毎年のことではあるが、うだる暑さと照りつける太陽の下。
いつもと変わらない日々が続くのだと思ったとある一日だった。
ずっと続くと思ったその流れは一人の人間によって脆く崩れ去る。
一瞬にして彼の色彩に目を奪われた。
白磁のような肌の色、夜の闇を紡いだような漆黒の髪。
何よりも心を捉えたのは高貴な色だと教えられた貝紫色をした瞳。
宝石なら紫水晶、アメジストで例えられるだろうな。
いつも妹ナナリーの側に寄り添い、その微笑を向けていた。
その笑顔を見る度に胸がちくりと痛んだのを今でも覚えている。
そして…
それが何を意味していたのかも…今なら…分かる。
いや。
分かった。
なぜなら…
世界が輝きを取り戻したように感じたから…
七年前のあの時に失った輝き。
地下の…光さえまともに入ってこなかった場所にいたのに…
君の姿を見た瞬間に。
そう…あの瞬間。
「 スザクなのか? 」
僅かな光の下に照らし出された君。
七年前とは違って、すらりと伸びた四肢に変わらない紫水晶の瞳。
強い光を称えたその瞳はあの頃とちっとも変わらなくて…
むしろ変わったのは…俺。
あの頃は気付かなかった気持ちが暗く、深く心に根付き広がっていく。
手を伸ばして掴み取りたい衝動に駆られる。
俺のものに…俺だけのものに…俺のだけの…
せっかく会えたのにすぐに分かれる羽目になって…
でも。
同じ学校…同じクラス…同じ空間に…君がいて…
七年前によく使った合図も覚えていた。
今また間近にいる…手を差し伸べればすぐそこに。
前と変わらぬ少し高飛車な雰囲気を漂わせる笑顔…
前と変わって少し低くて落ち着いた声音…
七年…それはちっとも変わらないようで確実に変わってしまえる時間。
変わった俺と変わらない君。
変えるつもりはない。
これはずっと秘めておくべきだと分かってる。
でも。
「…俺はルルーシュを愛シテル」
抑え続けるなんて出来なかった。
驚愕に見開かれる紫水晶に引き寄せられるよう、
その唇に自らのそれを重ね合わせる。
後悔はしてないよ。
だって
これでルルーシュが俺のことばかり考えるようになるでしょ?
「…俺はルルーシュを愛してる」
突然だった。
七年前に使っていた合図を交わして二人屋上で話していて…
そんな…これといって特別なことはしていなかった。
頭がついてこない。
ただただ見つめるしか出来ないでいると、そっと腕が伸びて頬に触れられる。
そして…
唇が重なった。
「覚えていて…ルルーシュ」
柔らかく抱き込まれて耳に言葉が吹き込まれる。
「謝らないし、なかったことにするつもりはないから…」
ふわり、と笑う顔が脳裏に焼き付いて離れない。
何を…言ったんだ?スザク…
分かっているのか?
俺は男で、お前も男で…
愛していると言っても、キスをするような対象にはならないだろう?
違う…
そんな事を気にしているんじゃない。
俺は…『ゼロ』だ。
ブリタニアに牙を剥く反逆者だ。
スザクは敵だ。
…敵なんだ…
もう子供の頃のようにはいかない。
破滅させる為の力を得た。
あの頃とは違っている。
まして、地下で再開した瞬間からももう変わってしまったんだ。
屈託なく笑うその笑顔。
『ゼロ』を拒絶した固い意思。
なんとかしてこちら側に引き込みたいと願う。
唯一の友を。
傍にいてほしいのに、
お前は『ゼロ』を、『俺』を拒む。
…滑稽だな…
仮面を被ることでお前は俺の敵になるというのだから。
『愛している』
だと?
ふ…ばかな。
スザク…お前は俺の半分しか知らない。半分しか愛していないんだ。
非力で、何も出来ず、ただ絶望するだけの弱い人間。
そんな俺しか知らないで…よくそんなことを言えるな?
お前はただの友達。
幼い頃を共に過ごしただけの、友達にすぎん。
なかったことにするつもりはないと言うならそうすればいい。
俺の中ではなかったことにすればいいだけの話だ。
キスも…猫に舐められたとでも思えばいいだけ。
そう。
すべてはそれだけで済む。
簡単なこと。
簡単な…ことだ。
なのに…
何故…こんなに胸が痛む?
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