拝啓……みんなへ
 この度めでたく蛮ちゃんと両想いになり、体を繋げる事も経験してしまいました。(喜びの舞)
 とても気持ち良かったのです(照)
 そして蛮ちゃんの新たな表情を見れたのです(歓喜)
 けど……なんだか、最近蛮ちゃんの様子がおかしいんです。
 ……どうおかしいかっていうと……


近付いたら威嚇するんです(泣)



「……蛮ちゃん?」
「……なんだよ」

 いつも通りに声をかけると、少しトーンを下げた返事が返ってくる。最後に『?』が付いてないから機嫌が悪いのはすぐに分かる。
 ……でもさ……

「……あのね……なんで俺、後ろの座席に座らなきゃダメなの??」

 ……そうなのです。何故か俺はいつもの助手席ではなくて…後部座席に座らされているんです。なので蛮ちゃんの顔が見えにくい。だから蛮ちゃんの感情を声だけで判断しなくちゃいけないんだ。

「広くていいだろうが」

 なんて答えが返ってきた。あぅぅ…広くても蛮ちゃんの隣じゃなきゃ嫌だよぉ……
 最近になって蛮ちゃんが仕事の時以外に俺が助手席に座るのを許してくれなくなったのです。……うぅぅ……俺、何かしたっけ??
 シートで前と仕切られてる感じがして。なんだか同じ空間にいるのに、壁で隔たれた気分になるのです。
 しかも、スバルの中だけでなく、HONKYTONKでさえもカウンター席で隣には座ってくれないんです。
 ……んあぁ〜……寂しいよぉぉぉ……
 いつもみたいに「ば〜んちゃ〜ん♥」って抱きつけないよぉ……
 シートが俺たち(っていうか俺)の邪魔をするよぉぉぉ……

 なんて考えながら運転席の後ろに頭を凭れさせて手を乗せる。さらにたれてすりすり〜ってしてると不意に蛮ちゃんが体を起こした。
 どこかに行くのかなって思って横から覗き込むとそうでもないみたい。エンジンをかける気配もないし、降りる様子も無い。ハンドルの上で腕を組んで顎を乗せてる。そのままフロントガラス越しに遠くを見てるみたい。

 ……もうこんな状態になって二週間は経ってしまった。

 こんな風にされると……嫌な事ばっかり考えちゃう。
 ……俺の事、やっぱり嫌いになっちゃったのかなぁ?とか……
 このまま、コンビ解散しよう、って言われちゃうのかなぁ?とか……

 悩み出すと切りがないのは分かってるけど……やっぱり、ね……

「……なぁ、銀次?」
「……え、なっ何?!」

 ふぅ……ってため息をついてたら急に話かけられた。本当に急でビックリしちゃったもんだから、声が裏返っちゃったよ。あはは……

「お前さ……」

 蛮ちゃんの声の感じがさっきとちょっと変ったみたい。何かを戸惑ってる感じがする。

「……微量の電気を常に纏ってないか?」
「………へ??」

 いきなりそんな事を聞かれた。
 えーと……微量の電気を纏ってる??そんな事ないはずなんだけどな。だってそうだったら髪の毛とかバンダナとか浮いちゃってるだろうし。そうだったら蛮ちゃんがそんな事聞くわけないし。

「……電気は、出してないはずだけど……」
「……だよなぁ……」
「…もしかしてそれが原因?」
「あ?」
「最近隣にいさせてくれないの」
「……まぁな」




 俺が正直に答えると銀次はどうやらショックを受けたらしい、一瞬にしてたれてしまった。バックミラーの中でオロオロと右を向き左を向き、終いには頭を抱えて目を回し始める。
 自分の能力が原因になってるなんざ思ってもみなかっただろな。
 けど……

「……俺……もしかして無意識に発電しちゃってるのかな??
 で、でも……髪も服も浮いてないし……
 ……もしかして蛮ちゃん、痺れさせちゃった事あった?」
「いや、なんつーか……痺れるってのもちょい違うような気がしてきた」
「うん?」

 それが問題なんだよなぁ……
 こいつの電気は……まぁ、仕事上の事故とかで何度か喰らったわけなんだが。そん時の感じと違うような気がするんだよな。
 今確認とったから余計にそう思うだけかもしんねぇけど。
 びりっつーか、びくって感じ?怯えてるんじゃねぇんだけど。銀次が触ってくるとそんな感覚を覚えるようになったんだ。
 でもよぉ……傍目に見りゃ怯えてるようにしか映らねぇだろ?だからあえて銀次を離れさせた。

「でも……俺の力ってどう考えても『痺れる』以外何かなるって事……ないような気がするんだけど?」
「だーから困ってるんだろ?」
「あ……困るから距離を空けたんだ?」
「悪いか?」
「うぅん、嫌われたかと思った」

 てへっと照れた笑顔をして言ってのけた。まぁこいつの考えそうな事だわな。手に入れりゃ失う時の怖さは常に付き纏うもんだ。

「それにしても……蛮ちゃんにも分からない事なんだ」
「俺だって何もかも分かってるわけじゃねぇよ」
「ねぇ蛮ちゃん」
「あぁ?」
「せっかくだから徹底的に調べようよ」




 俺がそう言うとハンドルに凭れたままだった蛮ちゃんが勢い良く振り返った。俺はというと蛮ちゃんの返事を待たずに後部座席から前へと移動してきてる。
 原因追求の為には色々調べなきゃね?その為にもまずは近くにいなきゃ。
 えへへ♥蛮ちゃんの隣って久しぶり♥
 で…………

「……傷つくなぁ……それって」

 ようやく助手席に着いた俺が振り向いた先にいたのは蛮ちゃん。でも蛮ちゃんってば、俺と距離を空ける為にドアへぴったりくっついちゃってるんだよ?

「し、しゃーねぇだろ!条件反射みたいなもんだ!」
「でもなんか嫌われてるみたいに感じるよ」

 むぅっと頬を膨らませて言うと蛮ちゃんの表情がちょっと曇った。
 分かってる。蛮ちゃんがそんな事考えてるわけじゃないなんて。ちゃんと分かってるよ?
 にっこりと笑顔を向けて蛮ちゃんに手を伸ばす。頬に触れようとしたらさっと逃げられた。

「……………」
「……………」
「……………これも条件反射?」
「……………あぁ」

 気まずい空気が流れ始める。俺がめげずに触れようとするとやっぱり逃げられる。
 ……なんか……同じ極の磁石みたい。
 ……でもっ愛の戦士天野銀次!こんな事くらいではめげません!!
 狭い車の中、触れようとしては逃げられ……という作業を続ける事数分。

「逃げないでよ!蛮ちゃん!」
「好きで逃げてんじゃねぇ!」
「嫌いじゃないならじっとしてて!」
「じっと出来ねぇんだよ!!」
「う〜……もうっ!!」
「うわぁっ!?」
―ガタンッ

 蛮ちゃんをなんとか追い詰めてシートを倒させた。いきなりやったから蛮ちゃんは当然バランスを崩して後ろへと倒れ込む。その上に圧し掛かろうとすると蛮ちゃんが上へと逃げようとした。

「逃がさない」
「っ」
「逃げてばっかじゃ調べらんないよ」

 蛮ちゃんの顔の両側へ手をついて逃げ道を塞いだ。あと残る逃げ道は俺を殴り倒すなり蹴り倒すなりする事なんだろうけど……俺に触る事自体を避けてるみたいだからきっとそんな事しないと思う。



 銀次の気転により俺の逃げ道は塞がれてしまった。完全に……ってわけじゃないが。さすがに殴るか蹴るかなんざしたくはねぇ。それこそ「嫌いだ」って言ってるようなもんじゃねぇか。
 ……にも関わらず俺は自分の前で軽く腕を交差し、これ以上近づけないように庇ってるようにしてる。

「……蛮ちゃん」
「……なんだ?」

 自分の矛盾した行動に動揺しながらも銀次の呼びかけに応えた。これ以上銀次を不安にさせたくないからな。

「……キスしていい?」
「……はぁ?」

 いきなり何言い出すんだ?調べはどうした?調べは?
 つっても調べられたくねぇんだけどな。自分が何するか全く分かんねぇから……
 銀次の質問に答えずにいたら強行手段に出てきた。無言でそっと顔を近づけてくる。互いの息が混ざる頃には俺は瞳を閉じていた。

「ん……」
「……ぅ……」

 いつものお遊びのキス。軽く触れては離れてまた触れさせる。柔らかい感触と熱が唇から伝わってくる。

「……は……」
「……キスはなんともないんだね?」
「……みたい、だな」

 キスを重ねる度にいつの間にか互いの体がぴったりと密着していた。体の前で交差してた腕も意味を無くし、今じゃ銀次を押し返すどころか、支えてる状態だ。
 そんな事を考えてる間にも銀次の唇が頬や目元、額とかに優しく触れていく。慈しむように…羽に触るかのようにふんわりと触れては別の場所へと移っていった。

「……気持ち良さそうだね?」
「……だな」

 体がふわふわと宙に浮いてる気分だ。しかもさっきまで感じてた変な緊張も今はまったくない。怯えたような体の感覚もどこにも感じられないし、条件反射で逃げを打つ事も無くなった。
 ……が……

「っ!!」

 銀次の手が何の前触れもなく頬に触れてきた。
 それはやっぱり『びりっ』じゃなくて『びくっ』。痛くもなんともねぇんだけど、体が跳ねちまう。

「……やっぱり反応が違うんだね?」

 自分の上から降ってくる声音は観察してます!といった余裕のあるもの。
 ……なんかすっげ癪に障る……
 せめてもの抵抗で睨んでやると銀次の顔が真っ赤になる。?なんかしたか??

「ちょ……蛮ちゃん……そんな目で見つめないで……」

 なんて言いながら口元を塞いで顔を反らす。なんだ?なんもしてねぇぞ?俺は。



「どういう意味だよ?」

 なんて事言うし!!なんで分かってないの!?蛮ちゃん!!

「だって……蛮ちゃん……目が潤んでて……色っぽい……」

 頬がちょっと赤くなってて、その上瞳はうるうるしてて、微かに唇が開かれてて……
 そんな表情で見つめられたらもう、どうしたらいいか分からなくなるって!!まるでヤってる最中みたいじゃんっ!!
 ……あ……

「……蛮ちゃん……もしかして」
「あ?」
「手フェチ??」

 なんて質問したら蛮ちゃんの顔が真っ赤になっちゃった。図星、なんだ。
 んーと、つまり……俺の手を以上に意識するようになっちゃって…で…距離を置いてたってわけかな?
 んー♥もうっ……蛮ちゃんてば可愛いんだから!

「っ……原因はもう分かったろ!とっとと退け!」

 顔を真っ赤にさせたまま蛮ちゃんの腕が俺を押し退けようと肩を押してきた。でも……

「いーやっ♥」
「!こらっ!!」
「せっかくだからいっぱい触っちゃうもんね〜♥」
「なっ!バカ銀!さっさと離せ!!」

 ぎゅ〜って抱きしめた俺の腕の中で蛮ちゃんがもごもごと暴れ出す。でもそんなの気にしないっ!全然触らせてもらえなかった二週間分、いっっっっっっぱい触るんだもん!

「えへへへへへ」
「ッ?!」
「蛮ちゃん覚悟〜♥」
「や、やめろ〜!!」




 前略―皆へ
 改めて……なんでこんな奴を好きになったか全く分かりゃしねぇ。
 両想いって分かってからはこいつの手に否応なく過剰反応してしまう始末だ。
 でも……まぁ……気持ち悪いもんでもないから。いっか。
 銀次をつけ上がらせなきゃ害はねぇだろ。

 ただ今回は調子に乗りやがったから鉄鎚を下したけどな



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