「暴れないでね?
でないと蛮ちゃんの手首に擦り傷出来ちゃうから」
緊張感の欠片も感じ取れない柔らかな声が薄暗い部屋で木霊する。その声がする方向に顔を向ければ、やはり……と半ば呆れが含まれた溜息が漏れた。
「んな心配するくらいならとっとと解け」
「い・や♥」
「ってめ……」
「だぁってせっかくみんなが苦労して作ってくれたのに何もしなかったらもったいないでしょ?」
「全ッ然」
「そんな力一杯否定しないでよ
たっぷり可愛がってあげるから♥」
常ではありえない倦怠感と躰に纏わり付く何らかの呪を蛮は感じ取っていた。とは言え、心当たりがないわけでもない。
蛮にここまであっさり呪をかけられるとすれば、若作りの魔女くらいしかいないだろう。あとは行動を全て予想されていたという事はどこぞのリーダーも混ざっている事など容易く推測出来る。
何故にこうも見事に嵌められてしまうのか?そうは思ってもあの2人がタッグを組めば、事前に準備をしない限り逃れる事は出来ないだろう。蛮は答えを弾き出し、再び溜息をついた。
ふと視線を頭上に持ち上げる。
そこにはベルトが絡み着いた自らの両腕が、何もない空間から吊り下げられていた。錠もないただのベルト。銀次が解けば簡単に解けるであろうソレ。だが、先程の会話の通り、銀次に解く気はさらさらないようだ。
今度は視線を下ろした。
上体にはいつもの白いシャツが付けられてはいるが、黒のスウェットが見当たらない。石の床に無造作に投げ出された自らの素足。一糸纏わぬその足の下には読み取れなくはないが、びっしりと刻まれた呪文が鈍く光っていた。大きく円を描くそれは、蛮の躰を中心に広がっているようだ。
その足を伝って視線を遠くに伸ばせば、座り込んでにっこりと微笑み自らを観察している銀次がいた。締りのないほわほわとした笑顔をしてはいるが、この状況ではそれは意地の悪い表情に見える。
不意に近づき顔を寄せられる。
―ぺしッ……
「ぅぷッ!何すんだよ!蛮ちゃん!」
「むかついたから殴っただけ。
手じゃないだけマシだと思いやがれ」
先程記述した通り、今、蛮は両腕ともに固定されてしまっている。
では、何が銀次の顔を叩いたのか?
それは黒くて長くて……ふさふさしたもの。
『ネコの尻尾』
「もぉ……せっかく可愛いのにそんな事しないでよ」
「うっせー、俺様の勝手だろ?」
ぷぅ……と脹れる銀次を他所に蛮はまた尻尾を一振りさせて空をさいた。
ぷいっとそっぽ向く蛮。尻尾だけではなく、耳にも常ならぬものが付いていた。おそらく尻尾とセットになっているであろう、三角の耳。尻尾と同じ黒い毛で内側を真っ白な毛が覆い、少しピンクがかっている。
いつもながらの蛮の行動は、銀次にとっていつも以上にかわいいものに感じられた。警戒をし続け宙を泳ぐ尻尾。そっぽ向いてはいるが、こちらの気配を窺っているのであろう、三角の耳がぴくぴくと動いていた。
その様子に淡く微笑むと蛮の両腕に手をかけた。思わずぴくりと躰を跳ねる。何事かと銀次の顔を振り向けば、瞳を細め、うっすらと笑みを称えたまま圧し掛かってきた。
「なッ……ちょ……」
腕が固定されている状態で圧し掛かられれば意図せずとも腕にベルトが食い込み、擦れて赤く腫れてしまう。先程の気遣いはなんだったのだ?と問おうと口を開きかけるが、急に体が腕ごと傾いた。まるで滑車がレールの上を滑るように滑らかに、蛮の腕を宙に縛り上げた固定部分が銀次の動きに合わせて移動していく。
そうして気付いた時には床の上に押し倒され、銀次が覆い被さってきていた。
「悪い子は躾てやらないとね?」
「ッ!?」
銀次の言葉の意味を飲み込む前に、蛮は口を銀次のそれで塞がれた。突然の接吻に驚き、宙を優雅に行き来していた尻尾がぴんっと硬直する。油断により、僅かに開いていた唇の隙間から銀次の舌があっさりと侵入を果たした。蛮の舌を求めて縦横無尽に動き回る銀次の舌に蛮の思考が少しずつ麻痺していく。
たっぷりと味わい、唇を解放した頃には、硬直で真っ直ぐに立っていた尻尾はへなっと力をなくして床にたれていた。頬に朱がさし、瞳が潤んでいるのを確認すると、三角の耳もぺたりとたれている事に気がついた。
「は……ぁ……」
「……可愛いよ、蛮ちゃん」
浅く呼吸を繰り返す蛮の頬にキスをすると、躰に唯一纏っている白いシャツの前を肌蹴させる。長いキスに感じ入ってしまっていたのか、胸の飾りがつんと立っていた。淡く色付くソレを口に含み、音を立てて吸いつく。軽く歯を立てて固さを確かめるように噛んでは、癒すように舐め上げた。
「んっ……ゃッ……」
すぐに反応する尻尾と耳。先程まで力なく垂れていたのに再びぴんッと立ち上がる。噛めばぴくっと痙攣をし、舐めれば微かに震える。その反応が楽しく、銀次は薄くて柔らかな耳にそっと指を伸ばし、つぅっとなぞってやった。
「ふぁッ」
途端に蛮の躰が跳ねたのに、銀次は驚いた。表情を覗き見ると、今にも溢れそうな涙を堪えるべく固く瞼を閉ざしていた。そっとなぞっただけなのだから痛いはずがない。となると快感からか、そう考えて、銀次は意地悪く蛮の耳元で囁いた。
「……今日の蛮ちゃん……敏感だね?」
「ッ……」
銀次の言葉に蛮がふるふると首を横に振る。認めたくないのだろう、頬の朱が先程よりも濃くなっている。
「否定しても無駄だよ?蛮ちゃんの躰、すっごく素直なんだから」
「ぅ……んっ……んんッ……」
両手で飾りを同時に攻め立てるとやはり、蛮の体が跳ねた。けれども頑として横に首を振る蛮に、銀次は淡く笑みを漏らすと追い討ちをかける。
開いたシャツの合間をぬって下へと進み、躰の中心を徐に引っつかんだ。
「じゃあ、これは何?」
「ひッ!あぁ……」
「こんなにぐちゅぐちゅにして……感じてないっていう?」
「ゃ、やだ……離、せッ」
「『離さないで』でしょ?腰振ってるくせに」
「ぁあ……ぅ……」
銀次が僅かにでも手をスライドさせれば、それを追うように蛮の腰が揺らめく。足が自然と開き、躰が『もっと』と求めているのを銀次は目で楽しんでいた。
「蛮ちゃん?何か言うことは?」
「ッんぁ……うぅ……ん……」
スライドさせていた手を徐に止めて、蛮のモノの根元を握り込む。すぐにでもイってしまえるところまで上り詰めていた躰が、悲鳴を上げて震えていた。同時に蛮の瞳が開かれ、銀次に訴えかけてくる。言葉は一向に紡がれる事はない。けれども、宙を舞っていた尻尾がそろりと銀次に触れてきた。
その尻尾を優しく撫でて手の内に収めるとキスをしてやる。尻尾を口元に持ってきたまま、蛮に質問を重ねた。
「蛮ちゃん?言う事は?」
「あ……ぁ……ちゃんと、触っ……て」
「うん、いい子♥」
そっと頭を撫でてやると、掴んでいる手に力を込める。決して痛くはない程度の力で扱いてイくように促した。
「はっ……ぁんッ……イ……ぁ」
「イきそう?」
「んッ……んん……」
「ん、いいよ?イっても。一杯出してごらん?」
「あッ!あぁぁッ……」
一定の強さで擦っていたのを急に強く擦り始める。一度止められたせいもあって、呆気ないほどに果ててしまった。躰中に残る余韻に身をくねらせ、時折痙攣させながら蛮は四肢の力を抜いていく。
その様子を銀次はただ上から見下ろしていた。常では見られない可愛らしいオプション付きの蛮は銀次の情欲を駆り立てて仕方がない。酸素を求めて薄く開かれた唇に指の背を這わせ、静かに流れる涙を舐め取る。
それに反応してか、蛮の瞳が開いた。
「なぁに?」
熱の篭った瞳が何を訴えているかは分かっているが、銀次はあえて口に出させたかった。こういう時でなければ蛮は素直になってはくれないからだ。
目に見えて言いよどむ蛮に銀次は優しい笑顔を向けるだけ。手が使えない代わりに尻尾が動き、銀次の頬を擽った。それでも何も言わないでいると、蛮の唇が震えながらも言葉を紡ぐ。
「……うしろ……も……」
「後ろって?」
「ッ……ぎんじ……」
「言うのが嫌だったら行動で示してもいいよ」
涙ぐむ蛮に微笑みかけて両腕を縛るベルトを解いた。硬直していた腕がぱたりと床に落ちる。恨めしそうに見上げてくる蛮の額にキスをして、髪の毛を柔らかく梳く。
「それとも……自分でする?」
「ッ……」
また尻尾を撫で始めた銀次を少しの間睨んでいたが、一向に動く気配はなく、焦れる躰に促されておずおずと動きだした。震える両手で膝の裏を持ち上げ引き寄せる。羞恥に挫けそうになりながらも、出来る限り足を開いた。
銀次の目の前に蛮の蕾が惜しげもなく曝された。じっと見つめる銀次の瞳に耐え切れず瞳を固く閉じると顔を背ける。
「いいね、その格好
尻尾の付け根まで見えるよ」
曝されてひくつく蕾にそっと指を滑らせる。思わせぶりにくっと押してはすぐに別の場所へと滑っていった。
「ぁ……やぁ……」
「うん?もっと触って欲しい?」
「ん……なか……ほしぃ……」
「中のどこに欲しい?」
「ぉ……くぅ……」
入口を揉み解しながら質問を重ねれば、快感の波に翻弄されつつある蛮が素直に答えてきた。先程まで閉ざされていた瞳も今は必死に銀次へと訴えかけている。潤んだ瞳と微かに開かれた紅い唇。汗ばんできた肌が艶を含んで光っている。耳は相変わらず下がったまま、尻尾は縋るように銀次へとくっついている。
きっとこれが蛮の本音なのだろう。
柔らかな笑みを作りつつ、指の下で『欲しい』と戦慄く蕾に口付けをする。
「あッ!」
突然の事に蛮がびくりと震える。口づけられたまま舌を這わされ蛮の躰中が戦慄いていた。
「我慢出来ないみたいだね?」
「んっ……はや、くぅ……」
「うん、今あげるよ。俺ももう、我慢出来ない」
「あ……?」
銀次の言葉に何かを感じ取った蛮が不安げに瞳を瞬かせると、銀次が徐に蛮の両足を肩にかけて躰同士を密着させてきた。今まで両足を抱えていた手を取り、床に縫いとめる。何をする気なのかと瞳で問い掛ければ、銀次が不適な笑みを作る。
「ちょっと我慢してね?」
「え……ッうあぁッ!!」
突如襲ってきた痛みに蛮が仰け反った。ずり上がる躰を腕によって無理矢理引き寄せられ、両足は肩にかけられ逃げる事も叶わなかった。慣らされていない接合部から駆け上がる痛みとその直後に来る慣らされた快感が蛮を狂わせる。侵入を拒む蕾に銀次が息を詰める。
「ひッ!……いッ……つぅ!」
切れ切れに叫ぶ蛮に口付けをし、わずかに緩んだ隙に全てを埋め込んだ。あまりの痛みに蛮の呼吸が浅く繰り返される。ぎち……と音が鳴りそうなほどキツク締まる蕾に銀次は眩暈を起こしかける。
「……ッ……蛮、ちゃん……キツイ……って」
「いきなり……つっこむ、から、だろッ……」
相変わらず瞳は閉ざされ、無意識の内に涙を流す蛮。痛みに強張るその躰をそっと抱き締める。歪められた顔にキスを落とし少しでも安心出来るように。
ゆるりと解けるように蛮の躰から緊張が解れだすと、銀次が動いた。
「ひっ……あぁッ!」
「っ……」
少し動いただけで蛮の躰が仰け反った。首を打ち振るい、耳が小刻みに震えている。自らを襲う快感に流されないよう身を捩るが、銀次に押さえ込まれてままならない。逃げ場のない蛮を銀次が容赦無く犯す。
「ぎ……っん……いぁ、あぁッ」
「いや?……こんな、締め付けてる、くせに?」
「んっ……ぁ……こわ、れ」
「壊れる?……気持ち、よ過ぎて?」
「はっ……あんッ」
蛮の両足を脇に抱えなおし、腰を抱き寄せる。すると投げ出された足が銀次に巻きつき、『もっと深く』とせがむように引き寄せられる。
淡く微笑むと蛮の頬にキスを落として抱き起こす。膝の上に座らせると躰を大きく揺らし始めた。
「はぁッ!あッ……あぁんッ」
腰を掴まれ揺さ振られると喉を反らせて鳴きはじめた。浅く甘い声に蛮がどれ程溺れてしまっているかが窺える。手を滑らせれば尻尾の付け根まで下りてくば、嬌声が切羽詰ってきた。
「あぁッ……さっ……さわん、なッ」
「どう、して?すごっく、感じちゃう?」
「んッ……ぁんッ」
いつもと違う反応に銀次は嬉しくなり更に攻め立てる。尻尾が生えている回りの肌をなぞり、時折肌から尻尾へと撫で上げた。その感覚に耐え切れないらしく、銀次の両肩に置かれた蛮の手が押し返すように力を込める。ぞくぞくっと駆け上がる波が蛮の躰を捩らせた。
「ぎんッ……もッ……イ……ッ……」
「いいよ……もう、俺もイきそう」
「は……あぁぁッ!!」
* * * * *
―ぱしゃん……
「……ん……」
耳元で水が撥ねる音。その小さな音で蛮は意識を覚醒させた。目を開けば見慣れない真っ白な天井が広がっている。躰には浮遊感が感じられ、どこかに浮いているような気分だった。
「あ……気付いた?蛮ちゃん」
「ぎんじ……」
ひょこっと視界に侵入してきた人物を確認し、未だぼんやりとした声で名前を呼んだ。それに応答するように銀次がキスをする。
すこしずつはっきりしてくる五感で躰に纏っているのがお湯だという事が分かった。さらに腰と膝の裏に銀次の腕の感触。と言う事は今風呂に入れられているのだろう。
ぱしゃり……と音がして銀次の手が蛮の前髪を梳く。
「躰はどお?」
「……?どおって?」
「力入る?」
そう聞かれてから、そういえば魔方陣に入れられていたんだ、と思い出す。あそこから出されたのならばもっと体に力が入ってもいいはず。なのに手を握ろうがどこか麻痺していてしっかりと握っている感触がしない。
「……あんま入らねぇ……」
「そっか……やっぱ苦手なんだ」
「?何が?」
「何がって……蛮ちゃんまだ『ネコ』なんだよ?」
「!?」
さらっと答える銀次の空いた手に握られているのは何度も見せられた黒い尻尾。くっと掴まれるとお尻の辺りが少し引っ張られたような感覚になった。
「なッ……」
「あ……怒ってる
尻尾がちょっと膨らんだよ?」
にっこり笑って口づけてくる銀次を呆然とした表情で見つめる蛮。
「あ、もしかしてあの魔方陣のせいだと思ってた?」
「違う……のか??」
「うん♥だって蛮ちゃんに直接かけたってマリーアさん言ってたから」
「……やっぱりか……」
「蛮ちゃんが『ある言葉』を言うまで」
「……ある言葉?」
「教えてあげないけど」
「おい!」
「だってもったいないもん
もっといっぱい堪能したいもーん」
にっこり微笑んで告げられた宣言はいつもの銀次と同じ。いつも……つまり……
『有言実行即開始』。
「っ……こんのバカ銀次!!」
「なんて言われても構わないもーん
もう犯しまくるって決めたもーん」
「っざけんな!躰が持つか!!」
ぴんっと立ち上がった耳と尻尾。怒る姿は猫そのもの。そんな姿で怒られても、むろん効果はなく……
蛮がいつ頃解放されたかは分からない。
2004/09/24
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