自分勝手な行動をとった為に計画を崩してしまったことを刹那は後悔していなかった。むしろ曖昧に探していたもののヴィジョンをはっきりさせた為に今まで以上の使命感を持ったかもしれない。

 ティエリアに散々怒鳴られてロックオンに頬を殴られた後刹那はしばらくエクシアを見上げていた。
 脳裏に浮かぶのは久しく見た男の顔。
 自分に神を教えたあの男とはもう一度会って話さなくてならない。侵略してきたのは向こうだった。けれど…なにかが引っ掛かる…

 引っ掛かる…

「…ロックオン…」

 『テロ』という言葉に過剰な反応を見せていたように思えて刹那はうつむいた。いつもリーダーとしてみんなを励まし引っ張ってくれたイメージが強いからか、いつもの余裕ある大人の顔もなく取り乱していたロックオンが意外だった。

「………」

 ゆっくりと顔あげた刹那は各々に割り当てられた部屋へと足を向けた。

 * * * * *

 確かな情報が入るまでは待機命令が下り、王留美の所有する別荘の一室をあてがわれていた。その中の一室でロックオンは頭からタオルを被り窓辺に腰かけている。傍らにはワインが1本置かれており、グラスも用意せずそのまま口を付けて飲んでいた。
 どれほどか時間が経過して、部屋に響く控えめなノックに一つ深呼吸をして扉を開いた。訪ねてくるかもしれない人間は何人か予想を付けていたのだが、その中には入っていない人間が扉の前に立っていた。むしろ絶対に来ないと思っていた人物だ。

「………」
「………おまえさんてやつは…」

 ありえない光景に目を見開いていれば、刹那がタオルと冷却パットを持ち上げてから扉に付いたままの右手を指差した。それで訪ねて来た理由はわかったが、ロックオンはあることに気づいて苦笑をもらす。

「俺の手に当てる冷却パットなのはわかったが…自分の頬は放置かよ?」

 ロックオンが拳で人を殴ってしまった事に刹那は罪悪感を感じ取ったのだろう。繊細な動きを必要とするガンマンの手を癒す為にパットを持ってきたようだ。しかし、その手を冷やさなくてはならなくなった原因の頬には何の手当てもなされていない。冷やすこともしなかったらしく、少し腫れたままだ。そんな刹那を呆れた表情で見下ろせば首をゆるゆると振ってみせる。

「これは当然の報いなのだから問題ない。」

 その答えにロックオンは重いため息を吐き出し、体をずらした。

「問題ないことねぇだろ。ほら、入れよ。」
「これを届けに来ただけ…」
「入れ。」

 渡したらすぐに帰ろうと思っていた刹那だが、ロックオンの強い口調と低い声に逆らうことが出来なかった。おずおずと足を引きずるように動かして扉をくぐる。顔は俯いたまま所在無さげに立っていると背後で扉と施錠の音が聞こえ腕を掴まれて部屋の中まで連れて行かれた。どさりとソファに腰掛けたロックオンの目の前に立たされてじっと見つめられるとますます居心地が悪い。

「…当然の報いね…」
「?ロックオン?」

 伸びてきた手に無意識ながら肩を竦ませているとその指先が腫れた頬をそっと撫でる。反射的に閉じた瞳を開くとロックオンはつらそうな表情を浮かべていた。

「お前さんと二人きりだったらもっと違う方法をしてたんだがな。」
「違う…方法?」
「そ。こういう方法。」

 指が滑り落ちたかと思えば突然首に絡みつき呼吸を止められてしまう。息苦しさに喘げばその唇を彼のそれで覆い尽くされた。あまりの展開に目を見開いていれば視界に鋭く細められた碧の瞳が見える。その瞳に意識を奪われていると視界が揺らぎ背中に衝突を感じた。

「!?」

 籐で編んだソファにクッションを敷き詰めただけの肘掛へ首を固定され体重をかけられる。見上げる先には酷く冷たい眼差しをしたロックオンが見え、ますます締まる首に酸欠で朦朧としてきた時ようやく手が緩められた。突然入り込んでくる大量の空気に荒げた呼吸を繰り返しているとロックオンの指先が緩く巻いたターバンを引っかけて抜き取っていく。

「風呂には入ってきたんだろ?」
「…ん…」

 くらくらと揺れる意識の中で小さく頷けば満足したかのような笑みが浮かび両手を掴み上げられるとそのまま肘掛の向こう側へ引っ張られた。

「…な…に…?」
「個人的なお仕置き。」
「…え?…」
「ガンダムマイスターじゃなくて俺個人のお仕置きをすんの。」
「個人…?」
「そ。気づいてないだろ?俺が何に怒ってんのか。」

 手際よく手首を縛りあげられると残った布の部分でソファの足に固定してしまった。締まり具合を確かめる為、覗き込むついでに腕を引っ張られ引き締まる布に顔を顰めた。鋭く睨んでいた瞳に、静かに燃え上がるような炎を見つけ刹那は身動き出来なくなった。勝手に上がる呼吸を抑えながら声を絞り出す。

「…分からない…」
「だよな。」
「……………」
「教えてやるよ。」

 ロックオンの表情はにこやかに笑っているはずなのに、刹那の背には冷や汗が伝い落ちた。

「お仕置きが済んだらな。」

 * * * * *

 口の中に持ってきたタオルを含まされ、目には黒い腰布を巻きつけられる。声も視界も腕も封じられて何をされるかわからない不安に肌が僅かに震えてしまう。トン…と胸の中心に指が降りてきた。不意打ちだったその衝撃に躯を跳ねさせるとくすくすと小さく笑う声が聞こえる。

「ここにいるのは俺とお前だけだろ?」
「…ぅ…」

 ふわりと鼻腔をつくアルコールの匂いにこちらが酔いそうになりながらも萎みそうな心をなんとか立て直す。服の上をつぅっと滑り右往左往している指が突然消えてしまった。微かな動きにも躯を敏感に感じていた刹那はその指が離れて思わずホッとするが、震える吐息で口のタオルを湿らせ、燃えそうなほどに熱を持った四肢を持て余した。小さく胸を上下させていると服の合わせ目がくっと持ち上げられる。

「?」
−ざくッ…
「ッ!?」
「動くなよ?」

 微かに金属の擦れ合う音が聞こえ、『それ』がハサミであることが予想出来る。さらに何かを刻む音と服の接触部が減っているような気がすることからどうやら切り刻んでいるのは服らしい。その決定的な情報として肌に触れていたタンクトップが持ち上げられると僅かに引き上げられる感覚の後に裂ける音が聞こえてきたからだ。

−カシャンッ…
「先に脱がしときゃ良かったな。」
「…ふっ…ふッ…」

 ロックオンが傷つけないようにしていたのは分かってはいたが、本能的に怯えてしまい体が微かに震えてしまっている。刃物に対する本能的な恐怖から開放され、無意識に詰めてしまっていた息を吐き出した。なんとか息を整えようとすると顎を掴まれて仰け反らされる。

「怖かった?」
「んっ…う…」

 そんなことはないと首をゆるゆると横に振るが、ロックオンには単なる強がりにしか見えなかった。小さく笑いを漏らして素直ではない刹那の首に噛み付く。

「んんッ!?」

 獣が噛み付くように歯を立てられ、くっと食い込む感触に刹那の体がびくりと跳ねる。じんじんと痛み出すとふと離れまた別の角度から噛み付かれた。その度に跳ねる敏感な躯にロックオンは瞳を細め、胸を覆い隠したままのコルセットを外しにかかる。

「…ッ…」

 歯を立てられる感覚に意識を奪われている内に肌へ密着していたコルセットがずるりと離れていってしまった。突然外気に晒され、頼りなさに身じろいでしまう。けれどそんな変化も気に留めずに大きな手が下りてくると躯中を這い回り始めた。

「ふ…ぅ…っん…!」

 跳ねる腰に這う手は容赦なく攻め立てる。ぎりっと小さく軋む布に手首が摩擦で熱くなるが、それすらもおぼろげにしか感じない。

「ぅう…ッ!」

 躯の中で渦巻く熱が一時でさえも治まりを見せず、永遠に続くかと思わせるほどに脳内を犯していく。なのに躯は微動だに出来ずに指先で空を掻くばかりだ。

「くぅんッ!!」

 張り詰めた胸の頂を強く噛まれて悲鳴が上がる。びくびくと震える躯から攻め立てる手が、口がふと離れていくのを感じ取って乱れた呼吸の中きつく閉じたままだった瞳を開く。しかし開いても視界には何も映っていない。いや、映ってはいるのだろうけれどそれは真っ黒な布だ。

「んッ!?」

 不意に脇腹に噛り付かれると否応なく跳ねる腰を利用して下着ごとズボンが下ろされていった。爪先から抜くついでに靴下や靴さえも取り除かれ一糸纏わぬ姿され、羞恥から躯を少しでも隠そうとするが全く功を成さない。それでも、と太腿を折り曲げ腹につけようと抱え込むような格好になった。

「…ッ…ッ…」

 先程から何も話さないロックオンに不安が降り積もる。さっきも言っていたように、この部屋には自分と彼しかいないはずだが、目隠しされ触れさせてもらえず声すら聞かせてもらえない状況では他に誰かいるのではないか?今こうして触れてくるのはロックオンではないのではないか?という疑惑に陥ってしまう。

「ッふ!?んっ、んーッ!!」

 ぎゅっと折り曲げた両膝に温かな手が絡みつき、するりと裏側へ撫でられるとそのままゆったりと足首の方へ移動していく。触れ方が酷く曖昧で指先だけの感触を残しするすると下っていった。ぞくぞくと背筋を走る悪寒に似た感覚から逃れようと足をばたつかせるが、足首を掴まれると強固な力によって難無く押さえつけられる。無駄な抵抗ではあると分かっていながらも何とか振り解こうとしても足の裏を這う柔らかい感覚に力が抜けていった。

「んんんッ…っふ…んぅ…!!」

 裏だけに留まらず指の間にも絡まる『ソレ』が何かをはっきり理解するとかぷりと噛み付かれて大げさなほどに躯を跳ねさせてしまった。ふと離れたと思えば再び裏に口付けられてぺろりと舐め上げられる。ふるふると躯を震えさせているとその舌は徐々に肌を伝って昇り詰めてきた。脹脛を滑り、膝の裏を擽って内股を舐め上げて花弁の周辺まで迫る。

「んぅ…ふ…ぅ…」

 ゆるゆると首を振ってなんとか正気を保たせている間にも、足を無理矢理広げさせて付け根を巡り浮き出る腰骨に歯を立てては柔らかな内腿に口付けを落としてくる。熱く疼く花弁には決して触れることなく周辺ばかりを攻め立ててきた。

「んっう!んんッ!んっうんんッ!」

 爪先をきゅっと丸め、詰め込まれるばかりの快感に躯を捩り、跳ねさせて耐え忍ぶ。だが、刹那より刹那の躯を知り尽くした男に与えられる熱は尋常なく躯中を犯し尽くし理性までも蝕んでいった。悦楽と隣り合わせに存在する苦しさに開放を求めて名を叫ぶ。タオル越しで明確な単語は紡げなかったはずだが、必死の呼びかけに気付いてくれた。

「んー?呼んだか?」
「っん…んん…」

 ちゅぷっと濡れた音をさせて吸い付いた肌から離れてようやく躯の強張りを解く事が出来た。けれど疼く熱が燻ったままの状態では生殺しになっているようなものだ。言葉の紡げない口の代わりにどう伝えればいいのかとぐるぐる考えていると離れた手が再び下りてくる。

「んんっ!!」
「何かしてほしいことでも?」
「んっんっ!」

 さわさわと撫で摩る指に意識を攫われそうになりながらも動かしにくい首をどうにか縦に振って肯定を表した。腿の裏を擽っていた手が動きを止めて離れる。ぎしっと軋む音がして感じる体温の近さに、腕へ押しつけていた顔を離して恐る恐る振り向いてみた。すると頬に柔らかな感触が降り注ぎ肩が無意識の内に小さく跳ねる。


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