話している内にエレベータは止まり、司令室へと出てきた。メインモニターの前に立つと横にラクシャータが寄ってくる。
「現在指揮を取っているのは誰だ?」
「ユーフェミア殿下ぁ」
「……力不足だな……」
「殿下に比べたらねぇ?」
「通信はもう繋げるか?」
「もちろぉん」
くすくすと笑いながら近くのキーボードのキーを一つ煙管で押した。するとメインモニターの右端に淡い赤毛の皇女の顔が映し出された。顔の両サイドで纏めた髪に後ろは高い位置で括られている。服装もいつものドレスと違いタイトスカートを着用している。ただその表情はいくらか青褪めていて必死に取り繕っている雰囲気が見て取れた。
「こちらコーネリア部隊の母艦、司令室です。どちら様ですか?」
「私だ、ユフィ」
「!ルルーシュ!!?」
声に反応をしてすぐに彼女の顔がぱあっと明るくなった。目じりには涙まで浮かべている。余程絶望を感じていたのだろう。無理もない。実の姉が目の前で行方を眩ませてしまったのだから。そんな彼女をカレンは少し気の毒に思ってしまった。
「今回非常事態で駆けつけたからなんの手続きもしていないんだ。だからこちら側の映像を送ることは出来ない。悪いな」
「いぃえ!貴女が来てくださっただけでも……」
「スザクが……ナイトオブセブンが先に到着しただろう?」
「えぇ、彼は今この母艦の周りを護ってくれているの」
「そうか。もう2分もたせろと言ってくれ。助っ人を連れてきたからな」
「助っ人?」
「あぁ、紅月カレンだ」
ルルーシュに手招きをされて彼女の近くまで歩み寄ると、モニターの皇女に向かってちょいと一礼をした。が、映像を送っていないことを思い出して慌てて「初めまして」と挨拶をした。すると皇女は「まぁ」と言って手を合わせている。
「そのお名前、日本の方ですのね」
「(あ、この人も『日本』って言う……)」
「あぁ、スカウトしてきた」
「ルルーシュがそう言うのでしたら頼もしい方なのですね」
真っ直ぐにそう言って微笑まれるととてもむず痒いような気分になってしまう。横にいるルルーシュも「もちろんだ」と言わんばかりに得意げな笑みを浮かべているので更に恥ずかしい気がする。そこまで期待されていていいのだろうか?などと考えてしまった。
「それでは早速スザクに伝えますわね」
「あぁ。ただ、私だとは言わないでくれ」
「分かってますわ。スザクはとても心配性ですものね」
「そろそろあいつの騎士癖をなくせないものかと悩んでいるんだがな」
「ふふふ、それはきっと一生治りませんわよ」
「まぁいいさ。こちらのアヴァロンが到着したら指揮を代わるから」
「えぇ、お願いしますわ。私では到底歯が立ちません」
「そう落ち込むな。誰にだって向き不向きはあるさ」
「ありがとう……ルルーシュ」
一度通信を切るとルルーシュはふと小さくため息を漏らした。表情を盗み見ると緊張しているのか少し強張っているように見える。唇を固く噛み締め、両手もぎゅっと拳を作っていた。しかしその瞳は強く輝き、前を見据えている。その視線を追えば、戦場から上がっているのであろう土煙がうっすらと見えてきた。
「(そうか……殿下も初陣になるのか……)」
「カレン、ついて来い」
「は、はい!」
モニターに背を向けるとルルーシュは司令室から出て行ってしまった。その後を慌てて追いかけていく。エレベーターに乗って格納庫へと向かう背中はどこか脅えているようにも見えて思わずその腕を掴んだ。振り返った表情は驚きに満ちている。
「殿下の……期待以上に働いてみせます」
「……カレン」
「その為にならこの命、惜しくありません」
「……お前もスザクと同じ事を言うのだな」
「え?」
ルルーシュの表情に悲しみの色が混じったのが分かった。けれど掴んだ腕は離さず、次の言葉を待った。
「違う……間違っているぞ、カレン」
「何が、ですか?」
「私は死の覚悟など欲しくない」
「……では……私はどうすれば?」
「私が欲しいのは敵に背を向けてでも逃げて、生きて私の元へ戻る覚悟だ」
「………」
「お前も、スザクも……他に代わりなどいない。誰一人、他などいないんだ。」
その瞳の奥に深い悲しみが見える。悔恨、と言った方が正しいか。彼女は知っている。人を失うというのがどういうことなのか。そしてその人の命を簡単に左右してしまう指揮官という位置の重責も……間違いなど何一つ許されないという事も。
この瞳にどう答えればいいか。頭で考えが纏まる前に口から言葉は滑り落ちていた。
「じゃあ……生きて帰れる為に私が何をすればいいのか……教えてください」
「もちろん。その為の指揮官だ」
* * * * *
「ルルーシュ殿下、間もなく戦場の上空域に入ります」
「分かった、ユフィ」
「はい」
「私は名前を出せない」
「えぇ。私が代わりに指示を発せばいいのね」
「頼む」
「お安い御用ですわ」
「カレン、準備は出来たか?」
『いつでもどうぞ』
「分かった。ではこれよりコーネリア殿下の救出及び敵部隊の制圧を開始する!」
ルルーシュの固い宣言にアヴァロン、地上母艦隊から「イエス、ユアハイネス」の声が木霊する。
メインモニターには地上の様子が映し出され、ルルーシュの目の前にはデスク状のモニターに敵味方両方の兵の配置が赤と青の点で表示されている。ユーフェミアの乗る母艦の前に幅広く台形の形で敵兵が展開していた。隙あらば完全包囲してしまうつもりなのだろう。その隊の後ろに少し間隔を開けて後続部隊が展開している。その左右に翼部隊が配置されているはずだが……敵方の左翼が明らかに内に寄りすぎている。どうやら実際の画像を見たところ大地が大きく裂けておりナイトメアや戦車が通るには隊形を維持出来ず避けているようだ。その事を確認したルルーシュの口元が小さく微笑みを象る。
「アヴァロン艇、低空飛行を開始!敵方に威嚇射撃開始!型はR-Oだ!」
「イエス、ユアハイネス!」
「全コーネリア部隊に伝達します。わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアはこれより反撃の為、司令を伝えます。皆さん、遅れることなきよう、勤めてください」
『イエス、ユアハイネス!』
二つの艦体にて同時に叫ばれた言葉により戦況に変化が現れる。前線で戦っていたスザクもその事を肌で感じるようにして感じ取りふと上空に目を移すとアヴァロン艇がすぐ近くを飛んでいった。艦体が敵陣の真上に来ると一斉に威嚇射撃が開始された。しかしその射撃は一定の位置しか狙っていないように見える。アヴァロンが再び高度を上げ始めた時、機体から炎が一つ落とされた。
「……ナイトメア?しかし……見覚えがない……新型か?」
敵陣のど真ん中に落とされたのは炎の如く真紅色をしたナイトメアだった。突如として現れたナイトメアに敵軍も味方側も唖然としている。着地したのが布陣の中央というのも理由になるかもしれない。呆然と見ている内にも真紅のナイトメアはぐぐっと右腕を掲げる。
「紅蓮弐式、地面に向けて輻射波動を発射!出力は20%に限定!」
『撃ちます!』
かぁっと赤く光る右手が地面へと突き刺さる。一瞬なんの変化も見せなかったが、次の瞬間紅蓮弐式の立つ地面からびしりと亀裂が走った。
「カレン、直ちにその場を離脱。向かうポイントはb-6!」
『了解!』
「ユフィ、前線を下げろ!」
「了解しました!」
右手を引き抜いた紅蓮弐式が真下に向けスラッシュハーケンを突き刺し、その反動で機体を大きく飛ばした。敵対右翼を軽々と飛び越え後続部隊の横へと着地する。と、同時にブリタニア軍前線が後退を始めた。その時だ……
「な……っ!?」
ランスロットで最前線に出ていたスザクが目の前の光景に目を見開いた。先ほど真紅のナイトメアが立っていた場所から放射線状に地面が陥没する。それは敵の最前線より少し後ろまでも巻き込むほどの広域範囲だ。しかしさほど深くはなく、ナイトメアでジャンプしても届くか届かないかといった程度になっている。スザクがふと上空に上がったアヴァロンの機体を見上げた。
「さっきの威嚇射撃はこの為か……」
あらかじめ銃撃が陥没させる範囲を固定しておいたのだ。もとよりこの地方の地盤は衝撃に強くない。故に地割れや雪崩のおきやすい場所でもある。それを利用して即席の落とし穴を作ったというわけだ。
完成した落とし穴の状態を見てルルーシュはポツリと声を漏らす。
「出力誤差はマイナス2%と言ったところか……」
『申し訳ありません』
「気にするな。思ったよりも地面が脆かった。正確に出ていたら最前線に余波が届いていたかもしれん。
……私もまだまだだな」
『殿下、次は……?』
「後続部隊に敵将が紛れているはずだ。」
『頭を叩けばいいんですね』
「そうだ。ただし、敵兵であっても殺すな。輻射波動は威嚇にのみ使用しろ。お前の戦闘技術なら使わなくとも制圧できる」
『……』
「返事は?」
『……』
先ほどまですぐに返ってきた返事がぷつりと途絶えてしまった。とはいえ、カレンとは個別にインカムで通信を繋いでいるので音信不通になることは考えにくい。
となると、この指令に何かしら疑問を持っているようだ。そこでルルーシュはふとエリア11を思い出す。あそこでの戦闘はいかに敵を殲滅するかに懸かっていた。少しでもブリタニア軍を減らさなければ、自分達の数では到底抵抗するにはほど遠いからだ。とはいえ、すぐに軍は補給されるのでイタチゴッコではあったが……ルルーシュは小さく息を吐き出す。
「……殺した方が早いだろうが、それでは同じことが繰り返されるんだよ。」
『……同じこと?』
「殺されたから殺し返す。実にくだらない連鎖だ。そうだろう?」
『……はい……』
「それに殺すことを是とすれば話し合いがしにくいんだ。後々まで遺恨が残るだろうしな。
……嫌だろう?自分の家族や信頼する者を殺した相手と同じテーブルで話し合うなど。」
『はい……』
「いいか、カレン。本気で戦う相手を押さえつけるのは殺すことよりも難しい。
だからこそお前にナイトメアや機関の構造を覚えさせたのだ。急所のみを突き機体を再起不能にさせろ。それだけでいい。
……出来るな。カレン」
『もちろんです』
「では、行動に移せ」
『了解しました!』
明らかに変わったカレンの声音にルルーシュはほっと安堵の息をつく。出来るだけ彼女に血で手を汚して欲しくはないのだ。
モニターで紅蓮弐式が動き出したのを確認してルルーシュはユフィを呼ぶ。突如として後退を命じられた最前線が動揺からか戸惑っているだろう。だが、その中にあるランスロットの点を中心に隊形を立て直しているのを見て小さく笑みを漏らす。
「ルルーシュ」
「ユフィ、ラスロットにオペレーション『08-H』を発令してくれ。ついでに敵方の左翼を叩いて行ってくれるとありがたいが」
「分かりました。伝えます」
「それから、中央部隊を三分割させ、陥没地を包囲しつつ回り込み後続部隊を迎え撃て」
「はい」
「右翼はランスロットを援護しつつ敵方左翼を叩け。左翼は敵方右翼を叩きつつ赤いナイトメア、紅蓮の援護をさせてくれ」
「了解しました」
そうしている内にも、モニター上の点は『LOST』ではなく『OUT』の文字が点滅していく。つまり戦線復帰不能状態だ。紅蓮が進んだ道、ランスロットの進んだ道ともに同じような『OUT』の文字が点灯していった。ランスロットの方はどうやら指令が届く前に動いていたのだろう、紅蓮とは対象の位置を走っていく。
これもルルーシュの計算通りだった。ふと彼女の唇が微笑みを象る頃、ランスロット内のスザクにオペレーションが伝えられる。
『キャメロットよりランスロットへ入電。オペレーション08-Hが発令されました』
「08……H?……内容をお願いします、セシルさん」
『これよりランスロットは敵隊左翼を叩きつつポイントh-8へと移動。付近を捜索し、コーネリア殿下を救出せよ』
「コーネリア殿下が?」
『えぇ。その付近の亀裂に落ちてしまっているとの見解だそうよ』
「……了解しました。これよりオペレーションに移ります」
『了解しました。気をつけて』
「はい……」
キャメロットからの通信を切るとスザクは眉間に皺を寄せた。先ほどから展開されている指令はどうもおかしい。おかしいというのは『ユフィが発令するにはおかしい』という意味だ。
彼女はお世辞にも戦場指揮には全くといっていいほど向いていない。
というのも守りを最優先に考えるので肝心な攻撃や反撃といった方法がどうも甘い。しかし、アヴァロン艇が現れ、真紅のナイトメアが現れてからというもの、あっさりと形勢が逆転している。ポイントh-8というのもアヴァロン艇が来る前に本隊と敵隊が戦闘を繰り広げていた場所だ。両隊の砲撃により大地が大きく裂けて一時混乱に陥った地点。同時にコーネリアとの連絡が途絶えた地点。
「……誰だろう?」
そう呟いてもう一度上空に浮かぶアヴァロン艇を見上げた。
それからは瞬く間に蹴りがついてしまった。
紅蓮が敵のナイトメアの腕、足、スラッシュハーケンなどを破壊し戦闘不能状態に持ち込み、援護に来たブリタニア兵がそれらを捕縛。ランスロットの方もすんなりコーネリアの駆るグロースターを発見し、救助しつつ隙を突いて襲い来る敵兵をヴァリスで撃退。その間にカレンが敵将を押さえ、閉戦となる。
コーネリアも大した怪我はなく、亀裂に落ち込んだ際、グロースターの足と通信機能をやられただけだった。
「よくやったな、カレン」
「あ……ありがとうございます」
敵将をブリタニア軍に引き渡した紅蓮は早々にアヴァロンへと収容され、戦場を離れていた。
ナイトメア格納庫で紅蓮から降りたカレンをルルーシュは笑顔で迎える。デヴァイザーを下ろした紅蓮は早急にラクシャータによって整備をされていく。その手際の良さにカレンは思わず目を瞠ってしまった。
「データを取りたいのさ」
「は?データ、ですか??」
「初の実践採用だからな。ランドスピナーの減り具合なんかを確かめたいんだろう」
「ふぅん……」
「まぁなんにせよ、初陣、お疲れ様」
「あ、はい。殿下こそ。お勤めご苦労様でした。」
「……ぷ……」
「へ?」
「あ、いや。その言い方じゃあヤクザみたいだ」
「そ、そんなつもりじゃ……」
顔を赤く染めて口ごもるカレンにルルーシュが溜まらず笑い出した。実に無邪気そうに。ルルーシュとて緊張していたのだろう。その緊張から開放されたのだから気が抜けたのだ。笑いも一段落してきて、ルルーシュは大きく息を吐いた。
「さて、ラクシャータの質問攻めが始まる前に軽食でもどうだ?腹が減っただろう?」
「あ〜……そういえば……」
そう言われてお腹に手を当てる。よくよく考えると本国に朝早く着いて手続きなどをして……としている間にいきなり戦場へと出向いてきたのだ。移動中も簡単なものを口にしたがこれから戦場に出ることを考えると満足に喉を通らなかった。
するとタイミングよく……きゅるる……と小さく鳴く。なんて素直なお腹……とカレンがじと目で見つめるとルルーシュが歩き出している。慌てて後を追いかけた。横に並ぶと小さく微笑まれる。
「これからも度々こういう事があるだろうからな。出来るだけ早く慣れてくれると助かる」
「はい!頑張ります!」
* * * * *
……という会話をしたのが1ヶ月半前。
それから度々イレギュラーな援護要請がある度に出向き、戦場でカレンは『真紅の鬼神』との異名がつくまでになった。それはルルーシュの策略のおかげだと言ったが、彼女は「策略があってもそれを行う者の力量がなければ意味がない」と言ってのけた。
そんなわけでルルーシュが援護要請を受けた戦場には必ずカレンの駆る紅蓮の姿もあった。スザクともあれから何度か戦場で共にしており、紅蓮のデヴァイサーがカレンであることは知っている。しかし指令である彼女の正体は今だ伏せられたままだった。
とはいえ……この『度々』というのが相当厄介であった。
何せ、「出かけるぞ」としか言わなかったりすることがほとんどだからだ。それ故に慣れる頃には服装で戦場か否かを判断出来るようになっていた。
その矢先に……これだ。
『三日後にカレンの騎士叙任式』
おいおいおいおいおい……
思わずツッコミを入れてしまうカレンであった。コレが怒鳴り来ずにいられるだろうか?当人にはなんの連絡もなしにそれって……もう呆れるしかない。
せめて何か意趣返しをしてやりたいところだがこれといって何も思い浮かばないのが恨めしい。
思わず天井に向かって……うー……と唸っていると小さい機械音で奏でたクラシックの曲が鳴り出した。と、ソファに不貞腐れながら伏せていたルルーシュが顔を上げる。スカートを踏みつけてしまわないようにわさわさと掻き集めると傍机へと歩いていく。そこには彼女の携帯がメールを知らせるように点滅していた。携帯を開いて内容を確認する彼女の表情が一瞬和らいだものになったのをカレンは見逃さなかった。
「……スザクですか?」
「あぁ、今宮殿に戻ってきたらしい」
「ふぅん……あ、返事はされないんですか?」
「ん?あぁ、別に」
「じゃ、貸して下さい。」
「あ、こら!勝手に返信するな!」
「大丈夫ですよ。最後に私の名前入れますから」
メールの内容を確認した後、机に戻そうとしているのをカレンが横から奪った。そうして断りをいれつつスザクに向けてメールを打っていく。送られてきているメールの文がたくさんの改行の下に『アイシテル』とかって入ってたように見えたが、さっき内容を確認している時に全くスクロールしてないところをみると見ていないのだろうな、とか思ったが、今はそれよりもやることがある。
手早く文章を打ち終えるとルルーシュが内容を覗き見る前に送信してしまった。
「何を送ったんだ?」
「すぐ分かりますよ?」
「むぅ……?」
とても機嫌がよさそうな笑みを作ってパタンと携帯を閉めると窓の外に広がる庭園の向こうに見慣れた色のマントが見えた。「……早すぎ……」と呟いたがにこにこと笑みを再び浮かべたカレンが携帯を持ったまま先ほどの輪に戻っていく。その様子にルルーシュは更に首を傾げるだけだった。
「マリアンヌ様」
「なぁに?カレン」
左右にナナリーとユーフェミアが座り、三人で髪型をどのようにするかとずっと悩んでいたらしく、正面に座ったカレンにようやくといった雰囲気で気付いた。他の二人も釣られたように顔を上げる。と、カレンがにーっこりという笑顔を浮かべた。
「こういう時は男性の意見を聞きませんか?」
「男性?」
「スザクさん、お戻りになったんですか?」
「まぁ!ちょうどいいわ!さっそく連れて参りましょう!」
「もうすぐここに着くみたいですよ」
「私も迎えに行きます!」
「なにッ!?」
カレンの言葉に名案とばかりにナナリーとユーフェミアが部屋を飛び出していく。それに対するルルーシュの反応はカレンの想像通りだった。一気に顔が青褪めたかと思うと次には真っ赤にしてわたわたとしている。こんな反応しておいて「スザクは幼馴染のような存在だ」と言い張るところが鈍いというか疎いというか。
とにかく……スザクが可哀想に思えて仕方ないカレンだった。まぁなんにせよ。意趣返しは成功したようなものだ。後はスザクの好きにしてもらえればそれで充分。
ふふん、としてやったり顔のカレンに小さく笑みを漏らすとマリアンヌもここぞとばかりに乗ってきた。
「良かったわね?ルルーシュ。スザクならぴったりなもの選んでくれるわよ」
「それ以前にこんな姿見せたくない!」
普段からパンツスタイルなのにいきなりこんな女性らしい姿など笑いの種にしかならない!などと呟きどこかに隠れられないかと悪あがきをしている。しかし、『姉想いの妹二人』が僅かな猶予をもぎ取ってしまったようだ。開け放たれたままの扉から廊下での話し声が響いてくる。
「お姉様、スザクさんが参りましたよー」
「ちょ……お二人とも……そんなにひっぱらなくても……」
「だーめ!早くしないとルルーシュのことだから窓から飛び降りてでもとか考えかねないわ!」
「あらぁ……読まれてるわねぇ、ルルーシュ」
「いやぁ、さすがは妹君」
「くそ!もうそこまでッ……」
「でーんか♪」
ふわふわのスカートを存分にはみ出させたまま机の影に隠れようと躍起になっている彼女の手を取ると、まるでダンスでもするかのようにくるりと回りつつ引っ張り上げる。その勢いに勝てないまま前のめりになりつつ足を縺れさせながらルルーシュは部屋の中央まで歩み出てしまった。そこでがっしとばかりにカレンが両手の指を絡めてくる。にこにこととても楽しそうなカレンの笑顔にルルーシュが引きつった笑みで返すと……
「良かったですねぇ?すぐに来てもらえて」
「あ!さてはさっきの返信メール!」
「さぁ?なんのことでしょう?」
「しらばっくれるな!」
「いいじゃないですか。心の準備は今の内に出来るんですから」
「くっ……仕返しのつもりか!」
「さぁ〜あ?」
ルルーシュとしては力の限り手に力を込めているつもりなのだろうが、カレンには強く握り返されている程度に感じる。そうこうしている間にも件の人物は部屋の前まで来ていた。
「「連れてきましたぁ〜」」
「失礼致します」
「あ!スザク!殿下がそっちに!!」
「ほああぁ!?」
わざとらしいにも程がある声を上げたカレンにルルーシュはどーん!と勢い良く突き出されてしまった。勢いもそのまま部屋に入ってきたところのスザクの胸へと顔から突進する。
それを難なく受け止めると向こう側でぐっと力こぶを作るカレンが見えた。そして横に視線をスライドさせればマリアンヌが部屋から出て行こうと立ち上がっている。その彼女を見ていると唇に指を当てつつ、一緒に入ってきた皇女二人と一緒に部屋から出て行ってしまった。二人してウィンクを残して。
そしてもう一度カレンを見ると意味ありげな笑みで肩をポン、と叩かれると彼女も部屋から出てしまう。
残されたのは床に広がる髪飾りなどのアクセサリー類とスザクの腕の中で硬直したままのルルーシュ。
「……ルルーシュ?」
「!」
廊下に出たカレンは小さくため息を漏らした。扉越しにルルーシュが何やらスザクに対して怒鳴っているのが聞こえるのだ。
……このくらいは許されるよね?とちらりと考え……
「カレーン、お茶にしましょうかー?」
「はい!ただいま参りまーす!」
ま、いいや♪
Menu
TOP