赤く染めて



…そこら中、ばかみたいに血まみれだ。

「ああほら。だから無理するなって言ったのに…。」

ため息と共に吐き出された呆れ声が俺の情けなさを強調する。

「だって…!俺だって…!」

そうだ。自分でも情けないとずっとずっと思っていた。
相手は百戦錬磨の上忍で、顔を胡散臭い覆面で覆ってるくせにもてもて。
片や俺はといえば、自分の教え子の変化にも鼻血を吹く始末。
当然、彼女なんか出来たこともなかった。

…彼氏は、できちゃったけどな。

でも、だから…だから俺は…!

「汚れちゃった。」

その手に拾い上げられた黄色い表紙の如何わしい本は、真っ赤に染まっている。
…俺の、鼻血で。

「…ごめん、なさい…。」

いつも何かって言うと…いつだって、俺が側にいたって…その本を読んでいたから。
正直な所、嫉妬もあった。
どんなに俺が頑張ってもその本にかなわない気がしたんだ。

でも、あんまりにも熱心だから、俺がその本を読もうとしたら止められて…。

「アンタには無理でしょ?ほら、いいから…」

かっと頭に血が上るのが自分でも良く分かった。

「馬鹿にするな!俺だって…!」

そうして、勢い良くページをめくって…勿論、すぐさま後悔する羽目になった。
ページをめくってもめくっても、何処もかしこも桃色で、鼻の奥が熱くなる。きっと目だって涙目になってた。
でも、カカシさんが慌てたように本を覆って、俺にため息をついたから。

「ほら、無理しないの。何か読みたいならもっとイルカ先生向きの探してあげるから。」

ね?なんて小首を傾げられても、馬鹿にされてるみたいにしか思えなかった。

「うるさい!」

もう限界だって自分でも分かってたのに、次のページをめくるとソコには…。
あられもない格好の女性が、切なげに眉根を寄せて男と絡み合っている絵姿が…!
それからはもう、頭が真っ白になって、気がついたらあたり一面血まみれになっていた。

…俺の嫉妬が原因で、カカシさんの大切にしている本を汚してしまった。

それが悲しくて悲しくて、涙がこぼれそうだ。
とにかくこの惨状を何とかしようとティッシュを探す視線は、すっと差し出された白く柔らかいものに遮られた。

「ほら、大丈夫?無茶しちゃダメでしょ?」

優しい声、心配そうな表情…そして、優しく俺の汚れた顔を拭う手。
全部が、俺が大切だって言ってる。
それなのに、俺は…!

「うぅー…!」

今度こそ本格的に泣き出してしまった俺に、カカシさんが慌てふためいているのが分かっていても、俺は涙を止めることができなかった。

*****

「落ち着いた?」

「…ごめんなさい…。」

心配そうな視線がいたたまれない。
だって、俺のせいなのに。
無様に泣きじゃくる俺にくっ付いて優しくなでてくれた。
その間にも影分身がテキパキと掃除を済ませ、部屋はすっかり元通り。
…カカシさんお気に入りの本を除いては。

血液がしみこんでしまった本は、流石に拭いただけじゃ元に戻らない。
買い換えるにしても、ずっと大切にしていた本みたいだから、もう同じモノは手に入らないかもしれない。

なんてことをしてしまったんだろう…!

「いいから。読んでみたかったんでしょ?止めちゃってごめんね。」

そんなことをいってくれた。
罪悪感と後悔とで胸が苦しい。

「違うんです…!ただ、いっつもその本を読んでて…だから、俺…!」

言いたいことの半分もまとめられない言葉に、カカシさんが目を見開いて驚いている。
本当は、もっと言いたいコトはあった。

俺じゃ満足してないんじゃないかとか、俺がいるのに本なんか読むなとか、色々が頭の中を一杯にして…こぼれてきたのは新たな涙だけ。

カカシさんはソレを見て、今度はにやりと笑った。

「嫉妬、してくれたんだ?」

「うぅ…!」

そんなに嬉しそうにされるとこっちが恥ずかしい。
そうだ。そんな本なんかに。モノなんかに嫉妬するくらいアンタが好きなんだよ!悪かったな!
…そんなコト、言える訳ないけど。

「おいで。」

でも、そういって両手を広げて誘うように笑うから。
思いっきりその腕の中に飛び込んでやった。

そこからはもう、目くるめく時間。

何故か異常にヤル気を出したカカシさんは、息ができなくなるくらい激しく攻め立ててきて…「だめ」、「無理」、「いゃ…!」なんてセリフをいくらはいても許してもらえなくて、散々喘がされるはめになった。

*****

「あの本なんか目じゃないくらい凄いことしてるじゃない?」

声も出ない俺に不思議そうにそんなコトを言われても…。
その行為のせいであの本に載ってるのが瞬時にカカシさん変換されたなんて言えない。
昨日だってその前だって…色気たっぷりに俺を誘って散々色々シタくせに!さっきだって…!
思い出すとまた鼻血が出そうだ。

「…。」

むっつりと押し黙る俺に、カカシさんが笑った。

「ま、あの本も役に立つけどねぇ?イルカ先生にだって仕事があるし、そうしょっちゅう襲えないもの。」

「え?」

散々好き放題にしといて今更なんだとか、役に立つって何だとかで頭がぐるぐるする。
それなのに、くすくす笑いが耳元をくすぐって、まだ熱の篭る体を煽るから、思考がさっぱりまとまらない。

「あの本の乗ってるの、全部イルカ先生で実践したから。いつでも再現できるように。」

「な!?」

なんてことを!いつのまに!再現って何だ!?
目を白黒させる俺にカカシさんがイタズラっぽく微笑んで…。

「だ・か・ら。…いつだって、俺があの本を読みながらアンタを抱いてるってこと。」

そんなコトを言ったものだから。
先ほどまでの目くるめく行為が頭の中で勝手に再生されて…。

「あ。」

「わー!?イルカ先生っ!?」

…そうして、本日二度目の鼻血が部屋中を真っ赤に染めたのだった。

*****

掃除は、またカカシさんがしてくれた。
…やりすぎと鼻血の出しすぎでフラフラしてる俺を、熱心に看病しながら。

だからまあ、あの本のコトは色々諦めるコトにする。
…謝る俺にあの本のストックが一杯あるって白状したし。

それになにより。

「イルカ先生に嫉妬されちゃった!」

いつもはポーカーフェイスのくせに、頬を赤く染めて嬉しそうにそうきゃあきゃあ騒ぐのが可愛かったからな。

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オマケにこそっと。
プロット直してたら、笑い取り損ねた…!?
箸休め程度にどうぞ!



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