Childrenに祝福を…

                   by ZUMI



 ネルフ本部内、総司令執務室。
 ゲンドウの前に小柄な人影が立っている。
「南極?」
「そうだ。どうやら槍が回収できそうなんだ」
「ロンギヌスの槍、ですか?」
「嫌そうだな?」
「いや、そういうわけじゃ」
「あれは必要なんだ、私たちの目的のためには」
「はあ。それはわかるけど。危険すぎないかな」
「それは致し方ない。切り札は多いほどいいからな。明日から私と冬月で行ってくる」
「二人とも?それはちょっと不用心じゃ」
「後はおまえに任せるよ。とりあえず葛城三佐が責任者になる。彼女を助けてやってくれ」
「はい」



    第九話
    『人はそれを奇跡と呼ぶ』
    前編


「うわー!降ってきた」
「とりあえず僕のうちへ来なよ。頭を拭かないと」
「すまんな」
 シンジとトウジ、ケンスケはコンフォート17マンション目指して駆け出した。
頭上は真っ黒な雷雲。雷が鳴り始め大粒の雨が落ち始めた中を、いっさんに駆けていく三人。
「すまんなあ、シンジ。雨宿りさせてもろうて」
「ミサトさんは?」
 タオルを受け取りながらトウジとケンスケが言う。
「まだ寝てるのかな。最近徹夜の仕事が多いんだ」
「ああ、大変な仕事やからなあ」
 頭を拭きながら奥の部屋をうかがう二人。
「ミサトさんを起こさないように静かにしてようぜ、静かに」
 顔を見合わせながら、揃って「しー!」とやるトウジとケンスケにあきれ顔のシンジ。
「あーっ!」
 突然、アスカの声が響き渡る。
「あんたたちなにしてんのよ!?」
 洗面所のカーテンが開き、アスカが顔をのぞかせている。
「雨宿りしてもらってるんだよ」
「はん!わたし目当てなんじゃないの!?…着替えてんだから、見たらコロスわよ」
 カーテンが閉められる。
「けっ!ちくしょ、アホンダラ!誰がおまえの着替えとるの見たいちゅうんじゃ!?」
「自意識過剰なやつ」
「まあまあ、二人とも。アスカも女の子なんだから」
「「シンジー」」
 ジト目でシンジを睨む二人。
「なんや気になる言い方やな」
「そうそう。怪しいぞ」
「は?」
 襖が開いてミサトが姿を現す。どこかしら厳しい顔つきにシンジは違和感を覚える。
「お、お、お、お、お…」
「おじゃましてます」
 ミサトの厳しい顔つきが一転、笑顔になる。
「あら。二人ともいらっしゃい。
おかえりなさい。今夜はハーモニクスのテストがあるから遅れないようにね」
「はい」
「アスカも、わかってるわね?」
 カーテンごしに声を掛けるミサト。
「はあい」
 ミサトの襟元へ注目するケンスケ。
「ああ?わっ!」
 いきなり最敬礼する
「この度は、ご昇進おめでとうございます!」
「お、おめでとうございますう」
 なんのことだかわからないが、つられて最敬礼するトウジ。
 困ったような笑顔を浮かべるミサト。
「ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
「じゃ、行ってくるわね」
「「いってらっしゃーい」」
 玄関先まで送りに出て、ミサトに手を振る二人。
「いったいミサトさんがどうしたの?」
 不思議そうな顔のシンジ。
「ミサトさんの襟章だよ。線が二本になってる。一尉から三佐に昇進したんだ」
「へえー、知らなかった」
 奥の部屋から顔をのぞかせたアスカが言う。
「それがどうしたの?」
「いつのまに」
 シンジとアスカの感想である。
「マジで言うとるんけ?情けないやっちゃな」
「あー、きみたちにはひとを思いやる気持ちはないのだろうか?
あの若さで中学生二人を預かるなんて大変なことだぞ」
「わしらだけやなあ。ひとの心もっとるのは」
 勝手な言われようである。
 ふと気が付いて、シンジはアスカの脱ぎ捨てた靴を揃えている。

***

 ネルフ本部内。ハーモニクス試験室。
 エントリープラグ内のシンジ、レイ、アスカ。
 コンソールに三人のハーモニクス状態がモニターされている。
「0番、2番、ともに汚染区域に隣接。限界です」
「1番にはまだ余裕があるわね。プラス深度をあと0.3下げてみて」
 マヤの言葉にリツコが答える。1番とはシンジのことである。
 モニターにはMENTAL TOXICITY LEVELの表示。ELAPSED TIME:120minとも。
 シンジの表示値が最も高い。
「汚染区域ぎりぎりです」
「それでこの数値?たいしたものだわ」
 感嘆するようなリツコの声。
「ハーモニクス、シンクロ率ともダントツですね」
「これを才能と言うのかしら」
「まさにエヴァに乗るために生まれてきたような子供ですね」
「本人が望んでいなくてもね」
 オペレーターの一人の言葉にミサトが答える。
「きっとあの子は嬉しくないわよ」
 テストプラグのハッチが開く
<三人ともお疲れさま>
 リツコの放送が耳に入る。ゆっくり目を開くシンジ。
 やや不快そうな表情のシンジ。ハーモニクス試験の後はいつもこうである。
「アスカ、よくやったわ」
「なにが?」
「ハーモニクスが前回よりも12も伸びているわ。たいした数字よ」
「でもシンジには届いてないわよ」
「あら。十日で12よ。大したものだわ」
「そ、そうかな。やっぱりわたしは天才だもん。このくらい当然よね」
 シンジを振り向くアスカ。
「そうだね」
 優しい笑顔のシンジ。目元を赤くするアスカ。そんなアスカを冷ややかな目で見つめるレイ。
三人三様である。そんな三人を見守る大人たちも、どこか楽しそうである。
「さ!帰っていいんでしょ!?行こう!シンジ」

***

「ねえ、ミサトが昇進したのって知ってた?」
 環状線の列車内である。アスカがシンジに問いかけている。
「うん」
「どうして教えてくれなかったのよ?」
「どうして、って。別に大したことじゃないと思ったから」
「あ、ひどーい。あたしだって知りたいわよ」
「ごめん。今度からちゃんと教えるから」
「大したことじゃ、ないのかな。あたしも気付かなかったし。ミサトも自分からは言わなかったしね」
「ミサトさん、あんまり嬉しそうじゃなかったし」
「嬉しくないのかな?」
「わからないけど、なんかそう感じたんだ」
「そう。なんでかな。あたしだったら自分が認められたんだから、嬉しいと思うけど」
「そうだね。ミサトさんはそうでもないみたいだけど」
 窓の外に目を向けるシンジ。その表情はどこか沈痛である。そんなシンジを不安そうに見つめるアスカ。

***

 翌日の夕方。葛城宅の玄関ドアに張り紙がされている。
 紙には「御昇進おめでとう祝賀会場本日貸し切り」と書かれている。
「「おめでとうございまーす」」
 ジュースとビールで乾杯するミサト、トウジ、ケンスケ。ミサトは「祝三佐昇進」のたすきを掛けている。
「ありがとう。ありがとう鈴原くん」
「ちゃうちゃう、言い出しっぺはこいつですねん」
「そう。発案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです」
 シンジはミサトの様子をうかがっている。
「ありがとう、相田くん」
「いえ。礼をいわれるほどのことはなにも。当然のことですよ」
「そやけど、なんでイインチョがここにおるんや?」
 アスカと並んでヒカリが怒ったような顔で座っている。
「あたしが誘ったのよ」
 アスカが言い放つ。久々に黄色のワンピース姿のアスカ。空母の上で着ていたものである。
「「ねー」」
 顔を見合わせて笑顔を見せるアスカとヒカリ。なぜかペンペンはヒカリの膝に抱かれてご機嫌のようである。
「レイ、ちゃんと飲んでる?」
「はい」
 シンジのあい向かいに座ったレイにミサトが話しかける。レイはジュースを手に持っている。
「でも、よく来てくれたわ。好きなもの食べてね。もっとジュースは?」
「はい」
 とはいえ、なかなか手の出ないレイである。テーブルの上はビールのつまみとしか思えないようなものばかりなのでは、無理もないか?
「あー、加持さん、遅いわね」
「そんなにかっこいいの?加持さんて」
 アスカの言葉にヒカリが応じている。
「そりゃもう、このへんの芋のかたまりとは月とスッポン、比べるだけ加持さんに申し訳ないわ」
「だれやて?もう一回ゆうてみい!」
「だから!あんたたちのこと言ってるのよ!」
「なんやと!?言うてくれるやないけ!ワイらのどこが芋なんや!?言うてみい!」
「だからあんたたちよ!その服装、態度、言葉遣い、全部よ!」
「おーう!言うてくれるやんけ!シンジ、なんか言うてやらんか!?」
「え?」
「シンジは関係ないでしょ!なに言ってんのよ!」
 口げんかを始めたトウジとアスカを横目に、シンジはミサトに話しかける。
「あの、迷惑じゃなかったですか?」
「どうして?みんながお祝いしてくれるんだもの、そんなことないわよ」
「そうですか。よかった」
「シンジ君」
「すみませんでした。昇進したこと、知ってたんですけど、お祝いも言わなくて」
「いいのよ。それに、昇進することがここにいる目的じゃないから」
「じゃあ、なんでここに?NERVに入ったんですか?」
「さぁって、昔のことなんて忘れちゃった」
 缶ビールをいじりながらはぐらかすミサト。そんなミサトの横顔を見つめるシンジ。
 玄関のチャイムが鳴る。迎えに席を立つシンジ。
「あら?加持さんかしら?」
 アスカのはしゃいだ声がする。ドアを開けると加持と私服のリツコが立っている。
「加持さん。リツコさんも」
「おじゃまするよ、シンジ君」
 上がり込む二人。
「本部から直なんでね。そこでいっしょになったんだ」
「「あやしいわね」」
 アスカとミサトがハモる。二人とも顔が赤い。
「まあ、焼き餅?」
「そんなわけないでしょ」
 リツコの言葉に、ビール片手にふてくされるミサト。最敬礼する加持。
「いや、このたびはおめでとうございます、葛城三佐。これからはタメぐちきけなくなったな」
「なにいってんのよ。ばーか」
 ミサトは缶ビールをくわえたままである。
「しかし、司令と副司令がそれって日本を離れるなんて前例のなかったことだ。これも留守を任せた葛城を信頼してるってことだ」
 加持がまじめくさってミサトに言う。
「いつごろ帰るか聞いています?」
 シンジはリツコに聞いてみる。
「あと一週間はかかるって聞いているわ」

***

 南極。南氷洋。かつて南極大陸があった海。今は赤い死の海である。
 甲板上に長い包みをくくりつけて進む空母。護衛艦を多数引き連れている。
「いかなる生命の存在も許さない死の世界、南極」
 冬月が周囲の赤い海を見ながら評している。至るところに白い塩の柱が立ちはだかっている。
「いや、地獄と言うべきかな」
「だが我々人類はここに立っている。生物として生きたままな」
 冬月の言葉にゲンドウが応える。
「科学の力で守られているからな」
「科学は人の力だよ」
「その傲慢が十五年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ。結果このありさまだ。与えられた罰にしてはあまりに大きすぎる。まさに死海そのものだよ」
「だが、現在の穢れなき、浄化された世界ともいえる」
「俺は罪にまみれても、人が生きている世界を望むよ」
 突然、警報が鳴り響く。
<報告します。ネルフ本部より入電。インド洋上空、衛星軌道上に使徒発見>

***

 NERV本部。発令所。
 日向が報告する。
「二分前に突然現れました。」
<第六サーチ、衛星軌道上へ>
<接触まであと二分>
 大スクリーンに宇宙空間の画像が表示される。
「目標を映像で捕捉。」
 青葉がコンソールを操作する。
「「おお!」」
 『使徒』の姿に発令所にどよめきが走る。
 巨大なアメーバのような姿。差し渡し一キロもありそうである。本体部に描かれた目のような紋様が異様さを際だたせる。
「こりゃすごい」
 マコトがあきれかえる。
「常識を疑うわね」
 ミサトの的外れなコメント。そもそも『使徒』に常識が通用したか?
「目標と接触します」
 『使徒』を前後から挟む二つの衛星。
<サーチスタート>
<データ送信開始しました>
<受信確認>
 次の瞬間、映像が消える。
「ATフィールド!?」
「新しい使い方ね」
 ミサトの叫びにリツコが応じる。
 破壊された衛星を後に、移動する『使徒』。その『使徒』の一部が切り離されて落下していく。

***

「大した破壊力ね。さすがATフィールド」
 太平洋の衛星写真を見ながらミサトが言う。巨大なクレーター様の痕跡が表示されている。
「落下のエネルギーをも利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものですね」
「とりあえず、初弾は太平洋に大はずれ。でも二時間後の第二射はそこ。あとは確実に誤差修正してるわ」
 マコトの説明にリツコがコメントする。画像はだんだん陸地に近くなっている落下跡を示している。
「学習してるってことか」
 ミサトがつぶやく。
「N2航空爆雷も効果ありません」
 第七索敵衛星から最大望遠で捉えられた、国連軍による『使徒』への攻撃の画像を見ながらマコトが言う。
「以後、使徒の消息は不明です」
 青葉の言葉に一瞬の沈黙。
「来るわね、多分」
「次はここに、本体ごとね」
 ミサトの言葉にリツコが応じる。
「その時は第三芦ノ湖の誕生かしらね?」
「富士五湖が一つになって太平洋とつながるわ。本部ごとね」
 ミサトの軽い冗談に、もっときついジョークで答えるリツコ。しかし、顔は青ざめている。
「碇司令は?」
「使徒の放つ強力なジャミングのため連絡不能です」
 ミサトの問いに青葉が答える。
「MAGIの判断は?」
「全会一致で撤退を推奨しています」
 マヤが答える。
「どうするの?今の責任者はあなたなのよ」
 リツコのどこかからかうような響きのある問い。
「日本政府各省に通達、ネルフ権限における特別宣言D−17、半径50キロ射以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを頼んで。」
 ミサトはきっぱりと言い放つ。
「ここを放棄するんですか?」
「いいえ。ただ、みんなで危ない橋を渡ることはないわ」

***

 第三新東京市上空。ヘリの大群が飛行している。
<政府による特別宣言D−17が発令されました。市民のみなさまは速やかに指定の場所に避難してください>
 ヘリからの放送が響きわたる。
 全線下りの表示の出た高速道路が、避難する車で埋め尽くされている。
 高層ビル群は次々と地下へ収納されていく。
<第六、第七ブロックを中心に各区長の指示に従い速やかに移動願います>
 移動広報車の放送が流れる上空をヘリの大群が飛びすぎていく。NERV職員が松代へ移動していくのだ。
<市内における避難はすべて完了>
 ネルフ本部に報告が伝わる。
<部内警報Cにおける非戦闘員および内勤務者の退避、完了しました>
 モニターには人気のなくなったネルフ本部内部が映し出されている。

***

 NERV本部内。女子トイレ。
 ミサトとリツコが化粧を直している。
「やるの?本気で」
 リツコが鏡を見ながら言う。
「ええ、そうよ」
「あなたの勝手な判断でエヴァを3機とも捨てる気?勝算は0.00001%。万に一つもないのよ」
 リツコに目を向けずにコンパクトを閉じるミサト。
「ゼロではないわ。エヴァに賭けるだけよ」
「葛城三佐!」
 リツコのきつい声。
「現責任者は私です!」
 それにミサトも厳しい声で応じる。
「…やることはやっときたいの。使徒殲滅は私の仕事です。」
 どこかか細いミサトの声。
「仕事?笑わせるわね。自分のためでしょ。あなたの使徒への復讐は」
 リツコの冷笑とも取れる言葉。その間中、ミサトは背中を向けたまま、顔を向けようともしない。
「そのためにはシンジ君たちも犠牲にするつもりなのね?」
「っ!」
 きっとなって振り返るミサト。だが、リツコは氷のような視線でそれを受け止める。
「わたしたちはいいわ。覚悟してここにいるから。でも、あの子たちにまでそれを押しつけることができるの?」
「わかってるわよ。…あたしの身勝手だってことぐらい」



  …… to be continued

Copyright by ZUMI
Ver.1.0 1998/11/03

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  しかし、こうしてみるとミサトってのも矛盾してるよな。
  こんなのに養育されてるシンジたちこそいい迷惑かも。
  結果オーライってのは、本当は好きじゃないんだけどな。よくやっちゃってるけど。

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