「ふっ……う、あっ……」
「っく……きっ、つぅ……」
躯を埋め尽くしていた熱が遠のいていく感覚に、腰の奥が疼きだす。行っては嫌だと縋る様に蜜壺が引き締まると重ねあわされた体が震えたのを感じ取った。きゅうっと締められるような甘い疼きが胸の奥にまで広がり、切なさに躯を捩っているとまた楔が最奥まで埋め込まれる。
「あっ、あぅっ、ひっ、んぁあっ」
ゆっくりと動く楔に、まださほど強く打ち付けられていないのにも関わらず強烈な悦楽が躯を突き抜ける。無意識に逃げ打つ躯を大きな手が腰を鷲掴みにして捕らえて、ほんの僅かも逃がさない。隅々まで行き渡る甘い毒に指先までが痺れて躯を支えられなくなっているのだが、手が縋るものを求めて彷徨い地面に爪を立てた。
「こら……そんな、風にした、ら……爪が、割れちまう……」
「っ……だっ、てぇ……ッ」
耳元で窘められるがどうすることも出来ないのだと訴えれば小さく笑われた気がした。それとともに抜け出て行ってしまう楔に焦りが出てくる。繋がったばかりなのにもう解放されてしまうのか、と絶望とともに蜜壺を絞めて嫌がった。けれど、楔は途中で止まってしまいそのまま動かなくなってしまう。
「ッ!?ひあぁぁぁ!!」
どうかしたのだろうか、と訝しむと片足を持ち上げられて躯を回された。胎内に埋まったままの楔が内壁を抉りその衝撃で軽くイってしまう。背を弓なりに反らせてひくひくと震えていると宥めるように手が下りてきた。何度か撫でてからそっと抱き起こされると向かい合わせで密着するように抱えられる。
「あっふっうぅぅっ……」
「これでどう?」
自重によって再び楔が最奥にまで押し込まれる感覚に肌がざわざわと震える。しばらくそのまま動かされずにいると、やがて慣れた蜜壺がさらなる快楽を求めて蠢きだした。すると甘えるように額をこつりと付き合わされて優しく問いかけられる。その顔を少しの間ぼんやりと見つめてからそっと両腕を回すと、ぴったりと寄り添って抱きあう体勢になった。
「ん……いぃ……」
どくどくと脈打つ楔が蜜壺にみっちりと詰め込まれ、灼熱のマグマのように燻っている。その熱さを自分が包み込んでいるのだと考えるだけで躯の芯が震えていった。うっとりと瞳を細めてこくりと頷いて応えるとまたほほ笑んで口づけてくれる。
抱きあったままに躯を大きく揺さぶられる。足の付け根を掴まれて持ち上げられては自重を利用して落とされる。それだけなのに深く突き刺さる楔が最奥を叩き、その度に弾む乳房がニールの胸元に擦り付けられた。固くしこった実がこりこりと捏ねられるような感覚に、躯の芯がじんじんと痺れ余計に震えてしまう。
「あっ、にぃっ、んあっ、ッに、るぅっ……!」
「んっ、ここっに、いる、よ?」
何も分からなくなりそうな悦楽の中、必死に名前を呼べばすぐに答えてくれる。その安堵感からもっと縋りつきたくて腕に力を入れると呼応するように背中へと手が移動してきた。宥めるように撫でて、離れないようにと抱き寄せてくれる。
腕の温かさに涙が溢れてきた。
「あっ、ぃ……してっ……あぃっしてるぅっ!」
一緒にいた頃は恥ずかしさでなかなか言えなかった言葉。言えずに胸の内で燻っていた言葉。もう後悔しないように必死に伝えれば柔らかな笑みを浮かべて応えてくれる。涙を流しながらも届けられた言葉に喜びが浮かんできた。きっと表情にも表れたのだろう、蕩けそうなほどに甘い笑みを浮かべたニールが唇を寄せてくる。反射的に瞳を閉じると唇を軽く食まれた。
啄ばむ様に重なり離れて行くとともに閉じた瞳を開くと中断されていた突き上げが再開される。さきほどまでよりもより強く、より深く抉りこむ楔に喉が仰け反った。
「あっ!あぁっああぁぁっ!」
楔が突き刺さるとともに喉の奥から押し出された嬌声が宙に舞う。がくがくと揺れる視界の中で痺れる四肢をどうにか動かし目の前の体に縋りついた。どうやらニール自身も動きに合わせて腰を浮かせているらしい。躯の最奥を押し上げられる強すぎる快感に、指先までが痺れてくる。
「……ソラン……ソランっ……」
靄のかかる意識の中で自分を呼ぶ声を聞いた。優しく、けれど強く呼ぶ声。包み込む腕の温かさと広さに心を安らかせながらも、激しく求められる。躯中を支配する喜びと悦びの中、絶頂が見えてきた。
「にぃっ、るぅっ」
舌っ足らずな呼び声に包み込む腕の力を強めて応えてくれる。歓喜に打ち震える躯がニールを求めて更なる快感を呼び起こした。繋がった場所から広がる甘い痺れが強くなり、楔に嬲られる蜜壷がひくひくと痙攣を起こす。
「っあ……っふ……」
胎内を犯す楔がダイレクトに蜜壷の与える悦楽をニールに運んでいる。その証拠に彼の頬も上気し、瞳が水の膜を張ったように煌いていた。すぐ近くで聞こえる掠れた声と荒い呼吸が刹那の快楽を助長させる。何を叫んでいるのか分からないほどの嬌声が唇から零れ落ち、強すぎる悦楽に首を打ち振るって啼き続けた。
「あっあぁっも、もぉっ、らめっら、めぇっ!」
呂律すら回らなくなり頭が可笑しくなっていく。狂わされる快感の波に怖れと期待を抱き、目の前の体に縋りついた。一人流されていくのが嫌で助けを求める。
「っく……イく……?」
「んっう!イ、くぅっ!」
腰の動きはやめないくせに手は宥めるように頬をすべり、唇も寄せられる。耳の近くで荒く吐き出される呼気にぞくぞくと震えながらも必死に頷いた。
「もう、ちょっと……我慢、でき、る?」
「やっんぅッ」
「我慢、でき……たら……いっぱい、出してあげ、る……」
返事を返させる為にか、腰の動きが緩やかになった。叩き上げずに、密着させたままゆらゆらと揺さぶられる。それだけでも肥大した楔が内壁をぐりぐりと掻き回し、刹那の躯を跳ね上げさせた。
「んっしゅ、しゅ、るぅっしゅるっからぁっ」
「ぅん……する、から?」
「いっ、ぱいっ……ちょぉらぁいっ」
うまく言葉が紡げないながらにも一生懸命に伝えるときちんと受け止めてくれる。首に回した両手に大きな手を重ね合わせて指を絡ませてきた。しっかりとつなぎ合わせると今度は顔が近づき唇を何度も吸い上げられる。次第に深くなると舌を絡めて甘噛みが加えられた。
「んっふぅっ……」
舌先も痺れる頃にようやく開放される。つぅっと銀糸が伸びて離れていくと腰を跳ね上げられた。
「っひぅ!」
彼の体の上で弾むように叩き上げられ、自分の体重でより深く、より強く楔が咥え込まれる。目の前がちかちかと明滅する間に更に跳ね上げられて突き込まれてしまった。
「あっあうっ!」
びくりと仰け反る背が支えを失い、アンバランスに揺れる。後ろへ倒れないようにと自然に指へと力が入って腕の力でどうにか耐えた。ニールの手が固く握る己の手のバランスを取るようにさりげに支えてくれる。弾む乳房の向こう、霞む視界の中でニールが淡く笑みを浮かべ、飢えた獣の瞳で見つめているのが見えた。その視線が肌に突き刺さるようにざわざわと粟立てる。
「にぃっ、るぅッ!」
「っん……も、ぅ……イくっ……」
とっくに限界を迎えた躯は、快感を貪ることだけを求めて動き続ける。けれどそれもすぐに震える手足では出来なくなってしまう。引き伸ばされたくない絶頂の瞬間を求めて名前を叫ぶ。すると、余裕そうに見えていた表情とは裏腹に声は緊迫した響きを持っていた。
「あっあっあっ!」
間隔の狭くなる突き上げに合わせて嬌声も短く高くなっていく。めちゃくちゃに突き上げられ、最奥を狙い澄ませた楔に意識が掠れていった。
「たっぷりっ……味わえっ……」
低く唸るようなニールの声と共に胎内に広がる熱と雷のような悦楽の絶頂が墜ちてきた。駆け巡る波を躯中で受け止めカタカタと震えながら手に縋る。
「ソラン……」
朦朧とする意識の中、切なげに呼ぶ彼の声を聞いた。
* * * * *
「お、目が覚めたか?」
ぼんやりと映る視界の中に顔が割りこんできた。しばらくじっと見つめた後にようやく一つの名前が浮かんできた。
「……ライル?……」
「うん。意識もしっかりしてきたな。」
くしゃりと頭を撫でられる。その感触に瞳を細めながら思考を働かせ始めた。
「俺は……」
「リボンズと一騎討ちになって、生き残ったのは刹那だった。」
「そう……か……」
「なんにせよ……お疲れさん。」
そう呟いたライルをきょとりと見つめてしまう。その視線に気付いたのか、彼は小首を傾げてしまった。
「うん?どうした?」
「いや……誰かにも同じ事を言われたような気がして……」
「夢でも見てたか?」
「……そうかもしれない……」
じんわりと温かな気持ちが溢れる胸に手を当てると慰めるように頭を撫でてくれる。余計に切ない気持ちが広がってくるが、手の温かさが心地良く、じっと受け入れていた。
「……いい夢だった?」
「……覚えていない。」
「ま、夢ってのは起きると大概忘れちまうもんだからな。」
「……あぁ……でも……」
「うん?」
「きっと……いい夢だったと思う…」
「……そりゃよかった。」
自然と浮かぶ笑みにつられたのかライルも微笑みを浮かべてくれていた。その横顔を見上げているとふと気になり始める。
「……ライル……」
「んー?」
「怪我は大丈夫なのか?」
そっと伸ばした指先にガーゼが当たる。右目にガーゼを押し当てた顔が、ニールの時と重なって見えた。それを読み取ったのか、ライルの口元がにっと笑みを浮かべる。目を覆っているガーゼを少し上げると、見慣れた虹彩の瞳が覗いた。どうやら傷は目の上にあるようで宛がったガーゼの大きさによって覆われているだけのようだ。その事にほっと息を吐き出すと彼は肩を震わせて笑い始める。ぱちくりと目を瞬かせていると鼻先をぴしりと軽く弾かれた。
「今のあんたに言われたくないよ。」
そっちの方がぼろぼろの癖にと言われてそれもそうだ、と笑いが零れてしまう。
そんなやり取りの中、扉が開かれた。誰か入ってくるのかと思えば人の姿はなく。視線を下げていくとオレンジ色のハロがそろりと覗き込むように転がっている。
「ハロ。」
「セツナ、セツナ!」
まるで叱られないように隠れている子供のようで小さく笑いが漏れた。手まねきをしながら名前を呼んでやると嬉しそうに跳ねて近寄ってくる。
「お、ハロ。もういいのか?」
「シューリ、アトマワシ。メッセージ、モッテキタ。」
「……メッセージ?」
働き者のハロが仕事を後回しにしてまで持ってきたというメッセージに首を傾げる。なんにせよ、メッセージの再生をするのならお邪魔するのはまずいだろう、とライルが腰を上げた。
「席外そうか?」
「ロックオンモイッショ!」
「え?」
どういう事だろうと二人して首を捻るが、とりあえず刹那が上体を起こそうとしているので手伝ってやる。怪我の具合から考えて一人で座るのは少々辛いだろう、とライルがベッドに座り体を支えてくれた。そんな二人の膝の間に着地したハロは目を赤く光らせてメッセージの再生を行う。映像もあるかと思えば音声だけらしい。
『……に、このメッセージを再生してほしいんだ。』
『マカセトケ!マカセトケ!』
『ってもう録音始めてる?』
『トメルカ?』
『や、このままでいくよ。録り直す時間も惜しい。んじゃ、ハロ、しばらくそのままな?』
『リョーカイ!』
流れ出した声には聞き覚えがあった。むしろ、もう聞くことの出来ない声だ。その音声に瞳を瞬かせている内にも、流れる会話はごくありふれた…聞き馴染みのあると言っても過言ではないやり取りだ。何が始まるのだろう?とじっと聞く体勢に入る。
『えー……っと……このメッセージが再生されてるってことは……
戦いに決着が着いたってことだと思ってる。
本当は直接言いたかったんだけどな……俺はもういないだろ?』
そんな言い回しに…どうやらこのメッセージは消える直前に取ったらしい。そういえばミーティングをすると言っていた日にハロを抱えてうろうろしていたな、と思いだす。
『まずは、刹那、ライル。お疲れ様。本当によく戦ってくれた。
歪みの根源を討ったんだろ?これで世界は本当に生まれ変われるだろう。
ティエリアとかアレルヤにも言ってやりたいけど、お前らから上手い事言っといてくれ。』
いつもの調子で語られる声に、まるで消えてしまったのが嘘だったのではないかと疑ってしまいそうだった。
『それでさ……わざわざメッセージを残した理由なんだけど……
二人に言いたいことがあってな。
まぁ……ライルには半ばお願いってことになるんだが……』
意外な言葉に二人は目を見合して首を傾げる。
『俺の……心残りなんだ。
二人とも……幸せになってくれ。』
ぽつりと紡ぎだされた言葉は、口調とは打って変って酷く重みのある言葉だった。
『簡単な事じゃないし、俺が言うのも間違ってるんだろうけどさ。
俺の勝手で独りきりにしたライルにも……
独り残していっちまった刹那にも……
心の底から笑えるくらい……幸せになってほしい。』
スピーカーから流れ出る声が徐々に後悔や切なさを織り交ぜた悲しい音になっていく。それとともに聞いている二人の表情も辛さを耐えるような面持になっていった。
『失ったものは大きい……
埋める事なんて出来ないものだろう……
それでも……
人を愛することを諦めないでくれ。
もう愛さないとも言わないでくれ。
人は独りきりじゃ、満たされない。
だから……
求める心を殺すな。』
……頼むよ……と呟いた彼の声音は酷くつらそうに聞こえる。もう何もできなくなる自分に、傍にいてやれない自分に……どうにも出来ないもどかしさが募っているのだろう。
数秒の沈黙。それは彼がどれほどの想いを耐えているのかがはっきりと伝わってくる。
『……あと……最後に……』
留まる自分。けれど、大切な二人には己を振り向かずに前を見据えて進んでほしい。そんな考えからきっと映像を残さなかったのだろう。それでも、何かを残してやりたい。進み続ける二人に。何か力になりたい。きっとそう望んだであろう、最後のメッセージに自然と緊張が走る。
『ライル……』
「!」
『お前はいつまでも……俺のたった一人の弟で、掛け替えのない家族だ。』
二人きりになった家族。それなのに何も言わずにいなくなった兄に、ライルはいつだって置いてけぼりにされた気持ちでいっぱいだった。全く姿を見せない兄。それでも、生活に困ることなく過ごせたのは、確かに兄がいたからであって……いつだって想われていた。
今もそう。5年前には何も言えなかった言葉をこうして託している。
「……ライル……」
「……まただよ……」
「え?」
「いつだってそうだ……兄さんは……俺の言葉を待っててくれない……」
行き場を失った言葉を胸に肩が震える。俯いた横顔。髪の間から見える表情は辛そうで、悲しそうで……けれど『笑み』を讃えていた。そんなライルの肩をそっと撫でる。何もかける言葉が見つからず、そうするしかなかったからだ。しかし、間違いではなかったらしい。彼の手がしっかりと刹那の手を掴み握りしめた。
『そして……刹那。いや、ソラン。』
「ッ!」
『……愛してる……』
静寂が部屋を包みこむ中、役目を果たしたハロはころりと転がってベッドから下りた。そのままぽんぽんと跳ねると、何も告げずに部屋から出て行ってしまう。扉が閉まるまでその姿を見つめていたライルがゆるりと振り返る。
「……刹那……」
俯いたままの刹那の手にぽたりと雫が落ちたのを見逃さなかった。そっと肩を引き寄せて何も言わずに抱き締めると、震える指先が上着を握り締める。
「……らい……る……」
「ん。」
「……このまま……いてくれ……」
「好きなだけどうぞ。」
「……う……ん……」
つい先日も同じように抱き締めあったことがある。けれどその時はお互いに相手の言葉を呟いていた。
しかし……今回は間違えていない。
共に相手が必要とする言葉を、相手に求める言葉を正しく紡いでいる。
「我慢することないぜ?」
「……ぅ……っ……」
「思いっきり……泣きな。」
堰を切ったように溢れる涙と声が部屋の中に響き渡る。胸の中で泣きじゃくる刹那を強く抱き締めながら、残酷なまでに優しい兄の姿を思い浮かべて静かに涙を流した。
11/01/30 脱稿
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