プトレマイオスは、アロウズに遂に最終決戦を仕掛けた。 スメラギが持てる全ての知略を巡らして、数では圧倒的不利な状況を鮮やかに打破していく。 アロウズ虎の子のMSが一機、また一機と撃墜されていき、 圧倒的な戦力を誇ったアロウズ艦隊の命運は、たった4機のガンダムの前に今にも尽きようとしていた。 「ティエリア、今よ…!!敵母艦に潜入して、内部からマザーコンピュータを破壊して…!!そして…」 今こそその時とときの声をあげたスメラギに、ティエリアは逸る心を抑えて冷静に応答した。 「分かっています。内部から、敵母艦を殲滅します」 GNバズーカを構え、砲撃を一撃お見舞いする。 他3機のガンダムへの応戦で分散していたアロウズMS陣が防御出来るはずもなく、 ビーム砲は見事に母艦側面に命中した。 あがる噴煙、飛び散る鉄片、不測の事態に右往左往するアロウズ将兵たちの叫び声――。 更にケルディムがこれでもかと言わんばかりに後方から敵母艦を銃撃すると、 彼らの混乱は最高潮に達した。 今こそ好機――。 ティエリアはセラヴィーを駆り、自らが付けた敵母艦側面の亀裂から、内部へと侵入する事に成功した。 潜り込んだのは、どうやら食料貯蔵庫だった。 艦のかなり低い位置にあるらしい倉庫は薄暗くひんやりとして、誰の姿も見えない。 上部から砲撃音と軍人達の激しい怒鳴り声が響いてくる。 しんと静まり返った倉庫の静謐さが、戦争の無情さを訴えかけてくるようだった。 しかし、今は侘しさに浸っている場合ではない。 スメラギに指示されたとおりに中枢プログラムを破壊して敵軍の指示系統を遮断し、 更に内部に直接攻撃を仕掛けて艦を墜とす。 これでプトレマイオスの勝利は確定的になり、 長かったアロウズとの戦闘にもようやく終止符が打たれる事だろう。 ティエリアはもう一度使命を反芻して自分を鼓舞し、セラヴィーを降りた。 銃を構えて警戒しながら、倉庫を出て無人の廊下を進んでいく。 ブリッジとは別の場所にコンピュータルームがある事は想像に難くない。 廊下の左右に居並ぶ部屋を、ティエリアは一つ一つ確認していった。 一つ、また一つと部屋を潰していく。 だが4つ目の部屋に入った瞬間、これまでの部屋とはまるで異質な何かを感じて、 ティエリアの足が止った。 爆撃を食らっているのだろう、不規則に揺れる艦内の照明はその度に点滅を繰り返し、 灯りの付いていないその部屋を外部からチカチカと照らし出していた。 奥行きの深い部屋の最奥は、入り口からの目視では到底確認できないが、 何か青白いものが部屋の壁際にいくつも居並び、淡い光を放っている事だけは分かった。 ――ティエリア、これを見てはいけない。これはお前の根幹に繋がるものだ………。 本能的な何かが警告してくる。 ティエリアの額からは冷や汗が噴出し、一瞬で喉がカラカラに渇いた。 それでも、好奇心とも到底言えないような強迫観念めいた思いが、ティエリアの足を動かした。 今までほとんど何も知らずに、そして自分自身もあえて探ろうとはしなかった 出生の秘密が、この部屋に隠されている。 そんな確信が強烈に湧き起こった。 震える足が一歩また一歩と進むごとに、その確信がより強まってくる。 そしてティエリアは「それ」の前に立った。 目が釘付けになり、腕からは力が抜け、構えていた銃がいつの間にかがたんと音を立てて床に落ちた。 青白い光を放つ「それ」の正体は、培養器さながらのカプセルだった。 「こ、これは……」 思わず呟いた声は、思った以上に掠れ、震えていた。 カプセルの内部からどうしても目を離せない。 その中にあったもの――。それは、紛れもなく人だった。 10、20、正確な数はとても数える気にはならない。 壁一面にびっしりと設置されたカプセルの薄青い液体の中で、 人形のように眠る人型の何かが培養されていた。 それはいつ動き出してもおかしくないほど、造形を確立している。 そして、覗き込んでそれらの容貌を確認した時、 ティエリアの全身はいきなり雪山に放り出されたかのようにがくがくと震え始めた。 薄い緑色・紫・赤、そして、艶やかな黒髪を持つ、中性的な顔立ち――。 みなどこかで見た事のある容姿だった。 リボンズ・リジェネ・ヒリング・リヴァイヴ・アニュー…。 「イノ…ベイター……」 その答えが正しい事を、ティエリアの中に眠る根源的な何かが保証してくる。 急にきつい眩暈がティエリアを襲って、一気に膝が折れた。 青白い光に照らされながら床に崩れ落ち、ティエリアはぼんやりとカプセルの中の人型を見つめた。 瞳からとめどなく涙が零れ落ちていく。 自分が人間とは違う、作られた存在だという事はもちろん認識はしていた。 それでも、人にあらざる培養をされている「自分」を見てしまった時、 ティエリアの中で必死に保っていた自我が音を立てて崩れ落ちていく。 「僕は……人間じゃない……」 自分で呟いたその言葉が、ティエリアを容赦なく痛めつけた。 ヒトは受精卵から胎児に至るまでに、生物の進化そのものの歴史を辿ると言う。 しかし、カプセルの中の「それ」は、その過程さえ辿る事はない。 ただ細胞を寄せ集めて、生成して、ヒトの形に似たモノになっているのだ。 これが自分の正体なのだと思い知った時、 ティエリアの脳裏をクルー達の笑顔の残像が駆け抜けていった。 床に付いた拳を握り締めて、己の存在の薄汚さを呪う。 「僕のような者が…、人間の未来を造ろうなどと……」 今戦っている事の正当性さえ分からなくなったその時、不意に背後から冷たい声が響いた。 「いいんだよ、それで。人間は愚かだ。僕達のように秀でた存在の者が、導いてやらないとね」 振り返らなくても、声の主ははっきりと分かった。 リボンズ・アルマーク。 この計画の代弁者であり、おそらくカプセルの中のイノベイター達の創造主。 そのリボンズが、音もなくティエリアの背後に忍び寄る。 そして今度はうっとりとした声音に変わって、話し始めた。 「見てごらんよ、ティエリア。これが僕たちだ。  人間と違い、完璧に生成される、まさに天使のような存在だ。  たとえ僕や君が命を落としても、僕たちの理念は彼らに引き継がれる。  代わりがあるから、人間のように愚かな争いなどしなくてもいい。  男女の繁殖過程で、くだらない争いをする事もない。  君だってアニューの件でよく分かったはずだよ?意志を持たせると、碌な事はないとね」 リボンズはカプセルの一つに歩み寄り、淡い青を放つ内部の液体を覗き込んだ。 薄っすらと笑みを浮かべたリボンズの表情は、ティエリアの目に天使どころか悪魔のようにさえ映った。 「イノベイター…。あらゆる欲望から解き放たれた、至高の存在だ。  死の恐怖さえも凌駕し、僕たちは永遠に生き続ける。  互いに共鳴しあって、より高度な次元で物事を把握する」 だが、いくら打ちのめされていても、リボンズの言葉に到底納得出来るものではない。 ティエリアの中に刻まれた人間との歴史が、瞬間的に反抗の凱歌をあげた。 「そんな事……!!」 大声を発し、きっと顔を上げて睨みつけたティエリアを、 リボンズは首だけで振り返って上から悠々と見下ろし、意地悪く唇を釣り上げて笑った。 「そんな事は、認めないというのかい?じゃあ聞くが、人間達が君に何をしてくれた?  君の能力に頼って、戦わせただけじゃないか。  君の心が折れそうな時、彼らが君を救ってくれたのかい?」 「ロ、ロックオン!ロックオンだ!!彼は僕を確かに助けてくれた…!!」 声を張り上げて主張したティエリアを嘲るように見て、リボンズは幻想的に照らされながら、 静かに言葉を続けた。 「ああ、そうだね、彼がいた。じゃあ、彼を失った後は?  君が彼の死を乗り超えて強くなればなる程、誰も君の心に気を配る者はいなかったはずだよ?」 リボンズの瞳が青の空間の中で、金色に光り輝いていく。 瞬間的にティエリアの頭の中を、4年前から今日までの記憶が駆け巡った。 フェルト、ミレイナ、スメラギ、刹那、アレルヤ、ライル……。 彼らが戦友を超えた優しさや友情を与えてくれたのは間違いない。 しかし、それでも、彼らが一番大事にしている者は、ティエリアではないのだ。 リボンズの顔がにやりと歪む。 「ふふっ、分かったかい?  君はもう何年も彼らと一緒にいるが、誰の心にもたいした足跡を残せていない」 リボンズが語気を強め、カプセルを背にして完全に振り返った。 その瞳の金色がまばゆいほどに強くなる。 「まあ、それも仕方ない。  君に誰も執着させない為に、あえて両性体に造ったんだからねぇ。  あのアニューの馬鹿のおかげで、その判断は間違いなかったと僕もよく分かったよ。  だけど、僕にはもう君など必要ないんだよ、ティエリア。  人間に心を囚われた出来損ないなど、もはや邪魔なだけだ」 リボンズの言葉に導かれるように、彼の後ろで、音を立ててカプセルの液体が引いていく。 リボンズが指示を出しているのは間違いなかった。 ティエリアは身じろぎもせず、声さえ出せずにその光景を見つめているより他なかった。 「だから、せめて来るべき対話を担う同志の為に、その身を捧げて礎になってくれないか?」 一瞬、リボンズの体から青い炎が燃え上がったかと思った。 それほど、幽玄的な光景だった。 リボンズの背後で全てのカプセルが低く軋みながら開き、 煙とも蒸気とも付かぬ得体の知れないもやが立ち昇る。 その中で、イノベイター達がゆっくりと立ち上がった。 「あ…、あ……」 思わず後ろ手に後ずさりするティエリアの目の前で、 イノベイター達が次々と音もなく床に舞い降りていく。 まだ滴り落ちる程の水気をその素肌に纏い、ゆらりと体を揺らす彼らの瞳には、生命の兆しは見えない。 誰も彼もが虚ろな表情でその場に揺らめきながら立ち、 まさに操り人形の如くにリボンズの指示を待っているのだった。 「ふふふふふ……」 残酷な笑みを浮かべながら、リボンズの瞳が更に輝きを増す。 命令が下った、とティエリアが直感的に悟った瞬間、 突如イノベイター達の瞳がかっと見開かれ、その瞳が主に呼応するように金色に輝いた。 「行け」 リボンズが短く命令した瞬間、イノベイターの集団がティエリアを目標と定めて歩きはじめた。 ずるずると床を這うかのような歩き方が、彼らの不気味さを増長させていた。 リボンズの威圧的な視線に射竦められたティエリアの体が、固まったままで動かない。 逃走の選択など最初から用意されてはいないかのようだった。 青白い体、意志のまるで感じられない金色の瞳、うつろな表情――。 まるでゾンビのように体を引き摺りながら自分へと向かってくるイノベイター達に、 ティエリアの全身は震え、歯がカチカチと鳴った。 あっという間にティエリアの周囲をイノベイターの大群が取り囲み、 ぞっとするような無表情で金目だけを光らせて見下ろした。 その中には、ティエリアと全く同じ顔のイノベイターが何体もいた。 しかし、どれもこれもが生気のない青白い表情のままで、とても同じ存在だとは思えない。 リボンズがティエリアの疑問に答えるように口を開く。 「まだ、生まれるには時期尚早だったから仕方ないんだよ。  だから、君が彼らに命を与えてやってくれ」 「………!」 突如、イノベイター達の青白い手が一斉に伸ばされ、ティエリアに襲い掛かった。 余りの恐怖で声も出ず、瞳をきつく閉じる。 四方から伸ばされた指がティエリアの体を這い回って、パイスーを脱がせていった。 肌が露わになる度に当たるイノベイターの指は氷のように冷たく、 やはり生命の温かさは皆目感じられない。 「…っ…、…っ……」 余りのおぞましさでティエリアの背筋は凍りつき、 恐怖に耐え兼ねてしゃくり上げるように涙が溢れ出た。 だが、これで終わりのはずはなく、パイスーが剥ぎ取られて全裸にされた途端、 今度は彼らの指がティエリアの全身に纏わり付く。 死人のように冷たく湿った指が、ティエリアの髪の毛に絡み、口の中へと押入った。 「ひ…っ…」 びくんと全身を強張らせたティエリアを嘲笑うように、何十本もの手が全身を這った。 乳首に、ペニスに複数人の指が絡み付き、指が性感を煽るように動き始めていく。 乳首が指先で転がされる端から、他の誰かの指が乳輪をなぞる。 生気がない故の緩やかな動きが、にわかにティエリアに薄い快感を目覚めさせた。 「ふあ…っ…、ああっ……」 触れられているだけで凍らされそうな低温の中で、乳首だけが熱を持ち熱くなっていった。 「だ、だめだ…っ、こんな…の、だめ…っ…」 首を振って撥ね付けようとするが、生まれてしまった喜びは裏腹に密やかに膨らんでいく。 ペニスを握った数本の指が静かに滑り出すと、途端に快感が強まった。 「ああっ…!」 思わず腰が床から浮き上がり、イノベイターの指の中でペニスが喜びに震える。 段々と勃起が完成されていくごとに、イノベイターは1本、2本、3本、と搾乳の如くに 次々に力を込めてはペニスをより強く握り締め、規則的な上下運動を加えていった。 カウパーの滲み出た先端に冷たい指が伸びてきて、すりすりと撫で擦る。 「んっ…、あ…あんっ…っ、あう…っ…!」 堪らずティエリアから漏れ出した嬌声を抑えこむ様に、 口に突き入れた何本もの指が舌に巻きついた。 無意識状態でティエリアの舌が指に絡み、その低温を温めていく。 ティエリアの四肢はすでにイノベイター達に捉われ、快感に体を震わす以外、身動きも出来ない。 ぴったりと閉じていた足を徐々に開かれると、何故か急激に淫らな気持ちが強まっていった。 M字に大きく股を開かされ、陰唇をも左右に開かれると、 中から熱い液体がとろりと漏れ出て行くのが分かる。 瞳を開ける事がどうしても出来ない。 断固として拒絶しなければならない事態なのに、体に与えられる快感が拒絶の邪魔をする。 「んっ…、や…っ…」 軽く頭を振って拒絶の意志を表すのが精一杯の有様だった。 しかしイノベイターの冷えた指が膣口を軽く撫で上げると、そんな必死の抵抗も無に帰した。 「ああっ……!!」 軽い絶頂感が膣内を走り抜けて行く。 ぐっと浮き上がった腰を、肩を、イノベイターたちが抑え付けた。 脱力したティエリアを再び燃えがらせんばかりに、すぐに乳首とペニスへの責めが強まった。 「はあ…ん…っ、ああっ……」 すぐにティエリアの息は乱れ、その美しい顔には愉悦の色が濃く混じった。 ゆっくりとイノベイターの指が膣内に挿入されていく。 指が愛液を絡め取りながらぬぷぬぷとと抜き差しをはじめると、ティエリアの表情が蕩けた。 「ああん…っ…、ああっ…、ああっ…!」 まだ消えない青白い光がティエリアの顔面を照らしていたが、 その中でもはっきりと分かる位に、整った顔が恍惚に火照って赤らんだ。 乳首、ペニス、膣。 3つの急所を責められて、あっという間にティエリアに絶頂が近づいてくる。 幾本もの指がそれぞれ違う生き物のように急所を刺激し、 ビクビクとペニスは震え、今にも吐精しそうに先端が疼いた。 膣壁はもっと快感を与えてくれと言わんばかりにイノベイターの指をぐいぐいと締め付ける。 求めに応じるように、指が激しく突き入れられて壁を引っ掻いた瞬間、 ティエリアは全身を震わせながら激しい絶頂に達した。 「あっ、あああっっっ!!!」 ペニスから勢いよく迸った精液が空高く噴き上がり、イノベイター達の上に降り注ぐ。 膣の絶頂も相まってティエリアは吐精の度に淫らな声を上げ、その快感を存分に味わった。 強烈な悦楽の中では、悪寒も恐怖も塵のようなものにしか感じられない。 薄っすらと瞳を開けたティエリアが目にしたものは、 空からシャワーのように降り注ぐ精液に群がる、イノベイター達の群れだった。 彼らは一滴も無駄にしてなるものかとばかりに大口を開けて、飛び散る白濁を受け止めていた。 受け止められなかった者は、ティエリアの腹に散らばった精の雫を丁寧に舐め取り、 ペニスの先端に残った僅かな白濁をも吸い取っていった。 思わず息を飲んだティエリアの目の前で、精を吸い込んだイノベイター達の様子がみるみる変わっていく。 意志のない人形にしか見えなかった力ない肢体に活力が溢れ、 死人のように青白かったその表情が薔薇色に血色を良くして行った。 その金色の瞳に生物的な意志が宿る瞬間を、ティエリアはその目ではっきりと見た。 「フン。終わったか。随分早かったね。さすがに、僕の作品という所か」 イノベイター達が泰然と立ち上がり、隊列を組むように整列したその後ろから、 リボンズが静かに歩み出てティエリアを見下ろした。 嘲り、達成感、使命を果たす自尊心、様々な感情の入り混じった不思議な顔つきだった。 ふんと鼻で軽く笑って、リボンズはつんとティエリアから視線を外した。 「じゃあ、僕たちはもう行くよ。今まで散々てこずらせてくれたけれど、  最後の最後で役に立った事は褒めてあげてもいいね」 まだ床に寝そべったままのティエリアをもう一瞥もせずに、リボンズは冷徹な表情で歩き去っていく。 その後ろに、イノベイターの大群が続いた。 その中に自分そっくりの風貌の持ち主を何人も見付けて、ティエリアに悪寒が復活した。 代わりがいるから――。リボンズの言葉が耳に木霊する。 それでも何とか声を絞り出し、「ま、待て……!!」とリボンズの背中を引き留めようとしたが、 リボンズは背中で嘲笑ってイノベイター達を従え、大股でドアへと向かうのだった。 が、不意にドアの目前でリボンズが歩みを止めた。 半分だけ顔を振り返って、リボンズはにやりと不遜に笑う。 「まあ、君にはもう少しここにいてもらわなければいけないからね。  この艦と運命を共にするといい。君の役目はもう完全に終わったんだからね。  もちろん、一人では逝かせないから安心したらいいよ。淋しいだろうからね」 そう言って、リボンズは部屋を出て行ってしまった。 「く…っ…」 ティエリアを屈辱感が襲う。 同時に世界の行く末と、マイスターたちの安否が気にかかった。 こんな所で寝ているわけには行かない。 重い身体を起こそうと腕を床に付いた時、ふと部屋の入り口に大柄な人影が現れた。 はっと顔を上げたティエリアを小粒な蒼い瞳が捕えた瞬間、 その脂ぎった顔がにたりと好色に歪んだ。 「おお、あの時の…少女……」 独り言のように呟いて、金髪のその男はよろよろと太った体で歩き出す。 アロウズの制服に准将の階級章。 しかし、高級将校の威厳は、全身を覆う過重すぎる肉と下卑た瞳によって見事に掻き消されていた。 アーサー・グッドマン准将――。 以前、ティエリアが潜入した例のパーティーで居合わせた高級将校の中でも、 特に権威主義的で、ハイエナのような欲望を併せ持つ、最悪の男だ。 歩く度に波打つ腹の肉厚が、殊更グッドマンの内面の醜さを体現しているように思えて、 ティエリアは込み上げてくる侮蔑の感情で唇を噛み締めた。 だが、一方のグッドマンはそんなティエリアの軽蔑の視線で なお自分を高揚させるかのようににやにやと笑い、鼻息を荒くする。 「ふふふ…。リボンズめ、こんな贈り物をくれるとは…。ありがたい…、ありがたい……」 ぶつぶつと呟きながら近寄ってくるグッドマンの瞳に、正気の色は見えなかった。 (こ、こいつ…。く、狂っている……?) ティエリアににわかに恐怖心が湧き起こる。 沈没寸前の母艦、その艦長たるグッドマン准将は、 自らの敗退と死を悟って、小心者が故に乱心を来たしに違いない。 「可憐、可憐な少女…。あの時みたいにダンスを……」 豚のような鼻から荒い息を吐き、たらこのように膨れ上がった醜悪な唇から 下卑た笑いを吐き出しながら、グッドマンはティエリアの前に仁王立ちになり、 膨張した指でジッパーを下ろしていった。 下ろしたズボンから、既に勃起したペニスが飛び出す。 腐ったソーセージのような黒ずんだピンクの肉の塊は、言葉では言い表せないほどに醜かった。 突き出た腹の肉に半分埋もれかかったそれをグッドマンは片手で持ち、 ティエリアにのっそりと覆い被さっていく。 「や…っ、来るなっ…!」 はあはあと肌に当たる生臭い息、中年の加齢臭を掻き消すほどの脂の臭い、 そしてのしかかってくる肉の巨体の重み。 そのどれもが吐き気を催すほど気持ち悪く、ティエリアの全身が粟立った。 弾き飛ばしたくても、イノベイター達に弄ばれた体は冷え切り、思うように動かない。 ただじたばたと手足を動かすだけが精一杯の全裸のティエリアを、 グッドマンは狂った瞳で見下ろし、強まる色欲に勃起をなお硬くした。 「そ、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか…っ。  ず、ずっと君に会いたいと思っていたんだから…っ」 グッドマンは上ずった声で言い、ティエリアに生臭い息を吹きかけた。 「や、やめろ…っ!離せ…っ!!」 全身に力を入れて必死に抵抗するティエリアの腕を掴み、グッドマンは床に勢いよく叩き付けた。 「くっ……」 痛みでティエリアの顔がひきつるのを見てなお愉悦を強め、 これ以上醜いものは存在しないように汚らしい笑みを浮かべながら、 グッドマンは床に押し倒したティエリアの顔を真上からじっくりと眺め回す。 いかに鍛え上げたマイスターと愚鈍な肉の塊とは言え、体重差はいかんともしがたい。 こうも体重を掛けて覆い被さられては、ティエリアに逃走の活路は満足に見出せそうもなかった。 グッドマンがだらしなく開いた唇で舌なめずりをする。 ほとんど唾液が垂れ落ちそうで、ティエリアは眉を引きつらせて視線を反らした。 青い薄明かりに照らされたティエリアの横顔が、異様なほどに色っぽく見える。 科学的には淫欲を覚ますはずの青い光が、逆にグッドマンに禁断の欲望を目覚めさせた。 濡れた乳首に目をやって、グッドマンは瞳を細めた。 「可愛い顔をして…。もう男を知っているのか…?」 「う…るさ…いっ…!」 ティエリアの怒りの声に反応した中年の勃起が、年齢には不釣合いなほどに頭をもたげていく。 先走りの滲んだそれからは、顔に押し付けられているわけでもないのに 吐きそうなほどに強烈な下劣な臭いが立ち昇って、ティエリアを苦しめた。 「ほらほら、おじさんのコレが君を求めてこんなになってるよ…?分かるだろう…?」 グッドマンははあはあと臭い息を吐きながら、 ティエリアの膣口に亀頭を押し付け、先端でぐりぐりと入り口を押した。 「ん…っ…」 一度達したとは言え、処女のそこは強引に破られるような圧迫感で強烈に痛んだ。 ティエリアの顔が苦痛に歪む。 「ん…?もしかすると…。初めてなのかな…?可愛い子だ…」 しかしグッドマンは薄ら笑いを強めて、尚更欲情を滾らせるのだった。 権力と財力を笠に着て、あらゆる遊興を思うままにしてきたグッドマンである。 これほどの美しい少女の処女を奪う事に、興奮しないわけはなかった。 ましてや相手は心底自分を嫌い、侮蔑し、憎み尽した目付きで睨み返すと来ている。 この美貌が恐怖と屈辱に歪む瞬間の愉しみを、たとえ狂った頭であってもグッドマンは的確に予想した。 興奮に音を立てて生唾を飲み込み、グッドマンはティエリアの足を、 そのダブついた腹と太ももを目一杯使って、強引に大きくこじ開けた。 「……ッ!!」 先ほどのイノベイターの指の侵入を思い出して、ティエリアの表情と体が強張る。 より密着して押し当てられた硬い肉塊は、彼らの指とは裏腹の、 灼熱かと思えるほどの熱さと質量を持っていて、 その衝撃の強さを想像すると恐怖を感じずにはいられなかった。 「やだ…っ、どけ…っ!」 必死に身をよじって抵抗を試みる。 しかしティエリアの下腹部に当たる、グッドマンの不快な脂肪の塊がむにゅっと動いたかと思うと、 下半身に強烈な痛みが走った。 「ああ……ッ!!!」 悲壮な悲鳴が迸り、めりめりと肉が裂かれる様な痛みでティエリアから涙が滴り落ちた。 「ほう…?本当に初めてだったのか…。うれしいねぇ…」 強引な挿入で破瓜を果たしたグッドマンは、処女の締め付けを思う存分味わいながら ゆっくりとペニスを埋めていった。 「ふふふ…。さすがに、キツいなぁ。処女の中でも、最高だ……」 ティエリアの痛みの表情を満足げに見つめながら、グッドマンはティエリアの腕を解放し、 今度は細い腰をしっかりと掴んで奥まで突き入れていく。 「痛いっ、痛い…っ!」 ようやくティエリアは両腕を自由にされたが、余りの痛さで抵抗どころではない。 縋るようにグッドマンの腕を掴んで、涙だけがはらはらと零れていった。 「大丈夫だよ、もう全部入るから…、ほらぁ、入ったぁ…」 グッドマンはティエリアのいじらしい姿を堪能しながら、全棒を埋め込んで一息ついた。 金にまかせて若い少女を手篭めにした事は過去に幾度とあるが、 これほどの美貌の少女を無理やりに犯すのは、グッドマンと言えども初めての経験だった。 しかし狂った頭であっても、長年身に付いた悪しき習性は消えはしない。 「ふふ…。後でたっぷりお金をあげるからね…?君はとても可愛いから、奮発してあげようね……」 「……!!」 悔しそうに表情を強張らせ、唇を噛み締めるティエリアの強気に、なお欲情がそそられる。 ティエリアの中で、中年のペニスが一際増長した。 一気に腰を振り立てたくて堪らなくなり、グッドマンは大きく腰を後ろに引いた。 処女血がびちゃっと痛々しい音を立てるのが快い。 「フン!!」 「ああ…っっ!!」 グッドマンは鼻息も荒く勢いづけて、勃起を最奥まで一気に突き入れる。 ティエリアの体が上下に大きく揺れ、その顔が痛みに引きつって歪んだ。 漏れ出した苦痛の声さえ、グッドマンには悦楽の嬌声に聞こえた。 再び腰を引き、膣肉の締め付けを味わいながら深くまで貫通させ、 ティエリアの悲鳴を嬌声と思い込んで、グッドマンはずんずんと腰を打ちつけていった。 一突きごとにティエリアから涙が飛び散る。 「ああっ、ああっ、ああっ…!!」 「そうかそうか、気持ちいいか、じゃあ、もっとだ…!!」 腹の脂肪が邪魔をして、交合が浅くなるのをグッドマンは体を起こす事で解消した。 薄闇の中でも結合部が丸見えになり、視覚でも淫欲を昂ぶらせ、 自然グッドマンのピストンが速まっていく。 自分の勃起に被さらんばかりにせり出した腹肉が、突き入れる度にティエリアの下腹部に当たって びたびたと不穏な音を立てた。 「はあっ、はあっ、…ん……?」 この時になって初めて、グッドマンはティエリアの下腹部に女にあらざる物が存在している事に気付いた。 ピストンに併せて頼りなく揺れ続けているそれは、萎びてはいるがどう見てもクリトリスではない。 しかし、もはや射精寸前にまで快感を貪っている今、 そんな異形の物体でさえグッドマンにとってはセックスのスパイスにしか感じられないのだった。 激しくティエリアを揺さぶり、ペニスを濡らす処女血を愛液と思い込む。 苦痛の悲鳴さえ悦楽の証しとしか受け止めないグッドマンの狂った頭は、 男性器がそこに付いている事をごく当たり前の事と判断した。 「いけないなあ、お嬢ちゃん…?女の子のくせにこんないやらしいものを付けてるなんて…」 あえて言葉で責めて愉しみながら、 グッドマンはティエリアの揺れるペニスを握り締めて上下に軽く扱きあげた。 「あ…ん…っ…!」 一瞬だけだったが痛みの合間に快感が生じて、ティエリアの顔が上気する。 「そうか、気持ちいいか…。いやらしい子だねぇ、初めての癖にガンガン突かれて感じるなんて…」 それを見逃さず、グッドマンは激しく突き上げながらゆっくりとペニスを扱きあげていった。 グッドマンの指の中で、萎びていたティエリアのペニスが段々と硬度を増していく。 「あ…っ、あん…っ、や…っ…、あっ…、いや…っ…!」 痛みと快感が交互に訪れては混じり合い、苦痛と快楽の両方の声が否応なしにあがった。 しかし、その快感が長続きする事はなかった。 早くも限界に近づいたグッドマンが、ティエリアを責めて愉しむ余裕をなくして、 再び両手で腰を掴んでラストスパートに入ったのだ。 「ああっ、やあっ、あぁっ、ああっ、ああっ!!」 醜悪な男根に奥まで貫かれて脳天まで突き上げられるように激しく揺さぶられ、 再びティエリアは強烈な痛みで泣くように叫んだ。 びたびたと股間に当たるグッドマンの腹の脂肪の感触が、より惨めさを煽る。 長く続いた戦闘で余程打ちのめされてきたのか、グッドマンの息は上がり、 その顔面は呼吸困難かと思うほどに真っ赤に鬱血していた。 肥満体の業とも言えるべき、肉体の限界が来ている事は傍目にも明らかだった。 医者が居たなら、即座にこの運動を停止するように助言したに違いない。 それでも浅ましい男の淫欲に心身を燃やし、グッドマンは精の全てを吐き出すために 尚更乱暴にティエリアを突き上げていく。 「ほら…っ、ほら…っ、どう…だ…っ、気持ち…いいだ…ろう…っ!気持ちいいって…言え…っ!」 いつ心臓が停止してもおかしくない程にグッドマンはぜいぜいと息を切らし、 それでも途切れ途切れにティエリアに下品な言葉を投げつける。 そしてひいひいと喘ぐような呼吸を搾り出しながら、より激しいストロークを繰り返すのだった。 まさしくそれは性欲の虜の姿に他ならなかった。 「ほらっ、ほらっ…!イク、イクぞ…っ、お前もイケっ…!!」 グッドマンは肥満体を揺らして獣のような声で叫び、 ティエリアの腰を掴んでずん、ずん、と2、3回深く突いて、最後の刺激をペニスに与えた。 「おっ、おお〜〜」 ぐいっとティエリアの腰を引き寄せて結合を深くし、 激しく体を震わせながらグッドマンは精を吐き出していった。 グッドマンの快感の声とは裏腹に、ティエリアは乱暴に犯され、 膣内深くまで薄汚い精液で汚される惨めさに打ちのめされていた。 「ふう…、ふう…、どうだ…、気持ちよ……」 精液を出し尽くし、グッドマンが埋め込んだままの状態でティエリアを見下ろしながら 侮辱の言葉を吐こうとしたその瞬間、その豚のような腐った目が反転した。 白目を向いた男は口をヒクヒクさせて泡を吹きながら、 数回体を痙攣させてティエリアの腹の上へどうと倒れこむ。 「……っ…!」 ティエリアが思わず肥満体を両手で突き飛ばすと、ようやくペニスが膣から抜けて結合が解けた。 床に大の字に寝そべったグッドマンのペニスは、 射精の興奮をまだ湛えたまま半勃ちの状態で濡れそぼり、醜悪に空に浮き上がっていた。 余りに卑屈なその姿に、人間の最も汚らしい部分を見せ付けられたような気分になって、 ティエリアはもはや直視も出来ずに目を反らした。 さっきまであれほど荒々しく響いていたグッドマンの呼吸音が全く聞こえてこない。 その心臓が完全に拍動を止めた事は、もはや確認するまでもなく明らかだった。 心臓マッサージに人工呼吸という救命措置の選択肢は、ティエリアの頭をよぎる事もなかった どうせ、助からない。そして、敵だ。何より、淫欲に任せて自分を犯した罰なのだ。 ティエリアは屈辱を振り払って、自分の正当性を確認した。 その時突如として激しい爆撃音と艦の振動が起こり、ティエリアは弾かれるように床を転がった。 耳を劈くような爆発音が艦全体を震わしている。 どうやら内部からの爆発らしい。 恐らく、イノベイターと脱出を果たしたリボンズが、置き土産に艦を自爆させたに違いない。 ぐらぐらと艦全体が激しく揺れて、グッドマンの太った体が棒切れのように床を滑って カプセルにぶち当たる。 ガラスの割れる音が、ティエリアに何かの終わりを告げた。 心が乱れて定まらない。 人間の味方に立ってイノベイターと戦えばいいのか、それとも――。 部屋に充満する煙の匂いが、ティエリアの背中を押した。 今はもう、何も考えたくはない。 ティエリアは生存本能にだけ従い、投げ捨てられたパイスーを手早く着込んで、 セラヴィーの待つ食料庫に走っていった。 END