"When in Rome, do as the Romans do."
『郷に入りては郷に従え』
「あっらぁ〜…りっぱなお胸になっちゃって」
…ぽよぽよぽよぽよぽよぽよぽよ…
「あはは…俺も朝起きた時びっくりしたよ…」
…ぽよぽよぽよぽよぽよぽよぽよ…
「そりゃそうでしょうよ。こんなに質量があるんだもの」
…ぽよぽよぽよぽよぽよぽよぽよ…
「んーと…ネイサン?」
…ぽよぽよぽよぽよぽよぽよぽよ…
「なぁに?」
…ぽよぽよぽよぽよぽよぽよぽよ…
「そろそろ止めてもらっていいかな?」
ジムに行けば思ったとおり…メンバーが揃っていた。今後の活動がおじさんではなくおばさん状態である事の報告と、己の体力を知る為にも来たわけなのだが…
着くなりいち早く虎徹の変化に気付いたネイサンが驚きながらもボディタッチをしてくる。
いつもの事だし…と放置していたのだが…
さきほどから胸ばかり触られている気がする。
触られているというか…むしろ…揉み込まれている?
「あぁ、ごめんなさい。触り心地が良くてつい…」
つい…というレベルなのだろうか?…
かなり…結構…しっかりと堪能していた気がするが…とは思うが、ネイサン相手に突っ込める者はいない。
「…しかし…遠目では全く分からないな…」
「元が細かったしね、ワイルド君は。あ、ワイルドさん、かな?」
「や、今までのままでいいよ」
呼び方を改めるべきか…とキースに尋ねられるが、いつまでもこのままではないので変えなくていい、と伝えると屈託のない笑顔で承諾してくれた。それでなくとも、『さん』付けで呼ばれるのはくすぐったい。
「ホントに…違和感無さ過ぎて…キモイ」
「キモイって!酷いぜ!カリーナ!」
アントニオやカリーナの言う通り…ジムに着いた時の反応は薄かった。むしろネイサンが駆け寄ったから気付いた…と言ってもいいくらいだ。
ただ、ネイサンの後ろでスカートを履いている事にまず気付いたカリーナが眉をしかめていたのだが…体型をじっくり見ている内にその表情がみるみる変化を遂げていったのはなかなかおもしろかった。
「そうねぇ…服装としてはいつものベストと少し形が違う…っていうくらいしか分からないわよねぇ…下を見るまでは。」
「ッだわぁ!!」
さり気なく後ろに回り込んだ途端に今度は尻をきゅっと掴まれる。更に撫でまわしてヒップラインを綺麗に象るタイトスカートの手触りを楽しむもんだから、虎徹は尻尾を踏まれた猫のように跳ね上がって瞬時に逃げ出した。
向かう先は…縋るにはもってこいなアントニオのボディ…
一目散に割れた腹筋目がけて突進する。
「ッ!!!!!!」
「いつも以上にセクハラが過ぎるぞ!ネイサン!」
「だってぇ…こんな超現象なんて、滅多にお目にかかれないじゃない?」
「だとしても撫でまわし過ぎ!セクハラで罪に問われるからな!」
「あら?でもタイガーちゃんは『男』でしょ?」
「え?…男…だけど…」
「ほぉら、大丈夫じゃない」
「んー…ぅん…いや!大丈夫じゃないし!!」
「〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
不毛とも取れる虎徹とネイサンのやり取りの間にがっちり抱きつかれたアントニオはみるみる内に…顔だけに留まらず…体全体が茹でタコのように真っ赤になってきている。
だが…その理由…なんてものはすぐに分かってしまう。
…ナニ、が…当たってるから…
未だきゃんきゃんと吼える虎徹はアントニオの胴に抱きついている。
…がっちり…ぎっちり…ぎゅうぎゅう、と…力の限り。『いつも』なら気にしないだろう…『当たる物』がないから。
けれど『今の虎徹』は女性にしかない特有の柔らかい胸があるわけで…温かく柔らかい感触を押し付けられれば…いくらアントニオだって男の本能を刺激されるに違いなかった。
「こ・て・つぅ…ッ!」
「ぃででででで!」
ついには湯気が噴き出しそろそろ流血の恐れがあるな、と周りが静観していたところ、アントニオの剛腕が虎徹の頭を鷲掴みにして引き剥がしにかかった。ぎりぎりと頭に食い込む指のあまりの痛さに巻き付いた腕が解けてしまう。
「あにすんだ!アントン!」
「何すんだじゃねぇんだよっ…」
涙で滲む瞳を上げると、目を血走らせたアントニオが鬼の形相で睨みをきかせている。その貌にきょとんとしていると地を這うような声が響いてきた。
「お前は…今の状態に…もっっっっっっと、自覚を、持て…ッ!」
「じ、か…く?」
言う事だけ言い切ってしまうと彼は少し前屈みになりながらトイレへと駆けこんで行ってしまった。その後ろ姿を見送った虎徹はしばしフリーズをして…こてん…と首を傾げる。
そんな元おじさんにカリーナは重いため息を吐きだした。
「…その立派な胸使って逆セクハラするなって事でしょ?」
「…逆セクハラ…」
「そうですね…まさしく逆セクハラに相当しますね」
呆れた顔をしたのはカリーナだけではなく…バーナビーも一部始終を静観していて呆れたため息を吐き出している。
虎徹はと言うと言われた内容とアントニオの反応を照らし合わせて、ちらりと見下ろした。そうしてようやく納得したのだろう…ぽん…と両手を打ちならす。
「わりぃ!アントン!最近御無沙汰だもんな!?」
「虎徹!てぇめぇ!後で覚えてやがれぇ!!!」
トイレに向かって余計な情報付の謝罪を叫ぶと中から怒りの返事が返ってきた。とりあえずまだしばらくは動けないらしい。
「…タイガー、タイガー!」
「うん?」
「触らせて!」
真っ直ぐな言葉…好奇心旺盛にきらきらと光る瞳…屈託のないその笑顔で見つめられて思わず喉を詰まらせる。あまり触られまくるのはいい気がしないのだが…子供の好奇心には勝てそうにない。
むしろ…断った後が怖い…
「い…い………いぃ、けど…」
「やったぁ!」
「お手柔らかになぁ?」
「はぁい!」
元気のいい返事にこっそりため息を付きつつ、なるがようになれ…と半ば自棄になりつつ大人しく棒立ち状態になっていた。…うきうき…わくわく…と見るからに楽しげなホァンがとててっと小走りに近づいてくる。
その無邪気さに…羨ましい…と思った人間は複数いるはずだ…
「えぃ!」
「ッい!!?」
掛け声とともに突き出された両手はしっかりと目標を誤らずに胸元へと伸びたのだが…勢いがあり過ぎたのか…強過ぎたのか…虎徹の口から悲鳴が上がった。
「〜っっッ!!!」
「…あ〜あぁ…」
「?あれ?タイガー?」
「あらあら、だめよぉ?」
「え?えぇ?」
ぷるぷると肩を震わせて蹲ってしまった虎徹にホァンが首を傾げる。そんな2人にカリーナとネイサンが憐れみを込めた視線を送ってしまった。
「い〜い?女性の胸っていうのはデリケートなの。鷲掴みとか、張り手とかしちゃダ・メ。」
「どんなに大きくてもちゃんと神経通ってるんだから…強いとこんな風に悶絶するくらい痛みがあるのよ」
「…そう…なんだ…」
へなっと眉を下げてそろりと視線を下げると相当痛かったのか…未だに復帰出来そうにない。尻尾を丸めて怯える小動物の如く…ぷるぷると震えている肩に同情の視線が集まる。
「…大丈夫?」
「…ふ…ふふっ…大丈夫って言いたいんだけど…涙が出るくらい痛いデス…」
「ご…ごめんなさい…」
いつもならばやせ我慢して痛みに耐えていただろうけれど…予想以上の痛みに取り繕うことすら出来ないようだ。なんとかすぐにでも復活したいのか…足の先をぱたぱたと踏みならして誤魔化そうとする虎徹をホァンが宥めるように背中を撫で擦る。
「…そろそろ…引いてきた…かな…」
「ごめんね…タイガー」
「ん、気にするな…俺もこんなに痛いもんだとは思わなかった…」
涙の滲む目尻を擦りながらそろりと上体を戻していく。まだ少々…じんじん…とするが、蹲るほどではない。しょんぼりと沈むホァンの頭を撫でてやって床に座りなおした。
「ぅぷ。」
「こっちで勘弁してくれる?」
ぺたりと正座を崩して座り込んだ虎徹はホァンを抱き込んだ。ちょうど胸元に頭がくるようにしたので、豊満な谷間に顔が半分埋まってしまっている。きょとりと見上げる瞳に笑いかけると、しばし考えてきゅっと抱きついてきた。
「…えへ☆」
動かなくなったなぁ…と思うとにぱっと笑う顔が上げられた。満足してくれたらしい。嬉しそうに頬擦りをし始めた彼女の頭を撫でるとくすくすと笑い声が漏れてきた。
「すっごくふかふかだねぇ」
「んー?自分じゃちょっと分からないかな」
「うふふ…柔らかくて温かくて…お母さんってみんなこんな感じかな?」
無垢な笑みに虎徹も自然と笑顔が浮かんでくる。存分に堪能させていると、ふと顔を上げた。ばちり…と視線の合わさった先に二コリと微笑みかける。
「カリーナは?」
「へっ!?」
「その内戻るし…期間限定だからな。するんなら今だけ特別にOKだぞ?」
「え…えと…」
突然ふられて思わず肩を跳ねあげてしまう。正直に言うならば…羨ましい…かなり…とっても羨ましいと思っていた。その羨ましがる心をあっさり見透かされたのかとうろたえてしまう。
恥ずかしくて素直に頷けないカリーナの肩に…そろり…とピンクのマニキュアを引いた手が乗せられる。
「<行っておかないと後悔するわよ?>」
「<え?な、なによ…突然…>」
「<考えてもみなさいな…堂々と抱きつけるのよ?>」
「!」
そっと耳打ちしてくるネイサンに訝しげな表情をしていたが、とどめとして囁かれた言葉に…はっ…と息を呑む。昨日まででは『おじさんとJK』という事もあるし、相手が大人の男という事もあって露骨なスキンシップは出来ずにいた。
「カリーナ?」
「私!ホァンちゃんの!次で!次!次でいいから!」
「お?おう??」
ぽそぽそと話し合う2人に虎徹が首を傾げると、カリーナの手がしゅぱっと素早く上げられた。鬼気迫る迫力に一瞬物怖じしつつも頷くと順番待ち、とばかりにホァンの後ろに移動するとすとん、と座り込む。そんなカリーナに首を傾げつつもまぁいいか…と流しておいた。
「じゃあワイルド君!その次は私も!」
「僕もついで…」
「あ、悪いけど成人男子禁止だから。」
「…えー…」
「…ちっ…」
「あれ?バニーちゃん、舌打ちした?」
「いいえ?おばさんの空耳ですよ」
「おばさん言うな。」
悪乗りのつもりはないのだろうけれど…キースがしゅばっと手を挙げた。その後にじっと沈黙を守っていたバーナビーもちゃっかり混ざろうとしている。キースも屈託のない笑顔ではあるのだが…さすがに成人野郎にパフパフする気は起こらない。
手を「ごめん」と示すように立ててすぱっと切り落とすと心底がっかりした顔をするキースの影でバーナビーが舌打ちをしたようだ。さり気無く突っ込むと認めたくないのか開き直ってきやがった。
こうなれば放置に限る…と視線を反らした虎徹の視界に所在なさげなイワンが映る。
「あぁ、イワンはまだOKだぞー?」
「え!?」
「えぇ!?!どうしてだい!ワイルド君!折り紙君はまだ未成年とはいえほぼ成人に近いじゃないか!」
「そうですよ!折り紙先輩がOKなら僕たちもOKでしょう?」
「え?だって…お前らと違ってイワンは俺より小さいから身体的危機感を感じない。」
「「「………」」」
途端に広がる沈黙…どうやら反論が出来ないらしい。ついでにイワンが少々ハートブレイクをしたようだが…ずぅん…と瞬時に広がった暗い空気は…ホァンとカリーナのバトンタッチに気を取られて虎徹には気づかれなかった。
「どうする?イワン?無理強いはしないけど…」
「え…えと…カリーナさんの後で…」
「ずるい!そして羨ましい!!」
「…せいぜい出血沙汰にならないように気をつけてくださいね?…先・輩」
「…っ…っ…」
ぽこぽこと怒りマークを飛ばすキースに、ひやり…と絶対零度の言葉の剣を突き刺すバーナビー…その2人の前を小さくなりながらも通り過ぎ、目の前に座る女神の元へと逃げ込む事に成功したのだった。
「…ホントに…柔らかい…」
「えー?そうか??こんなもんじゃね?」
顔を赤くしつつも虎徹の腕に抱き込まれたカリーナはぽつりと囁いた。少し失礼か…と思いつつもそっと両手を広げて両胸に宛がってみる…マシュマロ…ぽん、と頭に思い浮かんだ甘い食べ物が容易く連想出来てしまう。けれどその大きさから行くと…小ぶりのスイカ…もしくはそれ以上かも…とマジマジ見つめてしまった。
「…やっぱり大きさかしら…」
「大きさもあるけど…マッサージもしないとね?」
「「え?」」
さも不思議そうに呟いていると暇を持て余して近くに座り込んだネイサンが言葉を挟んできた。
「さっき揉みまくってたでしょ?あれね、マッサージでもあったのよ?」
「へー…」
「…あれが?」
「あれが、とは失礼ね、タイガーちゃん。」
「いや、だって普通に揉み回されてるようにしか思えなくて…」
正直に打ち明けると「まったく失礼しちゃう。」と口を尖らせる。けれど…それは日ごろの行いが物を言うんだ…とツッコミたかったが黙っておいた。
「タイガーちゃん、ばんざーい。」
「ばんざーい?」
「キッドちゃんと、お手て繋いで。」
「「はぁい。」」
「で…い〜い?カリーナ。あとキッドちゃんも見ておきなさいね」
「「は〜い。」」
いつの間にやらガールズトークに発展してしまっている。ただ、すぐ近くに健全男子がいる事と、モデルになっているのが元おじさん…というのが少々気に掛かるが…ガールズトークは時と場所を選ばないらしい…なにより講師がネイサンだから、というのもあるが。
「…なかなかに策士ですね…」
「うん?何がだい?」
「シーモア先輩ですよ。」
「……うん?……どこがだい???」
「マッサージと託けて堂々と触りに行ってるじゃないですか。」
「……………!本当だっ!」
「気付かれないのが彼のすごいところですけどね…」
メンバーの中でも堂々と…しかも一番多く、長く触っている…いや、むしろ揉みまくっているというのに…ネイサンの持つキャラクター、そして触る切っ掛けの理由…すべてにおいてすんなり触らせるあたり…さすがと言おうか…更に驚くべき事は…触り易いように邪魔になる両腕をホァンと手を繋ぐ事で自然にどけさせていることだ。
「……と。こんな風にしてたらふかふかお胸になっていくのよー」
「「へぇ〜」」
「それに…バストアップにもなるしね?」
「なッ!?ちょっと待て!これ以上デカくされるとしんどい!!」
実験体としてマッサージを施していた手を慌てて遠ざけると、胸を庇うように腕をクロスさせた。やけに必死なその反応に三人して首を傾げる。
「あら、別にいいじゃない。期間限定なんでしょ?」
「いやでも!肩凝るし!肩、凝るし!」
「それ以外に理由はないの?」
「…うっ…」
もっと何やらかんやらと理由を並べるのかと思えば一つしか繰り返していない。反対するくらいなら最低でも2つ以上はないと説得力がないだろう、とカリーナが突っ込めば明かに「あります。」と言っているような呻き声を漏らした。
嘘をつけない人間というのは時に損をするものだ…
しかも未来を担ううら若い少女にとっては、女性の魅力と捕らえているらしい胸の大きさというものがかなり気になるようで…二人がかりで詰め寄り始めている。
「他の理由は?」
「え…あー…その…」
「なになに?何かあるの?」
「…えー…っと………邪魔、だ、なぁ…って…」
「…………………」
「…………………バチ当たり…」
「全くだわ。」
「だから言わなかったんだろ!?」
持ってるが故の我侭を言いやがって…と白い目を向けられてしまった。もちろんそういう捕らえられ方をされると分かっていて言わなかったのだが…無理矢理言わされたのにこの仕打ち…理不尽である。
アントニオのいない状況での安全圏を…と探した結果すぐ近くで待機していたイワンの元へと逃げ込む事にした。普段ならKOHなキースが適任なのだが…今は無邪気な顔をしたライオンにしか見えなかったりする。それに順番としてもカリーナの次なのだから逃げ込んだ所でやいやい言われる筋合いはない。
「!」
置物の如く固まっていたイワンが目の前まで迫ったところで頬を真っ赤に染めてしまった。
「………(そういやさっきも照れて顔を背けてたよなぁ…)」
微妙な年頃で…男の子らしい興味からお触り希望をしたのだろうけれど…と、虎徹は少々考え込む。
いくらなんでも真正面から先ほどの二人と同じ扱いをしてやるのは可哀相だ。間違いなくアントニオの二の舞だろう。
…つくづく自分が女になったという意識が希薄だった…と思い知らされた。
しかし今更なし、というわけにもいかない。
「(こっちなら大丈夫…かな??)」
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