「……蛮ちゃん」

 先程永いながーい奪還を終えたGetBackers。6枚の面の奪還及び大介の奪還を受け持った。奪還中に請求された借金も無事に返し終え、めでたしめでたしで帰ってきた矢先の事だ。銀次が恨めしそうな声を出して後ろから抱きついたのだ。

「なんだ?どうした?銀次」
「……また……したよね……」
「は?何を?」
「……蛮ちゃんからキス……」
「……………」
「雨流と合わせて2回目……」
「止めなかったじゃねぇか」
「だって……人助けだもん」
「なら愚痴るな」

 玄関を入った所で抱きつかれた為、部屋の中に入る為には銀次を引きずらなくてはならない。が、しょげてたれた為、引きずらなくても良さそうだ。腰にたれ銀次をくっつけたまま冷蔵庫へと移動すると中からミネラルウォーターを取り出す。
 そしてそのままリビングへと入っていった。テーブルの脇に座り、ミネラルウォーターを煽ると銀次がまだ拗ねた風な声を上げる。

「でも〜……」
「でも、なんだ?」
「ずるい」
「あ?」
「だって俺ですら蛮ちゃんからキスなんて数えるほどしかして貰ってないのに。俺と一緒にいる時間の方が多いのに。二人とも会って間なしで蛮ちゃんにキスしてもらってるもん」

 腰でぷっくり頬を膨らまして愚痴をこぼす銀次に蛮はため息をついた。
 雨流の時もそうだ。銀次はこうして一日中膨れていた。何か?と問えば今と同じ。ずるいという言葉が返ってくる。だが、それは果たして『ずるい』だけなのだろうか?
 蛮の思考にふと一つ引っ掛かる事柄が出てきた。

「……ずるいってだけか?」
「うん?」
「本当にずるいってだけで拗ねてんのか?」
「……………」

 蛮の問い掛けに銀次は押し黙ってしまった。今まで数えるほどしか蛮からキスをしていなくとも、蛮からの初めてのキスはちゃんと銀次が貰い受けたのだ。それでなくとも毎日と言っていいほど唇を重ねているのだから、『ずるい』という対象からはずれているように思える。
 腰に張り付いたままのたれ銀次を両手で抱えて正面から見つめなおす。

「なんで拗ねてんだ?」
「……………」

 たれた状態から等身大に戻ると目の前の蛮に抱きついた。ぎゅぅっと力を込める。

「………おい」

 抱きつかれてしばらくすると首に舌を這わされる。それだけではなく背中に回った手が白いシャツの下へと潜り込んでタンクトップを引っ張っていた。
 しっかりと抱き込まれている為足掻こうにも上手くいかず、多少の怒りを込めた声を返す。それでも銀次の手は止まる事はなく、直接肌に触れてきた。するりと背筋を撫で上げ、首から耳へと唇を滑らせる。

「銀次」
「……このまま……」
「あ?」
「このままヤらせて……」
「……………」
「……お願いだから……」

 いつになく真剣な声音に蛮は密かに眉を潜めた。だが蛮の返事を待たずして次へ次へと進んでいく銀次を止められそうにないと判断をし、蛮は軽くため息をつく。

「……ヤってもいいが……せめて電気を消せよ」


 電気を消し、月明かりだけの部屋の中で、蛮の声はひっきりなしに零れ落ちていた。性急に求められる体と、否応なしに高められる熱…重く息を吐けば重ねられる唇…喰らい尽くされるかのような求め方に蛮は呼吸を乱れさせていった。
執拗に弄られた最奥から指を抜かれると、間を置かずして銀次の雄があてがわれ、奥深くへと埋められる。
銀次に慣らされた体とはいえ、性急過ぎる挿入に蛮は顔をしかめた。ふわりと意識が離れかけると銀次の唇が落ちてくる。

「……ぁ……」
「……初めは……嫉妬してたんだと思う」
「……ん?……」

ぽつりと囁かれた銀次の言葉に蛮は耳を傾けた。その間も銀次のキスは止む事がない。

「……こうして……蛮ちゃんと一つになれて……手に入れたって感じられてからは、誰にも蛮ちゃんに触って欲しくなくなったんだ。
 たとえそれが…カズッちゃんや士度や……夏実ちゃん、レナちゃんであっても」
「…………」
「蛮ちゃんは俺のものだから……誰にも渡したくないし……キスも……して欲しくない」
「………へ、大した独占欲じゃねぇか」

言葉を紡ぐ度に雄の表情を濃くする銀次。蛮は正直に言ってその変化の瞬間が好きなのだ。どんな表情に属する事なく、全ての『中間』に位置する表情。全てを『含む』表情。
その表情で語るのは少し子供地味た言葉の数々。だがそれらは全て心地良く蛮の鼓膜を震わせる。

「蛮ちゃんが俺だけのものって確信出来ないから」
「……こうして繋がっててもか?」
「うん、足りない。もっともっと……蛮ちゃんを俺一人のモノだって実感したい」
「……ケダモノ……」
「ケダモノでいいよ。『蛮ちゃん』っていう『獲物』だけを食べるケダモノで……」

妖艶に微笑む蛮が銀次の首に腕を回して引き寄せると、銀次が抵抗なく身を寄せてきた。その際に抱えていた足を更に開かせて深く繋がるように身を進める。その行動に蛮は小さく息を吐いた。それとともに眉が寄せられる。

「……あ……」

ぐぐっと身を沈めて蛮の唇にキスを落とすと銀次が律動を開始した。当然の如く蛮の体が仰け反り、口から切なげな鳴き声が漏れる。

「ぁ……はぅ……ん……ぁん……」
「……その声も……」
「っあ……っ……ぁあ……ぁうっ……」
「……こうやって突いた時の表情も……」
「あッ……あぁッ……」
「俺を感じる……この体も……」
「あぅッ……っあッ……あぁんッ」
「全部……俺のものだから……」
「ぎん……じッ……ぅあぁっ……も……ぅんッ……」
「たとえ……人助けでも、他の奴とキスして欲しくない」
「ひぁッ……あうッ……やッ……ぎんじッ」
「俺以外の名前を……呼ばないで……」

揺れる視界の中で銀次が切なげな表情をするのが蛮の瞳に映った。首に回した腕に力が篭る。律動が更に激しく繰り返され蛮の思考は真っ白に塗り替えられた。一つになった部分が溶けるほど熱く感じられる。

「ぎっ……ぎんじっ……銀ッ……次っ」
「……っん……蛮ちゃん……っ……」
「っんー!!!」

 銀次が最奥を突くとともに噛み付くようなキスを与えられた。無意識に立てられた蛮の爪が銀次の背に傷を残す。最奥に銀次の熱を解放させられると蛮の熱も解放された。
しばらく余韻に浸っていると、蛮の腕がぱたりと落ちた。互いに絡ませた舌を解くと蛮の口の端から液体が流れ落ちる。

「……は……窒息……させる気……か?……」
「えへ♥我慢できなくて♥」

 潤んだ瞳で睨んでくる蛮の頬を銀次が優しく撫でる。まるで猫を宥めるかのように、優しく柔らかな手つきで繰り返し撫でた。口から流れ落ちる液体を舐め取る。唇にも舌を這わせ、頬や額や瞼の上にキスを散らせた。それらを何もせずに受け止める蛮の瞳を銀次は覗き込む。

「銀次」
「うん?」
「俺は、使命感に駆られるキスはしたくねぇ」
「え?」
「そんなキスを、お前とはしたくない」

 婉曲のある蛮の言葉。それはいつもの事なのだが、この言葉は悩まずともすぐに意味が伝わってきた。銀次がほんわりと微笑む。

「……ん……」

 シーツの上に落ちた手が銀次の頬を柔らかく包んで引き寄せる。引き寄せた後には唇同士を合わせられた。まぎれもない蛮からのキス。しかしそれは先程の言葉を意味している。

「……んぅ……」

 軽く触れては離れ、離れてはまた触れてくる蛮の唇。

『今はいくらでもキスをしたい』

「……ぅんっ……ん……」

『でも……』

「……っ……ぅむ……」

『しないと死んでしまう……から』

「……ふ……ぅん……」

『キスをしなくてはいけない』

「ぅ……んっ……」

『そんなキスを銀次とはしたくない』

「……ぁ……はぁっ……」

 深く貪りあっていた唇をどちらからともなく解放をする。

「……もう二度と同じ事は言うなよ?」
「うん」

 頬を染めつつも真っ直ぐに見つめてくる蛮に銀次は満面の笑みを向けた。その笑顔を見て蛮が軽くため息をつく。それとともに、ある事に気付いた。

「……銀次?」
「うん?」
「お前……まさか……」

 蛮が下を見なくとも銀次の変化は全身で感じ取る事ができる。未だ繋がったままの部分がじわりと熱を帯び始めているのだ。

「……てへ♥」
「っ!」
「蛮ちゃんのキスで欲情しちゃった♥」

 蛮の中に収まったままの銀次が再び熱を収集し始めている。徐々に大きく育ちつつあるソレを感じ、蛮は青ざめた顔で銀次を見上げた。その視線の先で銀次がにっこりと微笑む。

「ちょっ……さっさと抜け!」
「いーや♪一杯感じさせてね?蛮ちゃん♥」
「やめっ……あぅッ!」

 なんとか銀次の下から這い出ようとした体を銀次が包み込み、揺さ振り始めた頃には蛮の抵抗は欠片も残っていなかった。



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