―2―

「ったく……なんであいつがこんなとこにいるんだか……」

息を弾ませつつもなんとか振り切った蛮はそう呟きました。森の中で逃げ回る事1・2時間。さんざん走り回って今に至ります。
 蛮がふと顔を上げるとそこには見上げるほどの門がありました。造りからしてどうやら城門のようです。

「?……んなとこに城なんかあったか?」

 そっと門に触れてみると、まるで羽のように音もなく開いていきます。まるで中へと招いているかのように……怪しみつつ足を踏み入れると門は一人でに閉じてしまいました。

「……おもしれぇじゃねぇか……」

 不敵な笑みを溢し奥へと足を運びます。いつの間にかどんよりとしていた空から水がおちてきました。雨足は次第に強さを増し、遠くに雷まで鳴り始めました。
 建物を見る限りでは相当立派な城ではあるのですが、所々に禍々しさが滲み出していました。全てが黒檀と灰の色をした石で作られ、外部の侵入を拒むように槍のような装飾が突き出していました。城の正面に続く黒い石畳の道をゆったりと歩いて行きます。道の脇に植えられた木々はきちんと整えられ、手入れが施されていました。
 ……ふと蛮の歩みが止まります。道を少し外れた所に何かを見つけました。雨で煙る先に紅い物がちらほらと確認できます。ふらっとそちらへと足を向けました。

「………大輪の紅いバラ」

 噴水のある中庭に出てきたのですが、そこには一面の紅いバラがありました。まるで暗闇の中を照らす炎のように大きな花が咲き乱れています。
 久しく見ない見事なバラにそっと指を触れました。その時です。身の凍るような殺気と共に突風が吹き荒れました。

「……何をしてる?」

 風が治まると雨音に混じって低い声がしました。とっさに顔を庇っていた腕を解くと目の前に何かが立っています。時折光る雷の中にその姿を見取る事が出来ました。
 鋭い爪と羽の黒い大きな翼、ひしゃげた角が雨に濡れ光っています。しかし蛮にはそれらの禍々しさに反する明るい金の鬣が印象に残りました。

「答えろ……何をしている?」
「……別に。バラを見てただけだ」

 雨に濡れ、顔に張り付いた髪を梳きつつ軽く答えます。相手はどう思ったのか自らの横にあるバラに視線を投げかけました。それはまるで軽蔑するかのような視線です。

「これをどうしたい?」
「どうって……そうだな……
 嬢ちゃんが興味を持ってたからな」
「嬢ちゃん?」
「一緒に住んでる女の子だ」
「………」
「もらえたらいいな……ってとこか」
「それは俺にとって大事な花なんだ……誰にもあげられない」
「へぇ……その割にゃ、嫌ってるみてぇだな?」

 にっと笑顔を見せつつ視線をバラへと送りました。その緩やかな動作に彼は目を奪われます。じっと姿を見据え、何かを考え始めたようです。
 ようやく沈黙が破られました。

「……一輪」
「あ?」
「一輪ならあげてもいいよ」
「……本当か?」
「……ただ……条件がある」
「……ほぉ……何だ?」
「バラの代わりにあんたを貰う」
「………」

 およそ冗談とは受け取れない声音に蛮は思考を廻らせます。

「……どうする?」
「……そうだな……構わねぇよ」
「そう……」
「ただ、バラを届けんのと報告をしに行きたい」
「……逃げる気?」
「いんや。すぐ戻るさ」
「……………」
「……………」
「……分かった」
「さんきゅ。んじゃ、一輪貰うぜ」

 手短に礼を言ってバラに手を伸ばすと彼によって止められました。さっきの話は嘘だったのか、と訝しげに思い顔を上げると彼自身がバラを摘むところでした。鈍い青色をした指が刺を落とし茎を折って花を取り上げます。
 それを蛮の顔の横まで運ぶと手が止まりじっと見つめてきました。少しすると更に手を動かして蛮の胸ポケットへとバラを差しました。

「?」
「明日の夕暮れまで待ってあげるよ」
「あ……あぁ」

 蛮の短い返事に満足をしたのか、彼は黒い翼を広げ城の上部目指して飛んで行ってしまいました。後に残された蛮はというとただただ呆と立っていました。いつの間にか雨が止んでいます。

 * * * * *

「ただいま」
「あら おかえりなさい」
「おかえりなさい」
「おぅ」

 帰った蛮を二人が迎え入れました。いつも通りの対応に蛮は少し笑いました。
 マリーアに渡されたタオルで髪を拭きつつ濡れた上着を脱ぎます。すると脱いだ反動で胸ポケットに差してあったバラが落ちました。落ちた時に風に揉まれ、空気に溶けた香りにマドカが疑問を持ちます。

「?……なんの香りですか?」
「あ?あぁ……それな」
「あら、ちゃんとバラを見つけたのね?」
「まぁ……貰ったってのが正しいけどな」

 蛮が床に落ちたバラを拾い上げ、マドカの手に渡します。受けるようにして差し出された両手に、大きなバラはまるで炎が燃え盛っているかのように見えました。

「大きな花なんですね。それに……とてもいい香り……」
「そうね。とても高級な花ですからね」
「……悪いな、一輪しかなくて」
「いいえ、とても嬉しいです」
「良かったわね?マドカちゃんVv」
「はい」

 そういって満面の笑みを浮かべると、マドカはその一輪のバラを大切そうに胸に包みました。まるで壊れやすいガラス細工を持っているかのように。
 その様子に蛮は微笑を浮かべると、自室へと向かいました。濡れた服を脱ぎ、太陽の匂いのする服に腕を通します。

「……何か隠してる?」
「べーつにぃー?」

 ふと気がつけば戸口にマリーアが立っていました。

「ふふ、言いたくないのね」
「あんな顔された後じゃな。言えねぇっての……」
「そうね……それで?蛮はこれからどこに行くの?」
「……約束を果たしに行くんだよ」
「そう。等価交換って事かしら」
「だとしたら全ッ然等価じゃねぇな
 この俺様がたった一輪のバラ程度の価値しかねぇってか?」

 悪態をつきつつ再び外へと出る準備をちゃくちゃくと進めます。部屋の中も出したままになった本等を棚へと戻しベッドもきちんと整えました。
 一通り片付けたところで蛮は今一度部屋を見渡しました。

「さてと……んじゃ行くわ」
「ずいぶんあっさりとしてるのね?」
「まぁな。未練もなきゃ悔いもねぇ」
「そう……寂しくなるわね」
「……嬢ちゃんによろしくな」

 短く……簡単に挨拶を済ませると蛮は音も気配もなく家を後にしたのでした。
 彼の視線の先にはあの暗い城しか映っていないのです。


―続く


収録後―
B:ふ……ぃっきしゃあぁ!こんちくしょうめ!
M:蛮?それじゃあオヤジみたいよ?
m:もうすぐでお湯が届きますから。そしたらコーヒーを煎れますね?
S:良かったな……美堂
B:あ?
S:馬鹿は風邪ひかねぇんだろ?
B:そうだな……どこぞの誰かさんは馬鹿だからピンピンしてんぞ?
S:どこぞの誰か?
G:ばーんちゃ〜ん!お湯持ってきたよー!
S:……銀次……
B:俺様と一緒に雨ん中ずぶ濡れになったはずなんだがな……
M:そういえばそうねぇ
S:銀次……お前風邪はどうした?
G:あぁ、さっきコンセントに指突っ込んだから全然ヘーキVv
S:さすが……だな
B:素直に珍獣って言ってやれよ
G:ちんじゅうって?
S:気にすんな
m:美堂さん……熱いですから気をつけてくださいね?
B:おぅ、さんきゅ
S:マドカ、こいつはほっときゃ勝手に治りやがるからんな事しなくていいぞ?
m:でも何かお礼がしたくて……
S:お礼?
m:本当のバラって初めてだったんです
  香りが強いと鼻が利かなくなって危ないからって言われて……
  花束も香りの強くないものばかりだったし……
S:………
G:へぇ〜
M:優しいのねぇVv蛮ってば
B:さぁ……何の事だか……
G:〜〜〜〜〜ッ……蛮ちゃん大好きー!!
B:あっぢぃー!!
G:あぁぁごめんっ!蛮ちゃん!!
M:ほら蛮、早く脱がないと火傷するしシミになっちゃうわよ?
B:だぁッ!いきなり脱がせんな!!
G:わぁ蛮ちゃん!こんなとこでストリップショーしないで!!
B:したくてしてんじゃねぇ!
M:ほらほらズボンもVv
B:やめろぉぉぉぉぉぉ!!

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