−ソラン…私のソラン…

−なぁに?母さん
−この事は秘密よ?二人だけの秘密なの。
−母さんと…ソランだけ?
−そう…誰にも言っちゃダメ。約束よ。
−約束…
−守ってくれる?
−うん、絶対秘密にする。約束、守る。

−そう…いい子ね、ソラン。





「長期ミッションですか。」
「そ。というか、待機期間のが多いと思うんだけどね。」
「はぁ。」
「武装軍隊が集結しつつあるって情報でね。その場所からさほど離れていない場所に反抗勢力が密かに集まるらしいの。」
「ははぁん…待ち伏せですか。反抗勢力が本当に集まるなら一網打尽にしておっ捕まえてってやつ?」
「えぇ、そうよ。反抗勢力側がそれに気付けば引き下がることにはなるけど一応は」
「戦いを避ける事が出来る。」
「なるほどね。」
「備えあれば憂いなしってやつよ。刹那も、いいわね?」
「…了解した。」

 ブリーフィングルームの壁に凭れてじっと聞いていたはずの刹那の返事が僅かに遅れたが、普段会話を嫌う彼らしくもあるので特に気に留められる事無く解散となった。
 王留美から地中海に面する街に武装した軍隊が集結しつつあるとの情報を得た。どうやら反抗勢力が秘密裏に集まり、テロを仕掛けるという。そのテロに対する防衛策だろう。しかし、防衛にしては多すぎる数は捕縛、もしくは殲滅を意味しているのではないか?もちろんそんな行為を見逃すわけにはいかないので、すぐに動けるようにと現地近くで待機することになった。
 更に今回のミッションは潜入捜査も兼ねている。擬似人格が上手い刹那と人とのコミュニケーションをとるのが得意なロックオンが選ばれたのは当然といっていいだろう。それに戦闘になった際、建物が密集しているので接近型のエクシアと狙撃型のデュナメスが適していると言っていい。よってアレルヤとティエリアはトレミーにて待機だ。
 それらの説明を済ませた所で解散、即行動となったのだが、壁に凭れた刹那が珍しく動かない。いつもならさっさと出てしまって準備に取り掛かるところだろう。会話とは違い、その違和感は色濃いものとなってメンバーの首を傾げさせる。

「どうかしたのか?刹那」

 彼の保護者的な立ち位置にいるロックオンが軽い調子で話しかける。元々世話焼きな性格故、何かにつけて刹那を構う事はいまでも続いていた。
 いつもなら「別に」と言って顔を背けるのだが、今日は違う。ちらりと上目遣いでロックオンの顔を見上げるとそのままじっと見つめ始めた。明らかに『らしくない』行動にアレルヤも首を傾げる。

「刹那?本当にどうしたの?」
「…ミッションに何か問題でもあるのか?」
「…いや、ない」
「だったら何か不満でもあるのか?あるのならさっさと吐き出せばいい」
「………」

 心配げなアレルヤに対し、ティエリアは苛立ちを隠そうともせずに淡々と言葉を繋げている。ロックオンはというと未だに刹那からじっと見つめられたままでどうにも動けない雰囲気に陥っているようだ。さすがに何かあるのだろうと直感したスメラギはじっと答えを待つ。ヘタに話しかけて聞き出そうとすると余計に沈黙してしまうのが刹那だと知っているからだ。しばらく動かなかった刹那が俯く瞬間に眉間へ皺を寄せた。その一瞬の変化を見逃さなかったロックオンが口を開こうとしたが、それよりも先に刹那が開いていた。

「スメラギ・李・ノリエガ」
「うん?」
「あんたと話をしたい。」
「それは個人的にという意味?」
「そうだ。」
「………だ、そうよ。三人とも出てくれる?」
「分かりました」
「はい…」
「…りょーかい。」

 三人が渋々扉に向かっていると逆に刹那はスメラギの傍へと近寄っていく。すれ違い様に顔を窺おうと思ったが俯いてしまったままなのでそれすら叶わなかった。扉が閉まる前に肩越しで振り返ればスメラギが苦笑を浮かべてひらひらと手を振っている。つまりこっちは任せてさっさと行きなさい、という事だろう。静かに閉まった扉の前で三人は互いに顔を合わせる。

「…どう思う?」
「どう思うって…」
「刹那・F・セイエイらしくないな。」
「…だよなぁ…」

 ずばっと切り捨てる言い方のティエリアも表には出さないが心配をしているようだ。口元に手を添えて難しい顔をしながら考え込んでいる。もっとも、彼が心配しているのはミッションの遂行が成功するか否か、という事かもしれないが…それでもロックオンは特に気にする事無く、腰に手を当てて天井を仰ぎ見ている。アレルヤはというと心配そうに扉を見つめていた。

「あの雰囲気からして守秘義務に懸かるような内容とは思えない。」
「やっぱり?」
「…ロックオン…」
「ん?」
「刹那に何かした?」
「…はぁ?」

 2人して意見交換をしているとアレルヤが不意に問いかけてきた。が、内容がどう聞いたってロックオンがなんらかの原因を作ったのだろう?という疑惑だ。意味に気付いたロックオンはティエリアの痛い視線を振り切るように慌てて首を振り否定を示す。

「待て待て待て!何で俺のせいになってんだ!?」
「一番接触時間が多いからに決まってる」
「あ・の・な!」
「あら?あんた達まだこんなとこにいたの?」

 男が三人顔を付き合わせて話し合ってたところにスメラギの声が届いた。ふと振り返るとブリーフィングルームから刹那とともに出てきている。どうやら三人でもめている間に中での話も終わってしまったようだ。腰に両手を当てて首を傾げるスメラギに曖昧な笑みやそっぽ向く事で誤魔化すと、もう一度首を傾げて刹那を振り返る。そのスメラギの顔を見上げて今度は刹那が首を傾げた。

「まだ何かあるようなら私の端末に連絡くれたらいいから。ね?」
「…了解した。」
「それじゃ、任務頑張って!」

 ぐっと親指を突き出して満面の笑みを浮かべるとスメラギはリフトを掴み去っていってしまった。後に残されたのはマイスター4人。スメラギを見送っていた刹那がくるりと振り返るとじっとロックオンを見上げてきた。再びなされるその行動に瞬いているとこてんと首を傾げる。

「何をしている?ロックオン」
「へ?何って…?」
「1100には任務に出なくてはならない。その準備が間に合わなくなるのではないのか?」
「あ…あぁ。んじゃ、行ってくるわ。」
「う…ん、気をつけて。」

 淡々と告げて自室に向かう刹那をロックオンは倣いながら残りの2人に曖昧な笑みを向けた。

 * * * * *

 ミッションに向かったのは遠くに地中海を眺めることの出来る山間の街だった。てっきり海に沿った真っ白な街並みの地中海特有の街だと思っていたがそうでもなかったことに少々残念に思ってしまう。これから長期任務だというのに…とは思うが、こういう事でも考えないと待機状態の続く任務などやっていられない。まぁ、海に出るのもさほど時間がかかりそうにないのですぐに出撃出来るようにだけしておけばドライブがてら向かってみるのも悪くないと考える。問題はあの刹那が付き合ってくれるかくらいだろう…そんな事を考えながら端末を取り出すと通信を開いた。

「こちらロックオン・ストラトス。指定された住居に到着した。これより待機及び偵察に入る。」
『こちらトレミーブリッジ。了解しました。定期報告を怠らないようお願いします。』
「りょーかい。」
『あ、ロックオン?』
「はい?なんですか?」

 通信にて最初の報告を終えて切断しようとしたらスメラギに呼び止められた。慌てて答えればちょっと困った顔をしたスメラギの顔が映し出される。その珍しい表情の彼女にロックオンは首を傾げた。

『刹那の様子はどう?』
「へ?どうって…別にいつもながら無愛想ですけど。」

 ちらりと部屋の端で荷物を解いている小さな背中を振り返りつつ質問に素直に答える。トレミーからここにくるまではいつもとなんら変わりはない。特に話しかけてくる事もないし、いきなりどこかへ走り出すこともない。まぁ、暴走と呼ぶものは主に戦闘中だからこんな時にはないだろうと思いつつも、スメラギが何を聞きたいのか確かな部分が読み取れず、適当な答えしか出なかった。

『無愛想ねぇ…ま、いいわ。無理しないようにしっかり見張っておいてね?』
「なんですか?まるで暴走するのが確定しているかのような言い方ですね?」
『んー…出来たらしてほしくないんだけどねぇ〜』

 言葉をあからさまに濁したスメラギにロックオンは苦い表情を浮かべるしかない。結局貧乏クジを引くのが自分だという事を自覚しているのだろう。もしくはもう任務に出てしまっているのだから仕方ないと諦めてしまっているのか…

「あぁ…もう…そういう危険性があるんなら先に言っといてもらえますか?」
『多分大丈夫だと思うんだけど…』
「多分て…予報士の言葉じゃないっしょ…」
『うん、ごめん。とにかく、体調悪そうだったら無理にでも寝かせてやってくれるかしら。保護者さん?』
「はいはい、分かりましたよ…」

 からかい半分にそんな事を言われてロックオンも苦笑を浮かべて快諾するしかなくなった。

 けれどその時はすぐに起こるとんでもない事実に苦しめられるとは思ってもみなかった。

 * * * * *

 街の探索及び情報収集は日も暮れたという事を理由に明日へと持ち越された。

 簡素な食事を取り、互いに入浴を済ませて布団にもぐりこんだのはもう日付も変わる時間だった。
 先にベッドへもぐりこんだ刹那は時間が経つにつれ、足を擦り合わせたり己の体を抱き締め小さく震え始めていた。どうやらこの地方は夜になるとそれなりに冷え込むらしく、いつも通りタンクトップにスパッツを履いただけの自分には寒すぎるらしい。今から荷物を漁るのも有効かもしれないが、冷えた体に冷たい衣服を纏うのは何故だか気が引けた。
 ちらりと部屋の反対側へ視線を走らせるとロックオンが穏やかな寝息を立てて眠ってしまっている。そう何年も前ではないが、彼と同室になった時、眠れない自分を彼はよく抱き締めて眠ってくれた事があった。あの時はすぐに訪れる眠りと与えられる熱に満足していたが、今思えばとても大事なものだったように感じる。

「………」

 そっと冷たい床に素足を下ろして音を立てないようにゆっくりと慎重に歩み寄る。枕を腕に抱え、息を殺しながら覗き込むと穏やかな寝顔をしていた。布団に丸まっても寒がっていた自分とは打って変わってロックオンは片腕を掛け布の上に出している。それでも震えることはない彼をじっと羨望にも似た眼差しで凝視していたが…すぐそこにある暖に気持ちは傾いていっている。

「…ロックオン…」
「…んー?」

 起こすのは忍びないという気持ちもあり、そっと小さな声で呼びかけると彼は間延びした声で、けれどちゃんと反応を返してくれた。枕をぎゅっと抱き締めてすぐそばに立つ刹那を不思議そうな瞳が見上げてくる。

「…どした?…せつな」
「…一緒に…寝てもいいか?」

 ぼんやりと瞬きを繰り返すロックオンに、刹那は申し訳なさそうにけれど、どうしても、という懇願を篭めて言葉を重ねる。なんとか言い切って爪先を見つめていた瞳をそろりと上げてみると、彼は無言で掛け布団を捲り上げてくれた。

「…どうぞ…」
「…ありがと…」

 ほわりとした笑顔を向けられると強張っていた肩から力が抜ける。空けて貰ったスペースへ体を潜り込ませるとロックオンの腕が背中に回され、持ってきた枕は使わない代わりにしなやかな筋肉に覆われたロックオンの腕があった。互いの足を絡めるようにされると温かな体温が伝わりふわりと睡魔が襲ってくる。太陽と緑なす大地のような香りに惹き付けられてロックオンの首元へと擦り寄っていくと彼は小さく笑った。

「なんだ?…今日は随分甘えん坊なんだな…」
「ん…だって…きもち…いい…」
「そっか…」

 絡めた足先が冷たいのとむき出しの肩が少し冷えているので、どうやら刹那はしばしベッドの傍で立ったまま考え込んでいたらしい事を察する。きっと夢の中にある自分を起こすのは迷惑だなどと考えていたのだろう、その気遣いに小さく笑みを溢す。半分夢の中へと入り込んでいる刹那の声を聞きながら、体をもっと寄り添わせてやろうと抱き込むと無意識なのだろう、腕が背中に回された。そのままぴとりと胸元に顔を寄せてきたところでロックオンはばちりと目を見開いた。
 今互いに眠りに付く為薄いTシャツとタンクトップのみを互いに着ているのだが…その薄い布地越しに明らかに違和感のある感触が鳩尾の辺りに押し当てられている。まったく身に覚えのない感触ではないが、『それ』は刹那相手では有り得ないもののはずで…

「ッ!!?」

 思わずがばりと掛け布を捲り上げてそのまま足元の方にしゃがみ込む。突然離されて布団も捲られた刹那は外気の冷たさにふるりと震えて未だ夢うつつの状態で上体を起こした。

「…ろっく…おん?」

 気を緩めればすぐに落ちてしまう目を擦り、片膝を立てているロックオンへ振り返る。その表情はまるで世界の終わりを見たかのような青褪めた顔をしており、中途半端に開いた口はぱくぱくと動くものの一向に言葉を紡ぐことはない。明らかに様子のおかしい彼に刹那は首を傾げた。

「せ…せつ…な?」
「…どうした?」

 徐々に目が覚めてきたのだろう。ぱちくりと瞬かせて小首を傾げる刹那にロックオンの頬が赤くなってきているのを感じた。今目の前に座っている人物は刹那に間違いないのだが、己の目はおかしくなったのだろうか?首から下が脳裏に浮かぶ形とは異なって見える。
 刹那が少年であるならば鎖骨の下は間っ平らでタンクトップを押し上げる膨らみが存在するはずはなく、腰から下を覆う一分丈のスパッツにはなくてはならない盛り上がりはなく、代わりに桃の割れ目のような股上が見える。
 これはどういうことだ?と混乱を極めているとあまりにおかしな表情になっていたのだろう、ロックオンの顔を刹那が四つん這いで近づきつつ覗き込んでくる。窓から差し込む月の光を写し込む紅玉の瞳に釘付けになるとそのすぐ下の桃色をした唇に視線が移り、更に下のタンクトップへと移動してしまった。重力に従って弛む襟ぐりから覗く胸板には確かに肌色の曲線が存在しており、その頂きの桃色が見えそうで見えない際どい状況になっている。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
事件です、お兄さん。

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