五月晴れの一日が始まった。 昨日からマイスター4人組は地上の秘密基地の孤島で、現地待機となっていた。 いつもプトレマイオスにガンダム一機を電池要員として置いておく必要のある 彼らが、一堂に会し待機する事はほとんどない。 待機中とは言え、現実は束の間の休息に他ならない。 色々あって、あれだけバラバラだったマイスター達も、さすがに連携が深まってきたように思う。 久しぶりに最前線戦闘組であるマイスターだけでじっくり時間を過ごせる事を、ロックオンは嬉しく思った。 珍しく早起きしてキッチンに行くと、ティエリアだけがそこに座って水を飲んでいた。 どうやら、朝食はまだのようだ。ロックオンは浜辺の朝食を、ティエリアに提案した。 昔のティエリアなら、「辞退する」のひと言でにべもなく断られていただろう。 なのに今日はロックオンが話しかけるなり、顔をほころばせて二つ返事で了承した。 その上自ら二人分の朝食のパンとバナナを掴んで、ロックオンに先立つように 浜辺に向かい、腰を下ろすなりいそいそとバターまで塗りこんで、パンを差し出す始末だ。 「わりいな、ティエリア」 礼を言ってパンを頬張ると、嬉しそうにぱっと頬を染めてロックオンの朝食風景をじっと見詰めていた。 ロックオンがパンを一個食べきるのを見計らったように、ティエリアがポットの紅茶を注いで出してくれる。 (何だよ、こいつ…。何で今日はこんなに愛想が良いんだ…?  まるで新婚さんじゃねえか…。参ったなこりゃ) とても少年とは思えない美しさを持つティエリアだが、こうやって柔らかな表情で かいがいしく世話を焼かれると、ますますその美しさが女性的に思えてくる。 「わりいけど、俺、パンにはコーヒーなんだよな」 ロックオンは柄にもなく照れて、意地悪なことを言ってしまった。 「なんだと…?贅沢を言うな。紅茶で問題ないだろう」 返ってくる言葉はこんなものだろうと予想していたのに、 何とティエリアは困ったように目を伏せて許しを乞うように話し始めた。 「ごめん…。それは知っていたんだが、ここにはインスタントコーヒーしかないんだ…。  豆から挽いたのが好きなんだろう? 紅茶ならリーフから揃っていたから、そっちの方が良いかと思って…」 (……。こいつ、いつの間にか俺の好みを把握してやがる…。  まあ確かに紅茶も好きだけどよ…。しかし、随分懐かれたもんだな…。) ティエリアのあまりの変わりように、驚きを隠せないロックオンだった。 もともと面倒見の良いロックオンである。 この前悩みを打ち明けられた事も、こうやって心を開いてくれている事も嬉しくはあるのだが、彼とて馬鹿ではない。 ティエリアがヴェーダ喪失の代替物として、自分に信頼を寄せつつある事は分かっている。 そしておそらくティエリアは、ヴェーダに依存していたあの時そのままの、無垢な忠誠を捧げてくるのだろう。 もし、自分に何かあったら、ティエリアは一体どうなってしまうんだろう。 新たな拠り所を探すのか?それならまだいいが…。しょんぼりとうなだれるティエリアの様子に、不安が募る。 「コーヒー、だ」 「え…?」 「インスタントで良いから、淹れ直してこいよ」 「わ、わかった…!」 試すように出した指示にも、ティエリアは素直に従い、そそくさと基地に戻っていった。 一体、俺の言う事にどこまで従うのか。 それによって、ティエリアに再教育を施さなければいけない。 マイスターは、誰かに依存する事などあってはならないのだから…。 ポットを持って基地に急ぐティエリアの後姿を見ながら、ロックオンはリーダーらしく思考を巡らしていた。 (わりいな…。ティエリア…。お前のためだ。試させてもらうぞ…?) すぐにティエリアが戻ってきた。 カップに残ったままの紅茶を捨てて、コーヒーを注ごうとポットを傾ける。 「おい。なに考えてんだ、お前」 ロックオンが冷たく言い放つ。 さっきまで機嫌が良かったロックオンの豹変ぶりが分からず、ティエリアはおろおろするばかりだ。 「紅茶とコーヒーだぜ?普通、カップは洗ってから入れなおすもんだろ?  馬鹿かお前。さっさと洗って来い。当然、海水でじゃねえぞ?真水で、だ。」 「ご、ごめんなさい…。すぐに洗ってくる…」 ティエリアが慌ててカップを掴み、小走りに走り去った。 ティエリアが戻ってきた。浜辺と基地との2往復で、早くも息が切れている。 「…おい。ちょっと行き来しただけで何だよ、その体たらくは…?  それでもマイスターかよ?それとも何だ?俺へのあてつけか?」 ロックオンの冷たい嫌味に、ティエリアが驚いて顔を上げた。 「そんな事…ない…!砂で思うように走れなくて…。僕は地上に慣れていないし…」 「言い訳かよ?地上に慣れていないなんて、お前の大好きなマイスター不適格要件に入るんじゃねーの?」 ティエリアがぐっと言葉を飲み込んだのが分かった。みるみるうちに目に涙が堪っていく。 ロックオンの胸が痛む。それでも、ロックオンはテストを続けた。 「慣れてないなら、今のうちに慣らしておけ。走って、泳げ。  ガンダムなしの白兵戦だってあるかも知れないんだぞ? 俺の言う事、間違ってるか?」 「いい…え…。あなた…の言うとおりで…す…。確かに…僕はマイスターにふさわしく…」 「あ〜!!!うぜえなあぁ!朝っぱらからメソメソしやがって!」 ロックオンが言葉を切るように大声で怒鳴って、ティエリアがびくっと身を震わせた。 (こいつ…。本当に俺をヴェーダの代わりに…。ますいな…。こんなんじゃ…。  ティエリア…。頼むから反抗してくれ。俺は…、自分の事で精一杯だ。  お前の事まで、守ってはやれないんだぞ…?) ロックオンの不安が、確信へと変わりつつあった。 思った通り、ティエリアはとても弱く、自分に依存しかかっている。 「早く注げよ、コーヒー。ついでにバナナの皮も剥け」 「は、はい…!」 ティエリアがロックオンの顔色を伺いながら、コーヒーを注ぎ、おずおずと差し出すのを乱暴に受け取った。 勢いでコーヒーが零れ、ロックオンの捲り上げたズボンのふくらはぎに、かかった。 「あっちいい!!」 「ロックオン!!!」 思わず叫ぶ。 ティエリアが慌てて波打ち際に走り、両手に海水を溜めて戻ってきた。 火傷には、水。 公式どおりの純粋さで、海水をふくらはぎにばしゃっとかけるティエリア。 焼くような痛みが、ロックオンに走った。 「いってえええ!!アホか、お前!!火傷に海水なんか掛けやがって、因幡の白兎じゃねんだから…!!  逆効果だろうが…!!ほんとにお前は、戦闘以外は何の役にもたたねえんだな…!!」 コーヒーが僅かにこぼれた故の火傷など、本当はたいした事ではない。 ティエリアを、自分への依存から解き放つための、あえての暴言だった。 だがティエリアは身を縮めるようにして、完全に泣き出してしまう。 「ごめんなさい…ごめんなさい…ロックオン…僕…僕…」 留まる事なく涙をしとどに流しながら何度も謝ってくるティエリアに、火傷よりも 胸が痛むロックオンだったが、心を鬼にして諭すように叱り続けた。 「ティエリア。お前は弱すぎる。今だって見てみろ。予想外の事態に直面すると、  パニクってこのざまだ。今までの戦闘だってその傾向は随所に見られた。分かるな?」 「ふぐっ…やっぱり…直接リンク出来ない…僕は…マイスターに…えぐっ」 「だから〜!!なんでそう極論に行くんだ、お前は。前も言っただろ?  お前はお前の意思で行動できるようにならなくちゃ駄目だ。   ヴェーダはただのプログラム。人間には適わないんだぞ?」 聞きながらティエリアが俯いてしゃくりあげる。 その様子が本当に子供のような無邪気さで、ロックオンは思わず父親のような心境になった。 心がけていた冷たい態度はどこへやら、声音には優しいものが混じる。 「いいか?まず、俺はヴェーダの代わりじゃない。」 ティエリアがはっと顔を上げる。涙で潤んだ目で、意外そうにロックオンの目を見つめた。 「そんな事思ってない…。そういう顔つきだな、ティエリア。  でもな、残念ながら気が付いてないだけだ。お前は、自分の事を知らなさすぎる。  少なくとも俺にとってのお前は、脆くて、弱くて、融通もきかねえ、ただのお子様だ。」 「僕は…ひぐっ…そんな事…」 「そうやってぴーぴー泣いてんのが何よりの証明だろ…?  誰かが後ろにいないと何も出来ない。誰かがいなくなると、途端に揺らぐ。  それじゃあ、駄目なんだよ、ティエリア。この戦いは、そんなんじゃやり遂げられねえ。」 ティエリアの涙が、砂に染み込んで黒い跡を残していく。 最近の苛烈さを極める戦闘の中で、ティエリアを守ってやる余裕はほとんどない。 どうしても、ティエリアには強くなってもらわなくてはいけない。 それでも目前でか弱い少女のように泣きじゃくるティエリアを見ていると、 せめて日常でだけは支えになってやってもいいか、という思いが湧き起こってくる。 「しょうがない奴だな…。ヴェーダも大変だっただろうよ。  お前みたいな甘えんぼにがっつり頼られてたんだからな…」 思わず苦笑して、ティエリアの頭をぽんぽんと撫でてしまった。 思いがけない優しい仕草に、ティエリアがすぐに反応した。 いきなりロックオンの胸に飛び込み、ぎゅっとしがみ付く。 「お、おい…!!」 戸惑うロックオン。 跳ね除ける事も抱き締める事も出来ず、両腕が頼りなげに宙を彷徨った。 一方のティエリアは、更に力を込めてぎゅうぎゅうとロックオンに抱き付き、 顔を胸に押し当てたまま泣き続けている。 しばらくそのままで時間が流れて、ようやくロックオンが落ち着きを取り戻した。 ティエリアの背中に腕を回し、優しく抱き締めてやる。 ティエリアの髪から、シャンプーのいい匂いがする。 ロックオンは誘われる様に顔を髪に寄せ、軽く頬擦りしてその感触を味わった。 下からはティエリアの嗚咽がまだ響いてくる。 「馬鹿だな、ティエリア…。いつまで泣いてんだ…」 出た口調は、自分でも驚くほど甘く、優しいものだった。 耳元で囁かれて、ティエリアが一瞬体を強張らせ、聞き入った。 「そんなに悲しかったのかよ…?俺に冷たくされたのが…」 「だって…!」 シャツに顔を押し付けているせいで、くぐもった声しか出ないが、ティエリアが必死で言った。 「僕は、あなたの事をヴェーダの代わりだなんて思っていないのに…、あなたは…  あなたは…意地悪だ…。僕には…、もうあなたしかいないのに…!」 何だよ…。かわいい事言いやがって…。 こいつは一応男なのに、そんな事、もうどうでも良くなっちまうじゃねえか…。 急に愛しさがこみ上げた。  恋人に対するものか、弟に対するものか、むしろペットに対するようなものなのか、 定かではなかったが、とにかくロックオンにこみ上げたものは、確かに愛情だった。 「ティエリア…。顔、見せろ…」 優しく囁くと、ティエリアが即座に顔を上げて、ロックオンを見上げた。 涙で潤んだ赤い瞳が高く昇った太陽に照らされて、氷細工のように繊細に輝いた。 陶器のような滑らかな白い肌には、シミ一つない。 紫がかった髪も、潤んだ赤い瞳も、整った顔立ちの造形も、 ロックオンは今までの人生で、こんなに美しいものは見た事がなかった。 我を忘れて、魅入られるようにティエリアの瞳を見つめ続けた。 「ロックオン…」 ティエリアの可愛い唇が動いた。 そっと近寄ってきた唇が、ロックオンの唇に重なった。 (何だよ…。キス…か…。男同士…で。俺どうしちまったんだろうな…) もう一度、ティエリアが唇を寄せてキスをしてくる。 男同士だと言う事はよく分かっているのに、嫌悪感はまるでなかった。 (あ〜…舌入れてえ…) 柔らかいキスを受けながら、ぼんやりと浮かんだその考えを見透かしたように、ティエリアの舌が入ってきた。 穏やかな日差しで体が温められ、まるで夢の中の出来事のような感じがした。 その穏やかさそのままに、ロックオンとティエリアはお互いの舌を絡めあい、甘い感覚を共有した。 ティエリアの涙の味がして、無性に切なくなってしまう。 ティエリアを手放したくない。 ぎゅっと強く抱き締め、更に舌を深く絡めあわせた。 「あっ…!」 ティエリアがか細くうめく。 我慢できずに、ロックオンが砂の上にティエリアを押し倒したのだ。 砂にわずかに埋もれたティエリアは、恥ずかしそうに目を伏せて横を向いてしまった。 ロックオンが唾を飲む。 まだ潤んだ瞳で、切なげに目を細めるティエリアは、余りに煽情的だった。 ティエリアのカーデガンのボタンに指を掛ける。 ティエリアの顔に、明らかな戸惑いと恐怖の色が浮かんだ。 「いや…か?」 ロックオンの声が掠れている。 「あ…、いや…だ…。僕は…」 ティエリアが初めて拒絶した。 「そうか…。そうだよな…。すまん…ティエリア…」 さっきは自分のする事に反抗してくれと願っていたはずなのに、 今のこの場で拒絶されるのはとてつもなく寂しく、ロックオンがうなだれた。 その様子を見て、ティエリアが申し訳なさそうに呟く。 「ごめん…。ロックオン…。あなたの事、すごく好きだけど…。  僕は…怖い……全てを見せる事…が…」 たどたどしくも、思った事を精一杯の言葉で伝えようとしてくるティエリアが、本当に可愛く思えた。 堪らず覆い被さって、もう一度深いキスをする。 砂の上で指と指を絡め、強く握り合った。 それだけで、心が深く繋がったような気がして、再びティエリアが涙を流す。 その時。じゃりっと砂を噛む音がして、聞き慣れた声が響いた。 「ちょ…、何してるの、二人とも…!!」 驚いた口調の声の主は、顔をあげて確認しなくても分かる。 アレルヤ・ハプティズムだ。 もう一人分、砂を踏む音がする。 ここにはマイスター4人しかいないのだから、現れたもう一人は間違いなく刹那・F・セイエイだ。 まずい所を見つかってしまった。 もっとも、こんな目立つ場所でこんな事をしている自分達が悪いのだが…。 ロックオンとティエリアは、まだ上下で抱き合ったまま、気まずい思いで視線を交わした。 何と言い訳するか…。 恋人になる事を約束し合ったわけでもない。まるでいい言い訳が浮かんでこなかった。 ロックオンは困惑しながらもティエリアの上から去り、後ろの刹那とアレルヤを振り返った。 アレルヤと刹那が、慌しくロックオンとティエリアを交互に見やる。 一瞬で、二人に嫌悪の表情が浮かぶ。 「いや…、これは…、その…」 「黙って…!!」 ロックオンの言葉を遮るように、アレルヤの怒声が飛んだ。 怒気を含んでアレルヤが続けた言葉は、ロックオンにとって意外なものだった。 「信じられないな…。いくら戦闘が長引いてストレスが溜まっていたとはいえ、  よりによってティエリアに手を出そうとするなんて…」 「え…?」 ロックオンが理解できずに、ぽかんと口を開けたまま固まる。 「しかも、こんな島のど真ん中で…レイプだなんて…。  本当に神経を疑うよ。スメラギさんに報告させてもらうよ?あなたは本当に最低な人だ」 アレルヤ…!勘違いしてやがる! 「違う…!俺は、俺たちはそんなんじゃ…」 「じゃあ、何だって言うの?可哀想にティエリア、あんなに泣いて…」 全員が、まだ寝そべったままのティエリアを見た。 ティエリアも困惑気味の顔をしていたが、その頬は確かに濡れている。 「溜まってたんだろ…。トレミーの女に相手にされてないもんだから…」 刹那、てめえ…! 「違うつってんだろ?俺たちは…その…」 「この期に及んで言い訳するつもりかい? 往生際の悪い人だね…全く。  まさか、合意のもとだ…なんて言わないだろうね?  ティエリアはあんなに泣いているし、何より彼は男だよ? まさかあなた、ゲイ…」 「違うって!俺は、その…ティエリアが…」 「ティエリアが、誘った。そう言いたいんだろ…」 刹那がロックオンの言葉を引き継ぐように言った。 「そうじゃない…!けど、その…」 ティエリアがあからさまに誘った訳ではないが、そもそもティエリアの妙な色気に当てられて、こうなった事は確かだ。 いや、そういう言い方は正しくない。 むしろ、ティエリアの脆さが、俺に不思議な感情を起こさせた…。 恋愛感情といってもいいような…。 でも、確かにあいつは男だし、今冷静になって考えてみると、 とてつもなく恐ろしい事をしようとしていたのかも…。 ロックオンは完全に混乱しきって、何も言えなくなってしまった。 刹那がアレルヤに向き直った。 「最近のティエリアは、確かにおかしかった…。 やたらロックオンのことばかり気に掛けて…。  だから、ティエリアが誘ったとしても、俺は驚かない…。   むしろ、ティエリア相手にその気になったロックオンの方に驚く…。」 アレルヤがティエリアをちらりと見て、頷いた。 「う〜ん…。確かにそうだね…。ロックオンは大人の女性が好きだって言ってたし、  武勇伝はいくつか聞いたけど、男相手のは一つも聞いてないな…。」 「武勇伝の一つに入れたかったんじゃないのか?  場合によっては、俺たちが餌食になっていたかも…。ティエリアに感謝しないといけない…」 「えっ?僕達が、餌食に…?勘弁してくれよ…」 アレルヤは真剣に身震いしている。 「そう言えば ロックオンは色んな女性に絡んで悩みとか聞いてやってたみたいだけど、  誰一人として落とせてない…。いい加減欲求不満が募って、僕達に来ていたかも…。  そうだね。むしろティエリアに感謝しないといけないね」 「おい、お前ら…!何勝手な事言ってやがる…!俺は、そんなつもりじゃ…」 勝手に話が変な方向に進んでいってしまい、ロックオンが慌てて口を挟んだ。 アレルヤと刹那が、訳知り顔でしれっと見返してくる。 「まあ、本人に聞けば早い…」 「そうだね、刹那。  ティエリア…?どうなの?君が誘ったの?それとも、この人にレイプされかかってたの?  辛いかも知れないけど、本当のことを言って」 3人のやり取りを聞いて、ティエリアは少なくともロックオンが困っている事だけは、はっきりと分かった。 ─僕の、せいで。 「私が、ロックオンを誘った。…それだけだ」 ロックオンの為に、嘘をつくしかなかった。 確かにロックオンに抱き締められたかったが、本当は別に、誘ったつもりはない。 ロックオンと心が通い合ったと、確かに感じられたのに…。 妙な横槍で、せっかくの触れ合いが脆くも崩れ去ってしまった。 もう、ロックオンはああいう風に抱き締めてはくれないだろう…。 ティエリアは無性に寂しくなって、アレルヤや刹那がいるというのも忘れて、 また静かに泣き出してしまった。 アレルヤが、幾分同情を込めて呟いた。 「ティエリア…。君、そんなにロックオンが好きだったの…」 「違う。僕は、ただ…」 ここで感情を認めれば、ロックオンを困らせる事になる。 ロックオンが何も言わない以上、二人のやり取りは隠しておくべきなのだろう…。 「僕は…、してみたかった…だけだ…。何も知らないまま、死んでいくのは…いやだったから…」 言いながら、惨めでまた涙が零れ落ちた。 ロックオンの顔を見る事も出来ない。 刹那が言った。 「ロックオンなら、一番慣れてそうだから…。そういう事か…」 「ああ…。別に…誰でも良かった…」 アレルヤが問いただす。 「でも、それなら女の子相手の方がいいんじゃない?   君、男だよね?それともまさか、女の子…」 「あの中に僕の好みの女性なんていない…!それに…」 揚げ足を取られて、イライラしてティエリアが言う。 「試してみたかっただけだ。みんな、僕が女なら良かったのにとか…  男とは思えないほど綺麗だ…とか言うから…。本当にそういう対象になるのかと…」 苦しい言い訳だったが、刹那とアレルヤは納得したらしい。 二人で頷き合って、ティエリアの傍に近寄った。 ティエリアは呆然としたまま、むなしさだけが募り、まだ起き上がれないでいる。 上から二人が、悠然と見下ろしてくるのをぼんやりと見返した。 「ふうん?そんなにしてみたかったの…。別に、あんなのどうって事ないのに…。ねえ?刹那?」 「…ああ。一人でやるか、誰かとやるかの違いしかない…」 見下ろす二人の表情に、明らかに欲情が漂っているのを敏感に感じて、ティエリアがようやく体を起こした。 「おっと…。やりたいんでしょ?ティエリア…。」 アレルヤが素早くティエリアに馬乗りになり、マウントポジションを確定した。 完全に重心を抑えられて、身動き一つ出来ない。アレルヤがいやらしく口を歪めた。 「な…っ…!何をする…!」 驚くティエリアを冷静に観察しながら、刹那がロックオンを振り返った。 「溜まっていたのは、お前だけじゃない…。ティエリアも、俺たちもみんな溜まっていた…。構わないだろう…」 「よ、よせよ…。お前ら…。冗談…だろ…?」 ロックオンは何が起こっているのか理解できずにいた。 「冗談?聞いてなったの?ロックオン。ティエリアは誰でも良かったってちゃんと言ったじゃないか。  あなただけ楽しもうなんてずるいよ。僕達にも、おすそ分けくれたっていいだろう?」 アレルヤが待ちきれない様子で、ティエリアのカーデガンに指を伸ばす。 「や…!よせ…、アレルヤ…!」 「ロックオンとは出来るのに、僕達とはいやだって言うの?誰でもいいって言ったじゃない」 「違う…!嘘…だ…!僕は…」 必死で体をよじり抵抗するティエリアのカーデガンとシャツのボタンごと、アレルヤが強引に引きちぎった。 ぶちっと嫌な音がして、ボタンが宙に舞う。 まるでスローモーションのように、ボタンがゆっくりと落ちて行った。 シャツまで乱暴にはだけられて、ティエリアの半裸がアレルヤの前に晒された。 アレルヤの目に更なる欲情が漂う。 初めて見る顔つきに、ティエリアが顔面蒼白になった。 「すごい…。本当に綺麗な肌をしているね…。ティエリア…。ほら刹那、見てごらん?」 アレルヤが興奮を抑えきれずに刹那に声を掛ける。 横から刹那が手を出し、カーデガンとシャツを完全に剥ぎ取った。 「ああ…。いつも綺麗な顔をしているとは思っていたけど…。女以上だな…。」 二人の男の手が、ティエリアのはだけた胸を這いまわった。 ねっとりと汗ばんだ手で撫で回されて、吐き気が押し寄せてくる。 ぎゅっと目を閉じ、歯を食い縛って辱めに耐えるしかなかった。 「…。ふふ…。そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか…。  ティエリア…。可愛いよ…。大丈夫…、気持ちよくなれるから…」 聞き慣れたアレルヤの声が、まるで知らない男のそれであるかのように響いた。 刹那とアレルヤの嘲笑にも似た笑いが聞えてくる…。 目を閉じたまま耐え続けるが、屈辱の涙を我慢できなかった。 「あん…っ」 急に乳首をつねられて、思わず声が出てしまった。 「ふふっ、可愛い声出すんだね…、ティエリア。そうじゃなくっちゃ、やりがいってものがない…」 両方の乳首を、素早く擦り上げられた。 目を開けられない。 誰の指なのかも分からない。 「あ…っ…あ…っ…」 それでも、乳首の刺激が淫らな喘ぎを誘発する。 こんな声、絶対に出したくなどないのに、はあはあと息が乱れていくのを止められない。 (ロックオン……!助けて…!!) 喉の先まで出かかったその言葉だけは、絶対に言えるはずもなかった。 (ロックオンが、これを見ているのか…?こんな惨めな姿を見て、何もしてくれないのか…? さっきはあんなに優しかったのに…。それともまさか、ロックオンまでこの行為に…。) 最悪の事態が頭をよぎる。それでも、僕は…、僕は……彼の事が…、 「ああっ!」 思わぬ快感で、脳内に浮かんでいたロックオンの姿が消し飛んだ。 ねとねとと、誰かの舌が乳首を転がしている…? 指よりも遥かに粘着質な舌が、乳首を這いまわるたびに、体が熱くなっていく。 「…ティエリア……。気持ちいいかい?刹那の舌だよ…?目を開けてみなよ…」 「くっ…は…ん……ふざ…ける…な…」 刹那の舌…。どうせこんな辱めを受けるなら、ロックオンが良かった…。 目なんか、絶対に開けてやるものか…! 「強情だね…。じゃあ、僕は、こっちをいただこう…」 「ああん…っ…!」 もう一つの乳首に、アレルヤが吸い付いた。 刹那とはまた違った舌使いで、ティエリアを追い込んでいく。 二人の男が覆い被さるように二つの乳首を舐め回している。 目を閉じて耐えている事で余計に、その光景がいやらしく想像できた。 どちらかの手が、ティエリアの股間に伸び、そこを軽くまさぐった。 「やぁ…っ!!!」 急激な快感で思わずのけぞり、うっすらと目を開けてしまった。 アレルヤと刹那の舌先が、自分の乳首を丹念に舐め回しているのが見えた。 股間を撫で回しているのは、アレルヤの手だ。 上げた視線の先に、呆然と立ち尽くすロックオンの姿が垣間見えた。 一気に涙が溢れて出す。 (ロックオン…、助けて…ロックオン…!僕は…こんなのいやだ…! 助けてくれないなら…せめて…見ないで…!) 目だけで訴えかける。 ロックオンと目が合う。 何かに耐えているかのような必死の形相で、ロックオンが強く見つめてきた。 (ロックオン…。何で…こんな事に……。僕はあなたといたい。それだけだったのに…) アレルヤが、ティエリアのベルトを抜き去り、後ろに放り投げた。 皮肉にも、それは苦悶の表情で立ち尽くすロックオンの足元に落ちた。 ロックオンがティエリアから視線を外し、ベルトを見た。 その仕草で、完全に見捨てられてしまったかのような、どうしようもない孤独がティエリアを襲った。 愕然とした気持ちで、うつむいたロックオンを、ただ見つめるしか出来なかった。 アレルヤの手が、ズボンの中に入ってきた。 下着の上からそこを撫でられて快感がますます強くなる。 嫌なはずなのに反応してしまう自分の体が、とてつもなく薄汚く思える。 「ああ…っ…、ん…っ…、あ…っ…、あ…っ…!」 なのに、アレルヤの動きに合わせて声まで抑えきれずに出てしまう。 我慢している故のか細い喘ぎが、ますますアレルヤと刹那に火を点けた。 「すごい…。ティエリア…。もう勃ってるよ…?」 アレルヤが首筋に舌を這わしながら、囁いた。 「だま…れ…!僕は…ああっ!!」 くいっと下着の上からペニス全体を掴まれて、快感と痛みが交錯する。 支配した優越感で、アレルヤがほくそ笑んだ。 再びアレルヤの手つきが規則的なものに変わる。 「ああ…ん…っ!アレル…ヤぁ…、やめ…あう…っ!んんっ…!」 「随分気持ち良さそうだな…。ティエリア…。どうだ? 初めての経験は…?望みどおりのものか…?」 刹那が乳首をねぶりながら、上目遣いで尋ねて来る。 「ん…っ、あ…んっ!や…だ…っ!こんな…の…いや…だ…あふ…んっっ!」 「でも、もうビンビンになってるよ?脱がしてあげようか?  それとも、このままイってみるかい…?僕達は、どっちでもいいけどね…。  使う穴さえ確保できればいいんだから…」 アレルヤが意地悪く囁いた。 「あ、穴…?」 「そう…。君は女の子じゃないからね…多分、痛いよね…。  だから最初に気持ちよくしてやってるんだよ…。どこを使うか、わかるかい?」 穴…。まさか…。ティエリアの顔から血の気が引いた。 「そう…。アナル…だよ?偉いね、ティエリア。すぐ分かったんだ…?」 アレルヤの異様な程の優しい口調で、急に恐怖が募った。 「やっ!!いやだ…っ!!離…せ!やだ…っ!!」 頭を振って、必死の抵抗を見せる。アレルヤが驚いて安心させにかかった。 「大丈夫。痛くないようにするから…!ティエリア、落ち着いて…!」 「ダメ…だな…。アレルヤ、強引にやればいいだろう…。  全く、ティエリアめ…。自分がやりたがっていたくせに、いざとなったら逃げ腰か…。」 刹那が呆れたように首を振って、喚き続けるティエリアの口を手で抑える。 「んん〜っ!!」 言葉を封じられても、なお抵抗をやめようとしないティエリアだった。 「まずいな…。これ以上暴れられると怪我をしかねない。やるよ?刹那」 「ああ…」 アレルヤがティエリアを引っくり返し、四つん這いにさせてすぐに、ズボンが剥ぎ取られてしまった。 アレルヤがティエリアの下着に手を掛ける。腰をがっしりと掴まれて、身動きも出来ない。 絶望的な気分で、ティエリアが最後の抵抗を見せた。 「ロックオン──!!!」 刹那に口を抑えられているせいで、ほとんど言葉になっていなかったが、確かにそれはロックオンの耳に届いた。 「もう、いい!!!やめろ!!!!」 ロックオンが弾かれたように、アレルヤに掴みかかった。 反抗してくるアレルヤを一発ぶん殴り、続いて刹那を抱え上げた上、砂の上にぶん投げた。 「ロックオン…!?」 アレルヤが怒りの形相で睨みつけてくるのを無視して、ロックオンは四つん這いのティエリアの体を起こしてやった。 ティエリアがまだ怯えた表情のまま、ロックオンを呆然と見つめた。 涙の跡が、痛々しい。 自分の不甲斐なさに唇を噛みながら、ロックオンがティエリアをそっと抱き寄せた。 下着以外、丸裸のティエリアの体のあらゆる所に、砂がまとわりついている。 特に舌で責められた乳首には、手で払っただけではとても落ちそうにない汚れが付着していた。 「ティエリア…。すまない…。俺は、本当に情けない男だ…。すまない…」 ティエリアはかすかに震えていた。 それでも、露わになった肌に直接ロックオンのぬくもりが届いて、僅かに落ち着きを取り戻す。 「ティエリア…。すまなかった…。もう大丈夫だ…。絶対、あいつらに手は出させないから…安心しろ…」 ロックオンがしっかりとティエリアを抱き締めた。 助かった…のか…? 思わず安心して、感情が爆発した。 「ひぐっ…ロックオン…、僕は…したくない…あんな事…んぐっ…もう…っ」 「ああ、しなくていい。お前の事は俺が守るから…。絶対に、守ってやるから…」 ロックオンが顔をあげ、強い目でアレルヤと刹那を睨んだ。 「俺はもう、嘘はつかねえ。つまんねえ保身なんか、どうでもいい。  お前らに何と思われようが、俺は俺の気持ちに素直にならせてもらう。」 ティエリアを抱き締める腕に、力が込められた。 「俺はこいつが好きだ。誰が何と言おうと、好きなもんは好きだ。  男だとかそんな事はもうどうでもいい。こいつは、俺のものだ。  こいつが言ってた事も、全部嘘だ。ティエリアが好きなのは、この俺だけだ。  お前らには絶対に手は出させねえ。わかったな?」 ロックオンには、断固たる決意が漲っていた。 ロックオンの熱い言葉は、ティエリアの心をみるみる溶かしていった。 さっきまでの屈辱感など、もうどうでもいい位に、心が踊る。 ロックオンにきつく抱き付いて、思う存分涙を流してこみ上げる嬉しさを全身で味わった。 アレルヤと刹那は瞬時に敗北を悟り、バツが悪そうにすごすごと引き上げていった。  二人の姿が完全に消えたのを確認して、ロックオンはティエリアを抱いて海に入った。 胸元まで、海に浸かる。 「ロックオン…。火傷…」 「平気だよ、あんなもん…。お前の傷に比べたら…な」 丁寧に砂を洗い流してやりながら、ロックオンが申し訳なさそうに言った。 「本当にすまなかった。言い訳も用意できてなかった…。いや、それどころじゃねえ…。  突然の事態で固まっちまってよ…。偉そうに説教とかできねえよな…。  本当に、情けないマイスターだ…俺は…。自分の大事な人間さえ、満足に守れないなんて…」 「ロックオン…。もう、いいんだ…」 「良くねえよ…。すまなかった。怖い思いさせて…。あんなのは、あってはならない事なのに…」 ロックオンの肌にシャツが張付いて、その男らしい体のラインがくっきりと浮かび上っている。 思わずティエリアが、肌の感触を確かめるように体を寄せた。 海温よりも遥かに温かい、ロックオンの体温がすんなりと体に馴染んで心地いい。 応じるように、ロックオンが抱き締めてくれる。 ロックオンの息が耳にかかって、不意に、アレルヤ達の欲情の吐息を思い出した。 体を離して後ろを向き、うなだれるティエリア。 「僕…僕は…、汚れて…しまった…」 ロックオンはしっかりと見ていたのだ。アレルヤ達に体を舐め回される自分を。 そして、あっけなく勃起までしてしまった、情けない自分を…。 薄汚い奴だと、突き放されても仕方ない。本当にそう思った。 「ティエリア…」 ロックオンが後ろから、ティエリアをそっと抱き締め、静かに呟いた。 「汚れてなんかいねえよ…。汚いのは…むしろ俺の方だ…。  俺は…。僅かな保身と見栄のために、お前を売り飛ばそうとした。  本当に、何度ぶん殴られても仕方ないって思ってる…」 ロックオンの言葉の端々に、ティエリアへの悔悟の念が滲んでいる。 「だから、俺は…。これからは絶対に、お前を守る。  もし戦闘で死ぬような事があっても、先にいくのは絶対に俺だ」 「ロックオン…!!」 何で、そんなことを言うんだ…! 「好きな奴を守るのは、男の役目だ。だから…」 ティエリアが反転して強引に口付け、言葉を遮った。 そのままそんな考えなど吹き飛ばしてくれるとばかりに、一気に舌を差し入れ、かき回す。 しばらく貪欲にキスを貪った後、ようやく唇を離し、おずおずとロックオンの表情を伺った。 ロックオンが悲しげにティエリアを見下ろし、静かに続けた。 「……。俺たちは、いつ死んでもおかしくない。だけど、それでも…俺は……」 まだ続けるのか…!?僕は、そんな事は話したくはない…! ロックオンに現実を忘れさせるには、他に方法が思いつかなかった。 急いでロックオンのベルトを外し、下着ごとズボンを剥ぎ取った。 「ティエリア…、聞けよ…大事な話だぞ…?この前みたいに、負傷しちまったり…」 今は何も、聞きたくない。 耳を塞ぐように首を振り、海に潜ってロックオンのペニスを頬張った。 「は…っ…!」 ロックオンの息が上気したのが、海中でもはっきりと分かった。 浮力に逆らいながら、苦しくなる呼吸までをも我慢して、ティエリアは必死で舌を遣った。 ロックオンのペニスがどんどん質量を増してくる。 海水で痛む目を何とかこじ開けたまま、ティエリアはそこを丁寧に愛してやる。 自分の鼻から漏れた息が、泡になって消えていく。 亜熱帯の海中の砂は白く美しく、透明な水中には色とりどりの魚まで泳いでいる。 幻想的な光景が、ティエリアを思いがけず切なくさせた。 「ぶはっ…!!」 限界的に苦しくなって、海面に顔を出して大きく深呼吸する。 「お、おい…。ティエリア…」 行為が恥ずかしくて、ロックオンの問い掛けにも応じられない。 すぐに大きく息を吸って、再び海中に潜り、ロックオンの勃起し尽くしたペニスを再び口中に含んだ。 舌を這わし、出し入れする度に、海水を飲み込んでしまう。 咽ながらも、むしろこの苦しみこそが、アレルヤ達との行為の贖罪のような感じがした。 ごぼごぼと泡を吐き出す。 絶え間なく海水を飲んでしまう。 苦しくて、意識が遠のいて行く…。 それでもロックオンのペニスはどんどん熱くなっていく。 ロックオンの死ぬところを見るくらいなら、今この場で快感を与えてやりながら、僕が死んだほうがいい。 そんな事を考えていると、本当に目の前が真っ暗になった。 死ぬ…。 そう思った時、急に頭を掴まれて、一気に水面に顔を出されてしまった。 ぐはっと咽て、飲み込んだ海水を派手に吐き出す。 ロックオンが背中を擦ってくれる手が温かい。 息を整えてようやく落ち着くと、ロックオンが心配そうに顔を覗き込んできた。 すぐに、その顔が怒りの表情に変わる。 「ティエリア!馬鹿か…お前は…!信じられねえな、全く。仮にもマイスターだろうが…!!」 「でも…僕は…あなたの死ぬところなんか考えたくもない…」 「だからって、お前がここで水中フェラなんかでお陀仏する気か?」 「でも…」 「ったく、純真無垢にも程があるぞ?はあ…。2年も、一緒にいたのにな…」 失笑気味で、ロックオンが笑った。それだけで、ティエリアは無条件に嬉しくなってしまう。 「何嬉しそうな顔してんだよ、お前は〜。ほ〜んと、かなわねえなあ…。  もっと早くそういう素直な所見せてくれてたら…。  こんな戦況が逼迫する前に、色々教えてやれたのに…な…」 ロックオンがティエリアを抱き締めた。 ロックオンのペニスがごつごつと下半身に当たる。 こんな中途半端な状態で放置するわけには行かない事は、さすがに分かっていた。 ロックオンの肩に頭を預けたまま、手を伸ばし、それを扱き上げてやる。 「ん…っ」 ロックオンの声が、耳に心地よく響く。もっと、これを聴いていたい。 「く…っ…ティ…ティエリ…ア…、やりた…く…なかった…んじゃねえの…か…」 息を乱すロックオンが、無性に愛しい。 ロックオンとなら、そして今なら、全てを許してもいいと思えた。 「あなたとだったら…いい…。僕の体は…あなたのものだから…」 「恥ずかしい事…言って…んじゃ…ねえよ…っ。痛い…ぜ…?」 「……。いいんだ…」 その言葉を聞くや否や、ロックオンがティエリアの下着を剥ぎ取った。 「力抜けっ…!!」 一声注意して、アレルヤ達とは違い、抱き締めたまま、前からロックオンが一気に入ってきた。 「ああっ!!」 強烈な痛みが走る。力を抜くどころの話ではない。 こじ開けられた体の真ん中に、ロックオンの熱だけが熱かった。 「大丈夫…。ちゃんと、入ったぜ…?すげえ気持ちいいよ、お前の中…。 でも、痛いだろう…?」 ロックオンが埋め込んだまま動きを止め、ティエリアを気遣った。 目に涙を浮かべて、痛さに耐えているティエリアが可哀想になり、ペニスを引き抜こうとするのを、ティエリア自身が押し留めた。 「だ…だいじょう…ぶ…。続けて…」 「でも…」 「いいから…。僕は…嬉しいから…。あなたとこうなれて…。   男…なのに…愛してくれ…て…」 「ティエリア…」 ティエリアの健気さが、ロックオンを完全に撃ち落してしまった。 胸に充満する愛しさを味わいながら、ゆっくりと腰を打ちつける。 「んっ…んっ…」 ロックオン自身の快感は高まっていくばかりなのに、ティエリアは必死で痛みに耐えていた。 出来るだけ声を出さないように我慢しているのが、痛みを知らせる事でロックオンを萎えさせないためなのは、明らかだった。 その事が一層ロックオンを高ぶらせる。 ティエリアの苦痛は分かってはいたが、抑えきれずにピストンは激しさを増していった。 「いい…ぜ…っ!ティエリア…、すげえいい…!くっ…!大丈夫か…!?」 「んぐ…っ!平…気だ…、んっ、つづけ…て…あう…っ!」 ペニスが深く突き刺さる度に、ティエリアの表情が苦痛に歪む。 とても見ていられなくて、ロックオンが突き上げを継続しながら、口付けた。 強く抱き合い、舌を絡めあわせる事で、ティエリアの苦痛が少しでも和らぐ事を祈った。 突き上げに合わせてティエリアの舌がぴくぴく動くのを感じる。 罪悪感と焦燥感が入り混じり、ロックオンは急いて腰を打ちつけ続けた。 しばらくして、ようやく痛みに慣れたティエリアが、ロックオンの腰に足を巻き付けてきた。 角度が変わって挿入が深くなり、ペニスへの快感が強まった。 「くっ…」 キスを中断し、強くなった締め付けにひとしきり耐えるロックオン。 ティエリアの腰に手を回し、その体を支えてやる。 「行く…ぞ…!足、そのままにしてろ…!ちゃんと支えてるから…」 もう快感を我慢できず、いきなり激しくぐんっと突き上げる。 「ああ…っ!!」 ティエリアがか細く喘いだ。 まだ、ティエリアに痛みは続いているらしいが、ロックオンの方はようやく限界寸前だった。 「もう、終わる…から…、もう少しだ…、ティエリア…ッ!!」 「あっ、んっ、うん…っ、僕は…大丈…夫…」 痛みに喘ぎながらも、うっすらと目を開けて、ロックオンの表情を伺うティエリア。 ペニスが抜き差しされる度に、ロックオンの快感が高まっていく様子を、一瞬でも見逃したくないかのように、見つめ続けた。 ロックオンに腰を支えられて、突き上げられるごとに体ががくがくと揺さぶられる。 完全に支配されたかのようなその光景は、昔のティエリアなら屈辱以外の何者でもないだろうに、 今は突き上げごとに内部に感じるロックオンの熱を味わいながら、完全に身を任せている。 「随…分、変わっ…たんだな…、ティエリ…ア…!嬉しい…ぜ…!」 「んっ、くっ、あなた…のせい…だ…僕は…っ」 ペニスが埋め込まれる度に、体の結合と共に心までリンクしていくような気がして、 ロックオンの顔をしっかり見つめながら、ティエリアに涙が溢れた。 「僕は…、すご…く…、く…っ…ん…っ…、しあ…わせ…ひぐっ」 最後の方は涙声で聞えなかったが、ロックオンはティエリアの言葉で十分満たされた。 ピストンに比例して水中から出入りするティエリアの美しい肌をたっぷりと眺めながら、ラストスパートに入る。 「あっ!ああっ!んんっ!ロックオン…!ああっ!!」 速くなった突き上げで、堪えきれずにティエリアが叫ぶ。 ロックオンがティエリアの腰をぐいっと引き寄せた。 「イクぞ…!!くっ!!」 一突き大きく突き込んで、中に放出する。 射精の満足感と、急激に体に広がる疲労感を同時に感じながら、ロックオンはティエリアを抱き寄せ、 埋め込んだままでしばしの休息を堪能した。 ずっとペニスを引き抜くと、海面に白濁がぷかりと浮かび、すぐに水にまぎれて見えなくなった。 「良く頑張ったな。ティエリア。すごく良かったぜ?」 軽く抱き締めて褒めてやると、ティエリアが満足げに強く抱き付いてくる。 ロックオンが優しくティエリアの腕を引き剥がし、ティエリアを海面に浮かばすように腰を支えてやった。 「さ、次はお前の番だぜ?」 浮力に従ってティエリアの体が浮き上がり、海面に萎えきったティエリアのペニスが現れた。 羞恥で、ティエリアが顔を覆ってしまう。 「心配するな。痛いばっかじゃ、俺も心苦しいからな…。ま、潜望鏡って奴だ…ははっ」 落ち着かせようとした軽口だが、ティエリアには通じなかった。 きょとんと見返してくる視線に、愛しさが募る。 その感情のまま、精一杯の優しさを込めて、ロックオンはティエリアのペニスに手を伸ばした。 「あん…っ!」 指が触れると同時に、ティエリアの顔が快感に歪んだ。 「気持ちいいだろ?」 ロックオンが軽く扱き上げただけで、ティエリアのそこは簡単に勃ちあがっていった。 反応を楽しみながら、ペニスへの摩擦を続けるロックオン。 「あ…んっ、あっ、や…っ…、ロ…クオ…あぁん…っ」 息が乱れ、上気した顔でうっとりと見つめられて、ロックオンの手技にも熱が篭る。 小刻みな上下摩擦を繰り返しながら、先端をくいっと親指で掠めてやった。 「あふうっ!!」 ティエリアが腰を跳ね上げる。 「どうだ?ティエリア…。いいか?」 片手で腰を支えてやっているせいで、単調な愛撫しか加えられないのを歯がゆく感じた。 それでもティエリアは気持ち良さそうに喘いでいる。 「あぁっ、ん…んっ…、ロックオ…」 「言えよ…。わかんねえだろ…?」 ぐっと力を込めて、ペニスを一回大きく扱き上げた。 ティエリアが一際、表情を快感に歪める。 「ああっ!!んんっ…!!いい…よ…、ロックオ…ン…。すご…く…、きもちい…」 「そうかよ…。これくらいの強さがいいのか…。なるほどね…」 ティエリアの好みの強弱を把握し、お望みどおりの強さで擦ってやる。 ティエリアが大きく口をぱくぱくさせて、快感に咽ぶように喘ぐのが、たまらなく可愛い。 「ほら…、いいか?可愛いぞ、すごく…」 「あんんっ!あっ、あっ、やだ…っ、もっ…とゆっく…り…!」 ティエリアの顔は真っ赤に紅潮して、完全に快楽に酔っているかのようだった。 その表情で、ロックオンは思いがけずさっきの、アレルヤと刹那にねぶられる ティエリアを思い出してしまった。 ティエリアは確かに、彼らの愛撫に感じてはいた。 その事よりもむしろ、その光景を黙って見ているしかなかった不甲斐なさが、ロックオンを激しく後悔させた。 その事実を吹き飛ばすように、ロックオンがティエリアに覆い被さる。 刹那とアレルヤの痕跡を全て消すかのように、乳首に舌を伸ばし、激しく舌先で責めた。 「あんっっ!!あんっ、あぁっ、あぁんっ、んんっ!」 素早く舌先で乳首を転がされ、その上ペニスへの摩擦も続いたままだ。 全身に満ちる快感でティエリアの腰は揺れっぱなしになった。 「や…っ、あ…っ、だめっ…、あんっ、あんっ、も…ダメ…あう…っ!」 ティエリアを思い切り感じさせてやる事で、罪悪感が吹き飛ぶような気がして、 ロックオンは舌にも、指にも、力を込めた。 「ダメ…?もうイクのかよ…?もっと楽しみたいのにな…」 ティエリアの反応が嬉しくて堪らないのに、言葉ではつい虐めてしまう。 ティエリアの限界が近い事は、誰よりも責めている自分自身が分かっていた。 「もうちょっと我慢しろ。」 勃ちあがった乳首の硬さを確かめるように転がしながら、言葉とは裏腹にペニスを扱く速度を速める。 ティエリアはもう射精寸前まで追い込まれていたが、健気にも必死で耐えている。 きつく閉じた目から、涙が一筋零れ落ちた。 「んっ、あうっ、もうダメ…!ほんと…に…、ロックオ…も…我慢できな…」 ティエリアがうっすらと目を開けて、ロックオンに懇願の視線を向けた。 「そうか…。もうダメ…か。いいぜ?だったらイカせてやる」 ティエリアの快楽極まった表情を楽しみながら、ロックオンが最後の刺激をペニスに与えた。 「あぁんんんっっっ!!!」 必死で我慢していた欲が、一気に弾けた。 腰をびくんと跳ね上げたティエリアの先端から、大量の精液が放出され、高く宙に舞い飛んだ。 すぐに脱力して目を閉じ、射精の快感でティエリアが再び泣き出してしまう。 ティエリアの幼い行動のすべてが、ロックオンにはいじらしく感じられた。 「おいおい、何泣いてんだよ…?しょうがない奴だな…」 苦笑しながらも、愛情を持て余してティエリアを強く抱き寄せた。 ティエリアの荒い息遣いと、静かな波音が対照的だった。 ティエリアが潤んだ瞳で切なげに目を細め、ロックオンの顔を凝視した。 「どうした…?」 「ん…。ロックオン…。僕は…怖い…」 その目には、快楽の余韻は既に消え、確かに怯えが漂っている。 「怖い?何がだ…?俺が、怖いのか…?」 「あなたの優しさが…無性に怖い…。あなたがいなくなる事を…  考えずに…いられない…。僕は…、一人になりたくない…」 素直な不安をぶつけてくるティエリアに、ロックオンの胸も痛んだ。 ─どこにも行かない、絶対に死なない。 そう約束してやれたらどんなに楽か。 しかし、それを口にする事は、決して出来はしない。 戦争とは、そういうものなのだ。 目を負傷したロックオンだけでなく、ティエリアにだって、いつ死が訪れてもおかしくないのだ。 「ティエリア…。約束は出来ねえよ…。分かるよな…?」 ティエリアが泣きながら、ロックオンの言葉を待った。 「それでも、だからこそ…。こういう時間を大切に過ごさなきゃいけねえ。  それに、俺たちは…。  他の人間の、こういう時間をも奪った存在だって事も、 忘れちゃならない…。  ティエリア…、俺たちは…たとえ生き残っても、世界の罰を受けなきゃいけない…。  だから…泣き言は…聞かねえよ…でも…。俺は…お前を守りたい…それだけは…確かだ…」 ロックオンの悲しいまでの決意を、ティエリアが本当に理解したのかどうかは分からない。 それでも、ティエリアは素直に頷いてロックオンを抱き寄せた。 そしてその後、何度か繰り返した行為の後の寝物語でも、一切泣き言を口にする事はなかった。                                                                           <終わり>