ!今度はこっちか」
 素手のままで使徒を迎え撃とうとする初号機。
 体当たりしてきた使徒にへばりつく初号機。触手がまとわりつく。
「シンジ!あんた、ナイフは!?」
「アスカに渡したやつだけだよ!」
「な!?」
 弐号機を急機動させるアスカ。
「そのまま抑えてて、今行くわ!」
 使徒の背後からナイフを突き立てる弐号機。やはりあまり効果はない。
「高温高圧。これだけの極限状態に耐えているのよ。プログナイフじゃだめだわ」
「では!どうすれば!?」
 リツコの言葉にマコトが問いかける。
「そうだ!」
「さっきのやつ!」
 シンジとアスカは同時にあることを思いつく。
 弐号機は自分を吊すパイプを一本切断し、使徒の口につっこむ。
「なるほど、熱膨張ね」
 感心するリツコ。
「冷却液の圧力をすべて三番に回して!早く!」
 アスカの叫びに応じて、冷却液がすべて使徒の中にそそぎ込まれていく。
「でえーっ!このおーっ!」
 冷却液をそそぎ込まれた使徒は収縮し一気に脆性化が進む。
 ナイフを突き立てる弐号機。火花が飛び散る。
「はっ!?」
 苦し紛れに使徒は触手をむちゃくちゃに振り回す。
その触手が弐号機のパイプを半分以上引きちぎる。
次いで初号機のパイプまで傷つける。
 コアを破壊され、ぐずぐずと崩れ去っていく使徒。
「やった…」
「アスカ、パイプから液が漏れてる!」
「え?」
 冷却液がパイプの切れ目から漏れている。圧力に耐えかね、D装備の胴体がへこんでしまう。あちこちの接合部が悲鳴を上げている。
「アスカ!」
「シンジ!」
 パイプが切れて落下し始めた弐号機を初号機がつかみ取る。
「アスカ!だいじょうぶ?」
「んもう!ひやひやさせないでよ」
「ごめん。引き上げるよ、いい?」
「早くやってよ」
 パイプが巻き取られ、二機のエヴァがゆっくり上昇していく。
 だが、損傷したパイプはエヴァ二機の重さに耐えきれず、次々とちぎれていってしまう。
「シンジ!放しなさいよ!」
「いやだ!」
「放しなさいってば!あんたまで死ぬつもり!?」
「絶対放すもんか!」
「ばか…」
 言葉のわりに嬉しそうなアスカ。
 そうする間にも、次々とパイプがちぎれ、とうとう最後の一本が切れてしまう。
 溶岩の中に落下し始める二機のエヴァ。
「だめか…」
「シンジ…」
 穏やかな顔のアスカ。
 ガキン!
「えっ!?」
 見ると零号機が初号機の切れたパイプの端をつかんでいる。装備もつけずに溶岩に飛び込んできたらしい。
「綾波!?」
「うっ、くっ…」
「綾波!無茶するな!零号機じゃ無理だ」
「碇君は、あたしが守るの…」
「綾波…」


***


 浅間山北斜面の温泉。近江屋という看板の出た古びた旅館の中。
 客間で布団に横たわり眠るレイ。それを枕元に座って見守るシンジ。
「ただの熱当たりだってリツコも言ってたじゃない。そんなにしなくてもだいじょうぶよ」
 廊下からアスカが声をかける。
「うん。まあ、そうなんだけど」
「ねえ、温泉行かない?ここ、露天風呂があるんだって」
「うん、すぐ行くから、先行ってて」
「すぐ来るのよ」
 廊下を去るアスカの後ろ姿を見送ってから、シンジはレイの顔に目をもどす。
レイは穏やかな顔で眠っている。
「ごめんくださーい。ネルフの人、いますか?」
 玄関で声がする。
「はーい」
 出てみると、クール宅急便が届いている。
「では、ここにサインをお願いします。…はい、どうもありがとうございました」
「加持さんから?なんだろ?」
 箱を開けてみると、中からペンペンが飛び出してくる。
「ペ、ペンペン?」
「くわ、くわ!」
 きょろきょろするペンペン。
「風呂はそこを左だよ」
 はしゃぐペンペン。
 ・
 ・
 ・
「はー、極楽極楽」
 風呂の中を泳ぐペンペンを横目に、露天風呂につかりながら空を見上げるシンジ。
「風呂にこんなにゆっくりつかるなんて何年ぶりかな」
「シンジくーん、聞こえるー?」
「あ、はーい!」
 隣の女風呂からミサトの声がする。
「ボディシャンプー投げてくれるう?」
「持ってきたのなくなっちゃった」
「うん。いくよ」
「りょーかい」
「それっ!」
 シャンプーを放り投げるシンジ。
「いたっ!あんたねえどこ投げてんのよ!?へたくそ」
「ごめん」
「もーう、変なとこに当てないでよね」
「どれどれ」
「あ、あん!」
「あはっ、アスカの肌ってすごくぷくぷくしてて面白い」
「あ、あん。やーだあ、くすぐったいー」
「あ、ここはー?」
「あはは。そんなとこさわらないでよ」
「いいじゃない、減るモンじゃないし」
「うわったた!」
 湯船に身を沈めるシンジ。どうやらからかわれているらしい。
「参ったな。膨張しちゃうよ」
 夕陽を眺めるミサトとアスカ。ミサトの胸には酷い傷跡がある。
「ん?ああ、これね。セカンドインパクトんとき、ちょっちね」
「知ってるんでしょ?あたしのこともみんな」
「ま、仕事だからね。お互いもう昔のことだもの、気にすることないわ」
 ・
 ・
 ・
「やれやれ、参ったな」
 静かになった風呂で、シンジはぼやいている。
 ふと、気配を感じて目を上げる。誰か入ってきたようだ。
「うわっ!?綾波」
 タオル一枚を持っただけのレイが洗い場に入ってくる。
「あ、綾波!こっちは男湯だよ」
「いいの。気にしないで。…向こうには葛城一尉とあの人がいるから」
「あ、あの…」
 レイはするりと湯船に入ってきてしまう。あわてて反対側を向くシンジ。
「あ、綾波?」
 こっちは気にするんだよ。シンジは心臓が踊ってしまっている。
 息苦しさに唾を飲み込むシンジ。
「うわっ!?」
 レイがシンジの背中に自分の背中をぴったりとくっつけたのだ。
「あ、綾波…」
「少しだけ…、こうしていて」
「あ、あの…」
 女の子の背中ってなんでこんなに柔らかいんだろう、と考えるシンジ。
 そうは言っても、この後、生理作用の条件反射で風呂から出るに出られなくなったシンジは、湯当たりしてのびてしまった。
 あわてたレイが人を呼んだため、ミサトとアスカまでやってきて大騒ぎになったのはその直後のことである。



    …… to be continued

Copyright by ZUMI
Ver.1.0 1998/10/12
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  *感想をお願いします。zumi@ma.neweb.ne.jp

  おお!レイの大胆なアタック。
  シンジはこのままレイの手におちてしまうのか?
  いいのか?アスカ。このままではレイに先を越されてしまうぞ。
  次回、第八話「暗闇でドッキリ!」。
  この次もサービス、サービスゥ!

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