「ねぇ……ルルーシュ……なんで髪、切っちゃったの?」
「うん?」

 ルルーシュの執務室。
 必要最低限のものと紅茶のセットしか置かれていないその部屋でスザクはルルーシュの手伝いをしていた。彼女がニホンに向かうのに必要なものを詰めている最中だったのだが、不意にスザクが尋ねたのだ。
 本棚の前に座り込み、詰めた箱の上に頬杖を付いている。その表情はどう見ても不貞腐れていた。ちょっと頬を膨らませて恨めしそうに見上げてくるその視線にルルーシュは小さく息を詰まらせてしまった。

「(男のくせに何故そうも可愛い仕草が普通に出来るかな)」
「ね、ルルーシュ?」
「べ、別に……私の勝手だろう?」

 説明を促され咄嗟に答えた言葉がさぞ不満らしく、スザクの瞳が半分になった。

「……長くても纏めればいいじゃないか。エルンスト卿とかクルシェフスキー卿みたいに……」
「……纏め上げるのが面倒だから嫌だ」
「だったら少し短くするくらいにして……ほら、アーニャみたいにするとかさ」
「私の髪はストレートに近いから俯いたら落ちてきて邪魔になる」
「じゃあせめて肩より少し長いくらい……」
「うるさいな!何故そうも髪の長さに拘る!?」

 あまりにねちねちと続けるスザクにルルーシュがとうとう切れた。机をばんっと叩きスザクを睨みつける。その形相たるや……それでもスザクは慣れっこなのか全く動じていない。
 が、不満たらたらの表情に雨ふりの模様が出てきた。瞳がぐゆぅ……っと潤んだのだ。その変化にルルーシュが思わず焦ってしまう。正直、ルルーシュはスザクのこういった表情に弱い。

「(泣く!?)」
「僕の……遠征帰りの楽しみが……」
「たの……しみ??」

 ぽすんと腕の中に顔を伏せてしまったのでもう表情は伺えないが、声音を聞く限りではどうやらまだ泣いてはいないらしい。しかし、ルルーシュにとって分からない言葉が出てきた。
 『楽しみ』……とは?

「楽しみ?なんだ、お前の楽しみって?」
「帰ったらルルーシュの髪に口付けるの」
「あれはお前の楽しみだったのか……迷惑な」
「何が迷惑なのさ。ギスギスする心に潤いを与えてるんだ」
「お前はいいかもしれんが私は恥ずかしくて憤死してしまいそうになるから嫌だったんだ」
「むしろその反応が見たくてしてた」
「おまっ!?」

 さらりと何でもないように答えたスザクにルルーシュは猫のように髪を逆立てた。
 そう、スザクが自分付きの騎士であった時はなかったのだが……
 彼がラウンズに入って遠征に度々出るようになり、しばらくしてくらいだろうか。帰還した彼は事務処理等を済ませると真っ先にルルーシュの執務室に来ていた。そして挨拶もそこそこ髪を一房掬い上げるとそこにちゅっと口付けを落としてとても嬉しそうな笑みを浮かべるのだ。
 その一部始終を見ることの恥ずかしいこと……
 まだ来客の少ない執務室ならいい。だが、必ずしも執務中に帰還するわけもなく。ナナリーやユフィとのお茶会の時は思わず大声を張り上げ突き飛ばしたものだ。
 あまりに居た堪れなさ過ぎるので、一度スザクの言うように、ドロテアのようなアップにしてみた事がある。
 すると……


「ただいま……戻り……まし……た」
「あぁ、おかえり、枢木卿。思ったより早かったな」
「……はい……」
「(ふふん、どうだスザク。これでいつものようにはできまい!)」

 帰還した彼がいつものように執務室を訪ねてきた。スザクは帰還する日、必ずと言っていいほど律儀にもルルーシュにメールを入れていた。待っていたと言わんばかりにルルーシュは朝から自らの髪と奮闘し、なんとかアップにして纏め上げることに成功する。そしてスザクの反応を確かめるためにも今か今かと執務室で待っていた。
 予想通り、スザクはぽかんとしている。その表情にルルーシュは心の中でガッツポーズをとるのだった。

「(これでもうあんな恥ずかしい思いをせずに済む!)」

 心の中では小躍りまでしてしまう始末。だが表情の上では至って常を装うが、どこか勝ち誇った笑みになってしまっていた。
 すると、ふとスザクがにっこりと笑みを返してきた。ほぼいつもではあるが、スザクの心は全くと言っていいほど読めない時の方が多い。今だってそう。いきなり笑顔になっている。一体どうしたのか?とルルーシュの頭にははてなマークが大量生産されていた。

「……?……なんだ?」
「うん、似合うなぁと思って」
「そう……か?」

 褒められると悪い気などするはずもない。ルルーシュとて一人の女の子である。褒められるのは嬉しいものでつい素直に照れてしまう。デスクについたままのルルーシュの傍まで歩み寄るとスザクはじっと髪を見つめてきた。

「自分でしたの?」
「もちろんだ。私にだってこのくらいは出来る」
「君って器用だもんね。……それにしても……いつもと雰囲気が全然違う」
「そんなに違うか?」
「うん。この辺の……」
「ッ!」

 スザクの手袋ごしの指がつぅっと首筋をなぞり……

−……ちゅ……
「後れ毛とかうなじが色っぽい」
「ほああぁぁあぁあぁ!?」
−バチーンッ!!!



「(く、く、く、首筋に……ッ……キスなんて!!!)」

 直後スザクはルルーシュの平手により頬に大きな紅葉を作ったのだった。

「(今思い出しても腹立たしい……)」

 その時以来ルルーシュがアップにすることはない。スザクもスザクで事あるごとに「前みたいにアップにしないの?」と聞いてくるがルルーシュは完全に無視を決め込んでいた。
 あんなことされるならまだ髪の方が断然マシ。という結論に至ったせいだろう。

「(まーた色々考えてるんだろうなぁ)」

 ルルーシュが一人過去の過ちに囚われている間、スザクはというと彼女の百面相を眺めていた。再び頬杖をついてじぃっと眺めている。

「(きっとあの時の事思い出しちゃったかな?……手で押さえてるし……)」

 無意識であろう、ルルーシュは右の首筋を手で押さえて真っ赤な顔をしている。彼女が珍しくアップにした時ついついオイタをしてしまった所だ。あまりに白い首筋が美味しそうに見えてうっかり唇を付けるどころか舐めそうになったくらいだ。
 そんな彼女を見上げ、スザクは小さく微笑む。

「(ホント……初々しいっていうか、可愛いっていうか……普段とのギャップがすごいよねぇ)」
「………なんだ?」
「んー?いや……ちょっとね?」

 あまりにもじっと見つめすぎたのかルルーシュが不機嫌極まりない表情でちらりと視線を投げかける。しかし顔はまだ赤さを残しており、さらに赤さは頬までに留まらず耳も少し赤い。その初心なカワイさにスザクはメロメロだったりする。

「何かいいたいなら言えばいいだろう?」
「んー……じゃあ、さ。ルルーシュ」

 言葉を濁して誤魔化そうとしたが無理のようだった。スザクがルルーシュをじっと見つめていたのはとある事に気付いたからでもあり、視線にもそんな心境が現れていたのか、何か言いたげに見えたのかもしれない。ここは素直に折れておくべきか、と考えを改め、更に少し余計な事も思いついてしまった。
 悟られぬようににっこりと微笑みを浮かべてルルーシュに向かって手招きをすると、訝しげではあるが目の前まで移動してきてくれる。

「……何?」
「ちょっとした忠告。」
「は?」

 きょとんと首を傾げるルルーシュの両腕を取ると視線を合わせてごく真面目な表情を作った。

「しばらくは高襟の服とか、ラウンズのマントをなるべく羽織るようにした方がいいよ」
「ん?何故だ??」
「だって……」

 わざとらしく言葉を区切ったスザクはそっとルルーシュの肩口に顔を埋める。彼女の肩がぴくりと跳ねたように思うが無視して真横に見えるそれを口に食んだ。

「ひッ!?」
「君の可愛い耳が無防備すぎる」
「ふひゃあ!」

 耳の中へと直接言葉を吹きかけてぺろりと舐め上げると変な悲鳴が上がり体を突き飛ばされる。とはいえ、非力なルルーシュが突き飛ばしたところで両手の拘束から逃れられるだけだけれども……
 みるみる内にルルーシュの顔が真っ赤に染まっていく。更には目じりに涙まで溜まり始めた。

「ね?危ないでしょ?」
「………こ……の……」
「ん?」
「変態騎士が!」
「わっと……危ない」
「殴らせろ!!」
「やだよ。痛いもん」
「こら!逃げるなーッ!」


 荷物の散乱した執務室の中をぐるぐると駆け回った二人。だが、箱に躓いたルルーシュをスザクが庇って倒れたところをマリアンヌが発見してしまい「あら、お邪魔だった?」とにこやかに告げられるまで……残り3分。


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