Childrenに祝福を…


    第十二話
    『沈黙という嘘』
    後編




 その日の午後。
 ミサトのマンションからチェロを弾く音がする。
 ダイニングの椅子に腰掛け、シンジがチェロを弾いているのだ。
 窓は開けられたままで、外の日差しが差し込んでいる。
 冷蔵庫ハウスの中ではペンペンがチェロの音を子守歌に昼寝の真っ最中である。
 シンジは目を閉じたまま、チェロを引くことに没入している。
 今のシンジはメロディーに浸ることのみに集中し、それ以外のことは意識の外に押しやっている。
 そのため、玄関ドアが開いたことも、人影が足を忍ばせて入ってきたことにも気がつかなかった。
 ゆっくりとチェロを弾き終えたシンジの背中に拍手の音が浴びせられる。
 びっくりして振り返ったシンジの目に、拍手をしているアスカの姿が目に入った。
「けっこういけるじゃない?そんなの持ってたんだ」
 そう言いながらアスカはバッグを椅子の背に引っかけるとダイニングを出ていく。
「5歳の時から始めてこの程度だからね。才能があるとは言えないね」
「そう?継続は力なりって言うじゃない。さすがね」
 昼寝を起こされたペンペンは、ドアを開けてアスカが帰ってきているのを認めると、再び部屋にこもってしまう。
「あんまり気は進まなかったんだけどね。他にすることもなかったし」
「そうお?なんだかちょっと意外」
「なんでさ?」
「あんまりイメージじゃないんだもん」
「悪かったね」
「冗談よ。似合ってるわ」
 アスカは居間に戻ってくると、ころんとひっくり返った。
「早かったんだね。夕食食べてくるかと思ってた」
「だって、退屈なんだもん、あの子」
 アスカは足を組んでぶらぶらさせている。
「だからさ、ジェットコースター待っている間に帰って来ちゃった」
「それはないんじゃない?」
「いいのよ。あーあ。どっかにまともな男はいないもんかしらねー」
「加持さんはどうしたのさ?」
「加持さん? ミサトとデートでしょ」
 てきめんにアスカの機嫌が悪くなる。
 シンジは言った後で後悔したが、すでに後の祭りである。
 

***

 
 芦ノ湖畔のバーに、ミサト、リツコ、加持の三人はいた。
 ラウンジのカウンターは窓に面しており、芦ノ湖の対岸に第三新東京の夜景が浮かび上がっている。
「今更なに言ってるんだか」
 水割りのグラスを持ちながら、ミサトは加持に目を向けつつそう答えた。
 その言葉に加持は苦笑を浮かべただけで、ストレートのグラスを口に運んでいる。
 リツコはそんな二人にちらっと目を向けただけで、カクテルに目を戻した。
 しばらく静かな時間が過ぎていく。
「ごめん、ちょっちお手洗い」
 沈黙に耐えられなくなったわけでもないだろうが、ミサトがハンドバッグを持って立ち上がる。
「とか言って逃げるなよ」
 加持の言葉にアッカンベーで応じてから、ミサトは靴音を響かせて歩き去った。
 そのミサトの足元に目をやりながら加持はつぶやく。
「ヒール、か」
 加持はミサトの背中に目をやっていたが、リツコに視線を戻してそう言った。
「何年ぶりかな?三人で飲むなんて」
「ミサト、飲み過ぎじゃない?なんだか、はしゃいでるけど」
「浮かれる自分を押さえようとして、また飲んでる。今日は逆かな?」
「やっぱり、いっしょに暮らしていた人の言葉は重みが違うわね」
 リツコは加持の解説的な言葉に、若干のからかいを込めてそう応じた。
「暮らしてたと言っても、葛城がヒールとか履く前のことだものなあ」
「学生時代には想像できなかったわよねえ」
 リツコは髪をいじっている。何か思うところがあるのだろうか。
 加持は窓の外に目をやっている。昔を思い出しているのであろう。
「俺もガキだったし。あれは暮らしっていうより、共同生活かな。ママゴトだ。現実は甘くないさ」
 リツコの言葉に、加持はどこか自嘲的に応じている。
 リツコは頬杖をついたまま、窓の外に目をやっている。何か思い出しているのだろう。
「そうだ。これ、猫の土産」
 加持はカウンターの絵に小さな包みを載せると、リツコに向けて押しやった。
「あら、ありがと。マメねえ」
「女性にはね。仕事はズボラさ」
「どうだか」
 どうやら、リツコは加持の言葉を全く信じていないらしい。
「ミサトには?」
「一度敗戦してる。負ける戦はしない主義だ」
 リツコは袋を開けて中の物を取り出している。
「勝算はあると思うけど?」
 袋の中には猫の刻印が押されたメダル(ペンダントか?)が入っている。
「りっちゃんは?」
「自分の話はしない主義なの。面白くないもの」
 メダルを見ながらも、リツコはきっぱりと言い放つ。
「遅いなあ、葛城」
 後ろを振り向きながら加持が言う。
「化粧でも直してんのか?」
「京都、何しに行ってたの?」
 メダルをいじりながら、さりげなくリツコが聞く。
「あれ?松代だよ。その土産」
 白々しく加持はとぼけている。
「とぼけても無駄。あまり深追いすると、ヤケドするわよ。これは友人としての忠告」
 さりげなく言っているようだが、リツコの言葉はやや真剣みを帯びている。
「真摯に聞いておくよ。どうせヤケドするなら君との火遊びの方が…」
「花火でも、買ってきましょうか?」
 二人に歩み寄りながらミサトが言う。
「ああ、お帰り」
「変わんないわね。そのお軽いとこ」
 軽い調子で言いながら、ミサトは加持とリツコの間のスツールに腰をおろす。
「いやあ、変わってるさ。生きるってことは、変わるってことさ」
 リツコは加持にもらったメダルをハンドバッグの中に仕舞っている。
「ホメオスタシスとトランジスタシスね」
「なにそれ?」
 ミサトはリツコの言葉に不思議そうに応じる。
「今を維持しようとする力と変えようとする力。その矛盾する2つの性質を一緒に共有してるのが生き物なのよ」
「男と女だな」
 加持は身体をかがみ込ませるとそうつぶやいた。
 リツコは身体を起こして、スツールから立ち上がる。
「そろそろお暇するわ。仕事も残ってるし」
「そう?」
 ミサトがリツコを降り仰ぐ。どこか嬉しそうな、それでいて済まなそうな顔である。
「うん」
「残念だな」
 言葉ほど加持は残念がっていないようだ。
「じゃね」
「うん」
 リツコはミサトにだけ声を掛けると歩き去っていく。
 リツコを見送るミサトに、加持は穏やかな目を向けている。
 

***

 
 プルルル…。
 ミサトのマンションの電話機がコール音を立てる。
「はい、葛城です」
「あー?シンちゃあん?あたしぃ」
 受話器を取ったシンジの耳に浮かれたようなミサトの声が入る。
「今、加持君と飲んでんの」
「二次会ですか?」
「んー。三次会」
「飲み過ぎないでくださいよ」
「だいじょおぶよお。心配しないで。ちょーっち遅くなるから、先に休んでね」
「はい。じゃあ」
 受話器を置きながら、シンジはため息をつく。
「ミサト?」
 アスカがタオルで髪を拭きながら現れる。風呂上がりであろう。
「うん。遅くなるから先に寝ててって」
「えーっ?!朝帰りってことじゃないでしょうね?!」
「まさか?そこまでミエミエのことする?加持さんと一緒なんだよ」
「わからないわよ。あのミサトのことだもん」
「そんな言い方はないんじゃない?」
「なんでよ?加持さんと二人きりになって、あーもうむかつく」
「そんなに怒らないでも…」
「なによ?だったらなに?あんたが加持さんの代わりが努まるってわけ?」
「無理言うなよ」
 困り果てた表情のシンジである。
 

***

 
 芦ノ湖畔の道を加持が歩いている。背中にはミサトがおぶわれている。
「いい歳して戻すなよ」
「悪かったわね。いい歳でぇ」
 ミサトは肩に加持の上着を掛けて、ぐたっとしたままである。
「歳はお互い様か」
 やや自嘲気味の加持である。
「そうよぉ」
「葛城がヒール履いてるんだからな。時の流れを感じるよ」
 物思いにふける加持の顎に手を伸ばして、ミサトはひげの感触を確かめている。
「無精ヒゲ、剃んなさい」
「へぇへぇ」
「あと歩く。ありがと」
「なんの」
 ヒールを手に、ストッキングの足でミサトは歩いていく。
 その後ろを物思いにふけりながら加持がついていく。
「加持君。私は変わったかな?
「…きれいになった」
 しばらく二人とも黙って歩き続ける。
「ごめんね。あの時一方的に別れ話して…。他に好きな人ができたって言ったのは、あれ…嘘。バレてた?」
「いや」
 だが、加持の表情は変わらず、何を考えているのかはつかめない。
「気づいたのよ。加持君が私の父に似てるって」
 ミサトは加持を見つめるが、加持の表情に変化はない。
「…」
「自分が、男に父親の姿を求めてたって。それに気づいたとき、こわかった」
 ミサトは加持に視線を向けたり外したりを繰り返している。
 加持はゆっくりとミサトから視線を外した。
「どうしようもなく恐かった」
 ミサトは常にないほど気弱な表情を浮かべている。
 加持から視線を外すと、ゆっくりと歩き始める。
「加持君と一緒にいることも、自分が女だということも、何もかも恐かったわ。
 ミサトは歩き続けている。
「父を憎んでいた私が、父によく似た人を好きになる」
 ミサトの表情は暗い。
「全てをふっきるつもりでネルフを選んだけれど。でもそれも父のいた組織。結局、使徒に復讐することでみんな誤魔化してきたんだわ」
 ミサトは息を吸い、そして吐き出した。
 ミサトは足が止まり、加持に遅れていく。それに気づいた加持が戻ってくる。
「葛城が自分で選んだことだ。俺に謝ることはないよ」
「違うのよ!選んだ訳じゃないの!」
 ミサトは激しく首を振っている。
「ただ逃げただけ。父親という呪縛から逃げ出しただけ。シンジ君のほうがよっぽど勇気あるわ」
 ミサトは片手で顔をおおってしまう。
「臆病者なのよ」
 加持は真剣な表情でミサトを見つめている。
「ごめんね。ほんと、酒の勢いで」
 ミサトは無理矢理笑おうとしているが、あまり成功していない。
「今更こんな話」
「もういい」
「子供なのね。シンジ君のほうがよっぽど大人だわ」
「もういい!」
 加持はやや怒ったような表情を浮かべている。
「その上、こうやって都合のいい時だけ男にすがろうとするずるい女なのよ!」
 ミサトは止めどがなくなっている。
「あの時だって!加持君を利用してただけかもしれない。嫌になるわ!」
「もういい!やめろ!」
 加持はミサトを止めさせようとする。
「自分に絶望するわよ!」
「やめろ!」
 加持はミサトを抱き寄せると強引にキスをした。
 ヒールを持つミサトの手はしばらくためらうように上下していたが、やがてヒールを落とすと加持の背中にまわされていった。
 

***

 
 テーブルにつぶれたまま、アスカは不機嫌そうな表情を隠さなかった。
「ねぇ、シンジ」
 ソファにもたれて本を読んでいるシンジに声をかける。その脇ではペンペンがすでに眠り込んでいる。
「キスしよっか?」
「え?なに?」
 シンジは怪訝そうな顔を上げる。
「キスよ、キス。したことないでしょ?」
 シンジは呆気にとられている。
「あ、あるわけないだろ」
「じゃあしよう?」
 アスカは身体を起こすとシンジに向き直った。
 そのアスカに気圧されたようなシンジである。
「ど、どうして?」
「退屈だからよ」
「退屈だからって。…他にすることあるだろ?」
「お母さんの命日に女の子とキスするの嫌?天国から見てるかも知れないからって」
「そうじゃなくって」
「それとも恐い?」
 アスカは完全にシンジを挑発している。
「恐いとか、違うだろ?」
 アスカはシンジに近づくと顔を寄せた。
「なによ。言い訳ばっかり。弱虫」
「…!」
 さすがのシンジもむっとしたようだ。
「キスするのは好きな子とって決めてるんだ」
「…!」
 アスカの表情が変わる。
「誰のことよ?好きな子なんているの?」
「誰だっていいじゃないか」
「その子ともまだなんでしょ?」
「そうだよ」
「あたしじゃ役不足だって言うの?」
「そういう意味じゃなくってね」
「結局恐いんじゃない」
「あのねえ…」
 シンジはうんざりしたような顔をしている。
「もしも好きな子がアスカだったとしても、今みたいな状況じゃキスなんかしたくないよ」
「なんですって?!」
「アスカ、誰とキスがしたいの?」
「いいじゃない。遊びよ遊び」
「誰とキスしたいの?加持さん?」
「うるさいわね」
「加持さんとしたいなら、加持さんとしたほうがいいよ。暇つぶしでそんなことすると、後悔するよ」
「うるさい!バカっ!」
 アスカはそう叫ぶと自分の部屋に駆け込んでしまった。
 シンジは呆然とアスカの去ったふすまを見つめている。
「くわ?」
 騒ぎに目が醒めたのか、ペンペンがやってきて、不思議そうにシンジを見上げた。
 

***

 
「バカ!鈍感!トーヘンボク!」
 アスカはベッドにうつぶせになりながら枕を叩き続けていた。
 虐待を続けられた枕は悲惨なことになっている。
「バカ!なんにもわかってないんだから」
 更にアスカは枕に拳をふるう。
「…」
 そのままアスカは動かない。
「アスカ?」
 部屋の外からシンジの声がする。
 その声に、アスカは顔を上げた。
「アスカ?あの、さっきはごめん。怒らせるつもりじゃなかったんだ」
 シンジはアスカの部屋のふすまの前で困惑していた。
「ただ、アスカだって自分の好きな子とキスしたほうがいいだろうと思って…」
 そう言うシンジの目の前でいきなりふすまが開いた。
「あんたの好きな子ってだれ?!」
「ええっ?」
「誰なのって聞いてるの!」
「だ、誰だっていいじゃないか」
「誰なの?!ファースト?」
 アスカの表情は必死のようにも見える。
「ち、違うよ」
「うそつき!」
「うそじゃないよ」
「うそつき!!」
「ほんとだって」
「じゃ、誰よ?!」
「…う」
 答えに詰まったシンジである。
「やっぱりそうなんじゃない」
「ア、アスカだよ」
「…?!」
 シンジの表情はそう言うわりには苦しそうだ。
「でも、アスカが加持さんが好きなのはわかってるし。僕は見てるだけでいいと思ってたから…」
「バカ…」
「バカはないだろ?」
「バカよ」
「だからなんで?」
「そりゃ加持さんは好きよ。でも、今あたしがキスしたいと思ってるのは加持さんじゃないわ」
「は…?」
「だ、だからあんたに誘ったんじゃない…」
 アスカはそっぽを向いている。しかし、その頬は赤く染まっている。
「え?」
「キスしよっか?シンジ」
 くるっとふりむいたアスカが言う。その瞳はシンジを見据えている。
「あ、あの…?」
「してくれるわよね?」
 思わず唾を飲み込んだシンジである。
 アスカはシンジの目の前に近づくと挑むような目つきで見上げた。
「目、閉じて」
「それは男の言うせりふだろ?」
「わかったわ」
 そう言ってアスカは目を閉じる。
「歯、磨いてるでしょうね?」
「知ってるだろ?」
 そう言うと、シンジはアスカに顔を寄せてキスをした。
 しかし、シンジはすぐに唇を離してしまう。
 目を開いたアスカは不満そうだ。
「それだけ?」
「それだけ、って?」
「もっとちゃんとしてよ」
「いいの?ヘタだよ」
「そのくらい、わかってるわよ」
 もう一度顔を寄せ合った二人は、今度はしばらく離れなかった。
 

***

 
 玄関のロックが開いてドアが開いたとき、シンジとアスカはソファに並んで座っていた。
「ほら着いたぞ。しっかりしろ」
 加持の声がする。ミサトはうなり声で応じているようだ。
「加持さんだ」
「加持さん?」
 あわててシンジの側から離れるアスカである。
 そんなアスカにやや不満そうな視線を向けたシンジだったが、加持を迎えに玄関へ向かった。
「ミサトさん?」
「この通りだ」
 加持の足下ですでにミサトは寝息を立てている。
「運ぶぞ。手伝ってくれ」
「はい」
 加持と二人がかりでミサトを布団に押し込んだシンジは、問いかけるような目を加持に向けた。
「少々飲み過ぎたようだ。朝まで寝かせれば醒めるだろう」
「加持さんも泊まっていけば?」
 アスカが加持に声をかける。
「この格好で出勤したら笑われるよ」
 加持は礼服を示しながら言う。
「えー?大丈夫でしょう?」
「ははは。またな」
 アスカに手を振ると、加持は玄関に向かう。アスカは黙ったまま加持を見送った。
「すまないが、二人とも葛城のこと頼んだぞ」
「はい」
 玄関まで送りに出たシンジが答える。
「じゃ、お休み」
「お休みなさい」
 加持が去ると、シンジは居間へ戻った。
 アスカは浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「そう?僕たちも寝よう」
「加持さん、ミサトの香水の匂いがした」
「え?そう。気づかなかった」
「だから男って鈍感だってのよ」
 アスカは大げさにため息をつく。
「アスカ?加持さん、呼んでこようか?まだ間に合うと思うし」
「どうして?」
「どうして、って。アスカが落ち込んでるみたいだし」
「あたしのどこが落ち込んでるってのよ?」
「え?だって、ミサトさんの…」
「確認しただけよ。やっぱりヨリを戻したのよ。あの二人」
「そ、そう?」
「そうよ。さ、寝ましょ」
 アスカは立ち上がると洗面所へ向かった。
 

***

 
 翌日、2−Aの教室で先生が出席を取っている。
「では、続いて女子。綾波、綾波は?」
 レイは学校に出てきていなかった。
「今日も休みか」
 シンジはレイの席に目を向ける。その瞳はやや翳っている。
 そんなシンジを後ろの席から見つめるアスカである。
 その目元はやや険しい。
 

***

 
 ネルフ本部のセントラルドグマで、レイは水槽の中に浮かんでいた。
 LCLで満たされた円筒形の水槽の前にはゲンドウが佇んでいる。
 レイは記憶のバックアップ作業の最中である。
 目を閉じたまま、レイはLCLに身をゆだねている。
「レイ。もういいぞ」
 うっすらと目を開くと、レイはゲンドウに目を向ける。
 その表情はどことなく暗い。何か考え込んでいるようにも見える。
 

***

 
 セントラルドグマ大深度部に加持はいた。
 薄暗い廊下は、ところどころに照明がついているだけである。
 廊下を歩き続けた加持は、とある扉の前で立ち止まった。
 セキュリティカードをリーダーに通そうとする。
 その手がぴたりと止まる。
 加持の後頭部には拳銃の銃口が突きつけられていた。
 両手を上げた加持が振り返ると、そこにはミサトが立っている。
「やあ。二日酔いの調子はどうだい?」
「おかげさまで醒めたわ」
「そりゃよかった」
 加持は薄ら笑いを浮かべる。
「これがあなたの本当の仕事?それともアルバイトかしら?」
 ミサトの表情は険しい。
「どっちかな」
 加持はとぼけた表情のままである。
「特務機関ネルフ、特殊監察部所属加持リョウジ。同時に日本政府内務省調査部所属加持リョウジでもあるわけね」
「バレバレか」
 加持は扉に向き直る。
「ネルフを甘く見ないで」
 ミサトはにこりともしない。
「碇司令の命令か?」
「私の独断よ。これ以上バイトを続けると死ぬわ」
「碇司令は俺を利用している。まだいけるさ。だけど葛城に隠し事をしていたのは謝るよ」
「昨日のお礼にチャラにするわ」
 しかし、加持に狙いを定めた銃口は微動だにしない。
「そりゃどうも。ただ、司令やりっちゃんも君に隠し事をしてる」
 加持は手を動かしてカードをミサトに見せる。
「それがこれなんだ」
 加持はカードをリーダーに通した。
 ミサトの手がぴくりと動く。しかし、それ以上のことはない。
 リーダーが作動し、OKが表示される。
 重い音がしてロックが外れ、ドアがゆっくりと開いていく。
「見るといい」
 加持の言葉にドアの中を覗き込み、ミサトは息をのんだ。
「これは?」
 ドアの中の大空間には、白い巨人が壁際に打ち付けられていた。
 だぶだぶの服を着せられたようなその姿に、足はない。そのかわりに人間の足とおぼしき小さな足が多数生えている。
 頭部には七つ目の仮面を被せられ、うつむいたまま身動きもしない。
「エヴァ?いえ、まさか?」
 ミサトは呆然と巨人を見上げる。
 Tの字の杭に磔付けにされた巨人は、禍々しい雰囲気をまとっている。
「そう。セカンドインパクトから、その全ての要であり、始まりでもあるアダムだ」
「アダム。あの第一使徒がここに?」
 ミサトは加持に突きつけた銃をいつの間にか降ろしている。
「確かに、ネルフは私が考えているほど甘くないわね」
 ミサトは厳しい表情のまま、巨人を見つめていた。



  …… to be continued

Copyright by ZUMI
Ver.1.0 1999/11/24

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  *感想をお願いします。zumi@ma.neweb.ne.jp

  なんと、半年ぶりの更新です。(-_-;
  すでに、どこまで話が進んでいたがわからなくなってる。
  あんまり待たせてしまい、すでに誰も期待していなかったりして。(^-^;
  しばらくはリハビリ代わりにぼちぼちといこうかと思いますが。
  とはいえ、そろそろ厳しくなってくるところなんですよね。
  ともあれ、こちらのお話もお見捨てなきよう、よろしくお願いします。m(_ _)m

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