ブリタニア王宮に設けられたナイトオブラウンズの詰所。

 普段は任務を終わらせた、もしくは待機中のラウンズメンバーがお茶を楽しんだり、雑談したりとしている一室だ。

 けれども、今日はその部屋に意外な人物がいる。

 傍にはラウンズの長者、ビスマルクが控え何やら話をしていた。ここが庭園や宮中のホールもしくは廊下ならそんな光景もおかしくはない。しかし、『ここ』はラウンズの詰所。いるはずのない人物だ。

 つい先日まで腰に届くほどの長さがあった母譲りの漆黒の髪は肩辺りで切り揃えられ、万人を魅了するだろう体はラウンズ特有の制服に包まれてなお優雅な曲線を描きだす。
 しかし、その特有の制服も独特のデザインをしている。
 白の燕尾タイプの上着はアーニャが着用しているものと大差ない。インナーの黒い詰襟は鳩尾ほどの丈で白い肌色が上着の間から見え隠れしている。革手袋も他と違い二の腕まで覆っていた。柳の如き細腰には幅広のベルトが巻かれ、バックルにはマントと同じ模様が浮き彫りにされている。ラウンズの紋章が入った白のホットパンツからすらりと伸びる足には青紫色のニーハイとブーツが着用されていた。
 遠征から帰ってきたばかりの若輩に分類されるラウンズの三人は部屋に入るなりその人物の姿に唖然としていた。そして信じられないものを目の当たりにして動けないでいる。そうして固まっている内に話は済んだらしくビスマルクが一礼をして部屋から出て行く。すれ違いざま、三人の様子に小さく笑ったようだが気付く余裕すらない。
 三人に気付いたらしく、ふと目を合わせるとにっこりと笑いかけてきた。

「あ、遠征帰りご苦労。枢木卿、ヴァインベルグ卿、アールストレイム卿。」
「「ルルーシュ殿下ぁ?!!」」
「何故ここにおられるのですか?」
「うん?それはもちろん、

 私も今日からラウンズの一員だからだ」

「なんだってぇ!?」

 ルルーシュの問題発言に一番大きな反応を見せたのはナイトオブセブンの枢木スザクだった。彼はナイトオブラウンズになる前はルルーシュの騎士として付いていたこともあって、元主の発言には度肝を抜かれている。青ざめた顔で慌てて近寄りむき出しの両肩をがっしと掴んだ。

「しょ、正気ですか!?」
「もちろんだ。こんな趣味の悪い冗談を吐いてたまるか」
「むしろ冗談であってほしい」
「むッ……なんだ、私のすることに文句でもあるのか?」
「あるよ!君がラウンズだなんて!自殺行為だろう!!」
「じッ自殺行為だと!?」
「君が戦場に出るなんて、それ以外に何があるってのさ!」
「それ以外って!私だってちゃんと戦えるさ!KMFだって操縦できる!」
「そりゃ歩いて走って止まって飛ぶくらいなら誰だって出来るさ!」
「んな!?私をバカにしてるのか!?」
「バカになんてしてないよ!ただ普段の君のどんくさいというかおっちょこちょいな所を考えると」
「それをバカにしてるっていうんだろ!」
「まぁまぁまぁ……一旦落ち着いて。ルルーシュ殿下も、スザクもさ」

 更に激化しそうな二人の言い合いの間にジノが割り行ってなんとか宥めて冷静にさせる。
 だが、まだスザクの言った事にムカムカしているのか、ルルーシュの眉間にはくっきりと皺が寄っていた。スザクもスザクで前言を撤回する気はさらさらないらしく、滅多に見せない仏頂面のままだ。ふと二人の目が合うとルルーシュがぷいっと顔を背けた。

「!」
「ストーップ、スザク。」
「ルルーシュ殿下……どうしてラウンズになったんですか?皇女殿下なのに……」
「……ニホンに行く為だ」

 その言葉に驚きの色を浮かべたスザクが顔を上げた。ジノもきょとんとしたそれでいて複雑な表情を浮かべている。首を傾げて説明の続きを無言で催促するアーニャに背を向け、ルルーシュは近くにあった椅子に腰かけた。ゆったりと足を組み、まるで言葉を聞かせたい相手が遠くにいるような、それでいて聞かせてやるという挑戦的な風に顎を少し上げて言葉を続ける。

「我が国は世界中に手を伸ばしている。
 それは一方的な支配が目的ではない。各地、各国にはその土地特有の進化の仕方がある。それらを無視してブリタニアのやり方を押し付けたところで歪みが生まれ、行く果ては崩壊でしかないだろう。
 故に『支配』とはあくまでブリタニアの目指す未来、手を繋ぎ世界を一つの輪とするという目的に賛同して貰う為だ。とは言え、この考えも我が父上、シャルル皇帝陛下が実質上の絶対的な立場を築き上げて以来ようやく出てきたものではあるが。」
「えぇ、それは……最近の戦略方法を見ていれば理解できます」
「しかし……ニホンは古きをよき時代とした支配が続いている。現地の人々を虐げ、己こそが優秀であると。」
「……つまり……ニホンだけ治世がおかしい」
「あのエリアは島国であるが故に世界の情報をいとも容易く遮断してしまうことが出来る。それが故にろくでもない貴族が蔓延ってしまった。ブリタニアの支配が絶対的かつブリタニア人がすべての上に立つ存在である事を肯定とし、それ以外の情報を完全に除外する。
 そうして自らに都合のいい、理想のエリアへと作り変えた。本国への定期報告などたかが紙上の文字。どうとでも繕えるさ」 「では殿下は……」
「あの土地に巣くう豚どもを一掃しに行くのだ」

 すぅっと細められた瞳には怒りと悲しみが混ざり合っている。彼女の言う『豚ども』がいかに許しがたいか、その瞳が物語っていた。その向かいのスザクも似た瞳をしている。

「けれど……それでは何故ラウンズに?ニホンに行くなら皇女殿下のままでも総督として出向くことが可能なのに……」
「私の身分が低いからだよ」
「低くても……皇女殿下は皇族」
「そう……だが私が皇女として出向いたとしても『世間知らずな皇女殿下』だ」
「………」
「『ラウンズ』には『皇族』であってもなれるものではない。この地位を手に入れるにはそれに匹敵する『功績』が必要だからな」

 確かに皇族でも騎士になることは出来る。しかしラウンズとなると別格だ。何せ皇帝陛下の剣である以上、実力が伴わなくてはならない。それ故に軍務でも政務でも特別な位置にされている。

「けど……殿下の功績って?」
「何も敵を大量に倒したことが功績に繋がるわけではない。私が挙げた功績は『戦場指揮』だよ」
「え?ルルーシュ……戦場に出た事あるのか?」

 度々戦場を駆け回る三人はルルーシュが戦場に出ているという話は全く聞いていなかった。なのでいつ戦場に出て功績を挙げたのかなどまったく知らない。しかし、ルルーシュは『戦場指揮』と言った。つまり、戦場に出た、ということだ。

「あるぞ。ちなみに三人とも何度か指揮下に置かせて頂いた」
「えぇ?!いつですか?ちっとも知らないのですが!」
「オペレーションナンバーが『0』から始まったものは全て私だ」
「ナンバー……『0』?!」
「半年くらい前からしょっちゅうあった……」
「……今回の遠征も……『0』」
「あぁ、今回、現場には行かせてもらえなかったが……現地からの情報が正確だったから事なきを得た」
「……じゃあ……殿下のお陰で早く戻れた……」
「ふふ……感謝するがいい」

 悪戯っ子のような笑みを浮かべるルルーシュを前にスザクは重いため息をついた。オペレーションナンバーが0から始まるものは全て確かな功績を挙げている。ただ、そのオペレーションは度々意表をつくものが多く、稀にスザクだから出来るのであって他の人間には到底無理なものもいくつかあった。セシルからその内容を告げられた時は本気ですか?と何度か訪ね返した事がある。彼女も少々戸惑いながらも返事を告げてくれた、『枢木スザクにしか出来ないものだ』……と。
 よくよく考えればそれはスザクの事をよく知っているルルーシュだからこそ出来ることだったのだ。ジノにしても、アーニャにしても、ルルーシュのよく知る人間であり、得手、不得手も能力値も熟知しているのだから的確かつ大胆なオペレーションを投げかけてこれた。
 そう……彼女は情報戦略の達人なのだ。

「まったく……君って人は……」
「なんだ、今更だろう?」
「そうだね……今更だ」

 苦笑を浮かべるスザクに得意満面の笑みで答えるルルーシュはとても彼女らしく、一生彼女には叶わないだろうな、という思いに囚われるのだった。

「今日から私は『ナイトオブゼロ』だ。今後も私の指揮下に入る時はより良い功績を期待しているよ?」
「「「イエス、ユア ハイネス」」」

 * * * * *

「ルルーシュ殿下……撮ってもいい?」
「ん?構わないぞ?」
「あ、私も欲しいでーす!」
「データ……送る」
−ぴろり〜ん
「………そういえば……」

 アーニャによる一方的な撮影会が開始するとほどなくスザクが不思議そうな声を上げる。「どうかした?」と言わんばかりに首を傾げる三人にこちらも首を傾げて返した。

「ルルーシュ……殿下は」
「呼び捨てでいい」
「あ……はい」
「で?私がなんだ?」
「いや……何故アーニャに似たタイプの制服のデザインになったのかな?って」
「制服のデザイン?他にあるのか?」
「え?」

 あまりにもあどけない返事の声にスザクは一気に青ざめてしまった。本人は違うとは言うがスザクの目には、ルルーシュという人間はどこか抜けていてちょっと世間からずれている所がある為か……少し、騙されやすい。しかもその騙す人間が彼女の母親や従兄弟のユーフェミアだったりするから尚のこと性質が悪い。前にも一度騙されていたのを見た覚えがある。いや、覚えどころか、スザクも巻き込まれてしまった事件だ。

−「る、る、る、ルーシュ???」
「どうかしたか?スザク?」
「どっ……どうかしたかって……その……」
「その?」
「どうして……僕の部屋のベッドで…君が…寛いでいるの?しかも……ネグリジェ……」
「どうして?って……今日はバレンタインデイとかいう日なんだろ?」
「確かに……バレンタインだけど。けど……なんで……ベッド?」
「母様とユフィから聞いた」
「な、なに……を??」
「日本では『バレンタインデイは一番信頼している者に親愛の気持ちを伝える為に一緒に寝る』んだって」
「(それって遠まわしに○○○しろってことかーッ!?)」

−「(今思い出すだけでも頭痛が……)」

 思わず眉間を押さえつけてしまったスザクであった。
 ちなみにその後、スザクは顔を真っ赤にしつつ、ベッドの上で互いに正座して向かいあって切々と日本でバレンタインデイにはどういう事をしていたのかを説明して聞かせた。説明が終わるや否や彼女が怒りマークを大量に生産しながら策略者二人の元に殴り込みに行ったのは言うまでもない。更に残されたスザクが健全な青少年らしい行動をこっそり取ったことも……
そして予感がある。……………今回もきっとそうだ………

「スザク?」
「あ、いや……その……君のイメージからしてエニアグラム卿みたいなデザインを選ぶのかなって……」
「エニアグラム卿のデザインはこれとはまた別なのか?」
「あぁ、うん……僕やジノみたいな感じ」
「私は殿下にとってもお似合いだから今のままで全ッ然!構わないと思うぞ?」
「……ジノ……下心見え見え……」
「………」

 ルルーシュが口元に手を当てて何かしら考え始めた。どこか腑に落ちていないといった方が正しい表情だ。スザクの背筋に冷や汗が流れ出す。

「ルルー……シュ?」
「……なんだ?」

 心なしか答える声音も少し低い気がする。

「『誰』に『何』て……言われたの?」

 聞けば納得するだろう。
 ……けれど……
 聞きたくない気がするのは気のせいか?心の中の鬩ぎ合いをどうにか無視して表情の上で至極平静を装い続ける。

「『母様』に『女子の制服は基本このデザインだから』、と。」
「………(あああぁぁぁぁああぁあぁぁぁ……)」

 スザクの表情はいつもの穏やかな笑みを浮かべている。しかし心の中では号泣だ。彼女の母、マリアンヌ妃はラウンズであった経験がある。故に彼女の言葉はとても信頼できたのだろう。
 ただし……ルルーシュの中では、更に、きっとマリアンヌ妃の思惑を想像したら……絶対にこうだ。

 『花の命は短し、恋せよ乙女!若い内に男は誘惑してなんぼ!!せっかく類稀なる体型と顔で生まれてきたのだから!最大限に活用させなきゃね☆』
「(マリアンヌ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 スザクの額が無意識の内に壁へとくっついてしまった。その背にそこはかとなく陰鬱なオーラが渦巻いているのはきっと気のせいではない。
 そんなスザクを尻目にアーニャがことん……と首をかしげる。

「……殿下は……私と似たデザインはいや?」
「う……や……いや……ってことは……ないんだが」
「じゃあそのままでいいじゃないですか」
「……む……う……」
「それに、殿下がラウンズに入るってことはカレンも入るのでしょう?」
「え?ついにカレンも仲間入りするの?」
「あぁ。私のお目付け役半分といった感じだが」
「……あぁ……ね……」
「何か言いたそうだな?スザク」
「や。何も」
「ということは……彼女も似たデザインなのでは……」
「ルルーシュ殿下?こちらにおられます?」

 噂をすればなんとやら……部屋の扉からカレンがひょこっと顔を出した。騎士の時は真っ直ぐに降りていた髪はツンツンと逆立ち、ちらりと見えるマントは彼女の異名『真紅の鬼神』にちなんでかワインレッドだ。

「よかった。殿下のマントを受け取って来た……の……ですが?」

 室内にルルーシュの姿を確認したカレンがほっとした表情で入ってきた。マントに慣れていないのであまり着けていたくないのかさっさと外してしまった。
 その入って来たカレンの姿を見るや否や、ルルーシュの顔が引きつった怒りに変わっていく。その変化に瞳を瞬かせるとスザクに視線を投げてみる。すると引きつった笑みを浮かべて視線を外されてしまった。首をかしげ、次にアーニャに視線を投げるとすでに背中を向けて携帯を弄っている。更に首を傾げてちらりとジノを見上げると満面の笑みだった。

「あ……の??」
「何故カレンの制服は腹が出てないんだー!!?」
「はぃい!?」

 カレンの制服は長袖の上着に前のボタンもスザク達と同じようにしっかり閉められるタイプだ。しかし、ズボンはホットパンツタイプでブーツは膝の上まで覆っている。

「なっは、腹って!」
「アーニャも私も出ているのに!」
「か、勘弁してくださいよ!ただでさえ太い太もも晒してるのをニーハイブーツで誤魔化してるのに!」
「「………」」
「二人して哀れみ込めた瞳で見るなー!!!」
「大丈夫……胸あるから……気にならない」
「あ……アーニャ……」
「殿下も……あるし……」
「だ、大丈夫ですよ!」
「そ、そうだぞ、アーニャ!まだ育ち盛りじゃないか!」
「……育つ?」
「もちろんです!マッサージするといいっていいますよ!!」
「……そう……なのか?」
「……俗な噂ですけど……こう……腹とかお尻とか……気になるところのお肉をぎゅっぎゅ〜っと移動するように」
「……ぎゅっぎゅ〜……」
「じゃあカレン……」
「なんですか?」
「減らすのはどうするんだ?」
「減らすぅ!?」
「う……だって……邪魔……」
「邪魔っていいましたかッ!?」
「ぅ……ん……」
「殿下……勿体無い……そのままがいい」
「いや……でも……」
「そうですよ!そのままでいいんです!」

 女の子の『気になる体事情』が繰り広げられている。スザクとジノはもちろん存在自体無視だ。かと言ってこの勢いの中に口を挟む勇気もない。
 ……すると……

「んー?なんだ?今日はやけに賑やかだな」
「あ、エニアグラム卿」
「お疲れさんでーっす」
「お?ルルーシュ殿下にカレンまでいるじゃないか」
「「エニアグラム卿!」」
「うん?」
「私の制服も卿のような格好いいデザインがいい!」
「え〜?殿下はアーニャと全くのお揃いでもいいと思いますよ〜?」
「黙れ、ジノ」
「だったら私だって長ズボンがいいです!」
「じゃあ……私も……」
「「アーニャは可愛いからそのままでいい!」」
「あー、なるほど……話は見えた」

 鼻息も荒く捲くし立てるルルーシュとカレンの言葉にノネットは何度も頷いて見せた。理解者が現れたとばかりにルルーシュとカレンは更に詰め寄る。

「デザインの変更は出来ますよね!?」
「どうなんだ!?エニアグラム卿!」
「えぇ、出来ますよ?」
「エニグラム卿ぉ!?」
「だから黙れ、ジノ」
「でも、殿下もカレンも未成年だから今のデザインと変わりないか更に露出が高くなるだけだぞ?」
「「え!?」」
「あぁ、知らないか?未成年のラウンズは短パン袖なしが基本。腹出しになったのは最近かな。あ、カレンは袖なし免除されたみたいだな」
「免除……ですか?」
「この前まで着てた騎士服に近いほうがいいと気配りされたんだろ」
「はぁ……」
「まぁその程度で済んで良かったじゃないですか。」
「いぃ……方なのか?」
「ヘタするとヴァルキュリア隊のパイロットスーツに似たデザインにされますよ?」
「それは……嫌だ……」

 ほっと胸を撫で下ろすカレンに椅子へと泣きついているルルーシュ、そのルルーシュを慰めるようにアーニャが頭を撫でている。ひとまずは収集が付いたといったところだろう。
 しかし……

「……エニアグラム卿」
「何かな?枢木卿」
「私も質問が……」
「ん?ヴァインベルグ卿もか。どうした?」
「さっきおっしゃってたのって」
「……嘘……ですね?」
「ふふ…あの子らには言うなよ?せっかく目の保養になっているんだ。それを易々失くすことは避けたいだろう?」
「「イエス、マイ ロード」」
「うむ、良い返事だ」


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