『過去』の後に読むことをお奨めします

―Sequelae



「……っは……」

 口から漏れる熱い吐息に蛮は目が覚めた。躰の奥から湧き上がる熱は身に覚えのある物。当の昔に消え去ったと思ったそれは未だ蛮の体内に残りこうして蝕み続けている。回数としてはさほど多くもないが忘れた頃を見計らって襲いくるから、思い出させるような意思を持っているのではないかと錯覚してしまう。
 吐く息の温度が更に上がる。横を見れば穏やかな表情で深い眠りを貪っている相棒の寝顔。起こしてはまずいと思いそっとベットから抜け出そうとする。……が……

「ッ!?」

 不意に伸ばされた腕が蛮の腰に絡みつく。そのまま布団の中に連れ戻された。抱き枕のように抱き込まれ、足を絡められる。布が肌を擦れる度にぴくりと跳ねる躯を持て余しながら蛮は爆発しそうになるそれを懸命に抑えた。

「……ばんひゃ〜ん……」
「……」

 完全な寝言。しかもどんな夢を見てるのか、胸元で頬擦りをし始めた。

「!?」
「ばんひゃんの……ほそごしぃ〜……」
「………」
―ゴッ

 どうやら夢の中でも蛮を抱きしめているらしく、その間の抜けた表情が無性に腹が立ち思い切り殴ってしまった。いつもの癖(?)が出てしまいしまったか、と内心焦ったが「……いたいです……」と呟いてするするとたれてしまった。何はともあれ、解放されたのでまた捕まってしまわない内にさっさとベットから下りていった。

 時計に目を走らせるとデジタルの数字が3から4に変わるところだ。なんとも中途半端な時間。どうしたものか、と思ったが一先ず今躰の内を暴れ回る熱を逃がすべきだと思い、蛮はバスルームへと向かった。
 パジャマを脱ぐのももどかしく、ボタンを外しただけでシャワールームへと入って行く。パネルを操作してなるべく低い温度に設定をすると頭から水を被った。いくら躰が熱いと言っても季節は秋。朝は少し冷え込む。さすがにこの温度では風邪を引いてしまうと思い、水から微温湯に変える。
 肌を跳ねる水飛沫が気持ちいい。髪を掻き上げ小さく息を吐くと自らの肌に手を這わせる。水を含んだ布が肌にぴったりと貼り付き胸の突起が目立っていた。それを片手で弄りもう片方の手は更に下降させる。
 ぴくりと躰が震えた。躰の中心でその存在を目立たせつつあるソレに、布の上から撫で上げると自然と腰が揺れる。布の上から触るだけでは物足りなくなりズボンの中へと手を差し入れた。なんの躊躇もなく掴み取ると我慢出来ないとばかりに扱き上げ始めた。

「っあ……はぁん……」

 途端に口から零れ落ちる痴声にまた躰を震わせた。シャワーの音と共にバスルーム内に声が響き渡る。もっと快感を…と貪る為にシャワーの粒が躰の中心へ当たるよう、躰の位置をずらした。自らの肉棒、胸の突起に休む事なく刺激を与え波に溺れていく。

「っあん……ぎ……んじぃ……っ」

 無意識に零した名前に自らを反応させて手の動きを忙しなく、激しくしていく。全身に張り付くパジャマが、躰中を這い回る舌のような錯覚を起こし更に追い上げる。蛮の躰が大きく震えだした時……

―こんこん……
「ッ!」
―「蛮ちゃん?」

 薄いガラス越しに銀次の呼び声が聞こえてきた。その驚きのせいか、それとも名前を呼ばれたからか。思わず肉棒を握り締め、その衝撃によって達してしまった。声は殺したものの躰を襲う脱力感には耐え切れず、ばしゃんッと音を立ててその場に座り込む。

―「蛮ちゃん!?」

 明らかに崩れ落ちたような水音に銀次が慌てて入ってくる。銀次の目に飛び込んできたのは出しっぱなしのシャワーの下で座り込んだままの蛮の後ろ姿。少し揺らいでいて今にもどこかに頭をぶつけそうになっている。
 その躰を後ろから支え、腕を伸ばしてシャワーの湯を止める。
 抱きとめた肩が大きく上下して呼吸を繰り返しているのに気がついた。

「蛮ちゃん?大丈……」

 銀次が蛮の顔を覗き込もうとすると、その顔が不意に上を向いた。あっという間に片腕を首に回され唇を奪われる。
 驚きに紡いだ唇を舌で舐められ、唇で啄ばまれると僅かに緩んでしまう。その隙を見逃す事なく蛮の舌が侵入を果たした。一瞬怖気づいた舌をあっさり絡め取られて擦り合わせられるともう銀次の理性が揺らぎ始めた。蛮の舌の動きに答えるよう、吸い上げる。すると蛮の躰がぴくりと跳ねてようやく解放された。

「蛮……ちゃん?……」
「……お前の……せいだかんな……」
「え??何が?」

 質問を重ねる間にも蛮が躰を反転させて銀次の首に両腕を絡める。さらに額、頬などへキスを繰り返し、半ば銀次を押し倒した状態へとなっていく。

「銀次が……悪ぃんだから……責任……とれよ」
「え?え??なんの?」
「俺様の夢に出てきて散々抱きやがって……」
「えぇ!?」
「おかげで……躰中熱ぃじゃねぇか」
「え……でも……でも……」
「俺の熱を解放しやがれ」

 妖艶な笑みが下から覗き込み銀次の目を捕えて離さない。もちろん夢の話はでっち上げだが、銀次の事だ。こういう言い方をすれば必ず乗ってくるはず。
 銀次が慌てて距離を置こうにも躰の中心で蛮の手が厭らしく動き回るともう逃げられなかった。
見詰め合ったままだった視線を先に外したのは蛮だった。銀次のパジャマのズボンをずらして緩く立ちあがったモノを口に含む。

「ッ!?」

 大袈裟なほどに躰を震わせ蛮の行動を見守った。ぴちゃ……と水音がするほどに蜜と唾液が混ざり合い、蛮の顎を伝って滴り落ちる。飴のように舐めまわしてはちゅぅっと吸い付き、手で追い上げるように扱かれると銀次に眩暈が起こる。
 更に追い立てようとする蛮の動きに慌てた銀次が躰を引き離す。その行動に蛮が不服そうな瞳で見上げてきた。

「そんな顔しないでよ」
「いきなり剥がすからだろ?」
「だってイきそうになったんだもん」
「イきゃいいだろ……ちゃんと飲んでやるぜ?」
「ッ!」

 顎を伝い落ちる蜜を自らの手で躰に塗りつけ挑発的な笑みを向けると銀次の顔が一気に赤くなった。理性を保つ為か、誘惑を振り払う為か、ふるっと顔を横に振ると蛮の瞳を見据えた。その瞳の光に今度は蛮が捕えられる。肌がざわりと粟立った。

「責任取るからさ……蛮ちゃんの躰いっぱい舐めさせて?」

 疑問系で綴られた言葉なのに、銀次は答えを待たずパジャマの張り付いた肌に歯を立てた。布の下に感じる滑らかな感触。パジャマの色を薄っすら纏った肌色がとても厭らしい。
 突起へ布越しに唇を押し当て、舐め上げれば微妙な感触に蛮の躰が震え上がる。散々舐めてから歯を立てれば甘ったるい声が漏れた。

「ね……蛮ちゃん……」
「んぁ?」
「ズボンが脱がしにくいんだけど……」
「……あぁ……湯に浸りながらのがいいんじゃねぇの?」
「……パジャマのままお風呂?」
「俺は今更だから構わねぇぜ?」

 すでにびしょ濡れなんだから今更気を使ってもな、と事も無げに言うと銀次が苦笑をもらした。

「じゃあバスタブにお湯はってくれる?その間にまだちょっとしか濡れてない俺はちゃちゃっと脱いで来ちゃうから」
「早く帰って来いよ?」
「早くってすぐそこじゃない」

 笑いながら言い合いをする内に蛮がふわりと離れて蛇口の方へと移動していった。栓を締めると湯気の立つ湯を勢い良く注ぎ込む。今にも鼻歌を歌いそうな蛮の表情に銀次もつられて笑みを漏らすと脱衣所に戻り手早く脱いでしまうと再びバスルームに戻った。

「……元気というか……強欲というか……」
「蛮ちゃんが愛撫したんじゃない」

 素っ裸で戻った銀次をタブの横に座り込んだ蛮が見上げる。顔から徐々に下りていくと躰の1点で目が止まってしまう。もちろん先程まで蛮が口で奉仕していた部分だ。
 気だるげに上体を動かし、それにそっと手を伸ばす。

「ぱんぱんじゃねぇか……」
「蛮ちゃんのそんな姿見せ付けられちゃあね……」
「一度出しとくか?」
「……お願いしていい?」
「任せとけ……」

 了解を得るなり蛮の唇が吸い寄せられる。少し伏目がちになっている瞳が厭らしく、銀次の下半身を直撃する。それを苦笑で誤魔化して急かすように蛮の黒髪に指を絡めた。それに応えるように銀次のモノを口の中へと収めてしまう。

「ッ……蛮ちゃん……両手でして?」
「んぅ……」
「そんな瞳しても駄目……あとでちゃんといっぱいしてあげるから」

 膝立ちした蛮の足の間で手が添えられているのが見える。
 銀次のモノを咥えつつ自らのモノも扱いていた蛮の手を取り上げると両手を添えさせて先を促す。懸命に舌を動かし竿や袋を揉み、銀次の気持ちいいようにと愛撫を繰り返す。「気持ちいい」という言葉の代わりに黒髪を梳いてやると心地良さそうに瞳を細めた。

「いい子だね、蛮ちゃん」
「ッ……んん……ぅ……」
「……も……出すよ……」
「!んぐっ……」

 蛮の頭に銀次の両手が添えられると押さえるように力が篭る。それと同時に銀次が口の中で弾けた。どくっと注がれる液体を喉の奥に収めてようやく唇を離した。力の抜けた震える躰を抱え上げ、半分ほど溜まったお湯にその躰を浸した。
 不安げな瞳が揺れて銀次を仰ぎ見る。

「先にズボンを脱がしちゃおうね?」
「……ん」

 小さく頷く蛮に満足すると湯船の中で膝立ちさせてずらしていく。ズボンを引っ張ると必要に応じて蛮が動き思っていたよりもスムーズに脱がせる事が出来た。次いで上着も脱がせてしまう。

「久しぶりだよね?一緒にお風呂って」
「お前が欲情さえしなきゃ今でも『一緒に入る』くらいならしたろうにな」
「あは♥」

 眉間に皺を寄せ見上げてくる蛮の上体を抱き締めながら銀次自身も湯船へと入っていく。開いたままだった蛇口を閉めた。

「蛮ちゃんはここに座ってね?」
「?」

 蛮が銀次の膝に座ると丁度水面が腰の位置に来る事に気付く

―どうせその方が眺めがいいとか言うんじゃねぇだろうな?

 そう考えを巡らせた。
 が、蛮の背中でぽちゃん、と何かが水に落ちる音がする。それを疑問に思ったが銀次がキスをせがんで来たので思考に耽るのは中断させた。啄ばむように何度もキスを繰り返していると、銀次の手が下半身を厭らしく撫でまわす。思わせぶりに双丘を撫で、間に手を滑らせては太腿の裏へと移動していった。
 数分も経たない内に変化が生じた。何も感じなかったお湯が纏わり付くような感じがしてきたのだ。銀次が腕を動かすとそれに応じてどろっとしたものが肌を撫でていく。

「んッ……?」
「……感じてきた?」
「やっぱ……何か入れたのか?」
「うん、せっかくのお風呂なんだから楽しまなくちゃ♥」

きらきらと輝きだしそうな銀次の笑顔に蛮は軽く溜息を漏らした。すると思わせぶりな動きしかしなかった銀次の手が本格的に動き出す。双丘の肉を掻き分け蕾に指を潜り込ませる。

「んッ!」

 びくりと仰け反った喉に銀次の唇が吸い付く。わざと音を立てて吸い付くと埋めた指を動かし始めた。

「ぁ……あぁッ……」
「気持ちいい?」

 いつもより早く緩和した蕾に二本目の指を差し入れる。すると蛮の上体ががくんと崩れ、銀次越しに壁へともたれかかった。後ろから差し込まれた指から逃れようと躰を捩る。

「ほら……逃げちゃ駄目だよ、蛮ちゃん」

 指から逃れようと腰を前に逃がしていた蛮の肉棒に手を沿わせるとそのまま滑り降りていき、指を咥えた蕾まで手を伸ばした。

「あッ……やめ……」

 すでに2本の指を咥えている蕾に前から差し入れた手で、もう1本指を咥えさせる。途端に蛮の背中がしなり、後ろから差し入れた指に腰を擦り付けるような形になってしまった。前からも後ろからも指を差し込まれ、その上中で自在に蠢かれると蛮の口からは嬌声しか出てこなくなる。腰が更に上へ上り詰めようと揺らされ、銀次の指の間からは粘着質な液体が内部へと侵入してともに掻き回される。

「あん……ぁ……ッぎん……じ……」
「うん?限界?」
「……ゃく……いれ……ッ……」

 蛮は快感の波に翻弄されつつ腰を揺らめかせ先を強請る痴態を曝す。でも今は自分がどんな姿を曝しているかよりも、躰の奥を攻め立てる熱を欲して止まない。
 蛮の切羽詰まった訴えに応えるように、銀次が指を抜き去る。途端に力を抜き崩れ落ちそうになる肩を抱き寄せた。水面から引き上げた指に水の塊が滑っている。

「ッ!?」
「……もう復活してんのかよ」
「……いつの間に……」
「いつも言ってんだろ?俺様が大人しくヤられると思うなって」

 多少呼吸を乱しつつも意地の悪い笑みを浮かべた蛮に、銀次は苦笑を浮かべた。主導権の交代の時間だ。

「たっぷり可愛がってやっからな」
「ほどほどにお願いします。」

 頬にキスをする蛮の腰を支えると、蛮の手が銀次の肉棒を導き始めた。軽く表面を擦ってから自らの蕾にあてがう。

「ッは……んんッ!」
「ッ!」

 ぐちゅ……っと音がしてもおかしくはないほどに濡れた互いのモノが繋がり始める。びくりと仰け反った蛮の躰を支えつつ、銀次も唇を噛み射精感を押さえるのに努力する。互いを覆うぬるぬるとした感触に身震いをした。

「蛮ちゃ……そんなに……締めないでよ……」
「ッく……ぅん……」

 銀次の腕の中で蛮の躰が跳ねる。次いで小さく震えて快感に溺れている事を伝えた。
 眉間に皺を寄せ、頬に朱を散らして耐える様は扇情的で吸い寄せられるように唇を重ねた。

「ん……っはぁ……あッ……あぁんッ」

 唇を解放するとすぐ、蛮が躰を動かし始めた。銀次の肩に手をついて躰を支え、快感を貪るべく上下に揺れる。しどけなく開いた唇からは熱い息と共に甘い声がひっきりなく紡がれた。

「ぎん……じぃ……」

 強請るような音を含ませた声で囁くと、躰中を撫でて回る手を取り、自らの欲望へと添えさせる。手の上から握って上下の動きに合わせるように擦り上げるよう促した。

「……ね……気持ちいい?」
「んっ……いぃッ……銀じ、もっ……と……」

 懸命に躰を揺さ振って更なる快感を追う蛮の表情は、銀次の瞳を釘付けにしてならない。涙に潤む瞳で強請られ、銀次も限界が近くまで上り詰めさせられる。

「……蛮……ちゃん……」
「あんッ!んっ……ひぁあッ」
「イく……よ?」
「はッ……ぅんッ」

 言葉を紡ぎ出せない代わりにがくがくと頷く事で銀次に答えた。肩に添えられた蛮の手に力が篭る。

「蛮ちゃん……一緒に……」
「んッ……うんッ……きて……銀次ッ」
「……蛮ちゃんッ……」
「ひ……あぁぁぁぁぁッ!!」


 全くといっていい程力の入らないぬめった躰をどうにか救い出し、シャワーで清めてともにベットへと向かう。
 まだ肌寒い朝の気候の中二人は何も着けずに抱き合ったままで潜り込んだ。足を絡め合い互いの背に腕を回し、銀次が顔中にキスを散らすのを蛮が笑いながら受け入れている。

「ねぇ……蛮ちゃん?」
「あ?」
「蛮ちゃんてさ……ヤってる最中に『いい子』って言われるとすっごく締まる気がするんだけど……『いい子』って言われるの、好き?」
「……別に」
「本ト?」
「……ただ、むず痒いかな?」
「言われ慣れないって事?」
「まぁ……そんなとこだろ」

 それはもちろん嘘。ただ最中によく『いい子』と言われ続けた事で躰が無意識の内に反応してしまうのだろう。これはもう癖としか言いようのないもの。この先どれほど銀次の腕に抱かれたとしてもきっと変わらないのだろうと蛮は思い小さく苦笑した。

「ふーん……そっか……」
「?なんだよ……その反応は?」
「んとね……今度する時は一杯言ってみようかな、って思って」
「はぁ?」
「だって……」
「何だ?」
「蛮ちゃんが気持ちいいと俺も気持ちいいもん」
―ゴッ
「いだッ!」
「お前は床で寝ろ」
「えぇ!?やだよ!風邪ひいちゃうじゃない!」
「勝手に引いてろ」
「そんなぁ〜……」



2004/09/15



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