「…あっ…」

 ちゅぷっと音を立てて指が出て行ってしまった。途端に咥えるものを無くした菊華が切なげに疼き始める。すでに弛緩しかかった躯には上手く力も入らず、中心から離れて行った手は仰け反った背中のラインをなぞったり、脇腹を撫で上げたりとしていた。ぴたりと寄り添わせた胸元で固く熟し始めた実がこりこりと擦れる。

「っん…ぁ…ぅ…」
「…すごく…敏感ですね…」
「なっ…んんっ…」
「肌も滑らかで…吸い付くみたいです…」

 うっとりとした声が耳のすぐ傍で響く。荒々しい呼気に交じるその言葉は欲情しているのだと顕著に伝えていた。まるで熱を移されたように互いの唇から熱い吐息を漏らして相手の肌を感じ取る。

「ん…な、ぁ…」
「はい」
「まだ…お預け?」
「…待ちきれないですか?」
「ん…早く触ってほしい…」
「誘い上手ですね…」
「今頃気づいた?」

 くすくすと笑い声を零す唇に己のそれで蓋をしてしまう。するとすぐに忍び込んできた舌がちろちろと擽り、『誘い』にきた。

「んっ…ふ…」

 応えるように舌を絡めて吸い上げると、首に回された腕がぴくりと震える。もっと体同士を密着させたくて腰を引き寄せると下っ腹の辺りに押し付けられる熱に気付いた。

「っ…んん…ぅ…」

 強く押し付ければ唇の隙間から漏れ出る声…あぁ、感じてくれているんだ…と思うと、体中が火照ったように熱を上げた。唇を離さずに腕を伸ばすとシャワーのコックを捻る。二人の上から雨の様に降り注ぐお湯に、泡がゆったりと肌を滑って流されていった。

「っふ、は…」
「っは…」

 長い長い口づけを解くと互いの呼気が唇にぶつかる。焦点が合わないほど近くにある瞳がゆらりゆらりと情欲に揺れ、体の奥に潜む獣が低く構え今にも飛びかかりそうだった。

「…出ましょうか…」
「…ここでも…いいのに…」
「ダメです。」
「ダメなの?」
「『そういうプレイ』はまた『今度』、愉しませてください」
「…ぷれ………っおま!…さらっとそういうこと言っちゃう!?」
「はい、言っちゃいます」

 にこにこと微笑みながら頬に口づけられるともう何も言えなかった。

「…いい性格になっちゃって…」
「こんな僕は嫌いですか?」
「嫌いじゃないから困ってんの」

 むぅ…と眉間に皺を寄せる虎徹を抱きしめ、イワンはもう一度バードキスを送った。

 * * * * *

 風呂から出ると、拭く時間すら惜しいと言うように…二人して寝室へともつれ込んだ。柔らかい敷き布団に押し倒され、貪るような激しい口づけに溺れていく。

「…んっ…む…」
「っふ…ぁうぅ…」

 両手で頬を包み込まれて貪りに来るイワンの背に緩く腕を回して吸い上げられるがままに舌を差し出した。

「っん…ッはぁ…」
「…ぁ…っふ…」

 長い長い口づけがゆるりと解かれる。閉じていた瞳を開くと涙に滲んでいた。ぼんやりと歪む視界でイワンを探すと、彼はどこかを見つめている。

「?…イワン…?」
「…あと…数秒なんです…」
「ぅん?」

 顔を虎徹に向けず答えるイワンに、珍しく余裕を繕う暇もないように見える。どこを見ているのだろう?…と首を反らして見上げると、柱掛け時計が12時を指そうとしているた。

「………シンデレラだな…」
「え?」

 唐突にぽつりと零れた言葉がイワンの顔を虎徹へと向けさせた。

「12時で魔法が切れちゃうの」
「…魔法…ですか?」
「そ。子供でいる魔法。」
「…僕としては嬉しくない魔法ですね」
「ん。俺も…もどかしくて嫌いな魔法だった」

 言葉の意味が理解出来ずにしばし固まっていたイワンだが…そろりと虎徹の手が頬を撫でてきてようやく理解できた。

「…もどかしかったんですか?」
「おうよ。思う存分触れないし、中途半端に高ぶるだけ高ぶって放置プレイ。
 あんな条件出さなきゃ良かったって後悔しまくり」
「でも…僕の為だったんでしょう?」
「…分かってんじゃん」
「はい。ぐるぐる悩んだ時期もありましたけど…ちゃんと分かりましたから」

 頑なに一線を越えさせないのは…長い人生で過ちを犯させない為…いつでも引き返せる道を作っておく為。親心的なものだっただろう。けれど…それらもすでに超越してしまってからは…ただ待つだけの日々がとても辛かったのは言うまでもない。
 残すところたった数秒…これほど時間が経つのが遅く感じた事はないかもしれない。

「…虎徹殿…」

 そっと囁く声に微笑み返す。首に腕を回して引き寄せるとすぐに唇同士が重ねあった。

「!」

 柔らかく表面に触れるだけの口付け…低く…厳かにすら感じる時計の鐘の音に口付けの深さがぐっと深まった。

「…んぅ…っ…」

 舌を絡め取られて強く吸い上げられる…抱きしめるように背中の下へと差し込まれていた両腕がずるりと抜けていくと、腰からするすると這い上がってきた。

「っふ…はぁ…」

 唇を解くと、端から零れ落ちた唾液を舌先でなぞり行く…頬骨のラインを辿り耳元へ着くと、仄かに赤く染まる耳を甘く齧る。途端にぴくりと跳ねる躯を肌で感じて舌を差し入れると、きゅっと躯を丸くした。

「…ぁ…ちょ、いわんっ…」
「ふぁい…」
「灯り…消して…」

 首をゆるゆると振って逃げようとする虎徹に疑問を抱いていれば…なんてことない…部屋の明かりが煌々と照っている事が気になるようだ。目元まで赤く染めて希う姿は初めてみる光景で…もっと見てみたい…と心の底から願ってしまう。

「…ダメです。」
「…だっ…」
「虎徹殿の顔が見たいです」
「〜っ…こ、こんなおじさんの顔見ても愉しいもんじゃないだろ?!」
「愉しいか楽しくないかは僕の心が決めます」

 すぱっと言い切ると首筋へと顔を埋めた。浮かび出る筋に歯を立てるとぴくっと跳ねる反応が愛おしい。噛み付いた歯を離して舌先でなぞると、僅かに凹んだ歯型の感触があった。宥めるようにたっぷりと嘗め回してようやく下りていく。

「…っはぁ…」

 嬲られる事に慣れ過ぎた躯は少しの刺激でどんどん熱を上げていく。吐く息で焼かれそうな感覚に陥りながら、肌を滑る唇の動きを追っていた。たまにちらりと伺う視線が羞恥を煽り、少しでも意識しないようにと見ないように努める。

「んっ…んんっ…ぅ…っん…」

 肌を余す事なく唇で味わい肩へ…腕へと寄り道を繰り返して到達したのは胸元…張り詰めた布のように固い中にも、人肌特有の柔らかさがある胸筋を舌で感じ取りながらぷくりと熟して立ち上がる実へとじわじわ近づいていた。濃く色付く実の淵をぐるりと舐め回していると、切なげな吐息が聞こえてくる。ふるふると小さく震える肌を愉しみながら…齧って…と強請っているような実を徐に口の中へ含んだ。

「ぁう!」

 じれったい舌の動きに何度も腰をくねらせ耐えていると、ようやく期待した通り、口へと含まれた。吸い上げる様に実を嬲られた途端、背筋が仰け反る。更に、甘く掠れた声が零れ落ちて自ら羞恥を高めてしまった。
 けれど、恥じらっている暇もなく…温かく湿った口の中で実が舌先によって執拗に転がされてしまう。びりびりと実から走る悦楽の波に腰の奥で熱がじわりと広がり、もどかしさに首を振るった。

「んぁ…うっ…く、ん…っぁ…」

 舌触りの良い、固めのグミのような歯触りを散々嬲り尽くす。目の前の『男』から匂い立つ香りに舌が『甘い』と感じ取り始めた。嬲れば嬲る程に零れる声を耳に、手を滑らせて反対側の実を触りに行く。

「っふぁ!」

 撫でていった指先で弾けばつられる様に柳腰が跳ね上がる。感じている事に歓喜を覚え、弾いた実を宥めるように撫でれば頭を抱きかかえられた。

「…んっ…ぁ…っふ…ぁ、ぅ…」

 頭を抱きしめられただけではなく、全身で抱きつく様に躯を寄せてきた。立てた太股が腰元に擦りつけられ…ぎゅっと挟み込まれる。それだけでは飽き足らず、足をクロスして拘束までしてきた。

「ぁ…ぁう…っ…んぁ…あ…ぁ…」

 零れ落ちる声も押し込めた音から変化していき、嬌声ばかりが漏らされる。体を支える為に使っていた腕を移動させて、体重を預け切っても声音は変わらない…それどころか髪に指を絡められ、もっとと強請る様に押し付けられる。
 そんな虎徹に内心笑みを浮かべると手を移動させていった。

「うあッ!?」

 唐突に脳天を貫いた刺激に躯を跳ね上げて腕の拘束を解いてシーツを握りしめてしまった。思わず上げてしまった大声に口へ手を当てていると…淡く笑みを浮かべるイワンが顔を覗きにくる。

「っ〜!」

 慌ててその貌を遠ざけようと手を翳すも、あっさり捕まれた上に指の間を舐め上げられてしまう。ざわっと走る悪寒にも似た快感に、躯を跳ねさせて逃れようにも…捕まれた手はあちらこちらと舌が這わされ好きなように嬲られてしまった。

「こ、こらっ…」
「?」
「もっと…ほかの…っ…その…」

 舌で嬲っている間ずっと、相手をしろ、と訴えているかのように腰が擦り寄せられていた。しかも、ぺったりと密着するべく…足が腰に絡みついたままで抱き込まれてしまっている。体中で自由に動かせるのは腕と頭くらいではないだろうか?
 虎徹が何を言おうとしているのか充分に分かっているのだが、どうにもたっぷりと堪能してしまいたくなる。けれどもっと色々したい、と疼く体は正直で…すぐに上体を起こしてしまった。すると、腰に絡みついた足が解かれる。

「じゃあ…どこがいいか…教えてくれますか?」
「ぅえ?」
「虎徹殿の…『イイ所』…教えてくださいね?」

 にっこりと綺麗な笑みを浮かべたイワンは、言い終わるが早いか、動くが早いか…ぐったりと横たわる躯の中心に手を伸ばすと、そこで主張を始めている欲望の塊を掴み上げた。

「っく、んっ!!」
「…あぁ…すごい…」

 触れば触る程…扱き上げれば扱くほどにに溢れだす蜜が表面を覆い流れ、掴みかかった手の平を滑らせる。ぬるぬると滑るに任せて扱いていれば、手におさめた欲望がどくどくと脈打ち固さを増していった。これほどにまで感じてくれているのだと思えば感動も一入…むしろ感動を通り越して恍惚とさえしてしまいそうだ。
 形を確かめる様に、表面を撫でまわす様に…手にした虎徹の一部を嬲れば嬲る度にひくひくと跳ねる躯…少し力を込めれば息を詰めて仰け反る首筋が食らいつきたい衝動を与えてくる。

「はっ…っふ…ぅ…!」

 たった一ヶ月…されど一ヶ月…どうやら耐えてきた期間の長さを甘く見ていたようだ。直接的な刺激を与える手に翻弄されそうな躯が、戸惑いを生み出す。たったこれだけで果てるなんて…と思うも…久しぶりの快楽…与える相手が欲して止まなかった人物だと思えばすぐにでも絶頂が掴めそうだ。
 飢えた躯の卑しさで眩暈が起こりそうになる。

「気持ちいいですか?」
「ん…ぁ…っ!」

 そっと問いかけた言葉に眉を寄せ、切なげな表情になりながらもこくこくと必死に頷いてくれる。言葉をまともに紡げないのか、髪を振り乱し、しつこく嬲る手を押し退けようとしてきた。けれど、その手を邪魔だ、と言わんばかりに掴み上げると先端を容赦なくぐりぐりと押し潰す。

「やッ…あッ…あッ!」
「いいですよ…イってください」
「ひっ!ぅあ!」

 今にも果てそうになっているというのに…イワンの手淫は容赦なく…敏感な先端を押しつぶしたかと思えば、蜜を垂れ流す口を爪で引っ掻いてきた。僅かな痛みと共に背筋を走り抜ける強烈な悦楽…内腿が痙攣を起こし、呆気なく白濁の蜜を吐き出してしまう。

「〜〜〜ッ!!!」

 ひくりと震える喉が晒され、顎が仰け反る。浮き出た首の筋がぴくぴくと動き、反り返った背中と連動していた。声もなく叫ぶ虎徹を…細めた瞳で見下ろし、その恍惚としたイき貌にうっとりとする。
 手の中で弾けた雄を最後の一滴まで絞り出す様に擦り上げると、突き出された胸がひくっひくっと跳ねた。腹肉の割れた腹から、張り詰めた胸元まで飛び散る白い蜜…ぬらりと光るそれらがイワンの口を誘っている。

「…ぁ…っん…」

 ちろり…と舌先で擽るように舐め上げれば小さく漏れる嬌声…つい先ほどまで押さえ付けていた腕を離してもぐったりとシーツの上に放り出されている。ふ…と瞳を細めると、飛び散る白濁を丁寧に舐め取っていった。

「ぁ…ぃわ、んっ…」
「?」
「…おれ、もっ…」
「え?」
「…おれも…くわえたい…」
「〜〜〜っ」

 突然呼びかけられるから何事か…と顔を上げると、切なげな表情でオネダリをされてしまった。しかも、物足りない、とでも言いたげに薄く開いた唇から舌を差し出して自分の指を舐めている。とんでもない色気に、鼻血が出そうになった。

「…ぃわん…?」
「く…くわえて…くれるんですか?」
「…ん…」

 ほとんど蕩け切った状態の虎徹は幼い子供のように少し舌っ足らずで仕種も幼くなるらしい…こてん、と首を動かして「ダメ?」と聞いてくる仕種は…その年齢に反して酷く子供っぽくて可愛い。そんな彼にオネダリされて否とは言えなかった。

「じゃ…お願いします…」

 横になったままの虎徹の頭の位置を咥えやすいよう、片腿に頭を乗せると…虎徹が自ら顔をずらして欲望へと舌を伸ばした。その光景に魅入ってしまっていたイワンは喉を鳴らすと先端をちろりと舐める舌にくぎ付けとなる。

「!」

 亀頭をしばらく舐め回していたかと思えば、大きく口を開いて咥え込んでしまった。しかも離さないとでも言いたいのか、太股に腕を絡めてさらに密着するように絡みついてくる。温かく滑った口内に含まれると、吸い上げられるように口を窄められ喉の奥まで差し込まれた。上顎がごりごりと擦れると気持ちいい…

「…っはぁ…」

 零れ落ちる熱い吐息を聞き、口に咥えた剛直を舌で愛でる。思った以上の太さと長さに喉が鳴った。口内に広がる特有の苦さに眉を顰めながら表面に浮かび出る血管を舌先でなぞると、頭の下で太股が跳ねる…懸命に舌を這わせていると頬に掛かる髪を掬い上げられ、頭を撫でられた。

「…気持ちいいです…虎徹殿…」
「んぅ…」

 褒めてもらえたのだと分かると胸の奥が熱くなる。更にもっと気持ち良くなってもらおうと深く咥え込んだ。

「…っふ…」

 熱く柔らかい口の中でたっぷりと舌で舐められ、ぞくりと背筋が震える中…ちらりと視線を移動させていくと、もじもじと擦り合わせられている太股に気付いた。

「んぐっ!?」
「…あ…すいません…」

 急にイワンが体勢を変えたせいで深く咥え込んでいた楔が喉の奥を押し上げる。思わず咳き込みそうになるのを何とか耐えたが、お陰で目じりに涙が浮かんできた。じろり、と睨もうとしたのだが、イワンの顔が見えない。

「む、ぁ…っふ…イワン?」
「僕にも咥えさせてください」

 そういって微笑む彼の顔は太腿の間にあった。見下ろすようにしていたが、ようやく自分の取らされている体勢に気づく…
 69…だ。


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