「ロックオン」 無意識に紡がれた言葉は零れた涙と共に宙に浮く 「ロックオン…」 どれだけ呼んでも、答えてくれる人はもう居ない。 「…ロック…オン…」 わかっている筈なのに… 「……ニー…ル…っ…」 止めることが出来ない。 言葉も、 涙も。 ******* 「ティエリア…」 こういう時は独りにならない方がいい。 そう言って部屋にまで押しかけたは良いが、憔悴しきったティエリアを前に、 スメラギ・李・ノリエガは何も出来ずに居た。 今更自分の無力を悔いたって、目の前で涙し続ける少女の慰めにも この世を去った部下であり仲間であるロックオンに対する償いにもならないことは解っていた。 自分はまだ、泣いてはいけない。 実行部隊のトップである自分が感情に流されたらクルー達の不安を煽ってしまう 下手をすればギリギリの状態で保っている優勢を崩してしまうかもしれない。 何が有っても形を変え付き纏う責任が涙を抑圧する。 「スメラギさん…」 不意に名前を呼ばれた 「なに…?ティエリア」 「ニール……ロックオンは思いを果たせたと思いますか?」 「……ええ、思うわ」 本当なら生きて帰る事も出来た筈。でもそうしなかったのはきっと… 「それが彼の、本当の願いだったんでしょうね」 「…家族の、敵討ち……自分の命を…存在を賭けてまで…」 震えながら涙を流すその姿はいつも見ているガンダムマイスターとしての彼女ではなく、 心を開き、誰かを愛しく思う気持ちを知った1人の少女としての姿。 こんな状況下でなければきっとお互いに涙を流して、抱きしめあって悲しみを溶かすことができたのに 「あの人は…本当に……愚かだ…っ………っぅ」 「……ティエリアっ」 苦しげに呟くと、張り詰めていた糸が切れるように大粒の涙が零れた。 泣き出す彼女の体を受け止め、強く抱きしめる 「私っ……守れなかった…」 「うん…」 「ありがとうって言えなかった…」 「うんっ…」 「好きって……」 「う…ん…」 溢れ出す想いは大きすぎて受け止めきれない 「なにも…伝えられなかった…」 「そんなことない…」 「でも…」 続けようとするティエリアを胸に押し付ける 「今は泣きなさい…後で辛くならないように」 「うっ……ぇ…」 胸元が涙に濡れる。 もうこれ以上、こんな少女がこんな苦しい思いをする事がなければ… 無理だとわかっていても願わずにはいられない。 きっと遠くに逝ってしまった彼も、そう願っているだろうから。 *******  …あれから…どれくらい経ったのだろう。 「ここは…」 目を覚ますと全く知らない場所だった。 周囲には花が咲き、流れる風は穏やかで 「一体何処なんだ…?」 どう考えても宇宙ではない 「それにこの格好…」 しかも何故か身につけているのは下着と、白いワンピースだけ 「…夢…か…?」 結論はそれしか無い。 「でも何で…」 よくわからない状況に頭を悩ませていると… 「よ、ティエリア」 後ろからぽんっと頭を誰かに叩かれた 「え……?」 思わず振り返ると、そこに居たのは…、 「ロックオン…?」 「おう」 顔にこそ出さないが内心死ぬほど驚いてる自分と違って、 「元気そうで良かった」 穏やかな笑みを浮かべて自分の頭を撫でるロックオンが何かに衝撃を受けているようには見えない 「どうして君が…君は……」 「ストップ!解ってるよ。…俺はもう死んでる」 少し寂しそうな顔で呟いた言葉は、さっきまで自分の心にトゲを刺し苦しめた、 変えようも無い事実だった 「じゃあ…何で…」 思い出した事実にまた胸がつかえてくる 「あー…と、多分…だけどな、これは夢枕ってやつだ」 「ゆめまくら…?なんだそれは」 「死んだ人があの世に行く前に、誰かの夢に現れる…とかなんとか」 「そうか…」 もしかしたら…と抱いた淡い希望も消え去った 「「……」」 重い沈黙が流れる 「あー…あのさ、ティエリ…アぁっ!?」 この空気を払拭しようとしたロックオンの言葉が途中で遮られる ティエリアが思い切り抱き着き、その勢いで2人とも倒れ込んだからだ 「〜〜ってーなぁ!いきなり何…」 抗議の言葉も途中で掻き消える、 「ぅ……くっ…ひぅ…」 ティエリアが泣いていることに気づいたから。 「………ごめんな…」 自分のへまで付いた傷に責任感じさせて、 その負い目に付け込んで肉体関係を迫った上… 「いきなり死んじまったりして…」 あんな苛酷な場所に置き去りにした。 謝ったって許されるはず無い。 でも、こんな形とは言えまた逢うことが出来たから 言わないより言った方が良いと思ったから 「ごめん」 何度でも言葉にする この言葉が自分の胸で泣いているティエリアに少しでも届いて、 彼女の心が少しでも軽くなればもう思い残すことはない 「…ばか…」 ずっと泣きじゃくってたティエリアが顔を上げる 前みたく強気で、 でも泣いていたせいか少し憂いを感じる瞳がこっちを見つめる 「んっ…」 ふっと、何の前触れも無く唇が塞がれた 「んん……ん…」 苦しげに息をしながら絡めてくる舌は、最初に体を重ねた時よりずっと上手で でも 「許すわけ…無いだろう…」 憎まれ口と上に乗る身体の柔らかさは最初の時と変わらなくて 「んふっ…ぷぁ……え…?ぁ、やっ…」 身体が無意識にティエリアを欲しがる 「…夢の中なのにな…」 身体に伝わる肌の感触は本物みたいで、 自分がまだ生きているような錯覚を起こす 「あ…ロックオン…ん、…ニール……」 長い間使わなかった本名で呼ばれるのはなんだか変な感じがした 背中を撫でる手を尻の辺りに下ろして膨らみをなぞり 「…ひゃうっ…」 指先で割れ目をなぞるとか細い声が上がる 「ん…」 ティエリアも恥ずかしそうにズボンの上から性器を撫でる でも… 「ティエリア、言っておくけどな、あの約束…もういいぞ?」 「え…?」 「ここまでやっておいてアレだけどさ、夢の中でまで俺の言うこと聞かなくても…」 「……はぁ…」 「…なんだよ…」 あからさまな溜め息に少し腹がたった 「君は本当に鈍感なんだな」 「はあ!?」 「常識で考えて見ろ、  いくら約束とは言え好きでも無い男に処女を捧げた上、中出しまで容認して  さらにキスを迫る女が何処に居ると思う?」 「あ…」 「やっとわかったか…」 「はは…なんだ…そっか…」 「?」 思わずティエリアを抱きしめる 「ティエリア、俺はお前の事が好きだ」 「!」 直球な告白にティエリアの頬が赤く染まる 「あんな辛い場所に置いてってごめん」 「そんなこと…」 「…本当はずっと一緒に居たかった。  ずっと一緒にいて、世界が平和になったら家族になって、  子供作って…」 それは本来、自分たちには許されない幸せ。 「ニール…」 「家族みんなで歳とって死ぬまで一緒が良かった」 「うん…」 「でも…それはニール・ディランディとしての望みだ」 「うん…」 「俺はロックオン・ストラトスとして敵討ちに走った」 「…」 「…で、この様だ」 ティエリアの顔が歪む 「そんな顔すんなって、取り逃がしちまったかもしれないけど満足してる。  これでロックオンとしての目的は終わりだ」 「…そうか」 「あの世じゃあニール・ディランディとして過ごすよ」 「そんなの意味が…「それで、家族の復讐に燃えたテロリストじゃなくて、人生で1番好きな子を幸福にしてやれなかったダメ男   って肩書になるわけだ」 「ぷっ…」 一気にまくし立てるとティエリアが吹き出した 「…なんだよ」 「少し違うな。  鈍感過ぎて生前に告白出来なかった上、最後の逢瀬でまで自分の都合最優先のダメ男。だろう?」 「そ…それは具体的過ぎる」 「そうか。」 そこまで言ったところでちょうど視線が絡み合い、 互いに笑みを交わす。 これが最後だというのに何故か気持ちは穏やかだった。 「それじゃー気持ちも通じ合ったところで、早速つづきだな♪」 「やっ…ちょ、ちょっといきなり過ぎ……あんっ」 抗議の声も空しくニールのペースに巻き込まれる …でも、不思議と嫌な感じはしない。 ******* 「あ、あっ…ん…くぅ…」 「はー…やっぱきっつ…」 中に挿れた自身を締め付ける感触に息が詰まる 「ちゃんと慣らさないから…っ」 「悪かった」 確かに少しがっついて前戯は短めだった でも 「動くぞ」 「え…あっ…ああっ…」 ティエリアと少しでも永く繋がって居たいから… 「はっ…はっ……っ」 「や…んっ…んぅ、んんんっ…」 卑猥な水音を立てながら何度も腰を押し付ける その度に揺れるティエリアの身体はとても綺麗で、 「あ、あ、ダメ……あんまりこすると…」 悩ましげな表情が可愛くて、 「やぅっあ、だめぇ!そんなに激しくしたら…ひゃうっ」 快感に溺れる姿も、 「もうっ………ダメ…っは…」 「ティエリア、ちゃんと受け止めて…」 「え…?…ああぁっつ…」 イった時の顔も、 全部愛しいから。 きっと死んだって、 生まれ変わったって忘れない。 …絶対に… *******  別れの時間が近づいていることは何となく察していた。 でもこうして2人で抱き合って、まどろんで居られる時間を今はかみ締めていたい。 …目が醒めたらまた、離れ離れになってしまうから 「そろそろかな…」 ニールが上半身を起こして空を見上げる。 雲が下がってきたような濃い霧が少しずつ立ち込めて来ていた 「行くのか?」 「…ああ…」 「そうか…」 「そんな顔するなって!良いものやるからさ!」 そう言って向こうを向いてしゃがみ込むこと数10秒。 「ほら左手出して」 言われるがままに差し出した手に何かが着けられる。 「これ…」 「こんなもんしかあげられなくてごめんな、本当ならもっとちゃんとしたやつ…」 「ううん…これでいい」 左手の薬指にはめられた小さな花の指輪。 「ニール」 「何?」 「守れなくてごめん」 「別にいいよ」 「優しくしてくれて、私の事わかってくれようとしてくれてありがとう」 「ああ」 「あと…大好き…」 「俺も…」 想いを伝えて、お互いに抱き寄せ合い口づけた辺りで意識が途絶えた。 ******* 「あ…」 目が醒めたらそこは自室だった。 近くの机にはスメラギさんが突っ伏して寝ている。 ずっと居てくれたのだろう、私服のままだ。 「…ニール…?」 思い出したように、さっきまで傍に居た人を呼ぶが返事はない。 「そうか…夢…」 解っていた筈なのに思い返すとやけに虚しい 「ん…?」 左手に違和感を感じて引き寄せてみると、 「あれ…」 薬指に指輪がはまっていた。 夢の中で貰った花とよく似た花柄が彫ってある、細いシルバーリング。 「ニール…」 その花に亡き恋人の面影を感じて、そっと口づける。 「ずっと…ずっと一緒だから」 微笑んだ時に零れた涙は、さっきと違って暖かかった。