Childrenに祝福を…

                   by ZUMI



 第三新東京市の中心街。
 道を歩くアスカとシンジ。
「ほらもう、さっさと歩きなさいよ」
「そんなこと言ったって、こんなに買い込んでどうすんだよ?」
 シンジは買い物袋をいくつも下げて大汗をかいている。
「女の子はいろいろ入り用なの」
「あれだけ持ってて、この上増やす必要なんか有るんかよ?」
「男の子は文句言わない!せっかくこうしてあたしが連れてきてやってるのに」
「はいはい」
 苦笑いするシンジ。
「次はこっちよ!」
「やれやれ」
 ため息をつくシンジ。
「うえーっ!水着コーナーじゃないか?」
「ねえねえ。これなんかどうお?」
 水着の陳列棚から顔を出すアスカ。手には赤白縞模様の派手なビキニの水着を持っている。
「まー、いいんじゃない」
「ぶー!ちゃんと見てよお」
「あのね。なんで僕がアスカの水着を見立てなくちゃならないわけ?」
「うるさいわね!いちいち細かいこと気にしないの!」


***


「よ!お二人さん。お揃いでデートかい?」
「加持さん!?」
 デパートを出たところで相変わらず無精ひげの加持に出会った。
「そんなんじゃないんです!」
 ・
 ・
「せっかくの修学旅行だもん、ぱーっと気分を解放しなきゃ」
「修学旅行、どこ?」
 パーラーに座る三人。
「オ、キ、ナ、ワ!メニューには、スクーバダイビングも入ってるの」
「スクーバねえ。そういやもう三年も潜ってないなあ」
「ねえ。加持さんは修学旅行はどこ行ったの?」
「ああ。俺たちそんなのなかったんだ」
「どうして?」
「セカンドインパクトがあったからな」
 黙って聞いているシンジ。



    第七話
    「彼女がソコに潜るワケ」
    前編


 夜。
 葛城邸の風呂の浴槽に仰向けに浮かぶペンペン。突然アスカの大声が響きわたる。
「えーっ!?修学旅行に行っちゃだめ!?」
「そ」
 缶ビールを持ちながらしれっと言うミサト。
「どうして?」
「戦闘待機だもの」
「そんなの聞いてないわよ」
「今言ったわ」
「誰が決めたのよ!?」
「作戦担当のあたしが決めたの」
「あんた!お茶なんかすすってないで、ちょっとなんか言ってやったらどうなの?男でしょう」
 いきなり話しをシンジに振るアスカ。
「いや、僕はたぶんこういうことになるんじゃないかと」
「諦めてたってわけ?」
「まあね」
「もう!情けない。飼い慣らされた男なんてさいてーよ」
「そう言われてもね」
 缶ビールを置くミサト。
「気持ちはわかるけど、こればっかりはしかたないわ。あなたたちが修学旅行に行っている間に使徒の攻撃があるかもしれないでしょ?」
「いつもいつも。待機待機待機待機!いつ来るかわかんない敵を相手に守ることばっかし!たまには敵の居場所を突き止めて、攻めにいったらどうなの!」
「それができればやってるわよお。ま、二人ともこれをいい機会だと思わなきゃ。クラスのみんなが修学旅行に行っている間、少しは勉強ができるでしょ?
あたしが知らないとでも思ってるの?」
 成績の入ったフロッピーを取り出すミサト。
「あ!?」
「見せなきゃばれないと思ったら大間違いよ。あなたたちが学校のテストで何点取ったかなんて情報なんて筒抜けなんだから」
「ふっ。ばーっかみたい。学校の成績が何よ。旧態依然とした減点式のテストなんてなんの興味もないわ」
「郷に入れば郷に従え。日本の学校にも慣れてちょうだい」
「いーーーーーだ!」
 あかんべをするアスカ。シンジはそれを苦笑しながら見ている。
「シンジ君」
「はい?」
「もう少し何とかならない?前の学校の成績よりずいぶん下がってるわよ」
「はあ…」
 首をすくめるシンジ。


***


 かくして第三新東京市立第一中学校2年A組の面々は沖縄へと旅立っていった。
以下、友人たちのコメント。
洞木ヒカリ:「アスカ、おみやげ買ってくるからね」
相田ケンスケ:「あーあ。二人とも残念だったな」
鈴原トウジ:「おまえらの分まで楽しんできたるわ。なはははは」
 彼らの乗った飛行機が空をよぎっていく。フェンスにもたれて見送るシンジと仁王立ちのアスカ。


***


 ネルフ本部内。使徒の攻撃の気配の無い時はどこかのんびりした雰囲気が漂っている。
「浅間山の観測では可及的速やかにメルキオールからバルタザールへ提出してください」
 オペレーターの通常業務連絡のアナウンスが響く。
 文庫を読むマヤ。漫画を読むマコト。ギターを弾くまねをするシゲル。それぞれにくつろいでいる。
 コーヒーを入れるリツコ。
「修学旅行?こんなご時世にのんきなものね」
「こんなご時世だからこそ遊べるときに遊びたいのよ、あの子たち」
 リツコの言葉をやんわりとたしなめるミサト。


***


 ネルフ本部内、屋内プール。
 滑らかな動きでプールを泳ぐレイ。
 シンジは学生服のままプールサイドでパソコンとにらめっこしている。
「なにしてんの?」
 のぞき込むアスカ。
「理科の勉強」
「ったくう。おりこうさんなんだからあ」
「そんなんじゃないよ。やっとかないとミサトさんうるさいし。え?」
 目を上げるとビキニの水着姿のアスカ。
「じゃーん!沖縄でスクーバできないんだからここで潜るのっ」
「はあ、そう」
「どれどれ。なにやってんの?ちょっと見せて」
 身を乗り出してパソコンをのぞき込むアスカ。水着に接近され、ちょっとたじろぐシンジ。
「この程度の数式が解けないの?はい、できた」
 簡単に数式を解くアスカ。
「うあ」
「簡単じゃん」
「どうしてこんな難しいのができて、学校のテストがだめなのさ?」
「問題に何が書いてあるのか分からなかったのよ」
「それって日本語の設問が読めなかったってこと」
「そ!まだ漢字全部憶えてないのよね。向こうの大学じゃ習ってなかったし」
「大学?」
「ああ、去年卒業したの。で、こっちのこれはなんて書いてあるの?」
「うん。熱膨張に関する問題だよ」
「熱膨張?幼稚なことやってんのね。
とどのつまりものってものは暖めれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなるってことじゃない」
「それはそうだけど」
「あたしの場合胸だけ温めれば少しはおっぱいがおおきくなるのかなあ」
「アスカは十分プロポーションいいと思うよ。それ以上胸大きくしたらバランスが変になるよ」
「そ、そうかな?」
 歩み去るアスカ。顔をそむけて顔が上気しているのを隠している。
 その二人をプールサイドからレイが見つめている。
『あたしも胸温めてみようかしら』と考えるレイ。
「見て見て、シンジ!バックロールエントリー」
 スキューバの支度をしてプールに飛び込むアスカ。
「やれやれ」
 ため息をつくシンジ。画面に目を戻す。
 その画面に映っているのは理科の問題などではない。なぜか中国の古典が映し出されている。


***


 浅間山の火口上空に国連のヘリが飛んでいる。
そのヘリからの電送写真を見つめるネルフスタッフ。
「これではよくわからんな」
 冬月がそう評する。
「しかし浅間山地震研究所の報告通り、この影は気になります」
 青葉が応じる。
「もちろん無視はできん」
「MAGIの判断は?」
 リツコが隣のマヤに問いかけている。
「フィフティフィフティです」
「現地へは?」
「すでに葛城一射が到着しています」


***


 探査機の画像を見つめるミサト。
「もう限界です!」
 研究所のスタッフが悲鳴を上げる。
「いいえ!あと五百お願いして」
 ビシッ! モニターからいやな音が伝わる。
「深度1200。耐圧隔壁に亀裂発生」
「葛城さん!」
「壊れたらうちで弁償します。あと二百」
 さらに観測器を降下させる。
 ピー!
「モニターに反応」
 それまで黙ってモニターを見つめていた日向が叫ぶ。
「解析開始」
「はい」
 ミサトの命令でデータ解析が開始される。
 唐突に観測器からの連絡がとぎれる。
「観測器圧壊。爆発しました」
「解析は!?」
「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青です」
 モニターには胎児のような姿の使徒の画像が映っている。
「間違いない。使徒だわ」
 振り向くミサト。りんとした声で宣言する。
「これより当研究所は完全閉鎖。ネルフの管轄下となります。一切の入室を禁じた上、過去六時間以内の事象はすべて部外秘とします」
 使徒の画像に極秘マークが押される。


***


「碇司令あてにA−17を要請して。大至急」
 研究所の廊下で携帯電話を使うミサト。
「気を付けてください。これは通常回線です」
「わかっているわ。さっさと守秘回線に切り替えて」
 青葉の指摘に苛立ったような声を出すミサト。


***


「A−17をか?こちらから撃って出るのか?」
「そうです」
 委員会の委員の一人の質問に平然と答えるゲンドウ。
「だめだ、危険すぎる。十五年前を忘れたとはいわせんぞ」
「これはチャンスなのです。これまで防戦一方だった我々が初めて攻勢にでるという」
「リスクが大きすぎるな」
 キールの指摘。
「しかし生きた使徒のサンプル。その重要性はすでに承知のことでしょう」
「失敗はゆるさん」
 次々と消えていく委員たちのホログラフィー。
「失敗か」
「その時は人類そのものが消えてしまうよ。
本当にいいんだな」
 冬月の問いかけに、ゲンドウはニヤリと笑って答えただけだった。


***


「これが使徒?」
 使徒の画像を見せられて、シンジはとまどっている。その姿は胎児のようにしか見えない。
「そうよ。まだ完成体になっていないサナギの状態みたいなものよ」
 シンジの質問に答えるリツコ。
「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。できうる限り原型をとどめ、生きたまま回収すること」
「できなかったときは?」
 アスカの質問。
「即時殲滅。いいわね?」
「はい!」
「作戦担当者は…」
「はいはーい。わたしが潜る」
 勢いよく手を挙げるアスカ。
『でもま、僕なんだろな』と考えているシンジ。
「アスカ」
 リツコがアスカに向き直る。
「!」
「弐号機で担当して」
「はーい。こんなの楽勝じゃん」
「あたしは?」
 それまで黙って聞いていたレイが問いかける。
「プロトタイプの零号機には特殊装備は規格外なのよ」
 マヤがそれに答えている。
「レイと零号機は本部での待機を命じます」
「はい」
「残念だったわね、温泉行けなくて」
 アスカのからかいにも無表情のレイ。
「A−17が発令された以上すぐに出るわよ。支度して」
「ちょっといいですか?」
「なに?シンジ君」
「捕獲に当たるのはアスカの弐号機だけですか?」
「そうよ?」
 さも当然という顔のリツコ。
「危険じゃありませんか?」
「今までだってずっと危険な任務をこなしてきたじゃない?それとも、恐いの?シンジ」
 からかうようなアスカ。
「そうじゃなくて。今回初めてこちらから攻勢にでるわけですよね?
状況が今までと違うと思います」
「何が言いたいの?」
 やや苛ついた表情のリツコ。
「僕は火口の外で待機ですよね?」
「そうなるわね」
「僕も潜ります」
「そんなことしたら、バックアップがいなくなるわ」
「バックアップというのは即時対応できるところにいる必要があるんです。
火口の外じゃそれはできません。火口の外には零号機に待機してもらえばいいと思います」
「ちょっと!シンジ。あたし一人じゃできないって言うの!?」
「そうじゃないよ、アスカ。万が一の時にそばにいなくちゃ、なにもできないって言ってるんだ。なにもなければ手は出さないよ」
「あ、そう」
 釈然としない顔のアスカ。
「そうは言うけど、シンジ君。特殊装備だってただじゃないのよ。
二セットも運用する技術部の身にもなってほしいわ」
「失敗したら、元も子もないんでしょ?だったらやれることは全部やるべきです。出し惜しみせずに」
「責任者はあたしです!シンジ君に指図される覚えはないわ」
 すっと目を細めるシンジ。
「な、なに?」
「ミサトさんの意見を聞いていいですか?」
「その必要は認めません!ここの責任者はあたしです」
「待ちたまえ。どうもさっきから聞いているとシンジ君の言い分に理がありそうに思えるんだが」
 感情的になりかけたリツコを抑えたのは冬月だった。
「副司令?」
「どうだろう?赤木博士。ここはシンジ君の意見を採り入れてみては?技術部には苦労をかけると思うがね」
「わかりました。副司令がそうおっしゃるのなら」


***


 耐熱仕様のプラグスーツに着替えるアスカ。
「耐熱仕様のプラグスーツと言っても、いつものと変わんないじゃない?」
「右のスイッチを押してみて」
 リツコの返事通りにすると、いきなりプラグスーツが膨らみ始める。
「うわあ、いやーん!」
 ものの見事にアスカは巨大な赤いボールと化してしまった。
「なによこれ!」
「弐号機に支度もできてるわ」
「いやあーっ!なによーこれー!」
 弐号機の姿を見て、悲鳴を上げるアスカ。
「耐熱耐圧耐核防護服。局地戦用のD形装備よ」
 弐号機の姿は昔の潜水夫のようである。
「これがあたしの弐号機?」
「いやだ!あたし降りる。こんなので人前に出たくないわ。
こういうのはシンジのほうがお似合いよ!」
 くるりと振り向くとかみつくアスカ。
「あのー。僕もいっしょに潜るんだけど?」
「うぐ。だ、だったらあ…」
「そいつは残念だな。アスカの勇姿が見れると思ってったんだけどな」
 デッキから加持が見下ろしながら言う。
「いやーっ!こんなとこ見ないで、加持さん」
 アスカは物陰に隠れてしまう。
「困りましたね」
「そうね」
「加持さん!」
 シンジが声を上げる。
「アスカを死なせたいんですか?」
「どういうことだい?シンジ君」
「アスカを変にけしかけるようなことは言わないでください!」
「シンジ?」
「シンジ君?」
「いや。べつにそういうつもりで言ったんじゃないんだが」
「アスカは加持さんのことなら、なんでも聞いてしまうんです。気をつけてください」
「ちょっと!シンジ!加持さんになんてこと言うのよ!?」
「いやいや。シンジ君の言う通りだな。気をつけるよ」
「すみません」
 無視されて憮然とした表情のアスカ。
「あたしが弐号機で出ます」
 それまで黙っていたレイが手を挙げる。
「くっ!
あなたにはわたしの弐号機に触って欲しくないの、悪いけど!」
 レイに詰め寄るアスカ。
「ファーストが出るくらいなら私がいくわ!」
 きっぱりと宣言するアスカ。
「かっこわるいけど、がまんしてね」
 アスカはそう弐号機を見上げて語りかけている。



    …… to be continued

Copyright by ZUMI
Ver.1.0 1998/10/10
Ver.1.1 1998/10/12
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  *感想をお願いします。zumi@ma.neweb.ne.jp

  実に久々の再開。
  もう、ストーリーを忘れてしまってたりして。
  基本的にこのお話はTVシリーズに沿っています。
  ただ、シンジの性格がちょっと違うので。(えらくかっこいいな(^^; 。)
  周りの人たちがだんだん影響されていくさまが追えればいいと思ってます。

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