就寝前の戸締り確認をした仗助は足音を立てぬように気を配り、自らの気配を消すようにして廊下を歩いていた。今日の仕事はこれで終わりなのであとは寝るだけだ。とはいえまだ日付は変っていない。
 執事という仕事柄、主が就寝した後も色々と業務があり睡眠時間は極端に短くなってしまう。けれど仗助の場合、主である承太郎の就寝時間が想像していたより早いので執事学校で聞いたように短時間の睡眠にならないのだ。睡眠が三時間取れるか取れないかといったハードな勤め先もあるらしく、短時間の仮眠でいかに体力を回復させるかという講義も受けていたのだが、緊急の仕事が入らない限り不要な知識となってしまった。

「!」

 階段を登り、自室へと続く廊下に出ると扉の前に人がいた。この家には仗助と主の承太郎しかいないのだからそれが誰かなどすぐに分かるのだが。入浴前に彼の寝室で挨拶をしてきたはずなのだ。何か用事がある場合はその時に言われる。同衾する時も同じ。仗助が部屋を出る前に何かしらのアクションがあるはずだ。
 では何か忘れていたのだろうか?それとも彼の携帯に緊急連絡でも入ったのだろうか?一抹の不安を抱えつつ足早に近づく。

「どうなさいましたか?」
「……少し話したいことがあってな」

 まさか承太郎に限って夢遊病とか、と思いつつ声を掛けてみればはっきりとした声が返ってきた。どうやら寝ぼけているわけではないらしい。しかし少々言葉の切れが悪いように聞こえる。疑問に感じつつもすぐ傍まで来ると月光に照らされた表情がどこか緊張しているように見えた。

「入ってもいいか?」
「もちろんです。どうぞ」

 断る理由なんてあるはずもなく、扉を開いて招き入れた。電気を灯せば目がくらんだだろう、手をかざしている。帽子を被ったままならばこんな事をしなくて済んだだろうけれど、就寝時にまでかぶるわけもなく。なかなか回復しそうにないだろうその双眸に仗助はそっと手を当てた。閉じた瞼に光がほんの少し当たるように調節してると目を閉じたまま立っているのが不安定になってきたのだろう、伸びてきた指が遠慮がちに服の裾をつまんでくる。

「……明日の会食だが」

 沈黙に耐え切れなくなったのは承太郎の方が早かった。ぼつりとこぼした切り出しに仗助は頭の中でスケジュール帳を開く。承太郎の言う会食は明日の夕方からの予定だ。ホテルのレストランで行われるらしく、大事な客で予約は二人となっている為、仗助は留守番になる。承太郎の言う大事な客というのが少々気になるが、執事である以上深く詮索してはならない。その代わり、着ていくスーツは気張って選び抜いて送り出す承太郎をうんと格好よく仕上げなくては、と意気込んでいた。

「相手というのは……叔父なんだ」
「……はい?」
「本当は日付が変わってから言うべきなんだろうけれど、早い方がいいかと思ってな」

 承太郎が何かに気を使って言わなかったらしいのだが、仗助の方はピンときていない。数度瞬いて脳内で整理していく。そしてふと思いついた顔と名前に首を傾げた。

「ドン・パッショーネでしたら『叔父』と呼ぶ血縁関係にはならないと思われます」
「・・・」

 承太郎が気を使い、『叔父』なんて親戚関係の名称を使う可能性のある唯一の人物かと思われる。血筋から彼の祖父であるジョセフの叔父に当たる彼を名称で呼ぶとしたら何になるのか分からないのだが。少なくとも『叔父』とはならない。その事を指摘してみたら、手の下で瞼がぴくりと跳ねた。当てていた手をゆっくりと外されるとその下から現れたのは不機嫌そうにしかめられた眉間と細められた瞳だった。たった数言で機嫌を損ねてしまったらしく、何が気に障ったのだろう?と内心焦ってしまう。理由になりそうな事柄が分からずじっとしていると、呆れたと言わんばかりの大きなため息が吐き出された。

「お前……プライベートルームでも執事のままなのか?」
「……あ」

 その指摘に、はっ、とする。承太郎はこういった『切り替え』に関してなかなかに厳しい。それというのも仗助が日中は頑なに『執事として』の態度を貫き崩すことなく接しているからだ。素の仗助と絡むのが意外にも好きらしい彼はこの切り替えを間違えると途端に不機嫌になってしまう。
 まずったな、と苦笑を漏らしつつ言い訳をしてみる。

「あー……いやぁ、だって、承太郎さんがこの部屋に来る事なんてまずないじゃないですか」
「普通はな。だが、用があれば来てもいいんだって教えてもらってな」
「教えてって、誰に?」
「おばあちゃん」
「あー、なるほど」

 主が使用人の部屋を訪れるなどまずありえないことではあるのだが、こういった異例はないことはない。執事を勤め始めてそれなりの月日が経ったのだが、承太郎がこの部屋に訪れるのは今日が初めてだ。それというのも、仗助がきっちりと執事業を勤め上げていたというだけでなく、承太郎自身が執事についての知識をさほど持っていなかったからだ。きっと祖母、スージーQに聞かなくてはこうして訪ねてくることは一生なかっただろう。

「まぁ、いい。それよりどうして波流乃くんの名が出てくるんだ?」
「え?だって会食って」
「俺に『叔父さん』は一人しかいないぜ?」
「……俺?」
「他に誰がいるんだ」
「でぇ?!だ、ちょ、待って!俺、会食なんて初耳なんスけどぉ!?」
「そうだろうな」

 寝耳に水とはこの事だ。承太郎の予定にある会食の相手が仗助だと言われても身に覚えなんてあるわけもない。大量の疑問符を生産しているとようやく種明かしをしてくれる。

「明日、誕生日だろう?」
「へ?明日?えー、と……そういえばそうっスね」

 承太郎の身の回りと予定ばかりに気を取られていて己の誕生日ということを完全に忘れてしまっていた。改めて日付を頭に思い浮かべると確かに自分の誕生日だった、と気づく。
 彼が言うには、父ジョセフのサプライズプレゼントだという。ホテルのレストランの個室を予約して身内のみで行う小さなパーティーなのだそうだ。ジョセフと承太郎と静と。スージーQは、と心配してみれば彼女は今、ホリィの元に行っており留守だそうだ。気を使わないようにした配慮なのか、少々申し訳なさを感じつつも断るという選択肢は存在しなかった。父との数少ない思い出を作るにもうってつけであるし、せっかく計画してくれたのだ、無下には出来ない。
 しかしそうなると明日の夕方は自分もスーツを着て承太郎と一緒に出るのか、と予定の組み換えを脳内処理していく。

「……この部屋、いいな」
「へ?承太郎さんのお家っスけど」
「そういう意味じゃない」

 ぽつりと零された言葉に首を傾げると小さく笑われてしまった。違うというならなんのことだろう?ますます首を傾げるしかない。すると、ふ、と承太郎の顔が近づいてくる。突然の接近に瞬いていると鼻先を擦り合わされて頬を寄せられた。

「じょ、承太郎さん?」

 猫が甘えるような仕草にドギマギしているとさらに背中へ腕が回される。それを甘受しつつそろそろと腕を回して緩く抱きしめると耳元で「ふふ……」と鼻に抜ける笑い声が吹きかかった。

「俺の帽子もお前のリーゼントもないから顔の位置がうんと近くなる。それに主としての振る舞いを気にしなくて済む」
「……そんなにキツイっスか?」
「キツイというわけじゃないんだが。色々と抑制しなきゃなんねぇだろ。それが時折面倒なんだ」
「(おっと?)」

 承太郎のいつになく柔らかい声音に仗助は軽く瞬く。珍しく甘えたモードに突入しているらしい様子にじわりと体に熱が帯びてきた。完全無防備状態の承太郎にムラムラとしてきたのだ。

「いちゃいちゃしたかったんスか?」
「たまに、な」

 調子に乗って突っ込んでみると「たまに」という言葉が強調された。彼らしい照れ隠しだ。ニヤニヤと弛んでしまう顔を自覚してはいるが、直せそうにない。ついでに浮かれてしまう心境をそのまま行動に移して耳や首筋に口付けていく。

「甘えたいって言ってくれればいつでも甘えていいんスよ?」
「年上の矜持ってもんがある」

 矜持もだが、承太郎の場合はプライドの方が問題だろうな、と小さく笑いを零した。執事である以上は主のプライドや矜持も守らなくてはならないのだから、これらを傷つけずに甘えさせることが出来るようにならなくてはな、とひっそり決意する。
 濃く香る承太郎の匂いに唇で肌を愉しむだけでは飽き足らず、舌を這わせると抱きしめた体がぴくっと跳ねた。

「っ、仗助」
「ん〜?なんれふかぁ?」
「あ、こら」

 ナイトウェアの首回りを緩くひっぱり晒された鎖骨に舌を這わせると、ぴくっと小さく跳ねて両手が押しのけるように肩を掴んでくる。逃れようとする体を抱き寄せ首筋に吸いついた。その間に裾から手を差し入れてぴくぴくと震える肌を堪能しつつ、宥めるように撫で回すと嫌がるように捩られる。本気で嫌がっているように見えない緩慢な動きにますます興奮が募っていった。

「待て、おい」
「なんでっスか?こういうつもりで来たんでしょ?」
「ん、な、わけ、あるかっ」

 仰け反る背筋を指先でそろりと撫で上げていけば反論を唱える声が震え、逸らした顔の目元が朱に染まっていく。妖艶な色を濃くしていく承太郎に舌舐め擦りをすると両手で腰を鷲掴みにして熱を孕む下肢を押し付けた。

「っ」
「俺はすっかりそのつもりでいるんスけどね」

 ごりっと押し当てた主張に白い頬がかぁ、と赤くなっていった。なんだ、この初心な反応は。このまま押し倒してめちゃくちゃ啼かせるぞ、このやろう。と笑顔の裏側で暴走しつつも手と体はぐいぐいと押さえつけるだけに留める。仗助から明け透けなお誘いに出た時はいつもこうだ。見た目の雰囲気と年齢にそぐわないこのギャップが激しすぎて心臓に悪いったらない。ついでに煽られすぎて理性を保つのがやっとだ。
 ぐっと体を引き寄せてベッドへ倒れ込むと突っぱねる腕へ更に力が込められた。

「往生際が悪いっスよ、承太郎さん」
「だが、ローションなしだと……」
「ベビーオイルがあるんで大丈夫っスよ」
「っ」
「んじゃ、してもいいんスね?」
「……やれやれだぜ」

 にっこりと笑って覗きこめば悔しげに歪められた顔が両腕に隠されてしまった。

 * * * * *

 明日の予定を種明かししてほんの少し『充電』したら自室に戻るつもりが、流されてしまった。自ら求めるのはプライドが許さないところもあって、このところ行為自体がご無沙汰だったのもあり、柔らかく触れてくる指先にすぐ呼気が乱れていく。
 夕方からレストランに出向くことを考慮して一度だけで終わらせる約束をさせたはいいが……

「……じょ、すけ」
「うん?なんスか?」
「も、いい、だろっ」
「えー?まだダメっスよ。ちゃんと解さないと」
「ッん、う!!」

 ぐちゃぐちゃと耳を塞ぎたいほどの粘着質な音が部屋に充満している。トロトロと蜜をしたたらせ続ける肉茎は触れられることなくオイルを垂らした菊華に指を咥えさせられて弄られ続けていた。この状態になるまでも散々躯中を舐め回され、やっと直接的な刺激を与えられると思えば指を一本だけ差し入れられて浅く抜き挿しされるだけだった。この指に与えられる狂おしいほどの快感を覚えている躯にはいささか刺激が足りない。もっと確かなものが欲しくて戦慄く内壁が咥えた指をぎゅうぎゅうと絞め付ける。その絞め付けを慣らしていないが故の固さと判断した仗助はゆるゆると思わせぶりに動かすばかりだ。

「ぁ、ぁッ……」

 少しだけ奥まで指を差し込ませれば白い喉が仰け反り、シーツを乱して身悶えて見せる。立てた膝がガクガクと震え、ぎゅっとつま先がシーツを蹴る。イくには弱すぎる刺激が限界まで詰め込まれてすぐにでも昇り詰めるところまできているようだ。
 一度だけ、という約束にたっぷり堪能しようと焦らしに焦らし、蕩けていく姿に劣情を満たし、煽られてどこまで追い詰める事が出来るだろう?と一種の我慢対決になりつつあった。

「気持ちいいっスか?」
「んっ、いぃッ、い、いからっ」

 ようやく指を増やされはしたが、動きは相変わらず単調に浅く緩くしか動いてくれない。腰の奥に渦巻く疼痛と更なる刺激を求めて痺れる四肢に頭がおかしくなりそうだった。
 もっと太くて、大きくて、奥まで届くものが欲しい。熱い欲望で内壁を満たして突き上げられたい。
 どこのメスだと頭の隅にある冷静な部分が冷やかしにかかるが、与えられ続ける悦楽に我慢などできそうになかった。

「いれ、て、くれっ、じょう、す、け」

 自らの手で足を抱えひくひくと物欲しそうに蠢く菊華を晒す承太郎の姿に生唾を飲み込む。
 この男にこんなことをさせるなんて。とんでもなく煽られる。本当はもう少し焦らしてみたかったが、ここまでさせてお預けするのは可哀想過ぎるだろう。うんうん、とひとり納得して剛直に育った欲を押し当てるとぐっと圧し掛かった。途端に期待と愉悦に蕩ける貌を間近に眺めていると内腿に力が籠ったのが分かる。

「おっと」
「あっ、く、うぅ!!」

 先端の鈴口を指で押さえ、もう片方の手で根本をせき止めるように握り込む。反り返る背と浮きあがる腰に入りかけていた欲望が吐き出されてしまった。

「……ぁ……ぁ……」

 カタカタと震える躯に押さえていなかったら一人達していただろうことは容易に判断できる。ビクビクと跳ねる内腿が僅かに治まると朦朧とした瞳が見上げてきた。

「一人でイくのはダメっスよ」
「や、ゃ、だ……もぉ」

 幼子が駄々をこねるように横に振られる顔にそっと近づくと、首に腕が回されて強請るように口づけられる。快感に侵され満足に動かない舌を懸命に使い絡めてくる動きに淡く笑みが浮かんだ。

「は、ぅ……」
「ね、承太郎さん。俺、今両手塞がってるんで自分で入れてくれます?」
「なッ!?」
「でないとずっとこのままっスけど」

 酸素を求め唇を離された隙に意地悪く強請ってみた。すると思った通り、動揺に瞳が揺れる。考え込ませる時間を与えないように腰を擦りつけて切っ先で菊華を撫でると息をのんだ。ダメ押し、とばかりに両手で握った彼の欲望をやわやわと揉みあげる。

「ふッ、んんっ、ん、ッう!」
「ねぇ、承太郎さん?」
「わ、かった!から、それっ!やめッ」

 イき損ねて苦しいところへ更なる攻め苦が加えられてたまらずに叫んでしまった。とりあえずは手の動きを止めてはくれたが、根本を塞き止められて躯の中を渦巻く熱は一向に治まりそうにない。やり過ごすように荒く呼吸を繰り返し、多少落ち着いたところで見上げると、逆光の中で不敵な笑みを浮かべる仗助の貌が見える。
 これは実行するまで頑として動かないようだ。
 力の上手く入らない腕を仗助の首に絡めもう片方の腕で上体を起き上がらせると手伝うように絡めた首で引き上げてくれる。向い合わせで座る態勢になったが、絡めた両手は微動だにしなかった。恨めしげに見つめてみてもニコニコとして鼻を摺り寄せるだけ。「このやろう」と口の中で小さく悪態をつきつつ膝立ちになって仗助の腰を挟み込むように体を密着させると、見上げてくる青い瞳がゆらりと欲に揺れ動くのが見える。

「っは、ぁ……」

 そろりと伸びてきた指がぱんぱんに膨らんだ欲に絡むと自ら菊華へと導いていく。それだけでも達してしまいそうだったが、腹に力を込めてどうにかやり過ごした。見上げる位置に来た貌を見つめていると戸惑うような視線をよこしてくる。口の端を持ち上げて口付けるとうっとりと細められる瞳に、腰を揺すって先をねだった。

「ッく、うぅ……」

 ゆっくりと腰を落としてみるも、手の中でどくどくと脈打つ仗助の欲はパンパンに張り詰めて今にも破裂しそうだった。その大きさに怯んでしまいそうになる。思わず落とした腰を浮かすと握りこまれた自身をずりずりと扱き上げられて目の前がチカチカと明滅するほどの快感が四肢を走り抜け、膝から力が抜け落ちていった。

「ッ〜〜〜!!!」

 一瞬硬直した躯から、ふ、と力が緩むと同時に浮いた腰が落ちていく。すると待ち構えていたかのように、そそり立った剛直が緩んだ菊華に潜り込み一気に根元までくわえ込まれることになった。びくっと仰け反る喉から声にならない声が吐き出され、酸素を求めるように舌が突き出される。ぎゅうっと締め上げる内壁にくらりと軽く貧血を起こしながらも耐え続け、上を向いた口から荒く息が吐き出されるのを聞いた。

「あ……ぁ、あ……」

 ひくひくと躯を痙攣させつつか細い声がこぼれ落ちる。ゆらゆらと安定しない躯を抱き寄せるように膝を立てると肩口へ顔を埋めてきた。

「デカく、しす、ぎ」
「煽ってんの、承太郎さんでしょ」
「焦らしたのは、お前だ」

 軽口をたたくのは躯中が疼いている証拠だ。何か喋りでもしていないと耐えられないのだ。すがりついてくる指が爪を立て、肩に荒く繰り返される呼気が吹きかかる。自ら仕向けたこととはいえ、動かなくては、と立て直しを図るその態度が懸命で愛おしくてならない。宥めるようにすぐ傍の髪に頬をすり寄せて撫でられない手の代わりにした。

「ん、ふっ……」

 まるで褒められるように頬をすり寄せてくる動きに心が満たされる感覚に浸される。それとともに動くための力を得た気がして膝に力を込めるとゆっくりと腰を浮かした。

「あ、ぁ」

 内壁がごりごりと擦られていく感覚に自然と声が零れ落ちる。めまいがするほどの快感が生み出されて引いていく波に、もっと、と再び腰をゆすった。

「あっ、ふぅ、ん、んっ」

 躯を駆け巡る快感に身を悶えさせつつ腰を振る承太郎の痴態に喉が鳴った。薄く開いた唇から甘い声が零され、恍惚とした表情で自ら快楽を貪り食らう姿は視覚の暴力だ。何度か打ち付けると、息苦しさに呻きつつ項垂れてしまう。そろそろ開放した方がいいか、と手を離そうとしたのだが、そろりと上げられた瞳がじっと見つめてきた。

「……気持ちいいっスよ?」
「……ん……」

 その瞳にぴん、ときて微笑みかければ承太郎も満足気に瞳を細めて見せた。そのまま顎を上げるとまた律動を再開させる。

「(あ、愛されてる〜ッ)」

 滅多に見せない柔らかく弧を描く瞳と懸命に揺らされる躯に思わず感激のあまり叫びそうになった。ぞくぞくと背筋を駆け上がるのは、蠢く内壁に軟く揉み込まれながら扱く様に擦り上げられる動きによる快感だけではないずだ。
 徐々に穿たれる速度が上がり、零れ落ちる嬌声も間断なく吐き出されていく。悩ましげに歪む表情に釘付けになっていると助けを求めるように揺らめく碧い瞳が見つめてきた。

「じょ、すけぇっ、も、ぉッ」

 甘く強請る声に頭の中でプツンと糸が切れる音を聞いた。

 * * * * *

 レストランで合流したジョセフと静とともに個室へと移動している間に、くいくい、とジャケットを引かれる。何事か?と振り向けば杖をついたジョセフが口元に手を当てており……

「承太郎?どこか怪我でもしとるのか?」

 と、声を潜めて聞いてきた。その突拍子もない質問に眉をしかめてしまう。

「は?」
「足を引きずっとるように見えるが」

 こてん、と首を傾げるジョセフに思わず半眼になってしまった。

「・・・気づくなよ」
「ふむ?」

 ジョセフの言うとおり、承太郎の足取りはいつもより慎重、というよりは、庇うように動いていた。それでも気取られぬように何食わぬ顔でいつも通りに歩いていたはずだった。

「怪我ならば仗助くんに治してもらったらどうじゃ?」
「怪我じゃねぇよ」
「そうか?」
「……運動不足解消を、な」

 濁した言い方になるのは仕方のないことだ。彼の息子と夜の営みをしている、なんて高齢の人間に聞かせることではない。

「そんなに激しかったのかい?」
「その……相乗効果ってやつがな」
「ほぉ」

 さらに聞いてくるジョセフにどうにか誤魔化そうと思うが……さすがに言葉が窮してきた。
 昨夜は約束したとおり1ラウンドしかしていない。のだが、承太郎の腰はずっと重だるく体重移動を慎重に行わなくては途端にかくりと膝から力が抜けてへたり込んでしまう状態だった。
 何故こんな状態になったのか、心当たりはある。昨夜、仗助の部屋でことに及んだからだ。初めて入った仗助の部屋は彼の匂いと気配で充満しており、すっぽりと包み込まれるような安心感に体が完全にリラックス状態になった。その証拠に自ら甘えるような仕草をしてしまったり、深く感じ入ってしまい意識が朦朧となっていた。一度だけ、というには密度が濃く、結局いつも通りの疲労感と充足感に包まれ意識を手放してしまったのだった。

「……あなどったな」

 いつもと違う部屋のベッドというだけだと思っていたのに。と内心ぼやいて深くため息を吐き出す。その横顔を見ていたジョセフは曖昧に頷き、ぽんぽんと軽く腕を叩いた。

「ま、ほどほどにの?」
「あぁ」

 再び重たいため息を吐き出していると前を歩いていた仗助と静が部屋に着いたと、振り向き呼びかけている。席順をどうするか、と三人で話し合っている姿をぼんやりと眺めつつジョセフの思考は別の場所へと旅立っていた。

「(あの承太郎が足を引きずるほどとはのぉ……)」

 杖に両手をつき、その上へ顎を乗せつつ視線を承太郎からスライドさせて仗助へと移していった。杜王町で会った頃よりも背が伸び、体つきもうんと逞しくなったようだ。それこそ髪型を変えれば己の若い頃にそっくりだろう。

「(わしに似てアッチのテクも天性のものを授かったかの?それとも女泣かせの凶器を使いこなしておるのか)」

 どちらにしても息子が自分に似たところを持っていて嬉しいのぉ。と一人ほのぼのと微笑んでいると、「立ったまま寝てんスかー?」と明るい声に引き寄せられ部屋へと招きいれられた。



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