Childrenに祝福を…

                   by ZUMI




    第八話
    「暗闇でドッキリ!」
    後編


 第三新東京市の市街を使徒が進行していく。まるで巨大な蜘蛛のような形をしている。その脇を猛スピードで走り抜ける選挙宣伝カー。
<非常事態宣言発令に伴い、緊急車両が通ります>
 ウグイス嬢が急遽非常放送を行っている。助手席には日向が納まり、前方をにらみ据えている。
「って、あのー、行き止まりですよ!」
 前方にネルフ本部への地下入り口が見えているが、バリケードが入り口を塞いでいる。
「いいからつっこめ!なんせ非常時だからな」
「了解!」
 日向の言葉にやたらノリのいい返事をする運転手。どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。
宣伝カーはバリケードを突破し、地下進入路へと入っていく。
<いやーっ!もう止めてえーっ!>
 ウグイス嬢の悲鳴がむなしく響き渡った。

***

 ジオフロント内ネルフ本部。
「このジオフロントは外部から隔離されても自給自足できるコロニーとして作られている。
そのすべての電源が落ちるという状況は理論上はありえない」
 照明の落ちた発令所で冬月が憮然とした表情でつぶやいている。
「誰かが故意にやったということですね」
「おそらくその目的はここの調査だ」
 リツコの言葉にゲンドウが答えている。
「復旧ルートから本部の構造を推測するわけね」
「しゃくなやつらだ」
 冬月が苦々しげに吐き捨てる。
「MAGIにダミープログラムを走らせます。全体の把握は困難になると思いますが?」
 リツコがゲンドウにお伺いを立てる。
「頼む」
「はい」
 ゲンドウの言葉に、リツコはどこか嬉しそうに答える。
「本部初の被害が使徒ではなく同じ人間にやられたものとはやりきれんな」
「所詮、人間の敵は人間だよ」
 冬月の言葉に、なにを分かりきったことをという感じでゲンドウが答える。

***

 ネルフ本部内第七通路。
 真っ暗闇の中をシンジ、アスカ、レイの三人が進んでいる。
「参ったな。ほんとになんにも見えないや」
「あん♪真っ暗だからって変なところ触らないでよ」
「な、なに言ってんだよ!?アスカ」
「…見そこなったわ、碇君」
「あ、綾波!なんにもさわってなんかいないってば!」
「ひどいわ。さっきあたしのおしりにさわったじゃない?」
「ア、アスカぁ…」
「…最低」
 闇の中でほくそえむアスカ。
『ま、このくらいは許されるわよね。抜け駆けしたのはファーストのほうなんだし』
 どうやら前回の使徒の時の温泉での一件を根に持っていたらしい。
 ・
 ・
 ・
「いつもなら二分で行けるのに。ここ、ホントに通路なのかな?」
「あそこまで行けばきっとジオフロントに出られるわ」
 アスカの言う通り、ぼんやりとドアが見える。
「今度こそそうあって欲しいよ」
「こ、今度こそ間違いないわよ」
「はいはい」
「黙って」
「なによ?優等生」
「人の声よ」
「「え?」」
 暗闇の先を光が移動していく。かすかに日向の声が聞こえる。
「「日向さんだ!おーいおーい!」」
 シンジたちの声が聞こえなかったのか、光はそのまま通り過ぎて行ってしまう。
<非常事態宣言。現在、使徒接近中>
 アナウンスだけが暗闇にこだまする。
「「使徒接近!?」」
 シンジとアスカは闇の中で顔見合わせている。
「時間が惜しいわ。近道しましょう」
 そんな二人をよそにレイが言い放つ。
「リーダーは私よ。勝手に仕切らないで!」
 アスカがすごい剣幕で怒鳴りつける。
「で、近道ってどこ?」
 次の瞬間、ころっと声色を変えたアスカに、あきれ顔のレイ。
 ・
 ・
 ・
 四つん這いで進む三人。おそらく通風ダクトの中であろう。
「いくら近道ったってこれじゃかっこわるすぎるわ」
 アスカはぼやくことしきりである。
「アスカは使徒ってなんなんだと思う?」
「なによ?こんな時に」
「使徒。神の使い。天使の名を持つもの。ぼくらの敵。倒すべき相手。戦う理由って考えたことある?」
「あんたバカぁ?わけわかんない連中が攻めてきてんのよ。降りかかる火の粉は払いのけるのがあったりまえじゃない」
 そういう考え方もあるか、と思うシンジ。
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 通路が二又に分かれている。
「うーん。右ね」
「あたしは左だと思うわ」
 アスカの言葉にレイが反論する。
「うるさいわねえ。シンジはどうなのよ?」
「うーん。どっちかなあ」
「んもう。あたしがリーダーなんだから黙って付いてくればいいのよ」
 ・
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「なんか登ってるようだけど?」
「うるさいわね。気のせいよ」
「はいはい」
 アスカの言葉に投げやりな返事をするシンジ。
「ほら、明かりが見えるわ」
 R7の表示のある扉に突き当たった。
「あれ?カギがかかってる」
「停電してるせいよ」
「あ、そうか、って。開かないよ」
「んもう。どきなさいよ」
「どうするのさ?」
「こうするのよ。であーっ!」
 ドアを蹴り開けるアスカ。あきれ顔のシンジ。
 いきなり目の前に使徒の足が地響きをたてて突き立てられる。その拍子にひっくり返るアスカ。
「ひゃっ!?」
 路上に目のような文様の描かれた使徒の本体が見える。
「いーっ!?」
 必死でドアを閉め、ドアを背に貼りつくアスカ。
「ん?」
 見つめるシンジとレイ。
「使徒を肉眼で確認。これで急がなきゃいけないのがわかったでしょ?」
 この期に及んでよくまあそんなことが言えるものだ、と感心するシンジ。

***

 ジオフロント内、ネルフ本部。
 発令所に宣伝カーが突っ込んでくる。あわてて飛び退くネルフ職員たち。
「現在、使徒接近中!直ちにエヴァ発進の要ありと認む!」
 車の中から体を乗り出し、日向が叫ぶ。
「大変!」
 あわててマヤがリツコを探しに走り出す。
「冬月、後を頼む」
「碇?」
 ゲンドウが席から立ちあがる。
「私はケージでエヴァの発進準備を進めている」
「まさか、手動でか?」
 ラッタルに手をかけるゲンドウ。
「緊急用のディーゼルがある」
「しかし。パイロットがいないぞ」
 冬月の言葉ににやりと笑って応えるゲンドウ。

***

 ネルフ本部内第七通路。
 シンジ達はまたしても二又路に突き当たっている。
「まただな」
「こっちよ」
 進み出るレイ。
「よくわかるね」
「そう?」
 むっとした表情のアスカ。
「あんた碇司令のお気に入りなんですってね。」
 歩きながらアスカがレイに話しかける。だがレイの無表情は変わらずである。
「やっぱかわいがられてる優等生は違うわね」
「こんな時に、やめなよ」
「いつも澄まし顔でいられるしさあ」
 シンジの言葉を無視するアスカ。
 アスカは顔をゆがめるとレイの前に回り込んだ。
「あんた!ちょっとひいきにされてるからってなめないでよ!」
「なめてなんかいないわ。それにひいきもされてない。自分でわかるもの」
 シンジは思わずレイの表情をうかがってしまう。

***

 ネルフ本部内。初号機ケージ。
 作業員たちが掛け声をかけながら、人力でプラグを引き上げている。
「了解。停止信号プラグ回復終了」
「よし。三機ともエントリープラグ挿入準備」
 作業員の言葉にエヴァの発進準備を命ずるゲンドウ。
「しかし、いまだにパイロットが」
「だいじょうぶ。あの子たちは必ず来るわ」
 作業員の言葉をリツコがさえぎる。

***

 ネルフ本部内第七通路。
 廃墟のような場所の壁にR−015という表示の巨大な扉がはめこまれている。
「これは…。手じゃ開けられないな」
「しかたないわ。ダクトを破壊してそこから進みましょう」
「ファーストって怖い子ね。目的のためには手段を選ばないタイプ」
 黙ってパイプを拾い上げるレイ。
「いわゆる独善者ね」
「そこまで言わなくったって…」
 シンジの言葉はアスカの一睨みで封じられた。

***

 ネルフ本部。エヴァ初号機ケージ。
 エントリープラグをセットするため、必死でロープを引っ張るゲンドウたち。
「プラグ。固定準備完了」
 双眼鏡でプラグの様子を監視していたマヤが報告する。
「あとはあの子たちね」

***

 ネルフ本部。第七通路から分岐したダクト内。
 狭苦しい中を這いずりながら進むレイ。アスカ、シンジが続いている。
「ぜーったいに前見ないでよ。見たらコロスわよ」
「は?」
 ドゲシ!
 アスカのキックがシンジの顔面に炸裂した。
『さっきだってそうだったのに、なんにも言わなかったじゃないかあ!
でも、どうして振り向きもしないでわかるんだ?』
 シンジの思いは闇の中に消えた。
「バカバカ!」
 ケージで作業中のリツコ、マヤ。ダクトから声が聞こえる。
<見るなっていったでしょ!>
<しかたないだろ。前見なきゃ進まない…>
「「うわーっ!!」」
 ドスン!
 折り重なってダクトの通風口から落ちるアスカとシンジ。
「え?」「あ!」
 つぶれた二人を横目に、なぜかレイはすたっと降りてくる。
「あなたたち!」
 リツコが喜びの声を上げる。
「ラッチ。エントリー準備」
「了解。手動でハッチ開け」
 シンジたちが現われたのを見て、ゲンドウが作業員に命令する。
「エヴァは?」
「スタンバイできてるわ」
 シンジの問いにリツコが答える。
「何も動かないのに?」
「人の手は動くわ。司令のアイデアよ」
「なるほど」
「碇司令はあなた達が来ることを信じて準備してたの」
 シンジはデッキを見上げてゲンドウの姿を認める。
ゲンドウが親指を立てて見せたのに対し、シンジも親指を立てて応える。
 プラグスーツに着替えるため駆け去るシンジたちを見送ると、エヴァのハッチを開くため、必死でロープを引っ張り始めるゲンドウたち。
 ディーゼルエンジンが起動され、非常用電源が供給される。その貴重な電力によりプラグが挿入される。
「プラグ挿入」
「全機補助電源にて起動完了」
 マヤの声に、リツコがゲンドウに報告する。
「第一ロックボルトはずせ」
 ハンマーでボルトを破壊する作業員たち。
<二番から32番までの油圧ロックを解除>
「圧力ゼロ。状況フリー」
 流れ出すオイルを見ながらマヤが報告する。
「かまわん。各機実力で拘束具を強制除去。出撃しろ」
 ゲンドウの命令により、エヴァ各機は自力でアンビリカルブリッジを押しのけ始める。

***

 第三新東京市路上。
 ジオフロント直上で停止する使徒。
「目標は直上にて停止の模様」
 日向が報告するのを聞いて、リツコがハンドスピーカーで怒鳴る。
「作業、急いで!」 
「非常用バッテリー、搭載完了」
 マヤが準備が整ったことを告げる。
「よし、行けるわ。発進!」
 リツコが誇らしげに告げる。
 ・
 ・
 ・
 ダクト内を這って進むエヴァ三機。その格好は先ほどのシンジたちそっくりである。
「もーう、かっこわるーい」
 アスカがまたしてもぼやいている。
「縦穴に出るわよ」
 レイが注意を促す。
「えい!えい!でえーい」
 縦穴の扉を蹴り開ける弐号機。これまた先ほどのアスカそっくりである。
 縦穴を両手両足を突っ張って登るエヴァ。
「あー。またしてもかっこ悪い。ん?」
 見ると上からオレンジ色の液体が落ちてくる。液体のかかった零号機のバッテリーは溶けだして煙を上げる。
「いけない!よけて」
 レイが切迫した声を上げる。
「あっ。うあ。いやーあっ!」
 足場が溶けて弐号機が落下してしまう。そのまま下にいた零号機をたたき落としてしまう。
「うわ!」
 もつれ合って落ちてきた零号機と弐号機を受け止めようと、シンジはパレットガンを投げ捨てて初号機を壁に突っ張らせる。
「あーっ」
 滑り落ちていく初号機。手と足から火花が散る。なんとか突っ張って落下を止める。
 使徒の下部の目の当たりから溶解液がどんどん垂れ落ちてくる。
液のかかった部分は溶けて煙を上げている。
 バッテリーの残りが半分になり空になったものを捨てることにする。
 エヴァ三機は横穴に待避している。縦穴を溶解液が流れ落ちていくのを横目に、どうすることもできない。
「目標は強力な溶解液で本部に直接侵入をはかってるわね」
 レイが冷静に指摘する。
「どうする」
「きまってんじゃない。やっつけるのよ」
「それはいいけど、どうやって?ライフルは落としちゃったし、背中の電池は切れかかってるし。あと3分しか動かないんだよ」
 少し考え込むアスカ。
「作戦はあるわ。
ここにとどまる機体がディフェンス。ATフィールドを中和しつつ、やつの溶解液からオフェンスを守る。
バックアップは下降。落ちたライフルを回収しオフェンスに渡す。
そしてオフェンスはライフルの一斉射撃で目標を破壊。
これでいいわね?」
「いいわ。ディフェンスはわたしが…」
「おあいにくさま。あたしがやるわ」
 レイの言葉をアスカが遮る。
「それは、危ないよ」
「だからよ。あんたにこの前の借りを返しとかないと気持ち悪いものね。
シンジがオフェンス。優等生がバックアップ。いいわね?」
 強引に自分の言い分を通すアスカ。
「わかったわ」
「うん」
「じゃ、行くわよ!Gehen!」
 弐号機が縦穴から飛び出す。そのまま両手両足を突っ張って盾になる。それに気付いたのか、使徒から溶解液が落下してくる。
 溶解液に焼かれて煙を上げる弐号機。
「あうっ!うっうっ」
 激痛に必死に耐えるアスカ。その隙に零号機は底へ飛び降りていく。
 初号機は両足を突っ張って体勢を整える。
「綾波!」
 パレットガンを投げ上げる零号機。受け取り、パレットガンを構える。
「アスカ!よけて!」
 避ける弐号機。
 初号機はパレットガンを一斉射撃する。全弾撃ち尽くす初号機。
 コアを打ち抜かれ、使徒が崩れ落ちる。
 落下してきた弐号機を受け止める初号機。
「これで借りは返したわよ」
「そうだね。でも、僕も綾波に借りを返さなきゃ」
「むー!」

***

 ネルフ本部。エレベーター内。
 加持に肩車され、ミサトはなんとか外へ出ようとしている。
「もーう!なんで開かないのよ!?非常事態なのよ。もうもう漏れちゃう…。
こら!上見ちゃだめっていってるでしょ!」
「はいはい」
 唐突に電気がつく。
「あ?」
 そのとたん、バランスを崩して悲鳴を上げながら床に崩れ落ちる二人。
 エレベーターのドアが開く。外にリツコ、マヤ、日向。エレベーターの中ではミサトと加持がもつれ合ったまま倒れている。
 眉間に指を当てて、こめかみに血管を浮き立たせているリツコ。
「フケツ」
 マヤの一言がミサトと加持に投げつけられる。

***

 第三新東京市郊外。丘の上の斜面にシンジ、アスカ、レイの三人が寝転がっている。見上げると満天の星空。
「人工の光がないと星がこんなにきれいだなんて。皮肉なもんだね」
「でも、明かりがないと人が住んでる感じがしないわ」
 第三新東京市を見下ろしてアスカが言う。
 ビル街に明かりがついていく。
「ほら。こっちのほうが落ち着くもの」
「人は闇を畏れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」
「てっつがくう」
 レイの言葉をアスカが揶揄する。
「だからといって、人間が特別な生き物なのかどうか、僕にはわからないよ。
それに、あの使徒だって、本当はなんなのか、僕たちはなにもわかってない」
「そうね。でも、あたしたちは戦うしかないのよ」
「そうだね。アスカの言う通りだよ」
「あったりまえじゃん!なに今更感心してんのよ」
「そうだね。アスカはいつでも正しいよ」
 シンジの笑顔に赤面して顔を背けるアスカである。



  …… to be continued

Copyright by ZUMI
Ver.1.0 1998/10/20

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  やれやれ。今回はちとつらかった。
  平行して3本も書くもんじゃないな。
  何書いてるんだかわからなくなるから。
  とりあえず、この後はほかの連載にかかるつもりです。
  まずは一ヶ月近く開いてる「PROGRESS」かな。

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