「…虎徹殿…」
「ん〜?」
「…うごいても…?」
「ん、いいよ…ただし…最初はゆっくり、な?」
なるべく楽になるようにと呼吸を繰り返していると、どこか余裕のない声音が降り注いだ。小さく笑みを零しながら首に巻きつけた腕を解く。シーツの上へ投げ出して縋るものを探そうとする前に、手を重ね合わされた。指と指を絡め合わせる動きを眺めて、ぎゅっと握られたのを見届けると頬へ口づけられる。
「…虎徹殿…」
「…ん…」
暗に「…動きますよ…」と言っているんだと感じ取ると、軽く瞳を伏せて緩やかに息を吐き出すと、ずるり…と楔が抜け出ていった。
「はっ…ぁあっ…」
「…ぅ…」
ごりごりと内壁を擦り出ていく楔に吐く息が乱れる。入口ギリギリの位置で留まった楔は、菊華を広げたまま留まり続け、咥える物を無くした奥が切なく疼いてきた。重ね合わされた手に縋るよう、握る力を強めると同じように握り返してくれる。その安堵感に躯が弛緩していった。
「ひ…んんぅッ!!」
ふわりと弛んだ菊華の動きを見逃さず離れた腰を押し付けると、肉と肉がぶつかる乾いた音が鳴る。びくんっと仰け反る躯を見下ろしてイワンは熱い息を吐き出した。熱く濡れた内壁が剛直に育った欲望を離すまいと咬み付いてきている。敏感な先端をきゅうきゅうと絞め上げる動きに脳が痺れたようにくらくらとしていた。
「ッは!…ぁ…!」
一気に奥まで貫かれた衝撃に、四肢が痺れるほどの悦楽の波で満たされる。ぞくぞくと駆けあがる快感が更なる衝撃を求めて躯を疼かせた。ひくっと喉を震わせれば上下に動く喉仏に唇が這わされる。衝撃に閉じた瞳をゆるりと開くと涙に滲む視界に天井が映る。視界の端に淡い金髪を捕らえれば、ナカを埋め尽くす楔が再び動き出した。
「ッぁ…あっ…」
内臓が引きずり出されるような感覚に身を竦めるが、シーツの上で絡み合った手が動かせない。上体のみで躯をくねらせてどうにかやり過ごすも、入口まで抜け出て行った楔が思わせぶりに出て行こうとする動きを繰り返す。亀頭の引っ掛かりすらも抜けそうな感覚に思わず菊華を閉じ…ナカに戻ってくれば迎えるように力が抜け落ちた。
「んっ…はぁ…あぁッ…」
菊華を慣らすように入口付近ばかりで往来を繰り返す。すると、奥へ飲みこもうとしているかのごとく、菊華が蠢き、抜けそうになればぎゅっと絞め付けてきた。その気持ちよさに思わず陶酔したため息を漏らし、熱い粘膜の奥へと楔を突き上げる。ナカにぶちまけた己の欲望が滑りを良くしてずるりと内壁を容易く擦り上げていった。ぞくぞくっと震える背筋に熱く息を吐き出していると己の下で身悶える虎徹の貌が見える……
「ぁあ…ぁッ…んっく、ぅ…」
ゆっくり付き上げれば高め啼き声が零れ落ち、引きずり出してくるときゅっと身を竦めて耐えるようにゆるゆると首を振り乱した。その色香溢れる様が更に熱を炙り、目茶苦茶に突き上げたい衝動に駆られる。ぎゅっと縋りつく様に握り締められる手に与えられる甘い痛みに暴走せず踏みとどまっているが、いつ決壊してもおかしくはない。
しかし、欲望のまま動いて自分だけが気持ちよくなる事をイワンは望んでいない。
虎徹を抱く為に詰め込んだ知識を熱に浮かされながらも引きずり出した。慎重に、角度を変えながら腰を打ち付け始める。
「んっ…ん…ぅ…?」
単調な出し入ればかりを繰り返していた楔の動きが変わった。ただただ最奥へ目指していた切っ先が僅かに反れ始める。最奥ばかり狙われて啼き上げていた虎徹に余裕が出てきた。ぎゅっと閉じてしまっていた瞳をゆるりと開き、滲む視界で上を見上げる。眉間に皺を刻み、逆光の中に光る獣の瞳を見つけてしまった。
「っ…は…ぁ…」
薄く開いた唇から零れる熱い吐息に肌が焼かれそうになる。背筋をふるりと震わせていると、繋ぎ合わせた手が解放された。するとすぐに離れた手を掴んで首に回させてくれる。そのまま互いの躯が密着するように引き寄せられた。ゆるゆると突き上げる角度を変えながら…互いの胸で擦れ合う実がじんじんと痺れたように疼く。
「…虎徹殿…」
「……ん…」
近くなった顔に口付けが降らされる。柔らかく触れる唇は、自分を甘えさせるように、優しくて…何かを求めるように訴えかけてきた。顔中に口付けられて最後にバードキスを施されると熱に掠れた声が呼びかけてくる。吐息とともに返事を零すと背中を抱き寄せられた。
「ん、ふッ…!」
「…ぁ…ココ…ですか?」
「ちょっ…ぅあ!」
あちらこちらと出来る限り満遍なくナカを擦り上げていると、抱きしめた躯が一際大きく跳ねる。鋭く息を飲みこみ、首に回させた腕に力が籠った。その箇所をもう一度擦り上げれば今度は耐えられなかった嬌声が零れ落ちる。
イワンの楔が前立腺の辺りをぐりぐりと擦り上げる度に己の口から信じられないくらい甘い声が弾き出されていく。今までただただ最奥を突き上げるだけの挿入しかされなかった虎徹としては軽くパニック状態だ。耐えがたい程の羞恥と共に躯が火照り、悦楽が絶え間なく背筋を駆けあがっていった。
「…あぁッ…あ、ぁんっ…」
自分がどうにかなってしまうのではないか、と不安に飲まれつつある中で、イワンが額を重ね合わせてきた。同時に擦り上げる動きも止まり、震える喉で息を吐き出す。くらくらと揺れる頭で見上げれば、イワンが抱きしめ合うように引き寄せてきた。
「…抱きついてください…」
「っ…でも……」
「…爪…たてて大丈夫ですからね?」
その言葉に心臓が…どくり…と大きく脈打ち、…じんっ…と胸の奥に痺れるような熱が灯る。酷く気恥しくて瞳を反らすと目尻を唇が掠めていった。
抱かれる時にこれほど気を遣われたのは初めてだった。いつもは獣の交尾と変わりなく、ただただ貪り、貪られるだけのセックスばかりをしていたのだ。こんな風に相手に想われるのは久しぶりで……
「(………あぁ…)」
脳裏に友恵が過った。どうしても受ける側の人間の方が負担は大きい。だから体を重ね合わせる時はいつも彼女の様子を伺い、問い掛け、積極的に声をかけていた。安心出来るように、少しでも気持ちが和らぐように…肌を寄せ、ともにあろうとする。
−「爪…立てていいからな?」
虎徹の背中に出来る引っ掻き傷。彼女が表情を曇らせていることに気付いた時に言った言葉。繋がりあう間はまともに言葉を紡げない事を分かっているから、背中に爪を立ててでも縋り付いて安心してくれればいい。と思って言ったのだ。
同じ事を今、イワンに言われている…
そろり…と見つめた先には未だ笑みを湛えた彼の貌がある。額に汗を滲ませ、頬を伝い落ちるまでになっているその貌は、今こうしてじっとしているのも本当は辛いのだと表していた。でも彼は虎徹を待ち続けている。肌を寄せ、抱きしめて、自分の存在を主張しながらも相手を思いやり、反応を見極める……
「…ぃわん…」
そろりと背中に腕を回すと、くしゃり、と笑みが深くなる。そんな貌を見上げながら虎徹も笑みを浮かべるとぎゅっと抱きついた。
「…イかせて…」
「…はい…」
ふわふわと宙に浮くような気持ちの中、そっと強請る。いつもはもっと切羽詰ってたな…とぼんやり思い出せば、バーナビーが思い浮かんだ。
一方的とすら感じる程に詰め込まれる快感。与えられるばかりで、虎徹が彼の肌にまともに触れた事はない。縋りつくことすら出来ないくらい快感詰めにされる為、抱きついた記憶もほぼないに等しい。
初めの内は余裕がないからかな、と思っていたのだが……回数を重ねても変わる事はなかった。
「っん!…くぁ!」
ずるり、と内臓が引き出されるような不快感とともに肌をざわめかせる甘い刺激に、目の前がちかちかと明滅を繰り返すような快感が脳天を貫く。けれどおいてけぼりにされる焦燥感も、おかしくなることへの恐怖感も感じない。密着させた肌の熱さと、一部が混ざり合うような高揚感で満たされていた。
「ひっ!…ぁあッ…!」
「…っ…」
さきほど見つけた虎徹の『イイポイント』を外すことなく擦り上げると、喉が晒され、同時に甘い嬌声が弾き出される。擦れれば擦れるほどに上り詰める己の熱と戦いながら、1回、2回と攻め立てれば…ぎりっ…と背中に爪が食い込んだ。繋がる場所から広がる…腰の奥が痺れる程の甘い悦楽に溺れずに済んでいる。それと同時に、酷く興奮を覚えた。
「あっ…あッ!」
2回、3回と打ち付ける回数が増えていく度にナカを擦り上げる速度が上がっていく。呼吸すらまともに告げず、生理的に涙が溢れ出して頬を流れて行った。どこかに飛ばされないように必死に目の前の男に縋りつき、躯の芯を甘く掻き乱されるがままに啼き上げる。
「ぁうっぁ、ひっぃ、んぁっ」
「…っこて、つ…どのっ」
あられもなく啼き叫ぶ虎徹の媚態に呼気が急激に上がっていった。吐く息すら熱過ぎて喉が焼ける気分の中、イワンは背筋がぶるり、と震えたのを感じる。すぐそこに見える絶頂の頂きに手を伸ばし、腕の中で乱れる男を揺さぶり続けた。唇から紡がれる啼き声と己の一部を深く咥え込む華からもたらされる強烈な悦楽の波に頭の中が白く染まる。
「ぅあッぁあッあ゛!」
肉を叩く乾いた音に、じゅぷじゅぷと粘液を掻き回す音が混じり合う。すぐ近くに寄せられた唇からも、熱く湿った呼気が吐き出されて咽かえるほどの熱に何も考えられなくなっていた。強く…ひたすら強く叩きつける楔に目の前がちかちかと明滅し、絶頂が迫ってくる。何度も背筋を、全身を駆け巡る悦楽の波が腰の奥に熱く、重くのしかかって来た。
「いっ、くぅッ!もッイくぅっ!いっちゃ、ぁあッ!!」
「ぃってっ……くださいッ…ぼくッも、…もぉッ…」
密着した内腿が震え、迫りくる絶頂に啼き叫ぶ虎徹にイワンの躯も震えてきた。ごりごりと擦れる内壁に、ぞくぞくっと駆けあがる快感の海へと素直に身を投じる。目と鼻の先で淫媚に歪む虎徹の貌に頭の中が白く弾けた。
「〜〜〜ッ!!!」
「ッひぅ…あぁぁぁッ!!!」
愉悦の泉を一際強く擦り上げられ、躯の中で熱が弾け飛んだ。頭の中も、目の前も…すべてが白く塗り潰される中で吐き出した白濁が互いの腹を汚す。ぞくっ…ぞくっ…と四肢を巡る悦楽の余韻に震える吐息が唇から零れ落ちた。縋りついた躯の心地よい体温と、ナカに広がる欲望の熱がふわふわと気持ち良く思考の巡りを遅くする。
「…こてつ…どの…」
ずるり…と咥え込んでいた肉棒が抜けて行った。欲望を吐き出した楔は力を無くし、すんなりと出て行ってしまうので酷く淋しい気分になる。けれど、耳元で甘く掠れた声が聞こえてきた。
柔らかく溶けた思考で宙を彷徨わせていた瞳を瞬かせていると、優しい口付けが顔中に降り注いでくる。言葉に出さずに「好きだ」と囁かれている気分で、とてもくすぐったい。
「…ぅ…ん…」
労わるように、気遣うように、そっと口付けを送り続けていると…くすくす…と笑う声が聞こえてきた。半ば暴走していた為に無理をさせたのではないか、と心配したのだが…無用のようだ。ほっと小さく安堵の息を吐く。
「…ぃわん…」
甘く痺れた舌先で転がす様に名前を呼ぶ。するとすぐに反応を示すよう、額に口づけてじっと覗かれた。赤く染まる頬に、情欲で濡れた瞳…ぞくり、とする程に雄を匂わせるイワンにそっと手を伸ばして、キスを強請る。
「…ん…」
唇で柔らかく食み、喰らうようにぴたりと重ね合わされた。口内で熱い舌が己のそれを撫でて誘ってくる。自分から絡み合わせればぴくりと跳ねる躯。甘く咬まれて解放されると、涙の滲んだ琥珀の瞳がうっとりと見上げてきた。
「…イワン…」
「はぃ…」
「もっと…ほしぃ」
「…仰せのままに…」
素直に強請ってみると、手を握って口づけてきた。まるで騎士のような仕種に思わず…忍者のくせに…などと考えて笑いが込み上げてくる。そうしている間にも『忍者』は指先から二の腕、肩へと唇を這わせてきた。一度引いたはずの熱がまた、…じわり…と燻り始める。
「(………あ。)」
触れる唇の心地よさに浸っていた虎徹だが、ふとある事を思い付いた。ゆるりと閉じかけていた瞳がぱっちりと見開き、同時に腕も動いている。
「…ん?え??」
投げ出されたままの肢体にイワンは舌を這わせ、うっすらと汗ばんだ肌の味を堪能していたのだが、突然肩を掴まれた。そのまま引き離す様に力が込められるので、何かあったのかと顔を上げると淡くほほ笑む虎徹の貌がある。
「…虎徹殿?」
「やっぱさぁ〜」
「はい?」
「主役が奉仕ばっかりするってのもおかしいと思うんだぁ〜」
「?…はぁ…」
虎徹が何を言いたいのかイマイチ分からないながらも、曖昧に相槌を打つと笑みがうんと深くなった。とりあえず、『何が』かは分からないが『正解』らしい事を理解していると視界がぐらりと傾いていく。
「だからぁ…」
「!?」
「交代ね?」
あっさりと体勢を入れ替えた虎徹はイワンの躯を跨いで妖艶に微笑んで見せる。仰向けに転がった彼に見せつける様に舌舐めずりをして見せれば、耳まで真っ赤に染め上げた。
「こ…こう、たいっ…って…」
「ん〜?俺が、ご奉仕してやる、って事」
「そ、そ、そ、そ、れはっ…んっ!?」
「おぉ〜…わっかいねぇ…」
急な申し出に一瞬にしてパニックに陥る。まさか…と、やっぱり…とが混ざり合う思考の中で相手に『ご奉仕』してもらうなどあり得ないことだ、となんとか止めさせようとしたのだが…時すでに遅し。イワンの上に乗り上げた虎徹の手は首をもたげ始めている雄を撫でている。
「すぐ臨戦態勢になりそうだな…」
「す…すみませ…」
「ん?謝る事じゃねぇだろに。むしろ俺は目茶苦茶嬉しい」
「…ぁ…ッ!」
指で作った輪で扱けば扱くほど、手の中で脈打つ楔にうっとりと瞳を細める。対して煽っていないのだが、これほどまでも反応を示してくれるのは、正直、虎徹にはとても嬉しい事だ。言葉で褒める代わりに上体を屈めると、顕著に反応を示す楔口づけた。途端に跳ねるイワンの躯に満足し、口を大きく開くとすっぽり咥え込む。そうして伺いをたてるように上目遣いで見上げてみた。
「ん、くっ…」
情欲に濡れた琥珀の瞳がじっと見つめてくる。咥えている口が見えるように、わざとなのだろう…手を添えずに頭全体を前後する事で擦り上げてきた。『虎徹が己の雄を咥えている』というだけで頭が沸騰しそうだというのに、煽る虎徹の動きは容赦がない。
「はっ…ぁっ…」
感じるポイントを的確に舐めて攻め立てられると自然と吐息が熱を上げる。時折口から出して根元から舐め上げる様は特に腰へ響いた。貌にかかる黒髪を梳き上げると、瞳が緩やかな弧を描く。
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