目はすっかり暗闇に慣れてしまった。 ティエリアは何度目か分からない寝返りを打つ。無機質な部屋の様態が見て取れた。 ベッドから起き上がると、立ち上がって部屋のドアを開けた。 廊下は明るく、眩しい光が目を射抜いた。 ティエリアは眉を顰めたままヴェーダルームへと向かった。 棘のような不安ばかりが募った。 同じ船のクルー達についても、計画についても。 目的は一つで、手段も同じはずだ。 なのに、何故、ああも自分とは違う所を向いているのか。 理解できない事ばかりで苛々とする。 立ち並んでいるいくつかのドアの前を滑り、真っ直ぐ廊下を進んで突き当たりのドアを開く。 暗い部屋へ入ると、せわしなく点滅を繰り返す赤い光の中へ身を沈めた。 ささくれ立った心が解きほぐれていく。 ここは確かなものばかりだ。 安堵して目がまどろんだ時、優しげな声が聞こえた。 ティエリア。 一瞬はっとしたが、すぐに再び目を閉じる。 ティエリア。 今度は優しく微笑んだ顔が瞼の裏に浮かんだ。 何故、ロックオンのことなど思い出したのだろう。 ティエリア。 囁きかける声はどこまでも優しい。静かにゆっくりと、安らぎが満ちていく。 ティエリアは目を閉じて、気付かないままにうっとりとし始める。背の高い彼の姿がはっきりと浮かんだ。 お前も人間だ。 人間?人間とは何だ? 白くぼんやりとした頭で考える。 ロックオンの声が耳の中で鳴っていた。 人間?僕も人間? じんわりと額が汗ばんでいった。 うっすらと瞼を開くと、目の中が潤んでいた。 体が火照っている。 意識した途端、心臓がびくりとして、鼓動が速くなった。 頬に手を触れると、しっとりとして熱かった。 「あ……」 一瞬、眩暈を覚えた。更に動悸が激しくなった。 服の上から、体の周りに手を滑らせる。汗ばんだ掌が体内を打ち付ける鼓動を感じ取る。 呼吸が速くなった。 「うっ……うぅ……あぁ…」 泣きそうだった。恐る恐る、ゆっくりと下の方へ手を滑らせていく。 ベルトの下に触れると、ズボンが硬く盛り上がっていた。 顔から吹き出る汗が、滴ることなく周囲を漂った。 瞼を閉じれば、ロックオンは優しく微笑みかけていた。 全身を包み込むような眼差しに身をゆだねる。じんわりと、喉をこみ上げる気持ちが静まっていった。 もう一度、両手で体の横を撫で上げる。 「ん……はぁ…」 体を支える掌の感触が心地良かった。 ティエリア、お前は…。 ロックオンの声が体の中を流れていく。指先でそれを追って服の上から手を這わせた。 徐々に上気する体に息が塞がれる。空気を求めて小さく喘いだ。 「んっ……ぅん……はッ…あぁ……はっ…」 ズボンの中でペニスが硬くなってゆく。苦しさに顔が歪む。 頭の中で自分を見つめるロックオンの優しげな瞳が、情欲に揺れた。 両手を股間へ潜り込ませると、ベルトを緩めて硬くなったペニスを取り出した。 手の中でそそり立つその先は、粘つく液が溢れ出ていて指を滑らせた。 「っ………」 ティエリア。 耳に聞こえた声は、熱っぽく濡れていた。 「ハァッ…ハァ……アッ……っあ…!」 固く目を閉じて、ペニスの割れた先端を指先で抉るようにそこから溢れる液をすくい取り、 全体に塗り込めるようにして指を細かく動かしながら、手を上下させた。 掌の皮膚が擦れるたびに、苦しさは吐息となって抜けていった。 脳裏のロックオンは片手を上げ、軽い調子で自分へと話しかけている。それから小さく苦笑いをした。 ロックオンの軽快な笑い声が、体の芯を痺れさす。 手に握ったペニスが硬く熱くなった。 頭の裏側が痺れたように鳴っている。 ペニスを擦る手の動きが激しくなった。 「あ…ああ……んっ…はぁ……あっ…ああ…」 彼はいつも、強くて優しい。 短く息を吐きながら、上下する自身の肩に手を載せた。手袋越しの、ロックオンの硬い手の感触が蘇えった。 革の手袋を通してでも一つ一つの指の節目までが分かるほどに、彼の手は大きくて力強かった。 「んんっ…あっ…あっ…はぁっ…あっ…ああっ」 頬が熱くなる。目と口の中が濡れた。 頭の中で、ロックオンの肩へと寄りかかる。 ティエリア。 耳元ではっきりとした声が名前を呼んだ。吹きかかる温かな息の感触すら生々しい。 「あぁっ!…んっ…んんっ……くッ……あっ…うぁ……!」 悪寒にも似た震えが走った。 たまらずに、ティエリアは体を丸めて縮こまった。 手の中のペニスがますます膨らみ、硬くなっていく。 先端から溢れる液が零れて小さな水音を立てていた。 ロックオン、ロックオン。 ティエリアは頭の中で彼に呼びかける。 陰茎の中心が、引き絞られたように痛かった。 耳の奥のロックオンの声は、荒い自身の呼吸にまぎれていった。 ティエリアは淀んだ頭で、ただひたすらにロックオンの姿を追った。 「はあっ…はあっ……んっ…あっ…ああ…あ…ロ…ック…あ!ぁあ!」 全身が痙攣して、白く濁った精液が飛び散った。 力が抜けて、暖かくとろりとした感覚の中に浸される。 脳裏に浮かぶ姿は白っぽく霞んでいる。 虚ろに開いたティエリアの目に、細かく小さな球体となって浮かぶ精液が見えた。 途端に涙がこみ上げた。 「うっ…うぅっ……ふっ…くっ…あっ…あぁ…っ」 口を押さえて肩を震わす。 宙に散った白濁とした液体は、漂う透明な涙と混ざり合った。 「う……僕…は、……私…は…」 掠れてぼやけた赤い光だけが目に映っていた。 おわり。