ティエリアが一人、夜の浜辺に座り、空を見上げている。 ──誰だ? ──なんだ、お前か。刹那・F・セイエイ。 ・・・何の用だ? ──私は。星を、見ていた。 ──ああ。地上から見る星は、宇宙から見るのとは少し違うから。 宇宙ではもう、星を見るのが少しつらい。 つい。彼の事を考えてしまうんだ。 ──彼は、今どこにいるんだろうってな。 ん? いや、さすがに生きているとは思ってない。 ただ。遺体の収容も出来なかったから─。 ──そうだな。もう一年になる。ロックオンがいなくなってから。 ──今になって思えば、彼の死んだのをこの目で確認しなくてよかったかもしれない。 見なかったから、彼の死を実感する事もなく、なんとか切り抜けられたのかもしれない。 この一年。 もしこの目で見たら・・・堪らなかっただろうな。 ──ああ。つらかった。 私は、ロックオンを愛していたから。 ──なんだ、そんな驚くな。 え?男なのにって? ふん。私が女だと言ったらどうする? はっ。そんな目を丸くするな。 嘘だ。・・・と言っておこうか。 ふふっ・・・どっちかわからなくなったか? ──ああ。いつもは無表情なお前が、そんな顔をしているのは面白い。 まあ、いいだろ? はっきり言って、私が男か女かなんて事はどうでもいい。 私は、一人の人間として、ロックオンを愛していたんだ。 彼は私に初めて、人の温かさを教えてくれた。 ・・・それに、ロックオンは私を守ってくれた。 だから今度は私が守ってやると決意したのに。 できなかったんだ──。 ──いや。私のせいだ。 彼がもし怪我をしていなかったら・・・彼は死ななかったかもしれない。 元はといえば、彼の怪我の原因は──私だ。 だから。 私は戦うんだ。 ──以前はソレスタルビーイングの理念のために戦っていた。 だが、今は。 私は彼の願いをかなえるためにも、戦っている。 紛争根絶という彼の願いを。 彼の願いは、私の願いでもあるんだ。 ──私が強くなった? ・・・どうだかな。 今でも、たまにつらくて仕方がなくなる。 だけど、負けてる場合じゃない。 ロックオンのためなら、私は耐えることが出来る。 ──柄にもなく、しゃべりすぎた。忘れてくれ。 ・・・え?隣に? 別に構わないが。 ──刹那。 ・・・いや。 隣に。 人がいると言うのは、いいものだな。 しばらくの間、波の音だけが夕闇に包まれる浜辺に響いていた。 二人は無言で空を見上げ、ここにいない、一人の人の事を思い浮かべていた。