「で、首尾はどうだ?」 早速鳥が話しかけてきた。 「一応、明日約束した。」 だが、あの中忍は任務上必要だからだと思っているだろう。 「お!でかした!!!いいか、恋愛ってのはな、一緒にいる時間が愛を育てるんだよ。…つまり!どんだけ長い間一緒にいられるかってのが重要なんだ!」 能天気に鳥が語っているが、本当に上手く行くんだろうか…。 「…それはどうかわかりませんよ?それより花はどうでした?反応はあったんですか?」 やはり猿の発言からも不安を感じる。そう、花。花も…アレで大丈夫なのだろうか? 「…喜んでたっていうより、驚いてたみたい。…どうなのかな…?」 いつもはいくら相手が年上だったとしても、部下にこんなに不安を見せたりしないのだが、ついつい愚痴めいたことを口にしてしまった。 「それはきっと照れてるんです!!!大丈夫!十分脈ありですよ!!!」 自信満々に猿が言う。…根拠が何かわからないが、この際信じてみようか…。 「…で、だとしたらどうしたらいいのよ。次は。」 「それはもちろん!どんどん口説けばいいんです。花で反応があったんなら、絶対いけますって!」 「そーだそーだ!いいか!明日その中忍を迎えに行くんだろ?だったらそのときにも口説け!」 そんなことを言われても…。 「だからどうやってよ?一応鍛錬するって言ってはあるけどさ。」 「鍛錬!良いなソレ!いいか!手取り足取り密着だ!で、こっちのやる気を相手に悟らせるんだよ!」 「馬鹿なことを…。そんなことしたら純情中忍ちゃんが引くに決まってるでしょうが!」 「なんだとう!」 「いいですか、鳥の言うことは本気にしちゃだめですよ!さりげなく、さりげなーく、そっと優しくするのが決め手です!」 「そんなまだるっこしいことしてたら、任務が終わっちまうだろうが!」 「これから口説くって言うのに、セクハラまがいのことする方がマズイでしょう!」 こっちの悩みそっちのけで、自説を主張しあう二人を黙らせるため、子の場はとりあえず納得したフリをしなければ。 「あー。わかったから。とにかくさりげなくこっちが気があることを悟らせればいいのね。」 とりあえずは折衷案だ。これで黙ってくれるだろうか。 「そーだそーだ!ドンと行けドンと!」 「さりげなく!ですよ!」 しつこくサラウンドで言われた。…さっきまで喧嘩腰で言い争っていたくせに…と少し腹が立ったが。 「アドバイス。ありがと。」 とりあえず礼を言っておいた。 …参考になるのか大いに不安だが、とにかく!行動あるのみだ! 明日は…とにかくあの中忍に会えるのだから…。 ***** カカシの目の前で緊張した様子の中忍が頭を下げている。 …どうみても修行に来たと言うよりは初めてのお使いにきたアカデミー生のようだ。期待と不安が見て取れる。 「こんばんは!よろしくお願いします!」 …ああ、やっぱりいいな。この中忍。 挨拶する様子からしても、全くすれていないのがよくわかる。いつも自分のまわりにいるような奴らにはいない人種だ。うぶと言うかなんというか… とても純粋な感じがする。傷つけてはいけないような…。 馬鹿馬鹿しい…それでもこの中忍君はいちおう中忍だ。昨日はなんだかんだと言われたが、まずは任務が先だ!…今のうちにできるかぎりのことを しておかないと、この中忍がかえって危険な目に合うかもしれない。 内心の混乱を面の下に押し殺し、カカシはなんでもないことのように言った。 「どーも。じゃ。さっそく始めよっか。」 「えーと…。」 明らかにこの中忍は戸惑っているが、気付かないフリをしてさっさと説明してやった。 「ちょっとアンタがどれだけ動けるのか知りたいから、そうだな…ここから、あっちのでかい木まで、トラップしかけて見せて。」 「はい。あ、でもどんなものを?」 真剣な様子で悩んでいる。こういうところも…いや今はこっちが優先だ。 「殺傷目的。足止めなんでもあり。でもあんまり体力とチャクラ、使い切んないでね。後で俺と手合わせしてもらうから。」 「えと、はい!」 早速中忍はトラップを仕掛け始めた。 …手つきをみるかぎりでは、中々の腕前だ。流石火影に推薦されるだけある。自分でもこう上手く出来るかといわれれば疑問に思うくらいは作業が緻密で正確だ。 こちらの動揺も全く気付かれていないようなのでホッとした。 「できました!」 手際もいい。コレならトラップは任せてもいいだろう。あとは…実戦経験のなさが問題か。 「じゃ。これから俺があのでかい木のとこまでいくから、アンタはそれを止めてみて。殺す気で来てね。10数え終わったらスタートするよ。」 「は?え、ちょっと!」 「10、9、8、…」 「わあ!…っ!」 「3、2、1…0!」 「くっ!」 とっさの判断はなかなかいい。クナイの使い方…は、…そこそこかな。でもやっぱり腕はまだまだ未熟だ。それ以前に攻撃に迷いがある。 殺す気でこいといったのに、躊躇しているようだ。優しさというか甘さというか…こんな場所では命取りになるだけだ。このまま前線に連れてったら… この中忍は間違いなく死ぬだろう。クナイだけで応戦していて、術を全く使ってこない。こちらも手加減しているのだが、もうすぐあの木までついてしまう。 「どーしたの?もう諦めた?」 「っ!いいえ!」 中忍が叫んだとき、何かが切れる音がした。 …トラップか! 仕掛けるのをみていたのに、作動させるのを防げなかった。 …うん。やっぱり気に入った。 「でも。甘いね。」 仕掛け網なんかで暗部を捕まえようという方が無理だ。やはりこの甘さがこの中忍の一番の問題点だ。そこがこの中忍らしいといえばらしいが…。 「うわっ!」 さっと網をかわし、イルカを担いで木までいっきに跳んだ。驚いたのかイルカがぎゅっとカカシの腕を握り締めてきた。 …驚きのあまり取り落としそうになったが、どうにか踏みとどまり、目印の木の前でまだ驚いているイルカを下ろした。 「はーいしっかーく!と言いたいとこだけど。…アンタ筋いいよ。これからちょっと鍛えれば伸びそうだね。」 「え!ほんとですか!」 「ま。今度の作戦までには使えるようになってもらわないとこまるしね。がんばってね。」 「はい!!!」 キラキラした目でカカシを見つめてくる嬉しそうなイルカを見ているとやはり胸が…。 なぜこんな中忍をここによこしたのか、帰ったら三代目を詰問したくなりそうだ…。こいつはここにいていい人種じゃない。もっと明るいところにいるのが、 この中忍には似合っている。 …そもそもこの中忍は任務内容を本当に知っているのだろうか…? 「じゃ、また迎えに行くから。お疲れ様。」 「ありがとうございました!!!」 …口説く…結局全くそんなことはできずに、訓練を終わらせてしまった…。 しかも動揺を隠そうとして、返って強引にやってしまったという自覚もある。 …だが今更こちらに背を向けて走っていくイルカを呼び止めることもできず、その場を立ち去るしかなかった。 ***** 「そりゃだめだろうよ!」 「そうです!いいですか!大事なことは言葉にしないと分からないわ!とか言われ続けた俺が保障します!そのまんまじゃいつまでたっても 相手には通じませんよ!…せっかく次の機会があるんですから、その時にこう…」 「そう!バーン!と口説け!な?」 カカシは、今日も今日とて勝手なことをいう猿と鳥に、こんなことを相談したことを後悔し始めている自分を感じた。 「バーンって…どうやってやんのよ。それに…なんでもない。」 大体バーンといっても相手は全くその気がなさそうだ。自分の態度も問題だと言う自覚はあるが、おそらくあの中忍も鈍そうだし…。 それになにより…イルカは女じゃないんだが。大前提からして勘違いされているが、今から説明してもかえって大騒ぎになって話が進まなそうなので、 とりあえずはそのまま話を聞くことにした。 「いいから!味噌汁作れとか抽象的な表現は駄目ですよ!すきだ!とか一緒にいて欲しいとか!」 「後はやりてーって…」 「鳥!どうしてそう即物的なことを!」 「いいじゃねえか!まだるっこしいこといってるよりよっぽど分かりやすいっつーもんよ!」 「…貴方にはわからないんでしょうけど、…それ、一番嫌われますよ。どこのエロ親父のセクハラですか?!」 いつもどおりに始まった二人が言い争い始めた。 飽きないのか…? 不思議に思いつつもカカシはさっさとこのいつまでも続きそうな議論を中止させることにした。 「あーもういいよ。明日。口説くって言うかとにかく試してみる。…ソレより動きはあったの?」 任務の話となると、一応気配が変わった。先ほどまでふざけていたのがウソのようだ。 「城はもうでた。…あと5日ってとこかな。」 「あっちのターゲットの方は確実です。で、もう一件の方もいけそうです。」 任務…もうすぐあの中忍に働いてもらわなくてはならない…。 「そ。…じゃ、いそがなくちゃね。」 出来るだけそっけない風に言ったが、任務達成よりも、あの中忍がこの任務をどう思うかどうかが心配だ。 「そうだ!一気に行けよ!」 「そうです!一気は置いておいて、とにかく今がチャンスなんですよ!頑張って!」 「あーうん。頑張ってみる。」 二人のやたらと力の入った応援を背に受けながら、どうやってあの中忍を育てるかにカカシの思考は沈んでいった。 ***** 「あら?それ、どうしたの?」 あ、そうだった。コレつけたままだったんだ!!! 「えーと。そのー…。」 コレはどう説明したらいいんだろう?暗部に何故か貰いましたっていっても…いいのか? 「ああ、そっか!さっきの暗部ね。あらコレ…」 相変わらずイルカの混乱具合をさらっと無視して、ツバキがひとり納得している。だが、ツバキはコレについて何か知っている様子だったが… 中忍が始めて戦場に出るときは花を頭に飾る習慣があるとか???だがそんな話は聞いたことが無い。 「なにかあるんですか…?」 不安に思ったイルカは、おそるおそるツバキに問うてみた。 …ダメ中忍の証とかだったらヤダな…。今のところは…本当に実戦で役に立つのか不安だけどさ…。 「薬草よ。…きっと怪我したら使えってことかしらね。成り立て中忍君ってイルカ君のこと気にしてたみたいだから。」 「え?」 ソレは初耳だ。最初に会ったときから、あの暗部はどちらかというといらだっているのかと思っていた。 …何しろ出会いがしらにクナイをつきつけるなんて…普通心配している人間に対してしないだろうとイルカは思う。 「ふふ…。お人よし同士ね。貴方たち。仲良くなるのは無理にしても、せっかく一緒の任務についてるんだから、色々教えてもらいなさい。」 「でも…」 何だかツバキは納得しているが、イルカとしてはなにか別の理由があるような気がしてならない。 「あなたの場合は忍の技も勿論だけど、考え方もね。」 いかにも楽しそうに、ツバキがまるで子どもに言聞かせるように話す。そう、まるで…。 「…なんかツバキさんって…」 「なに?」 マズイ!!!思わず口走ってしまった! 「あ!そのなんでもないです!」 「なんでもなくないでしょ?いいなさい。」 怒っているわけではないのだろうが、断ることを許さない口調だったので、慌ててイルカも答えた。 「えと。その。母に…。」 そう、…イルカの母もこんな感じだった。ずいぶんと昔の記憶なので、きっと美化されたり風化した部分もあるはずなのだが、雰囲気がとても似ているように 感じる。特に優しく諭すような所が。 「あーなるほど。」 ツバキはこんなにでかい中忍に母親呼ばわりされる年ではないので、きっと怒られると思ったが、なぜかツバキの方は得心が行った様子だ。 だが、イルカの方は、失礼な真似をしてしまった自覚があるので、慌てて弁明し始めた。 「隊長は全然俺の母より若いです生きてれば!でも。その、俺の記憶の中の母に似てて…済みません…。」 年齢的にもちょうど…最後に母と会った頃と同じくらいに見える。 「そういえば髪型もイルカ君と似てるしね!ふふ。まあしばらくなら母親もどきやってあげるわ。早く一人前になりなさいね!」 「…はい!」 完全に子ども扱いだが、イルカも自分がまだまだツバキから見たらひよっこだという自覚があったので…それ以上何もいえなかった。 だが、ツバキの話を聞いていると、あの暗部は本当に気遣ってくれたのかもしれないと思い始めてきた。 それなら…仲良くなれそうな気がする。 イルカはまた今度はあうときはもう少し打ち解けられるといいと思いながら、作業に戻った。 …そんなこともあって、イルカはちょっとでも仲良くなろうと思っていたが、本人を目の前にすると、やはり緊張してしまった。 いきなり修行だといわれ、しかも殺す気で来いなどといわれては、一層不安が募った。 …やっぱりこの人のことが分からない…。 だが、イルカが自信のあったトラップをかいくぐる様はやはり流石暗部と言うほかなく、悔しさよりも、驚きと感心が先立った。 …殺す間では行かないにしても、イルカとしてはかなり緻密なトラップを仕掛けたつもりだったが…こんなに余裕があるなんて…! やっぱり俺には越えられない壁があるのかもしれない…。でも!絶対に諦めないぞ!!! イルカはカカシからの明らかに手を抜かれていると分かる攻撃をよけながら、一番自信のあったトラップまで誘導することに成功した。 絶対によけられないと思ったのに、イルカの自信作を暗部はこともなげによけてしまった。 しかも…失格…。 これで里に帰らないといけないんだろうか…。そう不安に思ったイルカだったが、暗部はさらっと筋がいいと褒めてくれた。 この暗部はお世辞を言えるタイプではなさそうだ。…やっぱり…最初の印象より優しい人なのかもしてない。 イルカは、強くて不器用で、でも優しいこの暗部との修行を楽しいと思い始めていた。 ********************************************************************************* ちょっとずつ…。 |