荒く、一向に落ち着く事の無い呼吸。
 肌を伝う汗がどれだけの熱を俺に与えているかを表している。
 躯の中で感じられる他人の熱と鼓動のせいで、繋がっている事をまざまざと思い知らされる。
 先ほどまでは薄暗く、月の光を頼りにしなくては何も見えなかった部屋は、高い位置に備え付けられたライトによって照らされている。煌煌と明るい光の下。俺は銀次の腕の中にいた。
 ゆっくりと瞼を開き、自分が気を失っていた頃に気付いた。視界がしだいにはっきりしてきた。視線を上げれば自分の姿を映しこんだ姿見の鏡が置かれてる。その中で大きく開かされた自分の足が見えた。
 その中央には……

「っ……」
「どうかした?蛮ちゃん」
「べつ……にっ……」
「……嘘……ココ……ひくついてるよ?」

 つぅっとソコを指で弄られれば、精一杯の抵抗の言葉もあっさりと覆されてしまう。最後に残ってた記憶は銀次と繋がってともに絶頂を迎えるものだった。繋がったままである事と体の気だるさから、俺が気を失ってからも銀次はずっと中にいたんだろう。

「ね……蛮ちゃん?ココ、ひくひくしてるけど……何か言いたいのかな?」
「……知る……っか……」
「もぅ……頑固だなぁ、蛮ちゃんは……」
「……悪かっ……な……」
「ん?全然?だってその方がヤり甲斐あるでしょ?」
「……鬼畜……」

 悪態をついても銀次の嬉しそうな声音は変わる事はなく……むしろ楽しんでるような声音になった。
 口元に指を這わされて何度かなぞられるとふわりと産毛が逆立つ。ちょっとだけ舌先を出して舐めると指の動きが止まった。それをいい事に指を咥えると音を立てて舐め上げる。しばらくしたいようにさせてた指が再び動き出すと荒く入出を繰り返し、口の中を犯し始めた。肩越しに銀次の気配を感じて腔内を縦横無尽に動き回る指に翻弄される。舌を擦り上げられる感触にぞくりと身を震わせれば、蕾が無意識に絞まるのか……銀次が軽く息を詰めた。
 ぴちゃり……と音を立てて指を引き抜かれる。ソレを薄く開いた目で追うと中に納められたままの銀次がどくりと脈打った。
薄く笑みを漏らして繋がったままの部分に指を這わせる。銀次の付け根から咥えたままの開いた蕾まで、つぅっ……と撫でて軽く引っ掻く。

「……ッん……」
「なんだよ……まだ足りねぇの?」
「はぁ……うん……まだまだ足りない」
「みてぇだな……ぱんぱんじゃねぇか……」
「蛮ちゃんのせいだよ」
「あ?」

 とくんとくんと脈打つ付け根を指先でなぞっていたら不意に銀次の手が顎に添えられる。そのまま導かれるように前を向かされれば自分の痴態が映った鏡が見えた。俺の肩ごしに銀次の表情が窺える。飢えた瞳をして鏡の中から俺を舐めまわすように見つめていた。

「蛮ちゃんのせい……」
「……なんで?」
「そんなヤラシイ表情するから」
「んッ!」

 耳朶を食まれると途端に躰が浮き、四つん這いにさせられる。腰を高く上げた格好で固定され背中を撫で上げられた。
 その指を追って快感が脊髄を駆け上がる。ぞくぞくと感じる快感に連動して俺の蕾も内壁も蠢いた。

「蛮ちゃんが……そんなに厭らしく締め上げるから……我慢出来なくなっちゃんうじゃん」
「ッは……嘘つけ……ずっと入れっ放しだったくせに」
「うん……だって一度繋がったら出たくなくなるんだもん。でも蛮ちゃん…気を失ってる間もずっとひくついてたんだよ?」
「ッ……るせ……」

 銀次の『報告』が頭の中を真っ白にする。確かに気を失った後も躰が銀次を求めて止まなかったのは事実だ。だがそれをあえて口にされるのは恥ずかしかった。
 躰を隅々まで撫で回され内に感じる銀次に焦れ始めた頃、ようやく銀次が動き出した。ただそれも焦れを増すような緩慢な動き。腰をしっかり押さえ込まれ、自分の好きなように動く事すら叶わない。
 ずず……っとゆっくり差し込まれては、ずるり、とゆったり抜き出される。ピンポイントが擦れれば、蕾が勝手に引き絞られ躰中に旋律が走る。

「あッ……ぎん……じぃッ……」

 強請るように声を上げれば前に手を伸ばされ徐に掴まれる。洗うように擦られればもう耐えられなかった。

「ぎッ……ん……もっとッ」
「……もっと……なに?」
「あ……はげしくぅ……」

 素直に願うと銀次の唇が背中に落ちてきた。
 腰を抱えられると不意に躰が浮いた。身長差はさほどないくせに……なんだこの馬鹿力は。

「蛮ちゃん……ちゃんと立って……鏡に縋って?」

 震える膝で足を立たせ、目の前の鏡の渕に両手をかけると額をつけてから頬を摺り寄せた。
 俺の息で白く曇る鏡面が見える。

「んッあぁ!!」

 立った状態でいささか乱暴に突き上げられるともう何も考えられなかった。ただただ快感に溺れて銀次を求め続けた。


 ついさっきまで気を失って動かなかった蛮ちゃん。
 それでも躰は俺のことを感じ取っているみたいでずっとひくついては俺に絡み付いてた。
 抜こうか、とも考えたけどちょっとでも出ようとすれば蛮ちゃんが許さない。
 それがすごく嬉しかった。
 なんだかいつも俺だけが求めてるみたいで寂しかったんだ。

「んんッ……ふあ……あぁッん」

 鏡に額を押し付けたり、躰を仰け反らせたりして必死に流されまいとする蛮ちゃんの姿が、俺を昂ぶらせて仕方ない。震える足で懸命に立とうとしてる。

「ぎッ……んんッ……ぁ……」

 半分以上意識が持っていかれてると思うんだ。それでも蛮ちゃんは俺の名を呼んでくれる。なんだかすごく優越感に浸れるんだ。

「ッ……」
「あぁッ……は……あんッ」

 不意に蛮ちゃんの蕾がキツク締められる。急なそれによって俺の息が詰められた。
 限界が近い……

「んぁッ……もッ……イくぅ!」

 頭を振り乱して震える足で、腕で懸命に躰を支えてる。内壁がひと時も俺を放したくないみたいにきゅうきゅうと絡み付いて激しく動かないと絡め取られちゃう…

「ッ……蛮ちゃ……ん……イく……よ?」
「んぅ……ッぁん」

 後ろからでも分かるくらいに首を打ち振るって答えてくれる。俺の、ぱんぱんだけど……蛮ちゃんもぱんぱん。触っただけでイっちゃいそう……

「ッあ……あぁあッ」

 あえて触れなかったら蛮ちゃんが自分で自分のを握り込んだみたい。蛮ちゃんの肩越しに見える鏡に蛮ちゃんが必死に擦り上げてる手が見えてる。

「そんなに……イきたい?」
「あッ……んッん……ふ……んんっ」
「淫乱……だね……蛮ちゃん」
「ぁあ!ッああぁ!」
「イって……」
「ひ……あぁぁ!!!」

 固くなってる胸の飾り。それを片方ぎゅっと摘み上げれば蛮ちゃんが高い声を上げて果ててしまった。
 痙攣が続いて蛮ちゃんがどれほどよがってるか……よく分かる。
 足から力が抜けてもう蛮ちゃんだけじゃ立てない。

「ッぁ……ぎんじ……」

 もっと……もっと……
 深く……奥底まで……深く……
 蛮ちゃんを求め続ける俺の躰は素直に反応を示してる。

「蛮ちゃん……もっとちょうだい?」


 わざとか?って聞きたくなる。
 そんな風に渇望されたら断れなくなるのを、知ってんじゃないのか?
 掠れた声で縋られたら……絶対断れねぇじゃねぇか。

「ぎんじ……」
「……ん?」
「主導権交代」
「ふふ……ん、分かった」

 最近、俺が『ヤられるだけなのは癪に障る』って言った事がある。……それ以来かな?銀次が俺に主導権を渡すようになった。
 銀次はいつも俺に『甘やかしてくれる』って言うけど、銀次も十分俺を甘やかしてると思う。その内容は情事での事が多いけど……
 甘やかしてくれてるのか……それとも、もっと深く強く繋がりを求めてんのか……
 俺にはどちらでも構わない。

「んっ……く……」

 ずるり……と内から銀次が出て行く。
 思わず止めようとしてしまう躰を抑えて、急になくなった質量と熱に溜息が漏れる。

「蛮ちゃん……」

 焦がれるような色を含んだ銀次の声。一時も出たくないって言ってたんだからまたすぐにでも繋がりたいんだろう。

―分かってるって。俺だって離れてるのが辛い……
「……ん……」

 躰を向かい合わせにして口づける。首に腕を回して圧し掛かると素直に倒れた。前ならこれだけで大慌てしてたのにな。

「……銀次」
「蛮ちゃん」
「今日はどこに印付けた?」
「え?」
「どこに付けた?」

 ぱちくりと目を瞬いてる銀次の手をとって自分の躰に沿わせる。首からゆっくり下りていくように導くと俺の意を反して、所々止まって確かめるように指先で擦っていった。
 前しか沿わしてないけど。結構付けてんな……まぁいつもの事か。こいつの独占欲の強さなんざ今知った事じゃねぇし……

「ッん……」
「じっとしてな」

 銀次の肌に唇を滑らせて同じ場所に印を刻み込む。おそろいの所有の印。自分にもこんなに独占欲があるなんざ思ってもみなかった。
 そう、『これ』は銀次に教えられた事。

「ん……」


 蛮ちゃんの黒髪が胸の上を滑っていく。さらさらの髪の間から覗く表情はとても綺麗で……
 蛮ちゃんに『主導権を渡せ』って初めて言われた時は正直焦った。だって厭らしさ倍増するんだもん。俺の心臓も下ももたないって……
 でも最近はすぐに渡すようにしてる。だって、蛮ちゃんに愛されてるって自惚れられるもん。
 今だって……ほら……

「……ちゅ……」

 俺が蛮ちゃんに刻んだ場所と同じ所に印付けてる。時間がたてば消えるけど、二人にしかない『もの』を与え合ってる。
 でも……

―ホント……厭らしい表情……
「ん?……銀次?」
「蛮ちゃん」

 顔にかかる髪の毛を梳いて両手でその顔をそっと持ち上げた。たぶんまだ印を付け終わってないのは分かってる。……でもさ……

「コッチを相手して欲しいな」
「……ばーか……」

 俺は少し照れたような困った笑顔をしたと思う。だって蛮ちゃんが『しょうがないな』って顔したもん。ずきずきと疼く俺のに蛮ちゃんの唇を当てさせて先を促す。そしたらソコにも印を付けてたときみたいなキスをしてくれた。途端に背筋がぞくぞくして熱い溜息が漏れる。

「……は……」
「……む……ぅ……」

 濡れた温かい感触。纏わり付く舌がすごく気持ちいい。白くて細い指がいきり立ったソレに絡み付いて擦り上げる。

―溢れる蜜をちゃんと飲んでしゃぶるその姿は娼婦みたい
「ん……く……」
「……我慢すんなよ?」
「……え……?」
「さっき出さなかったろ?」
「あ……うん……」
「遠慮なく出せよ……ちゃんと呑んでやるから」
「べ、別に呑まなくていいよッ」
「じゃあ顔射にすっか?」
「……さらっと言わないでよ……そんな言葉」

 子悪魔みたいな笑みを浮かべて上目遣いに見つめてくる。

 ―……絶対わざとだ。俺が参るって知ってて頬擦りなんかしてるもん。
 すぅって瞳が閉じたらまた俺のを頬張った。軽く歯を立てられて俺は呆気なく達する。

「っくぅ……」
「んんッ」

 出した勢いに蛮ちゃんが苦しげな表情をした。

―……それすらも色っぽく見えるのは重症なのかな?

 飲み下した音が生々しく聞こえて顔から火が出そうだった。その顔をあんまり見られたくなくて涙が溜まった目尻にキスを落とす。舐め上げて蛮ちゃんの躰を引き寄せた。

「ッあ……」


 目尻に触れる舌がくすぐったくて、身を捩ると後ろに銀次のモノが当てられ思わず躰を震わせた。表情を覗き込めば飢えた獣のような瞳で熱にうかされてる。
 キスを強請られて唇を重ねれば蕾を熱い塊で擦り上げられた。尻を掴む手の動きに合わせて腰が勝手に揺らめく。ソレが脈打つのが感じられるようになると俺はそっと掴み、自分の体重を利用して内へと引き込んだ。

「ッ……ぅ……」
「ッは……ッあぁん」

 熱塊に飢えた内壁が擦り上げられるだけでイきそうになる。下っ腹に甘く、重く広がる快感の蓄積が全身を戦慄かせた。
 涙で滲む視界で銀次を捕えれば、眉を寄せて衝撃に耐えてた。再び繋がった事に恍惚の表情すら浮かべてる。

「ぁ……ばん……ちゃん……」
「んッ……くぅッん……ぁふ……あ」


―……そんな表情すんなって……余計疼くじゃねぇか

 銀次の表情に煽られて躰を揺さ振り始める。膝に力が入らないから大きく出し入れする事は出来ない。代わりに蕾を引き絞って銀次を締め上げる。
 どくどくと脈打ち始めたソレが更に熱さを増していく。

「ッ …くぁッ!あんッ!あぁ!」

 ただ俺が揺れるのを見上げてただけの銀次が尻を鷲掴みにして激しく揺さ振り始めた。肉のぶつかる音に粘着質な音が加わって余計に厭らしい。体の芯が痺れてくる。

「ぎんッ!もッ……イ……ぅ……!」


 俺の肩に蛮ちゃんの両手が置かれる。激しく突き上げ始めたからその手に力が入って引っ掻き傷を残していった。
 俺に好き勝手揺さ振られてるにも関わらず、蛮ちゃんは髪を振り乱し躰を仰け反らせて喘ぎつづけるだけ。無意識なんだろうけど、俺の下っ腹に蛮ちゃんのが擦りつけられてる。手は互いを支えるのに使ってるから扱けない。だから代わりに擦りつけてるんだ。

―……可愛い、なんて言ったら怒るだろうな……
「ぎッ…ん…ぎんじぃッ!」

 蛮ちゃんも俺ももうぐちょぐちょになっちゃってる。もうイってもおかしくない。

「はッあぁんッ」
「……イくッ……」
「んあぁぁぁ!」

 眩暈がし始めて限界を感じ取った時、蛮ちゃんの『好きな点』を思い切り突き上げた。すると蛮ちゃんが嬌声を上げて達し、その反動でキツク絞まった蕾に俺も引き摺られるようにして達する。
 唇を重ねて荒い吐息を混ぜあい、そのまま一緒に布団へ入って眠りに落ちた。


 ……いつもの事……
 仕事を終えた後はいつもこんな感じ。
 きっと、無事だったことを互いに喜び合ってるんだと思う。
 繋がる事、感じ合える事が今の俺達にとって一番幸せなのかも……



2004/10/20



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