そもそも一番の問題は、孫?代わりの養い子のかわいさに目が眩んで、あさってな教育をした三代目にある。 その尻馬に乗ったのかどうなのか、加担した輩(確認しただけでもヒゲとウワバミの2名がいるので、おそらく 他にも親バカがいるだろう。きっと、1匹見たら30匹の世界に違いない…。)が、それを助長したのだろう。 挙句の果てに、本人はあさってな努力に一生懸命で、無駄につましい生活を送っているのだ。 じじいどもの教育も重要だが、あの親バカ連中はなかなか治療できないだろう。まず、本人から変えていかなくては。 性格の矯正は素直というかなんというかだし、暗示よりも、妖精の言葉は全て正しいと思っているはずなので、 それを利用しよう。 もはや通いなれたイルカ宅の天井裏から、イルカの帰宅を待ち、そのまま幻術をかけて、言動の修正を試みることにした。 ぬいぐるみだの、サボテンだののこともあるが、とりあえず一番危険そうな、妖精や、運命の糸とやらをオープンに しすぎないように指導しようとしたのだが…。 さりげなく、妖精は別に周りの人間に知られることを望んでいない。だから会話に出す必要はないと伝え、さらに、 運命の糸は、必ず見えるわけではないと話してみた。だが、イルカは… 「妖精さんは、周りの人が妖精さんを信じてないと消えちゃうんでしょう?!だめです。そんなこと。」 「運命の糸がお互いに見えなかったら、本当じゃないってアスマにいちゃ…、アスマ先生が言ってました!」 と返してきた。…ヒゲ、後でコロス。以外にイルカは頑固なので、一度思い込んだらそれを返させるのは困難だろう。 仕方がないので静かに優しく妖精らしくをモットーに、更なる説得を試みた。 …もちろんイルカ好みの口調を予想してだ。 「イルカ。外の人間に私のことは話さなくてもいいんですよ。あなたが信じてくれていれば、それで私は大丈夫。」 「中には赤い糸が見えにくい人もいるんですよ。イルカもひょっとするとそうかもしれない…。きっとイルカなら、 本当の運命の人を、心で感じ取れるはずです。」 かなり気合をいれてしゃべってやった。吹っ切れて妖精を演じるのも板についてきたようだ。 …そんな技術はいらなかったのだが…。コレだけ己を妖精と思い込もうと頑張っても、しっかり鳥肌はたっているが、 そこは上忍の気力でカバーだ。 イルカがしぶしぶながら、「はい。」と答え、一応形だけは納得したようなので、次の試練を伝えることにした。 「イルカ。次の試練です。いいですか?…明日の午後、ここをたずねてくる人間に、私のことを聞かれても答えなければ、 合格です。」 本当に納得したのか確認しなければ。この中忍は意外と頑固なので、油断はできない。テストも兼ねて、家庭訪問だ。 …とにかく、せめて見合いの間だけでも、耐えてもらわなくてはならないのだから。 「はい…。」 イルカが緊張した面持ちで、正座している。あまりにも一生懸命なので、一瞬頭をなでてやりたくなった。…毒されている。 「では、イルカ。がんばるのですよ…。」 カカシは、だんだんこのメルヘン中忍に毒されつつある自分に恐ろしさを感じながら、足早にその場を立ち去った。 ****** コンコンとイルカ宅の扉を叩き、イルカが出てくるのを待つ。仕事はもう終わっているはずだ。…三代目はこの中忍に 仕事をさせる気はあるんだろうか?任務中にいなくなりがちなので、ガキどもも大分不満気だし、もちろん自分も早く もっと普通の任務に戻りたい。 影分身でも使って修行をつけてやってもいいのだが、三代目が許さないだろう。…大分扉の前で待っているのに、 なかなか扉が開く気配がない。本人が扉の向こうにいるのは、チャクラで確かにわかるのに。 と、どたばたと大きな足音が聞こえてきた。 「はーい。」 妙に緊張した顔のイルカが、やっと扉を開けた。先程の忍びにあるまじき足音はイルカのものだったようだ。 「イルカ先生。突然すみません。ちょっとうちの部下のことでご相談が…。」 そういいながら、手土産に持ってきたケーキを手渡す。いちごが好きそうだったので、ショートケーキと いちごのタルトだ。 手ぶらではいくらなんでも不自然だと思ったのもあるが、きっと食い物があれば、また機嫌を取れるだろうという 打算もある。 「わあ!ありがとうございます!」 案の定。イルカはケーキの箱を持って、ニコニコ笑いながら、居間に案内してくれた。 「えーと。ちょっと待っててくださいね。今すぐお茶とか用意しますから。」 さっそく皿とお茶の用意をしに行くようだ。…ケーキの箱、開けたな。台所から歓声が聞こえた。 「カカシ先生!ありがとうございます!!!俺いちご大好きなんです!!!」 …やはりいちごは大正解だったようだ。 「うわーうまそう。」 大喜びだ。また、あの小動物顔で、ケーキを見つめている。 「…両方、食べていいんですよ?」 いくら待っても手を出さないので、迷っているのだろうと気付き、勧めてやった。 「そんな!せっかく二つあるから。…えと、せめて半分こしましょう!」 そんなヨダレ垂らさんばかりの表情で譲られたって、例え甘い物好きの人間でも、大概の人間は断ると思うが。 「甘いもの苦手だから、ホントにいいんですよ。」 さりげなさを装って言ってやりながら、内心はどうやって、テストするか考えていた。 「あの!ありがとうございます!」 以前コーヒーを飲んでいたことでも思い出したのか、納得したらしい。早速、もぐもぐと一生懸命にケーキを ほおばり始めた。 「あーあー。そんなにいっぺんに食べなくても誰も盗りませんから。」 口の周りをティッシュで拭ってやりながら、イルカを眺める。やはり幸せそうに何かを食べるイルカは可愛い…ようだ。 …あそこまで目が眩むのはどうかと思うが。確かにかわいいのは認める。 はむはむと、嬉しそうにケーキを食べるイルカは、話をする余裕などなさそうなので、ケーキを全部食べ終わるまで 待ってやることにした。 緑茶を飲みながら、ゆっくりとイルカとイルカの部屋を観察する。…こうして、この部屋の畳の上を歩くのは、 久しぶりに感じる。座ってみると、視点がかわり、色々と見えなかったものが見えてくる。ちゃぶ台の下には、のりの 入った缶が置いてあったり、ちゃぶ台の足には、なぜか齧った様な後があった。…年季が入っているようだから、 ひょっとすると、イルカは子どもの頃から食い意地が張っていて、齧ったのかもしれない。 ふと視線をそらすと、寝室のふすまが開いている。…そして、奴がこっちを見ていた。えーと。くまくまだったか? あれの出所も、親バカ連中の内の誰かなんだろうか。名前からするとヒゲくさいが…。 「ごちそうさまでした!!!」 本当に美味かったらしい。幸せそうに目がとろけている。食い物一つでこうなるんじゃ、任務ではどうしてるんだろうか。 まあいい、そんな事より今日の本題だ。 「うちの部下どもがね。どうも最近、妖精がどうとかって言うんですよ。イルカ先生はそういうの信じてます?」 もちろんコレは真っ赤なうそだ。ナルトは妖精などというもの自体、知らないだろうし(イルカが教えた可能性があるが…)、 サスケもそういったことには無関心だ。唯一サクラが知っていそうだが、そんなものより、今はサスケに夢中だし、 もともと現実主義者だから、そんなことを言い出す可能性は限りなく低いだろう。 実際に話してみればすぐばれるし、かなりの無茶振りだが、イルカは真剣に悩んでいる。さて、もう一押し。 「やっぱり、俺の指導方法が良くなくて、そんな妄想にはまっちゃたんですかね…?」 眉を下げつつ、落ち込んだふうに装ってみる。 「そんなことはありません!」 お。どうくるかな? 「カカシ先生は、きちんとした先生です!ナルトたちだって、そりゃまだまだ幼くて、勝手なこと言ってることも ありますけど。でも、カカシ先生のこと尊敬してますよ!」 そっちに食いついたか…。いつもイルカは予想外な行動をする。流石ナルトの元師。 「でも、妖精なんて…。」 「カカシ先生のことを信じているから、いろんなことを話そうとするんです。きっと。カカシ先生のことを 認めていなかったら、全然そんな話もしないはずですよ。…カカシ先生は、上忍師を務められるはじめてですし、 不安なこともあると思います。…でも、自分のことを責めちゃだめですよ。子どもたちまで不安になりますよ!」 教育については結構しっかりした事を言うようだ。驚いたが、ちょっと見直した。この中忍の頭には花と妖精以外のものも ちゃんと備え付けられているらしい。 しかし、この中忍は、自分のことは棚に上げて、人には自分を大切にしろといいたいらしい。…納得できない。 「じゃ、イルカ先生は、こどもたちがどうしてそんなことを言い出したんだと思いますか?」 「えっ…。」 やはりとっさに返すことはできないようだ。われながら意地が悪いと思いながら、更に問う。 「だって、妖精なんて存在するはずないでしょう?何の影響を受けたんだか知りませんが…ちゃんとした指導をして 目を覚まさせてやらないといけませんよね。」 「う。」 また言いよどんだイルカは、すごく悲しそうな顔をした。そして、 「そう、ですよね。」 ヤバイ、泣くかも。イルカの態度に腹を立てて、やり過ぎてしまった。よほど無理をしているのだろう。 本人は笑っているつもりでも、真っ黒な瞳から、今にも涙がこぼれそうだ。 あまりにも悲しそうな顔をするので、カカシはつい、そっとイルカの顔に手を伸ばしてしまった。 イルカは目を閉じて、うつむいている。カカシの指先にイルカの意外と長いまつげが触れ、指先からイルカの涙 が伝っていく。キラキラと輝くそれは、イルカが悲しんでいることの証明だが、なぜかカカシはいつまでも見ていたい と思った。 流石に驚いたのか、イルカが、目を見開いてこちらを見ている。 「あ、いや。その。」 まっすぐすぎる瞳にうろたえる。自分に後ろ暗い所があるだけに余計に堪えた。イルカは驚いた表情のまま固まっている。 「あの。イルカ先生。今日は、ありがとうございました。指導方法を工夫してみます。」 われながら酷い逃げ方だ。これでは下忍だってごまかされてくれないだろう。 「カカシ先生。お役に立てずにすみませんでした…。では、また。」 イルカは魂がぬけたような、生気のない声で言う。いつもの能天気さはかけらもうかがえない。 多少私情の混じった言動だったかもしれないが、カカシは任務上、適切な行動をとったはずだ。…だが、 この罪悪感は何だろう。 イルカ宅を辞して、こんな気分のままでいまさら妖精を演じる気にもなれず、その日はそのまま帰宅してしまった。 ********************************************************************************* 戻る 次 |