めざめろ野生?

「ここは…どこなんだ…!?」
奇襲で散り散りになった仲間を探して、密林の只中を彷徨い続けて、もう何日立っただろう?戦場での任務は初めてではなかったが、 こんなことになるとは予想もしていなかった。
密林の中には生命の気配が満ちていて、忍の感覚を鈍らせる。忍服を湿らせるのは、じっとりと占めた空気なのか、 自分の汗なのか…それさえももう分からなくなってきた。
見渡す限りの緑と、極彩色の花、虫、それに鳥。見たことの無い獣さえうろついているというのに、一向に仲間たちと 合流できない。
…敵にさえ。
「クソッ!」
腹立ち紛れに聳え立つ大木を殴りつけた時だった。
低い唸り声と共に、何かが踊りかかってきた。
しまった…っ!豹だ!
どうやら大木の上をねぐらにしていたらしい。己の住処を脅かされた獣は、怒りも露にこちらを睨みつけて来る。ねこ科の大型動物は、 敵に回すと厄介だ。足も速いし木の上に逃げても追ってこられてしまう。
それに…普段なら振り切れるかもしれなくても、長いこと彷徨い歩いたイルカには、もはや体力にも限界が来ていた。
「くっ!」
血の匂いは他の獣や敵を呼び寄せる可能性がある。できれば戦いたくない。クナイを構えて威嚇しながら、火遁の印を組んだ。 …コレで追払えても、なけなしのチャクラを使い果たすかもしれない。そんな暗い予感を感じながら…。
だが、その時、得体の知れない雄たけびが当たりに響き渡った。
「あーああああーああああああー!!!」
「誰だ!?」
妙な節回しだが、明らかにヒトの声。だが、気配は全く感じられない。
密林の木々の間をこだまする声が近づいてきているということ以外は。
「ぐるるる…!」
すると…目の前の獣が慌てた様子で身をすくませている。ということは…きっとこの声の主は恐らく獣よりも強いのだろう。
それなら自分の身も危ない。
とっさに周囲を見渡し、どこか隠れる所はないかと探したが、木々からも一斉に鳥たちが飛び立ち、獣たちも一目散に逃げていく。
「なんなんだ…!」
それでも何とか隠れようと、木の上に飛び上がろうとしたイルカを、何者かが捕らえた。
「な!?」
「どれどれ?あ!かわいい。やったぁ!じゃ、帰ろうか!俺のおくさん!」
慌てふためくイルカを羽交い絞めにしたソレは、いきなり顎をすくい上げて、テンションはやや高めだが、のんきな声でそう言った。
「はあ!?」
「今日から宜しくねー!!!」
驚愕する間もあらばこそ…一方的に宣言したその男に抱きかかえられたまま、攫われるようにその場を後にしたのだった。
*****
洞窟のような所に連れ込まれてからやっと、謎の人物の肩から下ろされた。
「で、ナニすんだアンタは!」
敵にしては、拘束すらしないのがおかしいが、こんな事をするのは絶対に味方ではありえない。…現地人だろうか?
怒りも露に詰め寄った俺は、自分の目を疑った。
「ナニ食べる?おくさん!」
にっこりと微笑むその顔は、それはもう整っていた。閉ざされた左目を縦に裂くような傷も、返って作り物めいたその顔の美しさを 際立たせている。だが…その格好が問題だった。男が見につけているのは腰蓑一丁。ただそれだけ。
…いくら美形でも似合わない格好ってのはあるんだなぁ…。
ちょっと気が遠くなったが、こんなことでめげてはいられない。
仲間が無事かどうかも気になるし、戦況がどうなったかすら分からない。それなのに…腰蓑つけた変態に攫われている暇など ないのだ!
「ココはどこだ?俺は仲間を助けないと…!」
「えー?なんでー?いいじゃん。おれはおくさんに無理して働いて欲しくないなぁ?」
「誰がおくさんだ!!!」
「え?おくさんはおくさんでしょ?ラブハニーとかの方がいい?」
…会話がかみ合わない。ここは…三十六系逃げるに如かず!
幸い連れ込まれたのは出口が分かり易い洞窟だ。動きが早いのは分かっていたが、自分も中忍。じわじわと距離を広げながら、 変な男から逃げ出そうとした。
だが…。
「初夜の前に水浴びくらいさせてあげよっかなー?って思ってたけど…早い方がよさそうだね!」
「な、なんだそれ!?」
しょや…?なんだか信じ難いが、さっきからこいつが言っている事を総合すると…俺の貞操はひょっとしなくても風前の灯!?
しかも、離れれば離れるだけ距離を詰められる上に、巧みに出口をふさがれて、だんだん後がなくなってきた。
「攫っただけよりも、既成事実があったほうが安心だよね?」
にやりと笑ったその瞳に、確かな欲望を見て、俺は慌てた。
「止めろ!近寄るな!俺はお前なんかと…!そもそも誰なんだアンタ!」
背中に壁が触れ、これ以上逃げられないと分かっても俺はあがいた。男のおくさん…つまり嫁になるなんて…絶対に受け入れ られない!やけくそになって怒鳴りつけ、もしもの時のためにクナイを握りしめた。すると…。
「あ、そうだ!名乗ってなかったね!申し遅れましたー俺ははたけカカシ!アンタの旦那さんね?」
変な男は無駄に朗らかに応えてくれた。…余計な言葉もくっ付いていたが。
…男の名乗った名には聞き覚えがあった。
「はたけ、カカシ?」
おぼろげな記憶をたどると、うっすらと思い浮かぶものがあった。…確か木の葉の上忍で…。
「!写輪眼のカカシ!?何でアンタがココに!?」
「なぁにそれ?」
やっと思い出した事実に驚愕しながら問い詰めたのに、本人は不思議そうに聞き返してきた。
この様子は…一体!?
「もしかして…記憶が!?」
でもだからって腰蓑一丁で生活してて疑問に思わなかったんだろうか…?
関係ないことが気になったが、もしこの人が本当に木の葉の上忍ならコレは大問題だ。里抜けじゃないようだし、任務中に何か 事故にでも巻き込まれた可能性が高い。
このままでは里の重要な戦力と、最悪の場合機密さえ流出することになる。
明らかになった重大な問題に呆然とする俺の手をとって、男は柔らかく甘い声で問いかけてきた。
「で、お名前は?」
「うみの、イルカ…。」
「かわいい名前だねぇ!ぴったりだ!」
勝手に納得して勝手にご満悦な男は、俺の記憶が確かなら、上司に当たる。…この任務に関わってはいなかったはずだが、 ないがしろにしてイイものかどう…?それに何とかして里に連れ帰る必要もある。俺は迷った。
そして…そんな隙を見逃さなかった。
「ね、どうする?ご飯たべて、水浴びしてからがいい?それともこのままがいい?」
気付いた時にはそんな事を言いながら、ちくちくささる腰蓑が俺の腰に密着していた。とっさに跳ね除けようとした腕も 壁に押し付けられてしまって…。
壁と男に挟まれた状態では逃げようがない。
「しょ!…食事、させてください!」
「ん?いいよ?じゃ、行こうねー!」
半ば悲鳴の様に応え、がっちりとつかまれた腕を引かれながら、俺はこれからどうなってしまうんだろうかという不安に怯えた。
*****
飯は意外にも美味かった。自分の携帯食はもう尽きかけていたから、食事の量も減らしていた分より一層。
食卓に並んだのは見たことの無い果物やだの、何の肉か分からない焼いた肉だの、いかにも現地人の食べていそうな料理だが… ここにいるのは恐らく木の葉の上忍だ。
「ぶしつけですが、そのー…あなたの左目を見せていただいても…?」
確証を得るために恐る恐る頼むと、男は案外簡単にうなずいてくれた。
「いいけど。ちょっとだけねー?疲れるから。」
そういって開かれた瞳は…確かに写輪眼だった。文献でしか見たことが無いが、確かにその赤い瞳と特有の模様は本物だ。 偽者ならわざわざ隠したりしないだろう。それに、チャクラから言っても忍なのは間違いない。銀髪長身という外見的特長も 一致しているから、これでこの男がはたけカカシだということは、ほぼ確定した。
「あの。ソレでですね。あなたはいつからここに?」
「ん?えーっと。いつだろう?」
「では…あの、その格好する様になったのは?それにその前に来ていた服とか?」
「ボロボロになったから捨てちゃったよ?この格好は、その辺の村のヒトからちょこっと拝借してきたの。」
こうなるに至った経緯を確認したかったのに、だんだん恐ろしくなってきた。…さっき間近で見た瞳で、間違いないと 分かってはいても、この適当さ。…本当に木の葉の上忍なんだろうか?
不安になりながら、それでも一縷の望みを捨てきれず…俺は更に質問を続けた。
「えーっと…。では…何か他に覚えているコトは…?」
俺が疲労感を押してそれでも言葉を重ねているというのに、男が返事はどこまでもマイペースだ。
「アンタが俺のおくさんってことかな?だって攫ってこれたらおくさんってことでいいんでしょ?何かそんな話してたよー?」
「この辺じゃそれでいいんですか!?」
何で…それ人権とかどうなってるんだ!?しかもさらっとわざわざ腰蓑盗んできたって言ってるし!
思わず目を剥いて詰め寄った俺に、男はなんでもないことのように恐ろしい言葉を重ねていく。
「あ、既成事実無いと駄目?じゃ、スル?」
「いえ、あの、大丈夫だと思います!あはは!」
絡みついた腕に男の本気を感じて、つい引き下がってしまったが、俺の応えに満足そうに微笑んだ男は、また俺を抱き上げて しまった。
「水浴びしてからのがいいよねー?こっちの奥に水が沸いてる所があるからおいでー!」
「ひぃ!?下ろしてくださいー!!!」
恐怖のにじんだ俺の悲鳴が洞窟に響き渡ったが、勿論誰も助けにはきてくれるはずも無かった。
*****
水浴びは、非常にスリリングだった。
男の言葉通り、洞窟の奥にはキレイな水が満たされた池が確かにあった。…そこまではよかったんだが…。
「脱がないの?」
入り口を背にした男が床に下ろした俺を凝視している。…それはもう強烈に。
その視線だけで犯されそうだ。
食われる、このままじゃ絶対…!
「あ、あのー?一人で入りたいんですけど!」
おずおずと申し出てみたが案の定、不満げな声が返ってきた。
「えー?いいじゃない。いちゃいちゃしようよ!」
「い、いちゃいちゃ!?」
ある意味予想通りの展開。
不穏な発言と怪しい手つきに怯えた俺がすばやく後ずさったのに、男の手はこともなげに俺の服をはいでしまった。
「キレイに洗ってあげるね…?」
確かに体は汚れているし、元々風呂好きの俺にとっては水浴びするのに否はない。
つまり…言葉どおりならイイのだが…その手はあからさまに別の意図を持って動いている。
うなじをたどり、腰をなであげ、次いでとばかりにきわどい所まで…!
「あの!仲間助けないといけないんです!こ、こんなことしてる間に何かあったら…!」
必死でその手を止め、近づく顔も押し返しながら訴えると、男は急に動きを止めた。
「仲間。ねぇ?なんだろう。なんかこう…もやもやする…。」
つぶやく様にそういうと、頭を押さえながらふらふらとしている。
もしかして…記憶を刺激する言葉だったのかも!
「カカシさん!思い出したんですか!?」
俺は期待を胸に男の顔を覗き込んだ。
だが…。
「え?何を?イルカさんのこと?肌きれいだね。さわり心地サイコー!」
男はスリスリと俺の腹をなでながら、無邪気に喜んでいる。
…期待した分落胆も大きいが、ここは割り切って助力を願った方がいい。先ほどからの動きを見ていると、記憶は無くても 能力は失われていないようだし…。
「…ソレは別にどうでもいいんです!あの、それで…手伝っていただけますか?」
恐る恐る申し出ると、腰蓑をはずしながら軽い口調で応じてくれた。
「ご褒美くれるんならいいよー?」
「ご褒美!?…兵糧丸くらいしか…。」
上忍の記憶が無い以上、納得させる方法は他にないことに、俺は愕然とした。
だからといって、ずっと密林を彷徨っていたイルカの持ち物は、武器と僅かな食糧ぐらいだ。
何かもう少しマシなものはないか懐を探ってみたが、やはりそう大した物は出てこなかった。巻物だのなんだのは中忍の自分に 合わせたものだから、上忍には意味の無いものだろうし、今のこの人には巻物自体何なのか理解できないだろう。
打ちひしがれる俺に、男は掠め取るようにキスをした。
「じゃ、濃厚なの宜しくね!」
「へ?今、なんで?えええええ!?」
「そうと決まったら、今日は早めに寝ようねー?さ、体早く洗って!」
「わーどこ触ってるんですかー!?」
俺の尻を掴みながら楽しそうに笑う全裸の男に連れられて、俺は不本意ながら水浴びをすることになったのだった。
*****
…大騒ぎしながら何とか身体を身体を洗いというか、洗われ終え、その間に触られまくった生で大切な何かを失ってしまった ような気分になりながら、俺は今、推定写輪眼のカカシ見た目野人な男にみっちりと抱き寄せられている。
そして恐ろしいことに、俺も今…全裸だ。
洗われてるときにも、セクハラじみた行為…つまり尻をもまれたり胸を弄らせそうになったりと、非常に屈辱的な目に合った というのに、更に着ようとした服を奪われた時はてっきりこのまま貞操ともお別れなのかと恐怖した。
だが、結局今のところそっちは無事だ。一応。…ここでは寝る時は裸が基本なんだそうだ。取り返そうとした服は洗われて しまったし、腰蓑は流石に耐え難かったので、こんな状態に甘んじている。
貞操を失うことは現時点では避けられた。だが、今の状況を考えると素直に喜べない。
俺は、後ろから眠る男に拘束されている。俺も男も服を着ていない。つまり…みっちりと男の…その、アレが俺に密着 しているのだ。
…腰蓑着てた方がいいかって言われたら疑問だが、この感触に比べたら…!
いろいろあった体は疲労を訴えていたが、この状態では当然眠気が訪れるわけもなく…。
しかも時々寝てるはずの男の腕がもそもそと身体を這い回るので、そのたびにビクつく羽目になっている。
寝ぼけているんだと好意的な解釈をすることもできるが、普通寝ぼけている人間が人の下半身を弄ろうとするだろうか?
すっと伸ばされた手をすぐにひっぺがして事なきを得たものの、油断も隙もない…!
睡眠はいまいちとしても、食事は取れた。これなら…むしろ今この部屋から出て仲間を探しに出たほうがいいんじゃない だろうか?
数時間にも及ぶ静かな攻防線に耐えかねた俺は、駄目元でそっと腕の中から抜け出した。
上忍ならこの瞬間に目覚めるはずだが、男は動くそぶりを見せない。これなら…!
俺は、手早く生乾きの服を身にまとうと一目散に洞窟を飛び出した。
*****
「皆…どこなんだ…?」
幸い洞窟は見晴らしの良い崖の上にあったので、簡単に周囲を見渡すことができたが、戦闘の気配も、チャクラも感じ取れない。
とりあえずは仲間が野営する可能性が高い川を目指して崖を飛び降りた。
相変わらずじっとりと湿った生暖かい空気とざわざわと生き物がひしめく気配が俺を弱らせたが、ちゃんとした食事を取れた分 気力が違う。昇り始めた朝日も、俺を前向きな気分にしてくれた。
「よしっ!行くぞ!」
気合を入れて、周囲の気配を探りながら歩き始めた時だった。
「…っ!」
俺の足元が急に沈み込んだ。
「一匹やったか…。」
「くそっ!」
あれだけ歩いて見つからなかったのに、このタイミングで…!
状況は最悪だ。武器はあっても足がどんどん地面に埋められ、敵の姿は捉えることもできない。
だが、ココで諦めるわけには行かない!
俺はとっさに懐から起爆札を取り出し、自爆覚悟で足元に投げつけようとした。
だが…。
「ああーああああーああああああー!」 妙な声と共に、その手は力強い腕に引きとめられ、そのまま地面から引き抜かれた。
朝日に輝くその銀髪は…!
「カカシさん!?」
「散歩の帰りが遅いと思ったら…痴漢にあってたなんて!俺のおくさんって、もしかしてうっかりモノ?」
俺の泥を払いながら、次いでとばかりに太腿をやたらねっとりと撫で回す男は、どうやら後を追ってきてくれたらしい。
助けてもらえたのはありがたいが…のんきすぎる!
「それどころじゃないんです!敵が!」
どの術を使うか考えながら気配を探っていると、男はやたらのんびりした口調で言った。
「ああ、痴漢ならもう…」
「へ?あ!」
男の指差した先には、ピクリとも動かない敵らしき男が倒れていた。
慌てて近寄って確かめる。息はあるが、意識はないようだ。すかさず武器だの何だのを奪い取った。俺を襲ったってコトは、 目的の物は持ってないだろうと思いながら一縷の望みをかけて懐だの何だのを探ったが、やはり所持品の中には探しものは 見つからなかった。落胆に肩を落とした俺を、何故か男が背後から引き剥がした。
「何するんですか!?」
「一応聞き出しとこうかなー?って、動機。」
抗議する俺に、そういうなり閉じていた左目を開いて何かごそごそやっている。
近づきたいのだが、何故か体が動かない。…術か暗示か!?
「へー?じゃ、コイツの仲間まだいるのね。…じゃ、これ持って仲間の所に帰ってもらおうかな?着いたら開いて。」
男がなにやら言いつけると、フラフラと立ちあがった敵が何かを持ったまま確かな足取りで歩いていった。ついでに俺の身体の 硬直も解けたので、慌てて男に聞いた。
「幻術ですか?」
もしかして、記憶が戻ったのかもしれないと期待したが、コトはやはりそう上手くは行かないようだ。
「えっと。幻術ってなに?」
「あー…もういいです。」
術は使えてもそれが何だかは覚えていないようだ。それだけ自然に術を使う生活を送ってきたからかもしれない。 それがこの状態っていうのは恐らく何か不測の事態が生じたんだろうが、現状ではどうしようもない。俺の医療の心得は、 外傷だけだ。
…今はとにかく仲間と合流することが優先しないと…。それと…。
「…あの、ありがとうございました!」
変態行為から逃げてきたとは言え、助けてもらったからには礼はしなくてはならない。
そう思って言っただけなのに、男はふわっと…こちらが見とれるくらい嬉しそうに笑った。
「おくさんが無事でよかった。ね、帰ろう?」
「あ、う、その…!」
こっちが驚くくらい甘い声。思わず顔が赤くなる。同じ男として見習うべきかもしれないが、とてもじゃないが無理だと思った。
こんなに…人をひきつけるような表情は。
それにそもそも使う先を間違ってるよな…この人。記憶の変わりに変なモノが頭に入っちゃったんじゃないだろうか?
「さっきのは片付けたけど、まだ残ってるのがいるみたいだからね。多分持って帰られたアレでそれなりに片付けられると思う けど、まだわかんないし…。」
「そうだ!さっき、何か渡してましたけど!アレなんですか?」
男は確かに何か手渡していた。敵にものを持たせるってコトはきっと罠のはず。
だが、今この人は記憶がない。…もしかして危険が増したのかもしれないと慌てる俺に、男はなんでもないことのように 教えてくれた。
「ん?開くとこん睡状態になる巻物?」
「へ!?」
「近くにいるヤツら全員巻き込むから仲間もそれなりに何とかできるんじゃないかなー?」
「そ、そうですか…。」
礼を言うどころではなくなった。記憶が無くなってもこの人、やっぱり上忍なんだ…!
自分では歯が立たなかった相手に、この手際のよさ。自分が情けなくなってきたが、コレなら仲間も助けられるかもしれない。
「あの!」
「じゃ、朝ごはんにしようねー?」
…俺は、仲間の事を頼むために開けた口もそのままに、またものすごい速さで洞窟に逆戻りすることになった。
*****
洞窟に引き戻されたのはまあしょうがないとしても、仲間は助けなくてはならない。
、 「あの!」
言い出しかけた言葉など聞こえていないかのように、男はニコニコ笑いながら食事の仕度をしている。
「はい!こっちは果物で、こっちは肉ね?でもって、こっちの木の実もおすすめよー?」
…この人は、結構世話好きなのかもしれない。思わず和みそうになったが、このままじゃ駄目だ!
「あ、ウマそう…って!そうじゃなくてですね!俺は…!」
「朝から痴漢なんかに襲われてびっくりしたし、疲れたでしょ?ご飯一杯食べてもっかい寝ようよ。」
「だから!俺は仲間を探しに行きたいんですよ!」
人の話を聞かない男に向かって、俺は怒鳴るように言った。
どんどん食い物が並べていくこの人には昨日も説明したはずだが、覚えていないのか、それともどうでもイイと思っているのか、 すっかりくつろぐ体勢に入っている。
だが、動機はどうあれ、この人は俺には甘いというか…配慮してくれることが分かったので必死になって訴えた。
「仲間…?」
不思議そうに首をかしげているカカシさんは、それでも食べ物を俺の前に並べるのを止めない。…この様子だとやっぱり 覚えちゃいなかったんだろう。
「…俺と同じ格好したのがさっきの敵たちに狙われてるんですよ!」
「で?」
「助けに行きたいんです!」
「んー?いいけど。ご飯食べてからね?」
「そんな時間は…!」
こうしている間にも仲間が俺の様に襲われているかもしれないのに…!
焦る俺の肩にカカシさんが手を置いた。
「ご飯食べないと力がでないでしょ?」
「でも…!」
「大丈夫。俺強いから。それに、そんな状態で行ってもちゃんと戦えないよ?」
「…はい…。」
こんな状態でもやっぱりこの人は上忍、のはずだ!…腰蓑だけどな…。
俺はとにかく早く仲間を助けるために、カカシさんが差し出した食べ物を、かたっぱしから口の中に詰め込んだのだった。
*****
「これでいーい?」
「あ、ありがとうございます!」
あれからカカシさんが真っ直ぐに向かった先には、仲間たちが敵に襲われていた。
慌てて飛び出そうとした俺をカカシさんが制し、一瞬姿を消したと思ったらすでに敵は足元で転がっていた。
「無事だったか!」
「…こちらの方は…?」
「お前心配したんだぞ!」
何日かぶりに合流できた仲間は、大分汚れてはいるが、口々に騒ぐ所を見ると大事はないようだ。涙ぐみながら口々に 無事を喜んでくれる仲間。
全員無事だった。ソレを理解してホッとしたとたんに力が抜けそうになったが、まだ任務は終っていない。
「アレは…見つかったか?」
俺以外の仲間が任務を終らせていればイイと思ったんだが…。返事は芳しくなかった。
「いや…。」
「この辺りにあるのは確かなんだが…。」
「敵に襲われてばっかりだったしな…。」
「そうか…。」
予想通りではあったが、落胆は禁じえない。仲間も自分もこの消耗具合では、これ以上ココにいるのはもう無理だろう。 増援を呼ぶどころか、一旦引いて隊を再編成することも考えなければならない。
考え込んだ俺を、仲間の一人がぐいっと引っ張った。
「だからこちらの方は誰なんだよ!?」
「ああ、この人は…。」
…言いづらい。実は上忍だけど、今は記憶がないようだとか、しかも腰蓑姿に何の疑問も持たずに生活してるとか…。 それに、何をとちくるったのか、俺のことを一方的におくさん扱いしてるなんて言える訳がない。
「仲間だ!木の葉の!ちょっと記憶障害起こしてるみたいなんだけど、連れて帰れば大丈夫のはずだ!」
言いづらい事を伏せて、何とか納得してもらおうと頑張ってみた結果、仲間たちは返って全部話すより納得してくれたようだ。
「そうか!」
「だから…。」
「それで…こんな格好を…!」
やっぱり納得するところはそこか…。そうだよな…。おかしいよな…この人。
「さ、カカシさん。一緒に帰りましょう!木の葉に!」
とにかく仲間が納得してくれたので一安心だ。ここはカカシさんの身体に問題があった場合に悪化する前に、一旦撤退して 治療を受けさせるべきだ。
俺がカカシさんに腕を引くと、何故かカカシさんに断られた。
「んー?ソレは駄目かな?」
「そんな!」
確かにカカシさんはココの暮らしに順応しすぎるほどしているが、このままじゃ…!
俺が説得を続けようとしたとたん、カカシさんが俺の頬を掴んで引き寄せてきた。驚く俺の顔を覗き込むようにして カカシさんが囁く。
「ちょっとだけ…寝ててね?危ない目にあわせたくないから。」
「え…?」
そのセリフを最後に、俺の意識は途絶えた。
*****
「うぅ…?」
「イルカ!」
「目を覚ましたぞ!」
「大丈夫か?」
「ここは…!?」
目を覚ますと、ソコは最初に連れてこられた洞窟だった。
「あの腰蓑の人が連れてきてくれたんだ。」
「お前を頼むって…。」
「まさか!一人で行ったのか!?」
確かにあの人は強いが、敵も予想以上の勢力を投じてきている。ソレを一人で相手にするなんて…!
「俺は行く。皆は…ココで待っていてくれ!」
「馬鹿!俺たちも…!」
心配してくれる仲間たちには悪いが、…俺は任務を放棄することになってしまうかもしれないんだから、仲間を巻き込めない。
「ココで待っててくれ!」
俺は慌てる仲間たちにそういい残すと、すぐさま洞窟を飛び出した。
*****
勢い込んで飛び出してはみたものの、カカシさんがどこにいるか分からない。焦っていたら、大きな爆発音が聞こえてきた。 ぎゃあぎゃあと騒ぐ鳥や獣たちの声も。
「あっちか!」
音のする方に駆け出すと、そこここに敵らしきものと、戦闘の痕跡が残っていた。やっぱりあの人は強い。だが、 コレだけの戦闘をこなしているなら、もう体力も限界に来ているはずだ。
「くそっ!」
ぬかるむ地面に足元を取られながら、俺は走った。だんだんと大きくなる音が、あの人の場所を教えてくれる。
あともう一息のはず…!
そう思って木々の間を駆け抜けて、少し開けた所に出るとそこには…。
「あ、イルカさん。」
こっちが汗だくになってるっていうのに、涼しい顔のカカシさんが、敵を足元に転がしながら立っていた。
「アンタ!何やってるんですか!俺だって戦えるのに!」
安心したのと怒りとがない交ぜになって、俺はカカシさんをなじった。
何だか知らないけどものすごく腹が立ったのだ。
「えー?なんかソレって甲斐性なしっていわれちゃいそうでしょ?」
当の本人は小首をかしげて不満そうにしている。その様子が俺の怒りを更に激しいものにした。
「馬鹿!心配かけるほうが駄目だろ!」
胸倉は…つかめないので腰蓑を引っ張っていってやったが、何故か本人は返って嬉しそうに笑み崩れた。
腰蓑を掴んでいた俺の手を握り締めながら…。
「え!心配してくれたの!優しー!」
「はぁ…。」
この人ののんきさは相変わらずだが、足元と周辺にうずたかく積まれている敵が、この場の雰囲気を殺伐としたものに 変えている。
コレだけの敵がいる所を見ると、増援でも呼んでたんだろう。
そして、ソレを一人で、しかも腰蓑姿で倒したこの人は、まるでアカデミーの女子生徒のようにきゃあきゃあと飛び跳ねている。 俺の手を握ったまま…。
「あのー…帰りましょう?」
このままでは埒が明かない。仲間も心配しているだろう。
俺が握られた手ごとカカシさんをひっぱると、カカシさんが足を止めた。
「うん!あ、その前に…」
「なんですか?」
ごそごそと腰蓑の中に手を突っ込んでいる。…これ、やっぱり着てる人ちくちくするんだろうか?だからって何もこんな所で かきむしること無いだろうに。
俺が疑問に思っていると、カカシさんの腰蓑から取り出された手に、キラキラと輝く石が乗っていた。
「結婚祝いにどう?この間拾ったの!」
「あああああー!!!これ!任務!」
ひったくる様に手にとって確認すると、確かにコレは依頼品。青く輝く卵大の丸い石は、その美しさではなく内に封じられた術が 問題なのだ。
「キレイだよねー!イルカに似合うし!」
カカシはご満悦だがこっちはそれどころじゃない。
…そもそも任務は手間が掛かるがこんなに被害がでるはずはなかったのだ。
木の葉の忍具研究班の一人が開発したこの石は、見た目は美しいが、込められた術が発動すると、周囲を破壊したり、暗示をかけたり することができる武器になるのだ。だが、その発動が制御できないため、その危険性を危惧した上層部が封印をするはずだった。
だが…開発者がソレを受け入れられず、コレを持ち出した。
その忍は既にソレ相応の処分を下されているが、どうやって持ち出されたかも明らかになっておらず、唯一分かったのは、 コレが隠されている場所がこの密林であるということだけ。
…そうして俺たちが差し向けられたが、当然捜索が難航していた。
そこに、その情報をかぎつけたというか…どうやら本人が流したらしいんだが、まあ要するに敵と争う羽目になっていたのだ。
上手く使えば確かにすばらしい効果を上げられるかもしれないが、実験の段階でかなりの犠牲者が出たこの石は、 美しさと裏腹に危険を孕んでいる。
まあとにかく。色々あったが、コレはむしろ幸運だった。後はコレをどこでどうやって見つけたのかだけ確認できればいいだけだ。
「あの!…」
「気に入ってくれた?じゃ、持参金も解決かな?帰ろう!」
「へ?わっ!だから俺は自分で歩けますって!」
ホッとしたのもつかの間、俺が石に激しく反応したせいで、カカシさんは勝手に喜んでいる。
毎度毎度人のことをまるで女性を抱き上げるかのかのように屈辱的な格好で担ぎ上げられてしまえば文句も出ようというものだ。 …忍服越しに腰蓑が刺さってちょっとちくちくする…。
だが、コレだけの事をしておいて、カカシさん本人はヘラヘラと笑っている。
「いいからいいから!初夜解禁だよね!」
「はぁ!?あ!そうだった…!って何でそれだけ覚えてるんだー!?」
確かに初日にうっかり報酬を約束してしまっていた気がする。このままじゃ俺は…!?
いくつもの言い訳が浮かんでは消えたが、カカシさんはそんなものを待っていてくれなかった。
「別宅に準備しといたからー!色々!」
「わー!?」
…俺、今回の任務で何回こうやって運ばれたんだろう…?
これから待っているだろう現実から逃避するように嘆く内に、俺はまた新たな洞窟に連れ込まれていた。
*****
何が入ってるのか分からないがふかふかした寝床にどさっと落とされて、そのまま当然のようにカカシさんが覆い被さって来た。
「ひぃっ!」
俺がとっさに顔を押し返してもひるむことなく、カカシさんはどうやってきてたのか分からない腰蓑をするりと脱ぎ捨てて 密着してくる。
「あ、あの!カカシさん…っ!」
コレはまずい。絶対にマズイ。このままじゃ…!
俺は里に帰って治療を受けてもらえば、思いなおしてくれるんじゃないかと、何とか説得をしようとしたのだが…。
「ご褒美!楽しみだったんだよねぇ?」
言い出す前にそんなことを言われて嬉しそうにしがみ付かれては何も言えない。
カカシさんがいなければ任務は終らなかったんだし…。
「うう…っ!」
「脱がせにくいなー?切っちゃおうか?まだ腰蓑あるし。」
俺がひるんでいる隙に、カカシさんが俺の忍服を切り裂こうとしてきた。
しかも…腰蓑!?
「わー!?ソレは勘弁してください!」
腰蓑つけた自分を想像して、慌ててその手を止めた俺に、カカシさんはにんまりと笑って交換条件を突きつけてきた。
「じゃ、イルカさんが脱いで?」
「え?ええええええ!?」
脱ぐ!?俺が!?自分で!?
一旦身体を起こしてにやにや笑うカカシさんは、パニックを起こした俺に舐めるような視線をよこしながら再度服に手をかけた。
「強引なのがすき?それなら…泣いちゃうくらい強引にしてあげるよ?」
その余裕たっぷりの笑顔が恐ろしい。
大体上忍の強引なんて、俺にとっては拷問レベルに違いない!
「いや、その!好きも何も無くて!まずこういうことするのは早いと…」
諦めきれない俺が繰り出した言い訳も、カカシさんはその顔で一蹴した。
「ご褒美くれるって言ったのに…。ウソだったの…?」
それはもう悲しそうに、涙さえにじませるカカシさん。この人はさっき俺を身をもって助けてくれたし、仲間も助けてくれたし、 それに任務も…!
そんな相手にそんな顔されたら…俺は…諦めるしかないじゃないか!
「…お手柔らかに、お願いします…」
まるで激戦区に単身乗り込んで来いといわれたかのように決死の表情の俺を、カカシさんは輝かんばかりの微笑みを浮かべて 抱きしめた。
「大好き!俺のおくさん!大切にするから…!」
その腕が温かくて、その顔が可愛くて、その鼓動が馬鹿みたいに早かったから…。
「あの、宜しくお願いします…!」
俺は思わずそう言ってしまった。
そうして後に引けなくなった俺に、カカシさんは天使のような清らなかな笑顔で言った。
「じゃ、服脱いでね!」
なんていう邪極まりない事を。
*****
結局、男らしく覚悟を決めた俺は、一気に服を脱ぎ捨てた。温泉に行ったんだと思えばなんてこと無いと言聞かせた結果 だったんだが…ソレからは凄かった。…俺が激しく後悔するくらいに。
勢いで裸になったまでは良かったが、流石に心もとなくて掛け布団もない寝床でもぞもぞしていたら、のしかかられて、 どっから取り出したのか妙に甘い匂いがする液体を振り掛けられた。
それにびっくりして固まってる俺に、「花の蜜ですよ?甘いでしょう?」なんていいながらいきなり俺の…その、股間だのあ、 あそこだのに手を突っ込んで弄り回されて…。
何度も止めようと思ったのに、終始幸せそうなその笑顔に騙されて、うっかり抵抗を忘れた。
流石に入れられる時には抵抗したかったんだが、それまで散々…すっかり力が抜けるまで愛撫されていた俺は、 結局ろくにうごけず、すんなり受け入れてしまったのだ。
まあ、とにかく、済んだコトは深く考えないことにする。体がべたべたでも酷使しすぎたとある所が痛んでも …やたら気持ちよかったのも…今更どうにもしようがない。
「帰りましょう?」
記憶がなくても、里に戻れば何とかなるかもしれない。そうしたら…俺のことなんか忘れてしまうだろう。
そう思うと何だか胸が寒くなったけど、深く考えたら負けだ。
「そうねー?なんだかんだで結構里はなれちゃってたしねぇ?」
「へ?」
今、里って言った気がする。気のせいじゃなければ。
驚きのあまり空いた口がふさがらない。
そんな俺の顔をいとおしそうになでながら、カカシさんがちょっと申し訳なさそうにしている。
「心配かけてごめんね…?全部、思い出したから。」
「良かった!でも、いつ…」
記憶が戻ったのは嬉しい。それに俺の事を覚えてるのも。
…でも、何が切欠になったんだろう?
「あなたの愛のお陰で記憶が…!やっぱりコレは運命…!」
「あ…っ!」
不思議に思う間もなく、カカシさんに抱きすくめられた。
「あ、あの、離して下さい!」
「うん。帰らなきゃね?」
そうして、俺のわけの分からない任務は終わりを告げたのだった。
…その前にもう1ラウンドつき合わされたけどな…。
*****
あれから仲間と一緒に里に戻って、実はカカシさんが任務と偽られてあの石を運ばされた時に仕込まれた毒で、記憶を無くしたって こととが分かって、どうして野生化してたのかって理由ははっきりした。
…いくらなんでも順応しすぎだとは思ったが。
まあ、だから勝手に外で暮らしてたってのは何とかなったんだけど…。
他にも、例の腰蓑と変な声は実は趣味だったってこととか、俺と…その、ああなる前に記憶が戻ってたってこととかも分かった のだ。どうやら術を使ってた段階で、というか、俺の姿を見つけた段階で記憶が戻ったらしい。
当然俺は、抗議した。それはもう激しく。殴ったし、蹴ったし、叫んだ。
それなのに…未だに俺はこの人のおくさんをやっている。
「だって、もう俺のおくさんだから。」
この一言で納得してしまった火影様含む上層部に、言いたいコトは山ほどあるが、流されちゃった責任もあるし、何より…。
「大好き!」
なんて言われると、脂下がってる自分がいるのだ。元々子どもは好きだし、懐いてこられると引き離せないからとか 色々言い訳は思い浮かんだけど。
まあ、要するにうっかり惚れちゃったんだろう。我ながら趣味の悪いことに。
…それ以上のコトは…俺もこの野生人を見習って、深く考えないことにしている。


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ターザン、だったはずだがどうしてこうなるんだろう???
中身はいつも通り適当でございまする…orz。
…ご意見ご感想ご要望などはいつでもその辺の拍手などからどうぞ…。

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