Childrenに祝福を…

                   by ZUMI



 NERV本部、総司令執務室。
 机に座り、いつものように顔の前で手を組んだポーズのゲンドウ。
 ゲンドウの前には真嗣が座っている。
「今までのところゼーレのシナリオ通り動いている。多少の誤差はあったがね」
「これから呼び出されているんだろう? だいじょうぶなの?」
「なに。どうということはない。今、NERVをどうこうするのは得策でないことは、老人たちも知っているしな」
「非常手段に出ることはないのかな?」
 薄く笑うゲンドウ。
「それこそこちらの思うつぼだ。そこまでもうろくしている老人たちではあるまい」
「ならいいけど、気を付けてよ」
「心配するな。まだすることは残っている」
 黙ってゲンドウを見つめるシンジ。
「それより、今日はこれから互換試験だな」
「うん」
「気は進まんだろうが、必要なことだぞ」
「わかってるんだけどね」
 しばらく何かためらうシンジ。
「どうした?」
「レイの、綾波のことだけど…」
 無表情になるゲンドウ。
「お前には関係ないことだ」
「そんなことはないだろう!?」
「今の環境を変えることは好ましくない。それはお前の納得しているはずだ」
「でもやっぱり不自然だよ」
「不自然、か」
「そうだよ」
「レイの存在そのものが不自然なのだから仕方あるまい」
「そんなこと…、そんなこと関係ないよ」
「まだだめだ。レイには監視が必要だ」
 唇を噛むシンジ。
「もうしばらく待つんだ。必ず手だてはある」
「…」
 沈黙が部屋の中を支配していく。



    第十一話
    『魂の居場所』



 NERV本部、総司令執務室。
 部屋を出ていくシンジと入れ替わりに、冬月が現れる。
「いいのか?シンジ君はかなりレイを気にしているぞ」
「仕方あるまい。今のレイは不安定極まりない。真実を告げたら二人とも立ち直るには時間がかかりすぎる」
 ため息をつく冬月。
「やれやれ。お前がそんなに子供思いだとは知らなかったよ」
「影響を最小限にとどめたいだけだ」
「そういう言い方もあるのか」


***


 NERV本部内、ホログラフィによる会議室。
「いかんな、これは。早すぎる」
 人類補完委員会。特別召集会議。
「使徒がネルフ本部に侵入するのは予定外だな」
「まして、セントラルドグマへの侵入を許すとは」
「もし接触が起これば、全ての計画遂行が不可能になる」
 委員たちに詰問されるゲンドウ。しかし、その姿に動揺は見られない。
「委員会への報告は誤報。使徒侵入の事実はありませんが」
「では碇、第11使徒侵入の事実はないと言うのだな?」
 正面に座るキール議長が問いつめる。
「はい」
 平然と受け答えするゲンドウ。
「気を付けてしゃべりたまえ、碇君。この席での偽証は死に値するぞ」
「MAGIのレコーダーを調べてくださっても結構です。その事実は記録されておりません」
「笑わせるな。事実の隠蔽は君の得意技ではないか」
「タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでいます」
「まあいい。今回の君の罪と責任には言及しない」
 キールの言葉を黙って受け止めるゲンドウ。
「だが君が新たなシナリオを作る必要はない」
「わかっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」


***


 NERV本部。エヴァケージ。
 第一回機体相互互換試験。被験者、綾波レイ。
「なんだろう?この感じ…」
 レイはエントリープラグの中でいつもと違うものを見ている。
「山?」
 第三新東京近郊の山の光景が映し出されている。
「山。重い山。時間をかけて変わるもの」
 目を転ずるレイ。
「空。青い空。目に見えないもの。目に見えるもの」
 まぶしさに目を細める。
「太陽。一つしかないもの」
 さらに目を転ずる。
「水。気持ちいいこと。碇司令。…それから」
 首をかしげるレイ。
「花。同じものがいっぱい。いらないものがいっぱい。いらないもの?」
 夕陽に照らされる市街。
「赤い色。赤い色は嫌い。流れる水。 血。血の匂い」
 顔をしかめるレイ。
「血を流さない女。赤い土から作られた人間。男と女から作られた人間。
 
 街。人の作り出したもの
 エヴァ?」
 心許ない浮遊感にとらわれるレイ。
「人は何? 神様がつくりだしたもの? 人は人が作り出したもの?
 
 私にあるものは命。 心。 心のいれもの。 エントリープラグ。 魂の居場所?」
 いつしか周囲の風景は消え、闇に包まれていくレイ。自分以外誰もいない空間に一人漂っているような思いにとらわれる。
「これは誰? 私?
 
 私は何?
 
 私は何?
 
 私は何?
 
 私は何?
 私は何?」
 目を閉じるレイ。
「私は私。 この物体が私。 自分を作っている形。 目に見える私」
 自分で自分を抱きしめる。
「でも自分が自分でない感じ。 とても変。 身体が溶けていく感じがする。 自分がわからなくなる」
 
「私の形が消えていく?」
 
「私でない人を感じる」
 
「誰かいるの? 碇君? 赤木博士。 葛城三佐。 クラスメイト。 弐号機パイロット」
 
「碇司令? 碇君?」
 
「あなた、だれ?」
 
「あなた、だれ?」
 
 唐突に現実に引き戻されるレイ。エントリープラグ内部の光景が目に入る。レイがいるのは初号機のエントリープラグ内である。
<どう、レイ? 初めて乗った初号機は?>
 リツコの声が響く。
「碇君の、においがする」


***


 NERV本部。エヴァケージ、制御室。
 モニタにEVA−01の文字が見える。
「シンクロ率は、ほぼ零号機と変わらないわね」
 モニタを見つめながらリツコがつぶやく。
「パーソナルパターンも酷似してますからね。零号機と初号機は」
 リツコの声にマヤが答える。
 黙ってリツコとマヤのやりとりを見つめているミサト。目の前のモニターを見ながら何か考え込んでいる。
「レイと初号機の互換性に問題は検出されず。
では、テスト終了。
レイ、上がっていいわよ」
「はい」
 リツコがレイにテストの終了を告げる。


***


 NERV本部。エヴァケージ。
 第87回機体連動試験。試験者、惣流・アスカ・ラングレー。
 ケージ内の弐号機に収まるアスカ。
<弐号機のデーター、記憶終了>
 アナウンスをエントリープラグ内で聞くアスカ。
「パイロット、異常なし」
「あったりまえでしょ」
 オペレーターの声に答えながら、モニターに映る零号機を見やるアスカ。
「なんであたしは互換試験をしなくていいのよ?」
<あら? 弐号機以外に乗る気があるの?>
 モニターを見ながらリツコが答える。
 モニターにはEVA−02の表示。表示される波形や色は初号機のものとはだいぶ異なる。
「別にそんな気はないわ」
<ならいいでしょう?>
「必要な事態になることはないの?」
<そうね。可能性がないことはないわ>
「だったら、やっておいたほうがいいんじゃない?」
<そうね。考えておくわ>
 リツコの声を聞きながら、目を初号機に転ずるアスカ。その瞳にはある意志が込められているように見える。


***


 NERV本部。エヴァケージ。
 第一回機体相互互換試験。被験者、碇シンジ。
「零号機のパーソナルデーターは?」
「書き換えはすでに終了しています。現在、再確認中」
 リツコの問いに答えるマヤ。
「被験者は?」
 モニターをのぞき込むリツコ。モニターにはシンジが映っている。
「じゃっかんの緊張が見られますが、神経パターンに問題なし」
「初めての零号機、他の機体ですものね。シンジ君でも緊張するのね」
 日向の報告にミサトが応じる。
「へーえ。シンジでも緊張することがあるのね」
 アスカが茶々を入れる。
「まあ、シンジ君だって何も気にしないってわけじゃないでしょうからね」
「ふーん」
 どこか面白くなさそうなアスカ。
「アスカも互換性試験をしたいんですって?」
「だれもそんなこと言ってないわよ。必要があるんじゃないかって言っただけよ」
「でも、弐号機と初号機の間に互換性はあったかしら」
 ミサトの言葉に眉をひそめるアスカ。
 

***

 
 NERV本部。EVAケージ。
 零号機、エントリープラグ内。
<LCL注水>
 アナウンスとともにLCLが満ちてくる。
<第一次接続開始>
 マヤの言葉と共に、シンジの目に映るエントリープラグ内の光景が変わる。
<どう?シンジ君。零号機のエントリープラグは?>
「なんだか変な気分です」
 マヤの問いにとまどったような声を出すシンジ。
<違和感があるのかしら?>
「いえ。ただ、綾波のにおいがするから」
「なにがにおいがする、よ」
 交信を聞いていたアスカが吐き捨てるように言う。
 

***

 
 NERV本部。エヴァケージ、制御室。
「データ受信、再確認。パターン、グリーン」
 モニタを見つめるマヤが告げる。
「主電源、接続完了」
「各拘束、異常なし」
 オペレーターの報告にリツコが試験続行を告げる。
「了解。では、相互間テスト、セカンドステージに入るわよ」
 シンジはリツコの声を零号機のエントリープラグの中で聞いている。
 シンジの表情は冷静なままである。
<零号機、第二次コンタクトに入ります>
<A10神経接続開始>
 マヤとリツコの声が響くと同時に、顔をしかめるシンジ。吐き気に耐えているようにも見える。
「何だこれ?」
 思わず頭をおさえるシンジ。
「あ、頭に入って来る、直接、なにか」
 目を閉じるシンジ。
「あ、綾波? レイ? レイなんだな、この感じは」
 シンジはレイの幻影を一瞬見る。
「レイ? 違うのか?」
 目を開けて辺りを見回すシンジ。むろんそこにレイの姿はない。
 

***

 
 NERV本部。エヴァケージ、制御室。
「どう?」
 モニタをのぞきこむミサト。
「初号機ほどのシンクロ率はでないわね。当然でしょうけど」
 リツコが応じる。
「オールナーブ、リンク。全て正常位置」
 モニタを見つめていたマヤが報告する。
「いい数値だわ。この相互間のハーモニクスに問題がなければ、あの計画、遂行できるわね」
「ダミーシステムですか? 先輩の前ですけど、私はあまり…」
 リツコほのめかした計画にマヤは批判的なようである。
「感心しないのはわかるわ。でも、備えはいつでも必要なのよ。人が生きていくためにはね」
「先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも、納得はできません」
「潔癖性はね、つらいわよ。人の間で生きていくのが」
「つらくても、かまわないです」
「そう。自分が汚れたと感じたときにも、そう言えるといいわね」
 零号機のエントリープラグのモニタにウィンドウが開く。画面からアスカがシンジに話しかける。
「どう?シンジ。調子は」
「ん。なんか変なんだ」
「レイのにおいがするからかしら?」
「そうじゃなくて、それもあるけど、なんだか居心地があまり良くないんだ」
「そう。ママのおなかの中だからかしら?」
「アスカ?」
<アスカ。ノイズが入るわ。もうやめてちょうだい>
「わかったわよ」
 リツコの叱責に、どこかいらついた声を出すアスカ。
 アスカののぞきこんでいた零号機のエントリープラグ内部のモニタが突然切断される。ノイズに埋め尽くされたモニタに、驚くアスカ。
「なに?どうしたの?」
 いきなり零号機が暴れ始める。
「どうしたの!?」
 ミサトが叫ぶ。
 スクリーンにエマージェンシーの表示。
「パイロットの精神パルスに異常発生」
「精神汚染が始まっています」
「まさか?このプラグ深度ではありえないわ」
 マヤの報告に驚愕とするリツコ。
「プラグではありません!エヴァのほうからの浸食です」
「なんですって!?」
 零号機に目をやるリツコ。暴れ続ける零号機はとうとう肩の拘束具を破壊してしまう。
「全てのパルスが逆流しています!」
「汚染区域、さらに拡大」
 オペレーターたちが次々と危急を告げる。
「零号機、制御不能!パイロットが危険です!」
「全回路遮断!電源カット!」
 マヤの報告についに実験中止を決断するリツコ。
 電源接続部のソケットの火薬が爆破され、外部電源が緊急遮断される。
「エヴァ、内部電源に切り替わりました」
「依然、稼働中」
 拘束具から自由になった零号機は、制御室の窓に近づいていく。
 

***

 
 NERV本部。エヴァケージ、零号機。
 零号機の中でシンジは苦悶していた。
「うっ、ぐあっ!…な、なんなんだ?」
 外部からの浸食がシンジの精神を食い荒らしていく。
「だ、だれだ!?おまえは!?
 レイ?
 レイなのか!?」
 歯を食いしばりながら汚染に耐えるシンジ。
「ちがう! レイじゃない」
 血走った目を開くシンジ。その瞳は狂気に侵されつつある。
「だれだ!?おまえは?」
『くすくす』
 シンジの目前に全裸のレイの幻が浮かんでいる。
『あたしはレイよ』
「うそだ!」
『うそじゃないわ。わかっているでしょう』
 そう言うレイの姿はどう見ても十歳以下の子供である。
『あたしがレイよ』
「じゃあ、あのレイは、綾波はなんなんだよ!?」
『くすくす。知ってるくせに。くすくす』
「うるさい!黙れ!」
 

***

 
 NERV本部。エヴァケージ、制御室。
「零号機がシンジ君を拒絶?」
 リツコもやや青ざめている。
 零号機がさらに近づいてくる。
「だめです!オートエジェクションン、作動しません!」
 マヤの声がだんだん悲鳴に近づいていく。
「同じなの? あの時と」
 むしろ呆然とした風につぶやくリツコ。
「シンジ君を取り込むつもりなの?」
 レイは制御室の窓際に立ち、身じろぎもせずに零号機を見つめている。
 いきなり零号機は制御室の窓ガラスに殴りかかる。
 砕けるガラスにもびくともせず、レイは零号機を見つめ続ける。
「レイ、逃げて!」
 ミサトが叫ぶ。
「ファースト!なにやってるのよ!?逃げるのよ!」
 アスカも叫ぶ。
 しかし、レイは動かない。荒れ狂う零号機を見据えたままである。
 壁に頭をぶつけ始める零号機。
 その様子を見つめるレイ。その顔は奇妙に無表情である。
 零号機は壁に頭をぶつけ続ける。
「シンジ君は!?」
 ミサトが叫ぶ。
「回路断線。モニターできません」
 マヤは状況の把握が不可能なことを告げる。
「零号機。活動停止まで、あと十秒」
 壁に頭をぶつけ続けていた零号機が停止する。
「パイロットの救出、急いで!
 まさか、レイを殺そうとしたの?零号機が」
 シンジの救出を命じた後、とうとう最後まで動かなかったレイを見やりながらミサトがつぶやく。
 

***

 
 NERV本部。リツコの部屋。
「この事件、前の暴走事故と関係があるの? レイの時の」
 ミサトがリツコに問いかけている。
「わからないわ。今は何とも言えないわ。ただ、データをレイにもどして早急に零号機との追試、シンクロテストが必要ね」
「可及的速やかにね。作戦課長としては、仕事に支障が出ないうちにお願いするわ」
 ミサトの言葉はどこか皮肉な響きがある。
「わかっているわ、葛城三佐」
 部屋を出ていくミサト。
「零号機が殴りたかったのは、あたしね。間違いなく」
 一人になってからリツコはそうつぶやいた。
 

***

 
 NERV本部。病室。
 はっと気がつくシンジ。
 起きあがったものの、ゆっくり横になる。
「またこの天井か。まいったなあ」
 

***

 
 NERV本部。発令所。
 受話器を置く日向。
「シンジ君の意識が戻ったそうです。汚染の後遺症はなし。
彼自身はなんだか気分が悪くなって、あとは何も憶えてないようです」
「そう」
 日向の報告を聞いたミサトは浮かない顔のままである。
 

***

 
 葛城邸。アスカの部屋。
 ベッドの横たわって天井を見つめるアスカ。
「ミサトも加持さんも教えてくれない。シンジは…、きっと知らないわね。
ファーストってどういう子なの?」
 

***

 
 NERV本部。総司令執務室。
「予定外の使徒侵入。この事実を知った人類補完委員会による突き上げか。まあ、ただ文句を言うことだけが仕事の、うるさいやつらだからな。
くだらん連中だ」
「切り札に足るものは全てこちらが擁している。彼らはなにもできんよ」
 冬月の言葉にゲンドウが答える。
「だからといって焦らすこともあるまい。今ゼーレが乗り出すと面倒だぞ。いろいろとな」
「全て我々のシナリオ通りだ。問題ない」
「零号機の事故はどうなんだ?俺のシナリオにはないぞ、あれは」
「支障はない。その後の、レイと零号機の再シンクロは成功している」
「碇、あまりレイにこだわるなよ」
「こだわっているわけではない。アダムの再生も計画通りだ。2%も遅れていない」
「では、ロンギヌスの槍は?」
「予定通りだ。作業はレイにさせている」
「ふむ。シンジ君が知ったらなんと言うかな」
「シンジは理解しているよ」
「そうか? ならいいが」
 顔の前で手を組んだまま、ゲンドウはそこにはない何かを見つめている。
「そういえば、シンジ君はどうしたんだ?」
「気分が良くないらしい。帰って寝かせた」
「それがいいな」
 冬月もそこにはないものを見つめている。



  …… to be continued

Copyright by ZUMI
Ver.1.0 1998/01/06

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  *感想をお願いします。zumi@ma.neweb.ne.jp

  久々に書いたら、わけがわかんなくなってきた。
  確か当初の目論見では…。
  ふむ。誤差は修正可能な範囲だ。問題ない。

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