イノベイター捕獲作戦は無事成功した。 トレミーに帰投したティエリアは、捕らえたイノベイターを伴って スメラギ達が待ち受ける部屋へと向かった。 イノベイターに後ろから銃を突きつけ、警戒を一瞬たりとも怠らずに前を歩かせる。 分かっていますよ、とでも言うように、イノベイターが人を食った態度で ヒラヒラと両手を挙げてみせた。 思わず頭に血が上りそうになったが、 冷静さを何とか失わずに、軽く銃を背中に押し付けて警告に変える。 イノベイター……。自分と同種の存在。聞きたい事は山ほどある。 彼、あるいは彼女が一体どんな容姿をしているのか、 ヘルメットをかぶったままの今の状況ではまるで予測もつかない。 まさか、あのリジェネ同様この人物もまた、自分と同じ容姿をしているのかも…、 という危惧を頭の隅から振り払い、ティエリアはイノベイターを急がせた。 部屋に入ると、スメラギと他のマイスターは既に待機していた。 イノベイターを椅子に座らせ、ティエリアは仲間達の中心に立った。 今はとにかく、ヴェーダの場所を聞き出す事が最優先だ。 その役目は、同じイノベイターである自分が担うべきだという思いがどうしても強くなる。 「さあ、顔を見せろ」 促すと、イノベイターが遂にヘルメットに手を掛けた。空気が緊迫し、鼓動が速まる。 ヘルメットを脱いで、静かにデスクに置いた彼の顔は、思った以上に涼しげな印象だった。 女性なのか男性なのか判別の付きかねる、中性的な美しい風貌。薄い紫の人造的な髪の毛。 「これが…イノベイター…?」 一体どんなバケモノが出てくるのかと身構えていたスメラギ達も、 イノベイターの予想外の美しい容貌に、毒気を抜かれたように顔を見合わせている。 やがて、イノベイターが静かに口を開いた。 とても敵に鹵獲されたとは思えない、悠然とした口調ではっきりと彼は、 「僕はリヴァイヴ・リバイバル。イノベイターです」と告げた。 「僕」という一人称で、かろうじて男性扱いが相応しいのだろうと結論付けられるほど、 やはり中性的で涼やかな声だった。 早速ティエリアが詰問しようと一歩身を乗り出したのを、リヴァイヴは視線で制した。 次の瞬間、その目が金色に光った。 何が起こったのか理解する前に、ティエリアの周りの空間がぐにゃりと歪み、風景が一変した。 気が付くと、真っ黒な空間に、ティエリアとリヴァイヴだけがそのままの姿勢で浮かんでいた。 驚いて周囲を見回すが、周りにいたはずのスメラギやマイスターたちがどこにもいない。 まるで次元移動したかのように、今やティエリアとリヴァイヴだけがこの空間を共有していた。 「な…、どういう事だ…!?」 声を荒げて詰め寄るティエリアに、リヴァイヴは余裕の微笑を返し、金色に輝く瞳を更に 黄金に光らせてティエリアの瞳をじっと見つめてくる。 途端に、ティエリアを激しい頭痛が襲った。 「……ッ、他のみんなは一体……」 「いるさ。君のすぐそばにね。この会話が終わっても、恐らくものの5秒も経ってはいないだろう」 「つまり、リジェネ・レジェッタと同じく僕の脳内に直接語りかけてきているというわけか…!?  脳量子波を使って…!」 「ふふ。さすがだね。考える頭は人並みに持ち合わせているようだ。  いくら、愚かな人間側に付いたとはいっても、さすがにイノベイターというところか」 ティエリアの脳内に、リヴァイヴの冷めた声が直接響いてくる。 脳を鷲掴みにされているような不快感で、冷や汗が滲んで来た。 一方、リヴァイヴの方は泰然とした態度を崩す事もなく、座ったままの体勢で 金目を光らせたまま、試すようにティエリアをじっと見つめ続けている。 「同じイノベイターと言っても、僕と君は同形態じゃない。  だから、普通はこれほど共鳴しあうものじゃないんだよ。  だが、どうやら君は人間との生活が長過ぎて、脳量子波を満足に扱えていないようだね」 「なんだと…!?」 「脳の領域がガラあきだから、こんな風に簡単に侵入を許してしまうんだよ。  イノベイターの能力をまるで使いこなせていない。  それは、とても愚かな事だと思わないかい?自分の能力を活かしきれていないのだから」 リヴァイヴは子供に噛んで含めるような丁寧な説明を施しながら、 ティエリアの全てを見透かすような視線を向けた。 ティエリアの頭痛がにわかに強まる。 苛立ちと戸惑いが交差し、ティエリアは大声で叫んでいた。 「ふざけるな!僕は人間だと言ったはずだ!」 「ああ、そうだったね。確か、ブリングにそう言ったと記憶している。  だけど、君があの時殺したのは、君と同じイノベイターだよ?心は痛まないのかい?」 どこまでも落ち着いた態度を見せるリヴァイヴに、ティエリアの怒りは増幅していった。 「僕はイノベイターなんかじゃない!  それに、そんな話を聞かされる為にお前を捕らえたわけじゃない!  僕が聞きたいのは、ヴェーダの位置。ただそれだけだ!」 リヴァイヴはフンと軽く笑って、今度は高圧的な視線でティエリアを見た。 「ヴェーダを取り戻す。そういうつもりかい?取り戻してどうすると言うんだ?  リボンズに歯向かうのか?君よりもはるかに上位の存在に向かって?  それは神に仇なすことに等しい。何故イノベイターの癖にそれが分からない?ティエリア・アーデ」 「僕をイノベイターと呼ぶな…!」 「全く、とことん人間に毒されたみたいだね。だったら、君の本来の姿を思い出させてあげるよ。  この僕がね」 リヴァイヴは一瞬呆れた顔でティエリアを見た後、すぐに真剣な表情に戻ってティエリアの瞳を凝視した。 リヴァイヴの金目が更に彩りを鮮やかにする。 その瞬間、激しい頭痛とともに頭の中の隅々まで覗き込まれているような不快感を覚えて、 ティエリアは堪らず目を閉じた。 まるでそれを待ち構えていたかのように、リヴァイヴの意志の塊のようなものが 加速度的にティエリアの脳に乱入して駆け回り、 それだけでは飽き足りずに五臓六腑にまで広がっていく。 「くっ…、ううっ……」 思わずしゃがみ込みたいほどの眩暈と吐き気がティエリアを襲った。 辺りが真っ暗で、本当に何も見えない。 周辺にいるはずのマイスターたちの息遣いさえ感じない。 ティエリアは出口のない暗闇の中に、 たった一人で放り出されたような孤独感をひしひしと感じていた。 ただ唯一、リヴァイヴと細い金糸で繋がっているのだけは認識できる。 否応なくそれに縋りたい気持ちになってしまいそうになるのを、 ティエリアは必死で振り払おうと努力した。 「ふふふふ……」 どこからともなく、リヴァイヴの笑い声が響いてくる。 「ほら、感じてごらんよ。この僕が、彼女の意識を通じて感じていた感覚だ」 「か、彼女…?」 リヴァイヴの声に不審なものを感じた瞬間、パッと周りが明るくなった。  これは――?僕は今、寝ている…のか?ベッドに……?一体誰の……。 目覚めた意識に集中してみる。 確かにティエリアは今、柔らかいベッドに寝ていた。 ゆったりと落ち着いた気分で、とても満ち足りていて、幸せな気持ちだけを感じている。 と、傍にいた男が、優しい笑顔を投げかけながら、ティエリアの体に覆い被さってきた。 見覚えのある顔。 ニール…、ではない。これは、ライルだ。 「アニュー、愛してるぜ……」 何度も囁きながら、ライルはティエリアの唇に優しい口付けを落とし、そっと服を脱がせていった。  ライル、一体僕に何をするつもりだ…? 頭が混乱して上手く働かないが、何故か全く抵抗する気になれない。 思考と身体のバランスがおかしい。 この身体が自分のものではないという違和感が、どうしても消えない。 それでいて、どんどんライルに服を脱がされ、やがて一糸纏わぬ姿にされても、 何故か心は落ち着いていて、むしろ早くライルの肌の熱さをこの素肌で味わいたいという欲求が 自然に湧いてくるのだった。 ライルの口付けが唇から鎖骨を通って、乳房へと移る。 くすぐるような口付けに応じるようにクスクスと響く声は、ティエリアの声ではなく、 どこかで聞いた記憶のある女の声だった。 「可愛いぜ、アニュー…」 ようやく、ティエリアは悟った。 今、ティエリアの意識はリヴァイヴを通じてアニューの記憶に重なっているのだと。 ここに至って初めて、ティエリアはリヴァイヴがアニューと瓜二つである事に気付いた。 トレミーの非戦闘要員として勤務するアニューと、 まさに戦闘要員として死線をくぐってきたイノベイターのリヴァイヴとは雰囲気が、 目付きの鋭さがまるで違っていたから、初見では気付きようもなかったのだ。 「そ、そんな…。アニューもイノベイター…。それなら、今までの事は……」 身が凍るような思いが全身を駆け回る。 リヴァイヴの声がどこからともなく脳内に響いてくる。 「そう。アニューはイノベイター。リボンズが送り込んだスパイだよ。  僕は彼女を通して、常に君たちの動向を把握していた。  至極簡単に居場所を突き止め、何度も攻撃を仕掛けてきたんだよ」 そう言えば、初めてリヴァイヴの顔を見た時にライルだけが不審の目を向けていた事を ティエリアはふと思い出した。 その考えに答えるように、すぐにリヴァイヴの声がかぶさってくる。 「ああ、彼はシロだよ。スパイじゃない。  アニューの正体を訝しくは思っていたみたいだが、突き詰めようとはしなかった。  本当に愚かだよね、人間は。そういう行為のせいで、  自分たちが追い詰められるかも知れない事を分かってて、黙っているんだから」 リヴァイヴは勝ち誇ったような嘲笑を響かせながら、アニューから得た記憶の断片を ティエリアへと流し込んでいく。 いつの間にかティエリアの意識はアニューのそれと同調して融合し、 完全にアニューの体を共有していた。 ライルの指が優しくアニュー…、ティエリアの乳房をまさぐる。 そっと乳首を唇に含まれ、舌を絡めてゆっくりと優しく舐られる。 「ん…っ」 恥ずかしい。でも、もっとして欲しい。相手が愛する人だから――。  おかしい。リヴァイヴの説明と噛み合わない。 ティエリアが共有するアニューの思念は、とてもスパイ特有の毒づいたものではない。 ライルを愛している。何の邪心もなく。 本当にその1点に集約されているのだった。 だが、その事を熟慮する時間は全く与えてもらえなかった。 ライルの体が下へ下へと向かい、アニューに完全に同調したティエリアの 女性の部分にあっけなく到達したのだ。その瞬間、余計な考えが全て吹き飛んだ。 軽く足を開かされた格好で、そこをじっと見られているのが分かる。 羞恥が募るが、やはり抵抗する気にはなれない。 愛する男を自分の体が興奮させているのだ、という矜持のような自尊心が全身に漲っていた。 「アニュー…。すごく綺麗だ……」 うっとりとしたライルの言葉。  嬉しい。もっと私を見て。私を愛して。 そんな思いと恥じらいが同時に強まって、どんどん体が火照っていく。 すぐに、ライルの舌がクリトリスを愛し始めた。 「あっ…、ふ…っ、あ…んっ…」 優しく、慈しむような大人らしい舌遣いでじっくりと責められて、身悶えするほどの快感が満ちてくる。 唾液がたっぷりとクリトリスに絡まり、ピチャピチャといやらしい音を出し続けた。 どんどんその舌の動きが慈愛の動作から、絶頂に追い立てるかのような激しいものへと変化していく。 上下に大きく舌を動かしながら速度を速めてリズミカルに舐め上げられると、 快感は強まる一方で、逃げ場所は全く用意されてはいなかった。 快感に震えながらライルの頭を押しのけようとしても、力が入らない。 「あんっ、あっ…、ライ…ル…、ダメ…、ダメ…っ…」 「何がダメなんだよ…。イケよ、ティエリア……」 いつの間にか、ライルの囁く呼称はアニューからティエリアへと変化していて、 ティエリアにアニューの写し身ではなく、本当に自分自身が愛されているかのような錯覚を与えた。 ライルの落とした声が、二人だけの寝室に静かに響く。 「…ほら、イケって」 「んっ…、あっ、あああっっ!!」 ライルが舌先で素早く充血したクリトリスを転がした瞬間、 ティエリアはぴんと足を硬直させて絶頂に達した。 乱れたベッドの上で、はあはあと息を荒げながらクリトリスの絶頂感の余韻を愉しむ。 上から、絶頂を与えてくれた愛しい男の顔が見下ろしてくる。 ただの肉欲などでない、確かに愛情に溢れた、優しい笑顔を湛えながら――。 「ライル……」 そっと彼の頬に手を伸ばし、存在を確かめるように静かに撫でると、 ライルの手が重なって来て、優しく撫で返して応えてくれる。 「まだ、今からだぜ?ティエリア…。俺の事、一生忘れられない位に愛してやるからな」 歯が浮くようなセリフなのに、まるで柔らかな羽毛で包まれているかのような 幸福感が湧き上がってくるのが不思議だった。 このまま死んでも後悔はしないというほどの満ち足りた気分の中で、 ティエリアは穏やかな笑みを浮かべ、こくんと頷いた。 今度はもっと大きく足を開かされ、ライルのいきりたったものが女芯に押し当てられる。 一瞬身構えたすぐ後、秘肉を掻き分けてライルがずぶずぶと侵入してきた。 「や…っ、あ、熱…い…っ…」 ライルの体温を体の中心で感じて、今度は急所を貫かれる恐怖と恥ずかしさが混合する。 「大丈夫だって…。俺に任せてくれ……」 ティエリアをぎゅっと抱き締め、その怯えが和らぐのを見届けてから、ライルはゆっくりと動き始めた。 ペニスが抜き差しされる度に、体が熱くなっていくのを止められない。 ライルを受け入れている。 その事実が、それだけでどうしようもなく愛しかった。 「あ…っ、あんっ…、あんっ…!」 段々強まる快感を全身で感じながら、ティエリアはもう何も考えずに素直に淫らな声を上げた。 こうする方が、ライルが悦ぶ事を知っているから――。 「く…っ、ティエリア、んな声…、出す…な…っ」 ティエリアの嬌声に促されて、自然にピストンが速まってしまう。 ライルは早くも射精感を感じ、自らを落ち着けるように動きを止めた。 ――もっと深く繋がって、ティエリアの中心までを味わいたい。 ライルの雄はより強い快楽を求めて、ティエリアの中で反り返らんばかりに奮い立っていた。 正座のように足を畳んでベッドの上に座り、ティエリアの腰を自分の太ももの上にぐっと引き寄せる。 「あんっ…!」 ずんっとペニスが奥まで突き刺さった。 自然にティエリアの脚は大きく開ききり、結合部がライルに丸見えになった。 「んっ…、やだ…っ、恥ず…かしい…っ…」 さすがに羞恥が募って頬を赤らめ、顔を覆ってしまうティエリアをじっとライルが見る。 恥ずかしさに瞳を細めて緑の瞳を見つめ返すと、優しさの中に獣のような男の欲望が垣間見えた。 「やっ……」 そんな目で見ないで……。そう思うのに、裏腹に貫かれたままの体は疼き出す。 「行くぜ、ティエリア」 ティエリアに生まれた欲望を敏感に感じ取り、ライルが抽送を再開した。 「あんっ、あんっ、ああっ、あんっ!!」 腰を抑え付けられ、体重を掛けながらいきなり激しく突き入れられて、 ティエリアは急激に強まった嵐のような快感の中で激しく喘いだ。 斜め上から斜め下へと叩きつけるように、 ライルのペニスがずぶずぶと突き入れられては抜き去られていく。 目を開ければ、自分の秘芯へと凄まじい速度で吸い込まれていく濡れた勃起がしっかりと見えた。 だが、その卑猥な光景はもはや羞恥心ではなく、欲情だけを誘うのだった。 「ティエリア、どうだっ…!?いいか…っ!?」 「あんっ、ああっ、ああんっ、あんっ、んんっ!!」 荒々しく自分を揺さぶりながら訊いてくるライルに、 喘ぎながら頷く事で答えるしか出来ない。 回を重ね、お互いの体を知っていく度に、悦楽の尺度は確かに強まり続けていた。 ライルの腰付きが一段と激しくなる。 「ああっ!ああっ!ああっ!ライ…ル…っ、だめ、だめぇっ!!」 蕩けるような摩擦の快感で頭がどうにかなりそうだった。 2度目のオーガズムの波が満ちてくる。 瞳を閉じてもなお、ライルの快感の表情が目に焼きついて離れない。 ティエリアは、気を抜くと一瞬で暴発しそうな程に高まった自らの快楽に集中した。 本当に、これが人生の全てではないのかと思えるほどに幸福で、しかも気持ちよくて堪らない。 「ああっ、あああっ、ダメっ、イク…っ、イクぅぅっっ!!」 あられもない嬌声を上げて、ティエリアは体が反応するままに激しい絶頂に達した。 「く…っ、俺も…っ」 ライルが自らも射精に向かって、腰を一際乱暴に打ちつけてくる。 果てて完全に脱力したティエリアの腰をぎゅっと掴み、ぬちゃぬちゃと湿った音を立てながら ラストスパートに入り、ライルは膣内深くにペニスを突き入れて勢いよく射精した。 (分か…る…。ライルから…、出てる……) ライルの、快感の極まった表情をうっとりと眺めて射精を受け入れていると、 精液が膣奥に打ちつけられる感触まで伝わってきそうだった。 熱い精液を全て受け止めてもまだ、ライルを体内に留めておきたくて仕方ない。 「ライル…。まだ、やだ…。行かないで…?」 ぎゅっとライルの腰に手を回して、おねだりするように視線を揺らす。 「ふっ、しょうがねえなあ……」 ライルは苦笑しながら軽く腰を揺すり、萎えかけた勃起で膣奥を震わせて、ティエリアをもう一度喘がせた。 挿れたままで上からにっこりと微笑みかけ、悪戯っぽく片目を瞑って見せるライルが愛しくて仕方ない。 「わりい、もう限界。また、明日…な?」 「ん……」 ようやくライルがペニスを抜いて体内から去った。 かと思うと、すぐに再び覆い被さってきて優しくティエリアを抱き締め、 後戯にしては充分過ぎるほどの深い口付けをプレゼントしてくれる。 「ん…、ライ…ル…。愛して…る…」 「分かってるさ……、俺も……」 絡み合う舌の感触を思う存分味わっていた所に、リヴァイヴの場違いな声が久しぶりに響き渡った。 「アニューは自分がイノベイターである事を知らない。少なくとも、この時はね。  だからこそ、人間とこんな快感が得られるのさ」 その瞬間、急にライルの体温がなくなり、ティエリアは再び暗闇の中に放り出されてしまった。 はっと目を開けると、目の前に何もかもを知り尽くしたかのような尊大な笑みを湛えた リヴァイヴの姿が、鮮やかに現れた。 「どうだった?ティエリア。気持ちよかっただろう。あれが、人間と交わった時に得られる快感だよ」 「そ…んな…ことは…」 否定したくても、体があの悦楽をはっきりと体感してしまった以上、何も言えない。 実際今でもティエリアの下半身には行為の余韻が満ち、 それどころかもう一度あの快感を味わいたいと言わんばかりに疼いていた。 汗ばむティエリアの顔色を見て、にやりとリヴァイヴが笑い、ゆっくりと立ち上がる。 「な…。く、来るな…」 思わず後ろへ一歩下がって警戒と怯えを強めるティエリアに、 「そんなに恐がらなくてもいいよ。僕たちは同じイノベイター…。仲間なんだからね」 穏やかに声を掛け、薄い紫の髪を暗闇に映えさせて、リヴァイヴはティエリアの方へと歩き出した。 あっという間に二人の距離は縮まり、リヴァイヴはティエリアのすぐ目の前に悠然と立った。 「あ…、う……」 抵抗しなければいけないはずなのに、輝く金色の瞳で見つめられ、視線を外す事さえ出来ない。 認めたくはない。 しかし、リヴァイヴに侵食されたティエリアの脳は、 自分のあるべき姿を求めて意志に寄らず、活発に活動をはじめてしまった。 ティエリアの瞳がリヴァイヴに感応して、金色に輝き出す。 リヴァイヴが嬉しそうに笑った。 「どう否定しようとしても、君は僕達と同じ存在。イノベイターなんだよ。ティエリア」 最後通牒を突きつけるような迫力を伴って、リヴァイヴは更に一歩踏み出して 息のかかる位置にまで近寄った。 人間離れした美しい肌、金色に光る瞳、柔らかそうな赤を保った形のいい唇。 そのどれもが自分と同じ素材で構成されている事を、お互いに本能的な何かが感じ取る。 「ふふ…っ」 リヴァイヴは楽しそうに笑いながら、ティエリアの顎を右手で掴み、ぐっと顔を上げさせた。 「や、やめ…っ…」 思わず顔を背けようとしたティエリアの唇を強引に割って、 リヴァイヴの舌がいきなり突き入れられた。 ついさっきまでライルと交わしていた甘いキスではなく、奪うように乱暴に、 リヴァイヴに口内を蹂躙される。 「んん…っ、や…っ…!」 撥ね退けようと腕に力を入れるが、逆にその腕をつかまれて捻り上げられ、 身動きが出来なくなってしまう。 リヴァイヴの思念がより鮮やかに脳に語りかけてきた。 「ほら、ティエリア。抵抗しないで、僕に身を任せてごらんよ。  人間ごときじゃない、最高の快楽が得られるから」 「んっ、嘘…、嘘だ…っ…!」 「嘘じゃないよ…。ほら」 舌と舌が交叉して絡み合う。それだけで下腹が悦楽の熱をはっきりと思い出した。 思わずティエリアの膝が笑い出すのをリヴァイヴは察知して、 絹のように繊細な白い指でティエリアのみぞおちを撫でながら降り、 やがて股間に辿り着くと、そこを軽く擦った。 「んっ、んんんっっっ!」 その瞬間、ティエリアの全身を、ライルとの絶頂感など比べようもない位の 激しい電流が駆け抜けていった。 体がびくびくと激しく痙攣し、一気に脱力してその場にくたぁと崩れ落ちてしまう。 捻りあげたティエリアの力ない腕をまだ掴んだまま、 リヴァイヴが上から勝ち誇った視線で見下ろしてくる。 「ほらね。言った通りだろう?比べ物にならない程の快楽だったはずだよ」 リヴァイヴの顔をぼんやりと見上げるティエリアの目に、 濡れた赤い舌だけが、彼が口を開く度にチラチラと覗いた。 途端にリヴァイヴの舌の余韻が蘇り、全身の血液が沸き上がるような焦燥感が強まった。 「でも、そんなのはまだまだ序の口だ。僕は君とは同形態じゃないからね。  例えば、リジェネ・レジェッタ。彼なら、君ともっと深い所で繋がれるはずだよ?」 まるで僅かな思考能力さえ無くしてしまったかのように力なく座り込む ティエリアを満足げに見下ろしながら、リヴァイヴは続けた。 「君は僕たちと一緒にいるべきだ。そういう体なのはもうよく分かっただろう。  今から僕はアニューを取り返す。君も一緒に来い。  リボンズに忠誠を誓って、リジェネとさっきの続きをすればいい。  僕たちはイノベイターだ。人間よりも遥かに効率的に、もっと深い場所で繋がれるんだよ」 リヴァイヴがティエリアの手首をさらさらと撫でる。 「あ…っ…、んんっっ……!!」 その途端に、ティエリアの体に再び電流が走り、ぞくぞくするような快感が全身に広がった。 リヴァイヴは思い通りの結末に嫣然と微笑んだ。 「ほらね。君の体はイノベイターを求めている。真のイノベイターになりたがっているんだよ」 リヴァイヴは甘く囁きながら、手に取ったティエリアの美しい指をじっと見つめ、 やがてゆっくりと口に含んだ。 「やっ……!」 ビクンと震え、一気に紅潮したティエリアの表情を楽しげに見やりながら、 リヴァイヴは指に舌を絡ませつつ、根元までねっとりと舐め上げていく。 クチュクチュと唾液の絡む音が、普段以上にいやらしく響き渡った。 別に性感帯を舐められている訳でもないのに、 指を蛇のように這って行く生温い舌の感触が、ティエリアの背筋を過剰な程に奮わせた。 「ぁっ…、よせ…、離せ…っ…、んん…っ」 しかし、リヴァイヴの舌が指の付け根を突付いて軽く前後に舐め上げた時、 ティエリアは唇をきつく噛み締め、体を硬直させて、声も出せずに激しく達した。 アニューに憑依していた時以上の快感なのは、もはや間違いなかった。 リヴァイヴは唾液にまみれたティエリアの指を口から出すと、 綺麗に切り揃えられた爪先へと軽く口付けた。 「あ……」 軽く喘ぐような溜息を吐いて、ティエリアが焦点の合わない視線でぼんやりと見上げてくる。 リヴァイヴは愉悦に浸って、ティエリアの欲にまみれた顔を見下ろした。 すぐ傍に屈みこんでその頬を両手で包み込み、真正面から自分と同類の紅い瞳を見据えると、 ティエリアの心の動揺が、手に取るように分かった。 子供に言い聞かす親のように、リヴァイヴは落ち着きのある声音で囁いた。 「さあ、一緒に帰ろう。ティエリア」 金色に光る目でじっと魅入るように見つめられ、ティエリアは身動きも出来ない。 抵抗してはいけないような予感だけが強くなる。 思わずこくんと頷こうとしたその時、聞きなれた女の声が鼓膜を破らんばかりの勢いで響き渡った。 「ティエリア、どうしたの!?ティエリア!!」 はっと我に帰ったとき、ティエリアが立っていたのはもう暗闇ではなかった。 見慣れたトレミーの会議室。 周囲には声の主のスメラギと、マイスター達の姿もある。 みんなが心配そうな表情で、ティエリアの顔を覗き込んでいた。 はっとリヴァイヴに視線を移すと、リヴァイヴは金色に瞳を輝かせたまま、 薄笑いを浮かべてティエリアを見つめ続けている。 ――分かってるよね、ティエリア。 そう言いたげな、自信に満ちた視線に射抜かれ、 どっちが捕縛されたのか分からないほどにティエリアは動揺した。  潤んだ瞳、微かに震え続ける細い指、汗ばんで火照った白い頬。 リヴァイヴの背中に銃を押し付けてこの部屋に現れた時と正反対の、 不安げなティエリアの様子を誰もが驚いたように見つめている。 「お、おいおい。大丈夫かぁ?」 ライルが不安そうな面持ちでティエリアの顔を覗き込んで来た。  ライル。君の愛するアニュー・リターナーは、イノベイターだ。  間違いなく、これから君は傷つく事になる。 その事実を告げなければいけないのに、なんと言っていいのか分からない。 唇は微かに動くのに、結局何も言い出せずに、ライルの顔を戸惑って見つめるばかりの ティエリアの耳に、リヴァイヴの鼻で笑うような微笑が聞こえた。 ばっと体を翻してリヴァイヴに向き直ると、それが合図になったかのように、 リヴァイヴが悠然と腰掛けていた椅子から立ち上がった。 その場にいた全員が身構える。 しかしリヴァイヴは、臨戦態勢になったマイスター達に動じる気配を露ほども見せず、 妖しく輝く瞳の金色を一層強めて、機械人形のように冷たく言い放った。 「さあ、仕事をはじめようか」 その時、リヴァイヴの声に合わせた様なタイミングで、 ブリッジから銃声とミレイナの悲鳴が響き渡った。 ー終ー