「だいたいさ、」
マカが、ため息をついたあとにソウルの方を向いた。
「なんだよ、まだ何も話してないじゃねーか」
ソウルは怒った調子でマカを見る。口を真一文字に結んで、手を上着のポケットに突っ込み直した。二人は、死武専の廊下を歩いている。
「そうよ、それ。姿勢」
「姿勢が何なんだよ」
「…分からないの?猫背になってるよ」
そう言いながら、マカは相棒の背中を一回撫でると、右手で曲線を何回か空に描いた。猫も吃驚するくらいの曲がり方ね、と彼女は呟く。ソウルは、えー?と言って「何でマカが気にしなきゃいけねぇんだよ」と問い返した。マカは、はあ〜とわざとらしく息を吐いて、
「恥ずかしいの」
「…はぁ」
「あのね、仲の良い人間が猫背で隣を歩くのを想像してみて。端から見たらなんかあたしが具合の悪い人を連れ回してるように見えるんだよ?」
マカは相棒の目をじっと見つめて、一生懸命に主張した。だが、当の本人には伝わらなかった様で、
「だから?っていうか考え過ぎじゃね?まるで被害妄想」
ソウルは呆れて、目を背けた。そして顔を上にして、大きな欠伸をする。
「へぇ、まぁ別に…」
「別に?」
「気にしてないならいいけど。ただ、余計に言うとさ」
彼女はソウルの肩を、ぽんと叩くと、
「その格好、全然COOLじゃねーよ」そう言い残すと、荷物取ってくるからとマカは走り去った。
「なんだ?あいつ…。にやけた顔しやがって」
ソウルは頭のカチューシャをはめ直すと、ちょっとだけ胸を張って、マカの帰りを待つことにした。
「やべぇ…すごい腰きつい…」
少し経って、といってもほんの数分。耐えきれなくなって、ソウルは廊下の壁に背を預け、座っていた。廊下には誰の気配も無く、ソウルだけが、ただぽつんとそこにいる。
「あ〜…早く帰りたい」
彼が呟いたと同時に、ばたばたと走る音が聞こえた。
「ごめん、さっきマリー先生と会って」道案内してたんだ、とマカは息を切らしながら言った。
「あれ?何で座ってんの?」
「どこで座ろうが関係無いだろ。帰るぞ」
ソウルはさっと立ち上がると、少し早足で歩いた。背はまたいつものように曲がっている。マカはそれを見てソウルのもとに駆け寄った。
「ほらあ、背中伸ばして!」バシッとソウルの背中を音が響く程叩く。
「いってぇ!!」
ソウルは思わず、というか肺に溜まってた空気が飛び出たように叫んだ。それと同時に彼の体は柱みたいにピンと伸びた。
「はいそのままー」
マカはにっこりとした表情でソウルの背をぐいぐい押した。
「……。」
あまりの痛さと隣のマカの速足にソウルは言葉が出なかった。
暫くこのままだな…。
ソウルはそう思うと、仕方なくマカに押されるがままに歩き続けた。
enど。