マカはテレビを観て大笑いしている。
今放送されているのはコメディで、彼女が、観たいと言い始めた。個人的には興味があまり沸かなかったが、特に観たい番組も無いから一緒に観ることにした。
番組がCMに入ったところで、彼女は目尻の涙を拭った。
「あー、なんか腹筋痛いわ」
そう言いながら彼女は腹を抱え、思い出し笑いをした。
「…そんなに面白い?」
「観てなかったの?さっきの…もう」笑いが止まらないようだ。けらけらと声を上げながら彼女は笑う。
課外授業のときの真剣な顔とは大違いだ。
…こんなに笑う顔は何度も見てきた。
笑顔だけじゃない。
マカの、
怒った顔だって、
泣いているところだって、
困った顔様だって、
悔しむ面持ちだって、
つまらなさそうな顔つきだって、
苛立った感情だって、
しらけた面だって、
照れた真っ赤な顔ばせだって、
微笑む瞬間だって、
寝顔だって、
無情な顔色だって、見てきた。
表情だけじゃない。
「テストで一番取るんだ」って一生懸命に勉強する姿、
髪をツインテールに結わえる姿、
夜遅くまで本を読んで授業中に居眠りする姿、
まばたきする姿、
友達と楽しそうに話す姿、
腹を立てて拗ねる姿、
物思いにふける姿、
キレてマカチョップを繰り出す姿、
クロナに優しく接する姿。
そして…敵に、相手に怯むこと無く立ち向かうその背中。
今考えると、いろんなマカを見てきたんだと思う。
「…ーい…ソウル?」ふと我に返る。彼女は怪訝な顔で此方を見つめてくる。
「どうしたの?ぼーっとしてさ」
「別に」
…目を反らす。すると、彼女はさらに此方に寄って、見つめ直してきた。
「さっきから私のこと見ながら、ぽかんとして…私の顔に何か付いてる?」
ねぇ、と彼女は肩を叩いてきた。
「そういうわけじゃな…」振り向こうとしたときだった。
ぷみっ
彼女の人差し指が、俺の頬にくい込んだ。彼女はえへへと笑って、
「やーい、引っ掛かったあ」
「な…」
…騙された。
でも、怒りや戸惑いの感情よりまず、逆にからかってやりたくなった。このまま拗ねたらどうなるだろう。
「…ふん」
人差し指が当たった頬とは反対の方に顔を向けた。聞こえるようにわざと鼻息を荒らした。…もちろん拗ねてなどいない。逆に笑いを抑えるのに精一杯だった。
すると彼女は、目を見開いてそのまま固まってしまったようだった。
「え、あ…」横目で見た彼女の顔は今まで見たことの無い面貌だった。
"…やばい、やり過ぎたか?"
そう思い、すぐ振り返った。ちょっとした静かな風が凪がれる。すると、彼女は笑顔に戻った。
「…良かった。」思いが声に出ていた。
「それはこっちの台詞。怒ったかと思ったじゃん」彼女は安堵の表情を浮かべた。
「ごめん」謝ると、彼女はとびきりの笑顔を見せてくれた。
俺が何をしても、何を言っても、―マカはちゃんと反応する。聴いてくれる。応えてくれる。
俺はそんなマカが大好きだ。俺はそんなマカの表情が好きでたまらない。
その顔を…、君をずっと見ていたいから。
いつまでも君の横で笑っていたいから。
enど。