いつものように学校から直接ゲットーに下りて扇さん達が集まっている倉庫へと向かう途中だった。
今の今までいた完全に設備された租界とは違い、ゲットーは戦争の時の傷を癒せぬままに人々が暮らす場所だ。充分な物資もなければ食料なんてあるわけもない。殺傷沙汰なんてすぐそこで起きているような場所。
さすがにそんな場所へアッシュフォード学園の制服のまま来るのは危険なので駅のトイレで目立たない私服に着替えた。髪型だって、学校では病弱設定をしているのでまっすぐに下ろして清楚なイメージのみにしているが、ゲットーではいつものように癖のもった髪を跳ねさせてある。本当ならば女の子一人でこんな場所に来るべきではないが、私は大丈夫。だって日ごろから武術を嗜んで鍛えているもの。だからあんな風に……風に?
「おいてめぇ!このブリキやろーがとっとと出て行け!」
「………」
「ここはゲットーだ!てめぇらのようなお高い奴らが来る場所じゃねぇんだよ!」
あぁ……また絡んでる。それにしても、わざわざゲットーに下りてくるブリタニア人だなんて……なんて暇人なのかしら?
絡んでる人達で見えないけど……小さい男かしら?
だとしたら……何?こいつら弱い者苛めしてるっての?まったく……やめてよね?そんな日本人の面汚し。ってか、だいたいそこのブリタニア人が悪いのよ。こんなところでふらふらしてるから。強面のお兄さんが脅してるんだからさっさと泣いて出て行けば良いのに。
「聞いてんのか?てめぇ!」
「大声を出さなくても聞こえている」
「ならさっさと出ていけよ!目障りだ!」
「目障りなのはわざわざ俺の姿を見るからだ」
「んなッ!?」
ちょっとちょっと……黙って言う事聞けばいいのに……何言ってんの?このブリタニア人。わざと怒りを煽るような事言ってるんじゃないの?あんないかにも上から目線の言い方、どんなに温厚な人間でも神経逆撫でされるに決まってるじゃない。
「それに出て行けと言われても従う気はない」
「なに?」
「俺にはなさなくてはならないことがある。だからそこをどいてくれないか」
「ッてっめぇ」
……あぁ〜……もう!
「失礼!!」
「なんだッ!?」
「うあ!?」
私は咄嗟に男二人の後ろへ駆け寄ると一気に足払いをかけた。すると、案の定。二人がドミノ倒しのように折り重なって倒れた。その隙に私はブリタニア人の腕を取って走り出す。
全く……何やってんのかしら……私……
さっきいた場所から通りを2・3本ほど移動して更に雑踏とした人の中を縫うようにして走りぬける。そうして人気のない路地まで来るとやっと足を止めた。
さて。お節介だったことは分かってるけど説教の一つくら……い……
「…………」
「あの……大丈夫?」
眉間に皺を寄せて後ろを振り返るとブリタニア人はぜぇぜぇと肩で呼吸を必死に繰り返していた。両手で膝を掴み、俯いたまま。もう、息も絶え絶え。窒息寸前。そんな感じ。
……そんなに……早く走ったかしら?
説教を垂れるつもりがそんな姿を見れば出来るわけもなく。とりあえず背中をさすってみる。
そこでようやく私はその人物を見た。
白いジャケット。鶯色のパンツ。薄い桃色のブラウスに紺色の細いネクタイ。俯いてるから顔は分からないけど……髪は猫っ毛なのか毛先が少し撥ねていて肩より短い位置で切りそろえられている。今時珍しい黒髪の隙間から覗く白い肌が日本人ではないことを物語っていた。腕を掴んだ時はとにかくその場所から離れることしか考えてなかったけど……細い。腕だけかと思ったけど、そうでもない。全体的に細い。でも身長は多分私より少し高いくらい。
「……とりあえず、座ったら?」
「……いい……落ち着いてきた」
「あ……そ……」
その言葉に嘘はなく、忙しなく動いていた肩がゆっくりと動くようになってきていた。あぁ、体力ないのか。この体の細さからして筋肉なんか全くついてなさそう。非力なんだ。……どうしよう……そろそろ行かないと扇さんに心配かけちゃうな。
落ち着いてきたんならもういいよね?
「……わ!」
じりっと少し離れようとするとがっしとばかりに腕を掴まれた。思ったより力強い指に驚きを覚える。目を瞬かせてるとブリタニア人は深呼吸して顔を上げた。そしてまた私はびっくりする。その顔が端整な造りであることもそうだけど、吸い込まれそうな綺麗な紫色の瞳をしていたからだ。
……不思議な色……
「あの場から連れ出してくれたのに礼は言うが……もう少しマシなルートはなかったのか?」
「んなッ!?」
瞳に見とれていると文句を言ってきやがった!しかもどこか小バカにした雰囲気がある。
「あちこちコンクリートが割れていたから躓いて転びかけた」
「知らないわよ!そんなこと!!大体!この辺の道は全部こうなのよ!」
更に文句を重ねてきたから言い返してやった。これだからブリタニア人は!どこもかしこも綺麗に整備されてるのは租界だけなのよ!
そう言った意を込めて言い放つと腕を掴んだ手が微かに震えた気がした。次いでその高慢な表情に陰りが帯びる。
「そう……か……」
どこか苦しげに呟く声に私は首を傾げる。何?突然。そんな顔されても、コレがブリタニアでは当然なんでしょう?
訝しげな表情で見つめていると何かふっきれたのか、反らしていた視線をまた投げかけてきた。
「ところで」
「な、何よ」
「さっきの回し蹴り。何か武術を嗜んでいるのか?」
「へ?」
「空手とか柔道とか古武術とか……」
「……か、空手」
「そうか!何段くらいだ?」
「はぁ?」
「ん?空手って段があったんじゃなかったか?」
「いや……ある、けど……自己流だから。正式な空手じゃない」
「自己流か……」
じっと確認をするように見つめられてしまってなんだか居心地が悪かった。なんだか疑われてる雰囲気もあって尚のこと嫌だ。自己流の何が悪いってのよ?いいじゃない。要は勝てばいいんだから。そうよ。その証拠に……
「でも……そんじょそこらの男に負けないもん」
「なるほどな。それで女の子一人でもうろうろしてるわけだ」
「あ……あんたこそ。ブリタニア人がゲットーなんかで一人ふらふらしてたら危ないじゃない」
「俺だって護身術くらいは心得ている」
「護身術ぅ?」
「合気道」
……はぁ!?合気道って……あの……襲い掛かってくる人をひょいっと簡単に投げ飛ばす……あれ?!
「あ、合気道!?ブリタニア人のくせに!?」
「幼馴染がこれなら俺にも出来るからって叩き込まれた」
「あぁ……あんた見るからに非力だもんね」
「悪かったな。……どうでもいいが。ブリタニア人、ブリタニア人と……一括りにしないでもらえるか?」
明らかに不機嫌そうな表情で、更にこの上不愉快極まりないと言わんばかりの声で注文をつけてきた。何よ。ブリタニア人はブリタニア人じゃないの。
そんな私の思考を読み取ったのか、腕組みをして軽く睨まれてしまう。そ、そんなんじゃひるまないんだから!
「俺が言っているのは……君の知る『ブリタニア人』と一括りにするなという事だ」
「へ?」
「君が知っているのは『差別と見下すのが楽しくてならない豚ども』だ」
「な……!?」
「間違っているか?」
「違わない……けど……豚どもって」
「はっ……あんな連中、人間扱いする価値もない」
「………」
何それ?こいつ……本当にブリタニア人なの?
「……名前は?」
「え?」
「君の名前。」
「紅月……カレン」
しまった……うっかり名前答えちゃった。慌てて口を塞ぐと思った通りきょとんと驚いた表情をしている。
「……日本人?」
「……ハーフ……」
……そうよ。私の見た目は日本人よりもブリタニアの方に近い。家もブリタニア人の父方に引き取ってもらって生活している。ブリタニア側が運営してるアッシュフォード学園に通ってはいるけど……それは母さんの願いだからだ。私には酷い差別を受けて欲しくないって……
でも私は自分がブリタニア人なんかじゃないって思ってる。私は『紅月カレン』。日本人だ。
「そうか」
あっさりとした返事が返ってきた。なんだか大したことじゃないって感じ。なんなの?拍子抜けしちゃう。
あれ?こいつさっき日本人って聞いてた。
中立の立場を取ってるとかって言い張ってる割に、そうでもないアッシュフォード学園。そこにいる人達だって……『イレブン』って呼んで、『日本人』なんて口にしない。だって……口にしたら『純血派』の生徒から目を付けられて何されるか分からないもの……
「なんだ?『ブリタニア人』の俺が『日本人』なんて言葉を口にするのがそんなにおかしいか?」
「おかしいっていうか……初めて見た気がする」
「……だろうな」
「………ねぇ」
もやもやする。心に何か引っかかってる。目の前にいるのは生粋の『ブリタニア人』。でもその『ブリタニア人』を『豚ども』なんていう。
「私の知ってる『ブリタニア人』は……あなたの知ってる『ブリタニア人』とは違うの?」
「……興味が湧いたか?」
「どうなの!?違うの!?違わないの!?!」
「違う。全く違う」
鼓動が早くなる。……なんだろう?何かが打ち寄せてくるような感覚がする。
頭の中がくらくらしてきた時、目の前にすっと手が差し出された。視線を上げると目の前の男が私に手を差し伸べている。
……何を表してるの?この手は……
「俺と一緒にくるか?」
「……え?」
「世界を見に」
「……世界?」
「カレンが『事実』を知る覚悟があるのなら」
「……覚悟……」
『事実』。何かがおかしい。このエリア11。
その事に気付かせてくれたのは目の前の男。その男が、『事実』を見せてくれると言っている。
「……みたい……」
「覚悟は?」
「あるわ」
ぎゅっと手を掴むと男がふわりと微笑んだ。
* * * * *
「ちょ……ちょっと……どこ行くのよ?」
あの後「ならば付いて来い」と言われて目の前を歩く男の後を追いかけている。ゲットーを抜けるまでは(私が勝手に連れまわしたこともあって)足取りがおぼつかなかったものの、租界に戻るなり目的地に向かって淀みなく歩いていく。追いつけない速さではないけれど…その向かう方向に心当たりが……
「どこだと?言っただろう?俺と一緒に来るか?と」
「そ、そうだけど……この方向って学園があるだけでしょ?」
「あぁ、そうだ。」
「……学園に用でもあるの?」
「俺がここに滞在している間、間借りさせてもらっているのがアッシュフォード学園内の建物だからな」
「……はぁ!?」
「なんだ?何か問題でも?」
「……いや……その……」
「……あそこの生徒か?」
「う……」
なんでこいつはこうも鋭いのかしら?ちょっと言いよどんだだけなのに……はっきりとは答えなくても言い詰まった時点で肯定してるも同然。そんな私を見て、彼は「ふむ」と言って腕組みをすると思考を巡らせ始めたようだ。けれど足の歩みが止まることはない。
「別口から入ろう」
「え……あ、ちょ!」
気付けば校門の前にまで来ていたのだけど、彼が私の腕を掴んで急に走り始めた。そのまま校門の前を通り過ぎて生垣の生い茂る辺りまで来る。そうしてふと立ち止まるとその生垣に突っ込んだ。き、木が!枝がぁ!!!……って思ったのも束の間。思わず瞑った瞳を開くと生垣の木がアーチのように口を開いているのに気が付いた。外見は葉が覆い茂ってて分からなかったけど……
ようやく腕を離された時、目の前にあった建物はこの学園内に立つクラブハウスだった。特に何にも使われてなくて誰も近寄らない建物。全く使わないのももったいないから最近生徒会で使おうかとかいう意見が出ているらしい。けど……
「クラブハウス……って……枢木スザクがいるんじゃ……」
「あぁ。あいつは俺と一緒に来たんだ」
「はぇ?」
確か……枢木スザクってナイトオブラウンズなんじゃなかったっけ?ナンバーズ初のさ。それで今回はとある任務でここに来てて、仕事の合間に学園へ来てるって。そう言ってたような気が……
それで学園に来易いし、仕事でもここは都合いいからってことで理事長に特別に借りてるんだって言ってた。
え?何?じゃあその仕事って……こいつと一緒ってこと??
ぱちくりと呆けている間に彼は懐からカードを取り出してキーを解除し中へと入って行った。その後を慌てて追いかけると広いホールが迎えてくれる。見上げるような高さの吹き抜けのホール。思わず見上げていると二階の手すりから人が顔を出してきた。
「おかぁえりぃ〜」
「ただいま。スザクは?」
「まだよぉ?」
「そうか。良かった」
現れたのは金髪の女性。白衣のような白い独特のデザインをしたコート、大きく開いたブラウスにすらりと伸びた足にはぴったりとフィットするパンツ。大きくウェーブを描く金髪、褐色の肌からどこか他の国の人だってことは分かる。この人もブリタニア人かしら?確か褐色のブリタニア人もいたはず……
ホールの階段をゆっくり下りてこっちに向かってきている。甘い匂いのする煙を漂わせながら近づいてきた彼女はじぃっと私を見つめてきた。
「今回の目的は果たせた」
「あらぁ……いい感じの見つけてきたのねぇ?」
「な!物扱い!?」
「んー?そんなつもりはないけどぉ?」
くすくすと笑い声が漏れてくる。なんか余計に腹が立つ。むぅっとちょっと脹れてるとぽんと肩に手を置かれてびっくりした。
「ラクシャータ、さっそくテストしてやってくれるか?」
「へ?テスト?あたし学力はそんなに自信ないわよ!?」
「あっはっはっ違う違ぁう」
「じゃあ……なによ?」
「戦闘技術よぉ」
「へ?」
「こっちだ」
「え?」
何がなんだかさっぱり話が見えないままに私は奥の部屋へと連れて行かれてしまった。
そこから小一時間……
正直無我夢中で記憶がさっぱり残ってない。頭ン中が破裂しそうなほどに次々とナイトメアフレームや戦闘の知識を与えられていく。でも一応私だって自己流ではあるけど、ナイトメアにも乗れるし、戦うことだって出来る。日本人の意地を舐めんなー!!!!!
「………」
「ほお」
「ん〜……いいんじゃなぁい?」
「何?その曖昧な評価」
「なんだ?ベタ褒めしてほしいのか?」
「遠慮願います」
ベタ褒めとか絶対に嫌。恥ずかしいったらないに決まってるもの。でもまぁ……それでも……
ふと目の前のモニターの数字に目をやった。92%。まずまず……じゃない??
そう。私は今奥にあるダンスホールにいる。はっきり言って、ダンスホールって言われなきゃ分からない。だって置いてあるものが扇さん達と拠点にしてる倉庫と変わりないんだもの。横になったナイトメアにパーツ類がごろごろ。その中にあるシュミレーターの機械に私は腰かけ実際にシュミレーションを使ってナイトメアを操作させられていた。そして弾き出された数字が『92』。ナイトメアとの適合率だ。
とはいえ、今操縦させられてたナイトメアはグラスゴーなんかと比べ物にならないくらい早く動くし、パワーも圧倒的。しかも……輻射波動とか言ったっけ?右腕の武器がすごいったらない。こんなの実在したら敵の殲滅は確実ね。
「思った以上の数値が出たな」
「え?そうなの?」
「あぁ。85から90に限りなく近ければいいかと思ってた」
「?はぁ……」
「ふふ……褒めてるのよぉ」
「え?」
「ラクシャータ!」
思わず顔を見上げると頬が真っ赤に染まっている。図星ってこと?あたし……期待に答えられたんだ。
なんだろう?……ちょっと……嬉しいかも……
「あたしも満足よぉ?この子なら乗せてあげていぃわぁ」
「え?乗せるって」
「今シュミュレーションした機・体」
「え!?実在するんですか!このナイトメア!」
「そぉよぉ?紅蓮弐式ちゃんっていうの」
「紅蓮弐式ちゃん」
「ちゃんはいらんだろ」
しまった……ついつられて……
「それにしても飲み込みが早かったな。ナイトメアに乗った事あったか?」
「えぇ、グラスゴーに乗ってる」
「現在進行形だな」
「あ……」
「どこかの組織?」
「う……あ……」
「あぁらぁ……大変」
「や!あの!」
「大量生産は出来そうか?」
「ふあ?」
「そうねぇ……無頼なら簡単だけどぉ……どぉせなら今、開発中の量産型がいいわよねぇ?」
「もちろんだ。開発を優先させてくれ。今すぐ動くつもりはないからな」
「はぁい」
「カレン、後で人数を教えてくれ。開発が済み次第優先して作ってもらう」
「は……は、い」
あれよあれよという間に話はぐんぐん進み、どうやら一段落ついてしまったようだ。だめ、頭の無駄に良すぎる人たちの話になんか付いていけっこない。むしろ付いて行く気もさらさらない。ぼんやりと目の前の二人を見上げているとホールの扉が開いた。
「枢木スザク、ただいま戻りました。任務に復帰します」
「相変わらずお堅い事言うな、お前は」
「あぁ……いや、その癖で……」
「まぁいいさ。おかえり、スザク」
ナイトオブセブンの枢木スザクだ!元首相の息子のくせに裏切った日本人!じっと睨んでいるとこっちに向かって歩いてくる。
そこでふと気になった。
笑顔だ。学園内でも笑ってる事もあるけど……なんていうのか……柔らかい雰囲気。ホーム?家、とか……家族の元に無事帰って来た、みたいな。彼が視線を投げる先に視線を移すとこちらも笑顔を浮かべている。さっきまでの高慢な雰囲気が少し和らいだ気がするけど……
なんだろう?この二人。
ぽかんとその表情を見上げていると突然背中に悪寒が走った。びくりと肩を震わせると発生源の人物をもう一度見る。……顔は穏やかな笑顔。なのに……なんだかめちゃくちゃ寒いッ!
「ルルーシュ?」
「うん?なんだ?」
「どうして君、その服装でその髪型してるの?」
「!」
とっても穏やかな笑顔なのに発する声に震えが走る。声音もちょっと固い気がする。なにより、言われた男の顔も固まっている。ついでに冷や汗とか流してて……
「これ、は……」
「これは?」
「練習……」
「ふぅん……練習?」
「……じゃなく……」
「なく?」
居心地悪い!かと言ってここから出るタイミングもまったく見当たらない!!しかもなんか私まで冷や汗が流れ出してきた!何もしてないってのにッ!!
視線を反らす事も出来ずにじっと耐えているとラクシャータさんが口を挟んでくれた。
「素直に言った方が言いんじゃなぁい?」
「……ルルーシュ?」
「……………勝手に外出した」
「約束、したよね?」
「……う……ん……」
青ざめた顔で自白した男はよくよく見ると少し震えているようだった。
……そうよね……部外者のはずの私ですら震えるくらいだもの。
彼の返事を聞いた枢木は一つ深いため息をつくと部屋から出て行ってしまった。男の方はというとまるで彫刻になってしまったかのようにその場から動かないで入る。その様子にちらりと瞳を上げてラクシャータさんを見上げると「もうちょっとだけ待ってねぇ?」と小声で呟かれてしまった。
……うぅ……待たないといけないのか。ってか私は部外者なんだから真っ先に解放してくれてもいいと思うんだけど……
そんなことを考えていると枢木が椅子を一脚携えて戻ってきた。あと小脇に小さい箱も抱えている。
「座ってください」
…敬語!?なんか急に雰囲気っていうか……纏ってる空気が全然変わってしまってる。
……ナイトオブセブン仕様?
じっと見ている内におずおずと男が腰掛けた。その正面に回って枢木スザクはゆっくりとした口調で、けれど有無を言わせぬ響きを持って話始めた。
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