退屈だ。 「あーだるー。」 先ほどから陣のはずれの樹上に陣取り、だらだらと暇をつぶしているが、全くつまらない。 「おいおいしっかりしろよ!」 鳥面の男があまりにもだらけたカカシを見咎め、注意してくる。だが、カカシにとってはどうでもいいことだ。貴重な戦力であるはずの暗部を、 ずいぶん長いこと待機させすぎている。火影は何を考えているのか、疑問に思う。なにしろ退屈で仕方ないのだ。 「どーでもいいでしょ。そんなの。…ってなんか騒がしくない?」 陣の外れまで、ざわざわと騒ぐ物音や声が聞こえてくる。 「あれか?…どうやら増援部隊が到着したようだな。」 鳥面の男が陣の入り口を見ながら、そう言った。わずかながら嬉しそうなのは気のせいではないだろう。カカシたちが待ちわびていたものがやっと来たのだ。 「やっとー?遅いっての。ていうか増援なんていらないんじゃない?どーして俺らだけでやったらまずいわけよ?」 「何度も言っただろう。暗殺じゃ困るんだとよ。相手さんの大将の首とるのに、どうしても忍にはやらせたくないんだと。 …俺らが取ってくれば一瞬だが、それじゃ面子が保てねぇとさ。」 面倒な任務だ。そもそも最初の以来どおりなら、それほど難しいものではなかった。敵国の武将の暗殺。それだけなら、とっくにこの地を 後にしていたはずだった。 だが、手はずの確認に依頼人に接触したとたん、急に暗殺では困ると言い出した。そもそも暗殺任務でなければ派遣されないはずの暗部に対してだ… ふざけているとしか思えない。 …だが、結局依頼人の要求をのみ(火影の指示だ。しかたない。だが、勿論追加請求はした)、通常部隊の増援を呼ぶことなってしまった。 正当な争いとやらの手助けをしろとの仰せに従うために。 「ほんっとくっだらないねー。もーあのじじいボケてんじゃない?だったら最初っから俺たちいらないじゃん。」 「それも何度も聞いた。…そーもいかねーの。暗殺して欲しいのは、相手さんの大将以外に別にいるからな。」 そう、それだけなら先日呼び寄せた上忍たちだけで十分だったのに、依頼人は更にややこしいことを要求してきたのだ。 …やむなく再度の増援要請。いい加減勘弁して欲しい。 「あーもー!ホント面倒くさいねぇ。もうあんたたちだけでやってよ。俺帰る。」 一応その国の軍を率いる相手の暗殺だけに、警備も相当厳しいだろうと予想されていた。そのため、任務の難易度から考えて、 暗部が3人も派遣されていたのだ。…もともとカカシは一人で十分だと火影に伝えてあったが、それ却下されてのスリーマンセル。 …今回のことでより一層、部下たちに無駄足をふませたことになる。 「おまえ部隊長だろうが!アホなこといってねぇで、さっさと増援の様子でもみてきたらどうよ。」 「なんでさ?」 分かっていても素直に従いたくない。早くこの茶番を終わらせたいのは山々だが、任務の内容が内容なので、全くもってやる気がでない。 「…お前ほんとに嫌なんだなーこの任務。…増援部隊の中に、トラップ担当の奴が入ってるはずだ。そいつと一緒に俺らは動く。」 鳥面の男はあきれたように、もう分かりきったことを説明しだした。 「だからーそいつにー指示だししなくちゃいけませんー!ってね。…はは。」 「ぐだぐだ言ってねぇでさっさと行けよ!」 流石に鳥面の男も、イライラしてきたらしく、軽く足を蹴られた。 「痛ったいなぁ!ちょっと!蹴らないでよ。一応部隊長様なんだけど、俺。」 「部隊長様様のお子様だろ。戦場以外じゃてんでガキな。…おら!さっさと行け!」 確かにもう40は超えているであろう鳥から見たら、17歳のカカシなど、子どもにしか見えないのかもしれない。だが、もちろん腹はたつ。 「おぼえとけよ、鳥。」 「忘れるよ犬。なんたって俺は鳥頭だからな。」 「いってろ!」 軽口の応酬を済ませ、カカシは陣の入り口に向かって跳んだ。 ***** カカシは気配を殺し、樹上から今まさにやってきたばかりの増援部隊を眺めていた。 「ふーん。」 増援部隊は全部で5人。この中に、火影から表向きの任務とは別の任務を言い渡された中忍が混じっているはずだ。 最初はくのいちばかりかと思ったが、一応男もいるようだ。中の一人に、やや緊張した様子の男が混じっている。 その男が歩くたびにピコピコと頭の上でくくった髪の毛が尻尾のように揺れている。見開かれた黒く大きな瞳がきょろきょろと落ち着きなく 動きまわり、あたりを見回している。物慣れない様子からして、戦場は初めてなのだろう。好奇心一杯にあたりをうかがう子犬のようなしぐさが、 かわいらしいと思った。 「って、中忍だよな。…くく。」 あまりにも落ち着きがなさすぎて、同じ部隊の女に注意され、真っ赤になって謝っている。 「えーと確かトラップ担当者は…。うみのイルカ。んー、なりたての中忍君、か。」 どうやら、あの子犬君が今回の同行者のようだ。 …意外だ。とても火影に認められるほど優秀な忍びには見えない。ぴょこぴょことうろついているのが面白くて、ついつい観察してしまう。 暗部は、本来は暗部のみで任務に当たることが多いが、今回は部隊は、任務の都合上通常部隊との混成になっている。 依頼人のくだらない面子など、どうでもいいが、任務は完遂しなければならない。が、あの子犬中忍は、しばらくは様子を見てからでないと使えない。 実戦慣れしていない奴を連れて行っても犬死するだけだ。 火影の推薦を疑うわけではないが、万一ということもある。しばらくは様子を見ることに決め、カカシはそっとその場を後にした。 ***** 「何だ?遅かったな。」 鳥にそういわれて初めて、結構な時間を中忍の観察に費やしていたことに気がついた。 …あの瞳がいけない。戦場にいるというのに、きらきらといかにも楽しそうに、期待に満ちた表情でうろうろとしているので、 いつまでも見ていたくなってしまう。 なりたての中忍で、あまりにも現実をしらなすぎるのだろう。戦功を上げて、上忍になる夢でもみているのかもしれない。…そして、 …そういう奴ほど早く死ぬのだ。 限られた時間の中で早くあの中忍を使えるようにしなければならない。 カカシが己の思考に沈んでいると、後から来た猿面の男と一緒に鳥が、急に笑い出した。 「なんだよ?」 別に面白いことなどなかったと思うが。 「犬、お前、自分で気づいてないのか?お前さっきからすげぇ楽しそうだぞ。」 鳥がげらげら笑いながら言う。別にそんな自覚はなかったが、そういえばあの中忍のことを考えると楽しかった。 「お前、増援部隊の奴に…惚れたか?…そういえば、お前もお年頃だもんなぁ。どんな奴だ?」 お年頃などといわれてむっとした。特定の女はいないが、とうに筆下ろしどころか女を買う事さえ覚えた。いまさらそこらの中忍で遊ばなくても 別に困らない。適当に女の方から声を掛けてくるから、面倒くさくなさそうなのを選べばいい。…一応上司なのにガキ扱いは不愉快だ。 「猿、鳥、任務で使う中忍。…あからさまに新人なんだけど。火影様のご推薦ってやつだけど、…俺が自分で使えるかどうか試したい。」 「へえ。本気ですか?」 「なーるほど。その中忍ちゃんに惚れたのか。で、どんな女だ?」 「…スレンダーだよ。」 まともにこたえる気はしない。…確かあの子犬中忍は成り立てにしては、ちゃんと鍛えていそうだった。まだまだカカシより背も低く、 細っこいが、手も足も大きいし、きっとこれからどんどん伸びるだろう。 「ほー。お前の好みは変わってんな。」 「鳥。お前のようにでかい胸に執着する奴ばかりではないぞ。…で、どうやって口説くつもりなんです?」 結局こいつらはカカシをからかいたいだけのようだ。くだらない話はさっさと終わりにして、今後の予定を立ててしまいたい。 「で、明日の戦場に俺がそいつ連れてくから。お前ら待機ね。」 「了解。」 「ま、しょうがないな。」 ***** イルカは始めての戦場に、決意も新たに立っていた。今までは上忍師の先生に守ってもらっていたが、これからは独り立ちするのだ! トラップの腕は、三代目にも褒めてもらった。今回もその腕を見込まれての大抜擢。これでやる気にならないはずがない。 陣に入ってすぐ、おお!上忍だらけ!!!とついつい興奮してしまい、きょろきょろしていたら、同じ部隊のおねえ様方から怒られた。 …だが、こんなことに凹んではいられない。これでやっと、やっと里に恩返しできるのだ!これからはがんがん任務を引き受けて、どんどん里 にお金を運ぶのだ。いつか受けたものを返すために…。 三代目がせっかくくれたチャンスを、絶対に無駄にしたくない。…上忍師の先生にも、お前は、トラップも上手いし、冷静になれば班員の誰より も的確な判断ができると太鼓判を押してもらった。…情に流されすぎなので気をつけろとも言われたが。 さて、火影様からの話だと、そろそろ暗部の方(会ったことないが、見れば分かるらしい。)からの連絡が入るはずなのだが。 今日到着した増援部隊の天幕は、陣のはずれにあるし、他の中忍が全員女の人だという理由で、イルカは小さいながらも天幕を別にしてある。 …基本的に、戦場ではくのいちたちと同じ天幕で男が休むことはないので、言い訳にはちょうど良かったわけだ。 自分から彼女たちが押しかける分には規制がないが、逆は下手をすると懲罰ものだ。中には無体を強いる馬鹿もいるが、木の葉ではそんなことを するものには、厳しい罰が下される。…ある意味当然だろう。規律を破るものが、任務を達成できる可能性は低くなるのだから。貴重な戦力を無駄に 消費する馬鹿にはそれ相応の報いが下される 天幕の中で準備してきた道具たちを確認し、整理していく。これからいつになるかわからない暗部を待ちながら、同時に中忍として陣の食事などの 雑用をこなすのだ。 緊張と不安がイルカを落ち着かなくさせる。他の中忍と合流するか、それともここでもう少し待つかで迷いながら、天幕の中でうろうろしていると、 気配も無く背後から喉元にクナイが突きつけられた。 …三代目の言った通りだな。そう思いながら、イルカは相手の出方を待った。 「うみの、イルカ…で間違いない?」 静かな声だ。やっていることとまるでそぐわない。それに思ったよりも若いようだ。うらやましさを覚えながら、イルカも出来るだけ平静を装って答えた。 「はい。間違いありません。俺が、うみのイルカ、中忍です。」 「ふーん。」 暗部。というのは、話に聞いていた以上に危険な部隊のようだ。まるで気配がないのに、ここまでこともなげに背後をとられるとは。悔しいが格が違う。 「ま、合格。かな?…明日、呼びに来るから、支度しといてね。」 それだけ言うと暗部(姿が確認できなかったので、推定だが)の姿は消えていた。 「…うー。なんだよ!怖いじゃないか!もう…!」 耐えたつもりだったが、ちょっと目から涙がでそうになっていた。三代目に暗部の連中は、警戒心が強いし、実力主義の世界だから、イルカにもとんでもない 方法で接触してくることもあり得るとは聞いていたが、流石にいきなりクナイはないだろう。 「明日…。明日って、なんにもきいてないんだけど。…しょうがないか…。」 先ほどの恐怖と明日への不安でちょっぴり落ち込みながらも、イルカは雑用につくべく、天幕から出たのだった。 ********************************************************************************* 微妙な話です。今後もこんな感じですので、無理はなさらない事をお勧めします…。 |