「責任を取れ、ロックオン。」
「は?へ?何、を??」
突然部屋を訪ねてきた刹那に、これまた突然抱きつかれて耳元で「大好き」と告げられて早数日。
次の日はじわじわと湧き上がる喜びと感動でハロに埋もれて浮かれていたのだが…いつまでもそうしては居られないので身悶えるのは自室のみにし、今まで通りミッションやシュミレーションを重ねてマイスターとしての責務を確実にこなしていた。
そんな日々を過ごしていた時だった。単独ミッションから帰った刹那がパイロットスーツもそのままに訪ねてきていきなり胸倉を掴み上げてドスの効いた声でそんな事を言ってきた。
「何を?だと?…とぼけるな。」
「いや、ちょ…マジで…」
吊り上がった瞳を更に吊り上げて眉間の皺を深くし、掴み上げる腕の力を更に強めてくる。これ以上は首が絞められると危険を感じたロックオンが刹那の両手首を掴み上げて体を密着させながら壁に押し付けた。それでも刹那はキツク睨み付けたままで表情も怒りそのものから変わらない。そんな表情も可愛いなぁ…とか考えてしまってから全く言葉の足りない刹那から言葉を引き出すべく顔をずいっと近づける。
「で?何の責任をとれって?」
「戦いに支障が出る。」
「…俺、最近お前さんに何もしてないはずだけど…」
「だから…ぇ……」
「え?」
「エクシアと戦っている時に支障が出る!」
「エクシアと??」
エクシアと言えば刹那の搭乗するガンダムだ。もちろんロックオンが乗ることはない。刹那とエクシアの間に入って何かした覚えもなければ、エクシアとの間に何かあるような事も皆無だ。しかしその名を出されてロックオンは更なる混乱に突き落とされている。責任を取れというのだから、ロックオンが何かしら刹那の気に入らない事をしでかしたはずではあるが…その『何か』が全くと言っていいほど思いつかない。
「…エクシアに何かしたっけ…?」
「エクシアに、じゃない!エクシアでッ…」
一応記憶の中をひっくり返してみたがこれといって引っかかるものがなく、降参の意を込めて刹那に恐る恐る尋ねてみるとその小さな顔がみるみる赤く染まっていった。ついでに語尾も小さくなっていったので「おや?」と首を傾げているとついには視線を反らされてしまう。
「…刹那?」
「………」
「刹那ー?」
「…………」
「せっちゃーん?」
「……〜…」
「最後までちゃんと言ってくれないと分からないんだけどなー?」
「…〜〜〜…」
壁に押さえつけて体を密着させたままの為に刹那はロックオンの視線から逃れようとこれ以上ないほどに俯いてしまう。けれどそれもロックオンが少し屈んでしまえば無駄な努力で終わってしまうのだった。ひょいと覗き込んでくるその顔からぷいと背いても、背いた方にまた顔を近づけてくる。覗き込まれては背けて、と2・3度ほど繰り返した時、耳元でロックオンの重いため息が聞こえた。
「答えないと…」
「………?」
「…悪戯するぞ?」
「ぅひやぁ!!?」
ぽつりと囁いたかと思えば耳にカプリと噛み付かれてしまった。びくりと肩を跳ねさせれば噛み付いてきた唇から舌が出てきて形に添って舐められてしまう。その悪戯から逃れるべく突き飛ばそうにも両手は拘束されたまま。振り解こうにも圧倒的な力の元に不可能だと思い知らされた。
「んぅ…ッ…」
「…耳…弱いんだな」
「っる…さ…」
反抗しようと睨みつければ微笑みを返される。それがますます癇に障って暴れてやろうとすれば、パイロットスーツの襟回りに唇を這わされた。ざわざわと背筋を駆け上がる感覚に足が震える。
「や…めっ…」
「止めて欲しかったら早く白状しなさいな?」
「うぅ〜…」
悔しさに唸ると大人の余裕を見せ付けられるような笑みを向けられた。それと共にどうしたって自分の意地を張り通す事は到底無理な事を素直に認め、渋々と口を開く。
「…ロックオンが…」
「俺が?」
「エクシア…で…する…から…」
「する?」
言葉にする羞恥に耐えると声が震えてしまう。けれど、少しずつ言葉に出している間にも最初の怒りの感情をふつふつと湧きあがってきていた。
「するから思い出してしまって戦いに集中出来ないと言っているんだ!!!」
羞恥より怒りが勝ってしまった結果、言葉の最後は怒鳴り声になってしまった。けれどようやく吐き出したおかげか刹那はまっすぐにロックオンの顔を睨みつけられている。けれど頬の赤みは治まってはおらず、瞳も僅かに涙目だ。その表情と刹那の言葉をどうにか組み合わせたロックオンは、「あぁ。」と納得を見せた。
「そういや…エクシアでしかヤってねぇもんな…」
「〜〜〜〜〜」
刹那の様子に乾いた笑いを張り付かせて視線を明後日の方向へと飛ばす。
エクシアの座席裏で想いを打ち明けて、次の日に刹那からまさかの告白を返されて…今日までそれなりの日数はあったのだが…ロックオンが身悶えている内に刹那は単独ミッションに出てしまった。その為にあれから今の今までお触りすらしていないのだ。
つまり初めてだった刹那にしてみれば『そういった行為』をしたのが『エクシアの中でのみ』しかない。よってミッションや出撃時にエクシアに搭乗していると、うっかりそこでヤった事が脳裏を掠めてしまい集中できないのだろう。
−早まった…かな…
脳内整理を終わらせたロックオンが刹那へと視線を戻すと、彼女は今にも涙を溢れさせて泣きそうになっている。
−しかも…この表情…もしかしなくとも…
「…俺は…がんだむになれない…」
−…やっぱり…
ぽろぽろと涙を流してぽつりと囁かれた言葉は予想を裏切らなかった。たとえ『好きだ』といわれたとて所詮はガンダム>>>壁>>>自分なのだ…と。心中で思わず涙ぐんでしまうロックオンだった。
−えぇ、えぇ…エクシアには到底かないませんよ…
言葉に出さない代わりに大きなため息を吐き出してしょぼくれたままの刹那へと意識を戻す。
−…でも…
「ぅわ!?」
拘束したままだった両手を開放すると、ひょい、と軽々と刹那を担ぎ上げてしまった。突然変わった視界に刹那の涙も一気に引っ込んでしまう。
「こういうことは俺にしか出来ないしな?」
「?…何の話だ?」
「刹那にいい声出させるのは俺だけだって話。」
「………ッ!」
ロックオンの言葉を反芻させてしばし考えているとベッドの上に投げ出された。驚きにぎゅっと閉じた瞳をそろりと開くと、ベッドの軋む音と共に覆いかぶさってくるロックオンがいる。
「…何…してる?」
「何って…ナニするんだけど?」
大量のクエスチョンマークを出しながら疑問をぶつければ、にっこりと綺麗な笑顔を向けながらスーツのファスナーに指を掛けられる。その行動で漸くはっきりと伝わったようだ。慌てて手の動きを止めようとしている。
「ちょッ待て!ロックオン!!」
「久しぶりのお触りなのに待てとか無理。」
「しかし!!」
「イヤ?」
「そうじゃ…なくて…」
「なくて?」
「…シャワーを浴びたい…」
かぁっと頬を染めて上目遣いで見てくる様なんかは『女の子』そのもので…うっかり心臓を打ち抜かれてしまってロックオンまでも思わず頬を染めてしまった。
「…ロックオン?」
「ん、あ…ぁ…」
呼びかけられてぎくしゃくと体を起こすと刹那が慌てたように起き上がっていく。少し小走りになりながら備え付けのシャワールームに向かう刹那の後ろ姿をぼんやりと眺めて、ふと一つの案を思いついた。再びにやりと笑みを浮かべると気配を殺して扉を潜っていく刹那の背後に立つ。
「?…ロックオン?」
ぽすん、と軽い音を立てて後ろから抱き付いてきたロックオンを見上げると額にキスを落とされる。きょとりと目を瞠る刹那に満面の笑みを向け…
「一緒に入ろうぜ。」
「…はぁ!?」
「これ以上待てないし、時間の節約にもなるしなー。」
「ま、待て!」
「はぁい、パイロットスーツ脱がしちゃうよ〜?」
「やめッ…自分でできっ」
刹那の悲痛な叫びにも聞こえる訴えは扉の向こうに消えていった。
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