「おっかえり〜」
「………ただいま…」

 * * * * *

全ての戦いが終結して数ヶ月…
緩やかに変わりつつある世界を刹那は時たま一人で見て周りに行っている。接触はしないけれど、関わった人たちを遠目で眺めて彼らの平和を喜ぶのだ。
そうしてそろそろ引き上げようと思っていた時に一通のメール。

『添付した座標で待ってる。』

簡潔な一言が添えられたそれは、双子から送られてきたもので。まるで狙ったかのようなタイミングに目を瞠ってしまう。どちらにせよ移動を考えていたからちょうどいいか、程度に留めて人目に付かない場所に隠したエクシアR2を起動させる。
目標に送信されてきた座標を打ち込み向かってみれば、そこは太平洋にいくつも浮かぶ無人島の一つだった。どこへ着地しようかと考えを巡らせる必要もなく、少し開けた場所に見慣れたコンテナが扉を開いて鎮座している。準備がいいな…と思いつつ着艦させれば、横に並ぶのはデュナメスとケルディム。
2体とも沈黙し、触れても金属特有の冷たさしか感じないところから、2人がここに来てからそれなりに時間が経ったことを知る。とりあえず…とコンテナから出て砂浜に足を下ろせば仲良く並んだ足跡がずっと先に続いていた。
それを追って歩めば少し開けたところに先程よりも小さなコンテナと目標の2人の姿。何やら談笑しながら並んで作業しているらしい。僅かに首を傾げつつ近づいたところ…

…冒頭に繋がるのだ。
にこにこと微笑むニールとライルが刹那の存在に気付くと二人揃って軽く手を挙げる。行動が重なるところに双子なんだな、と関心するが口には出さない。きっと出したところでニールは苦笑を浮かべ、ライルはちょっと嫌そうな顔になるだけだから。

「ん?どうかしたか?」
「………ここはホームじゃない。」
「あぁ、無人島だもんな。」
「『おかえり』といわれるのはおかしい、と考えていた。」
「あー…ね?」

僅かに固まってしまった程度だったかもしれないが、目敏いニールには何か引っかかって止まってしまったのだとすぐにばれてしまった。さすがに双子云々を言う気にはなれず別の話題を振るとニールが苦笑を浮かべるだけにとどまった。

「あながち『おかえり』も間違ってねぇと思うけどな。」
「どういう意味だ?」
「え?俺も分からねぇ。」

砂を踏みしめながら近づくとさっきは2人の背中で見えなかったが、どうやら料理を作っているらしい。ライルがフライパンを振りながら意味ありげな言葉を吐き出した。言葉の意味が分からない、と首を傾げるとその横で材料を切っている最中のニールも首を傾げる。そんな2人の反応にライルはにんまりと笑みを作り…

「だからさ…『俺の元におかえり』ってやつ。」
「……は?」
「なにぃ!?」

ますます意味が分からないという刹那に対してニールは顔を真っ青にして衝撃を受けている。何故そうもニールがショックを受けているのか分からない刹那はきょとんとして事の成り行きを眺めることになった。

「何だ!その『俺の』ってのは!」
「えー?だって『俺の刹那』だし?」
「いつの間に!?」
「兄さんのいない間に?」
「却下だ!そんなもん、兄ちゃんは許可しません!」
「別に兄さんに許可してもらわなくちゃならないもんじゃねぇし。」
「いいや!刹那の教育係兼保護者だから!」
「いつの話だよ…」
「5年前。」
「無効、無効。それに刹那はもう大人なんだし。俺に任せてさっさと引いちゃいなよ、保護者さん?」
「ダメったらダメ!お前なんかに刹那を任せたらが妊娠しちゃう!」
「…俺は男だ…」

半泣きの表情でぎゅーっと抱きつくニールにげっそりとしてしまう。あまりのバカさ加減にこの2人は放置してトレミーへ戻ろうか、という考えまで過ぎってしまう。

「んなことより、兄さん。さっさと切ってしまってくれる?こっちもうすぐ終わりそう。」
「え!?あ、わりぃ。」
「んで、刹那も。」
「?」
「いつまでも暑苦しいパイスー着てないで着替えて来いよ。」
「…あ…」
「ついでにシャワーも浴びて来いよ。あのコンテナに服も設備も揃ってるから。」
「…了解した。」
「心配しなくても覗かないから。」
「覗こうものなら俺がライフルで打ち抜いてやるよ…」
「兄さん、冗談は笑顔で言おうよ。」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………では着替えに行く。」
「早く帰ってきてくれ、刹那。」
「…善処する。」

からからと軽い気持ちでふった言葉だったのだが、その直後ニールの見せた『笑顔』にライルが固まってしまった。生憎ニールを挟んで反対側にいる刹那にはその表情は見えなかったが、ライルの顔から血の気が引いた事で大体の想像はついてしまう。いつまでもこのままではマズイと悟った刹那は、その場から逃げるようにコンテナへと足を向けた。

 * * * * *

手早く着替えを済ませた再び砂浜へ出ていた。するととりあえず流血沙汰にはなっていない事に安心していると、ニールが手招きしているのに気付く。

「はい、どうぞ。」
「………」

近づいてみると椅子に腰掛けるように促される。素直に座れば首から大きな布を掛けられた。

「俺のいない間また適当にハサミ入れて切ってたんだろ?」
「……あぁ…」
「飯が出来るまでの間に切ってやるよ。」

ぽんぽん、と頭を軽く叩かれるとさっそくと言わんばかりに髪へ櫛を入れ始める。天辺から切り始めるようでしゃきんと小気味の良い音と共に視界へぱらぱらと黒髪が落ちてきた。再び落ちてくる髪の向こうには真っ青な海が果てしなく続き、地平線まで見えている。そういえば…と懐かしい気持ちが沸き起こるとまるであわせたかのようにニールが口を開いた。

「懐かしいだろ?」
「え?」
「5年前にもさ…こうやって髪切ってやったことあるじゃん。」
「…あぁ…俺もちょうどそれを思い出していた。」

全く同じことを考えていた、と笑みを溢せばニールも笑い返してくれる。この島はあの時の島に似ているな…と考えていると、料理の手が空いたのか、ライルが近づいてきた。あとはじっくり煮込むだけなので付きっ切りではなくても大丈夫なのだそうだ。煮込む料理と聞いてもしかしてカレーを作っているのかな?と想像を広げてしまう。

「へぇ…ずっと兄さんが切ってたの?」
「いやぁ?懐いてくれてからだからずっとってわけじゃねぇな。」
「ニールに切ってもらうまでは鬱陶しいと感じたところに適当にハサミをいれていた。」
「あぁ、ね。」
「なんたってあの頃の刹那は聞かん坊で触るな、って振り払ってばっかだったもんな。」

いまじゃこんなに落ち着いちゃって…ともはや保護者というよりも実父のような心境に陥りつつあるニールだが、動く手はよどみなくハサミを動かし続けている。相変わらず器用だな…と思っていると、ふと一つ気付いたことがあった。

「ニール。」
「うん?」
「後ろは長めに残しておいてくれ。」
「お、刹那が注文つけるなんて初だな。」
「なんか理由でもあるのか?」
「や…その…」

散髪の時はいつもお任せだったのが、注文をつけてきた。それだけでも意外なことこの上ないのに、さらに言いよどまれては気にならないわけがない。二人して顔を見合わせると若干俯き気味になった刹那の顔を覗きこむ。ちょっと突付いて言葉を促そうかと考えたがその必要はなかった。刹那がぽつぽつと言葉を紡ぐ。

「全く同じにはならないが…ちょっとは…あんた達と同じ…髪型に…なれるかな…って…」
「………」
「………」

頬を僅かに染めながら呟かれたその言葉にぎしりと一瞬固まると2人して頭を撫で回すのだった。

 * * * * *

「はい、たぁんと召し上がれ!」
「…これ…」
「味の保障はないぜ?」
「練習する時間取れなかったからなぁ…」
「初実践ってことで大目に見てくれ。」

三人で同じテーブルにつくと目の前に出されたのはカレーといえばカレーなのかもしれないが…タマネギやにんじんなど普通のカレーに入るような具材の他に、大豆がごろごろとあり、肉ではなく、魚が入っている。色も全体的に黒っぽい。

「…ガリーエ・マーヒー?」
「ぴんぽーん。」
「…どうして…」
「好きだったんだろ?」
「…あぁ…」
「だったらどうにかして食わせたいじゃん。」

2人にこにこと紡がれる言葉に刹那はまだ納得出来ていない。なぜ、どうして…という疑問がぐるぐる巡っているのだ。そんな刹那に意味ありげに微笑みかけると…

「一個言い忘れてるな。」
「あぁ、言わないと気付かないか。」
「…なに…?」

「「誕生日おめでとう、刹那。」」


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間に合わなかったぁぁぁッ!!!(号泣)
ロックオンの時はなんとか間に合わせたのに…
ネタの神様が…片手分しか降りてこなかったよ…
でも…なにはともあれ…

おめでとう!せっさん!!


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