クリスマスプレゼント

どうしたらいいんだろう?
ここは目の前の男の天幕で、男はこの部隊の大隊長で、ここに許可なしに他に入ってくるものなどいるわけがなくて。
逃げ出しようもないこの状況。
男は正座しているのだ。それも全裸で。
逃げ出したい。なんとしても逃げ出したい。迎えに来た伝令があまりにも普通だったから、こんな事態になるなんて思いもしなかった。任務が終わったから、撤収作業の指示でも与えられるんだと思ったのに。
緊張はしていた。それはもう高名な上忍である男との任務なんて、里が未曾有の人手不足に苦しんでいなければまずなかっただろうから。
少しうつむきながらきっちり挨拶もして天幕に入って、顔を上げたら衝撃の光景が広がっていたわけだ。
この人、ひょっとして裸族なのか?その自由人さはどうなんだ?趣味なら好きにしろと思うが、ここは任務地で…。
それから、何でこの人潤んだ目で俺を見てるんだろう。うっとりっていうのがしっくり来すぎる表情で。
とにかく、男はこっちをとろんとした顔でみるばっかりで、この状況について説明してくれそうにない。
「あ、あのです、ね?俺は、その、何を…?」
この状況から導き出せる答えが一つであったとしても、俺にそれはありえないという考えを信じたかった。
伽、なんて。…ほぼ同い年の男にわざわざ言い出さなきゃならないほどこの人は困っちゃいないはずだ。男が好きだ何て聞いたこともないし。
惜しげなくさらされている、作り物のめいて見えるほど白く、だがしなやかな筋肉に覆われた身体が、視線を外そうとしてもどうしても視界に入ってきて恐ろしい。
…思わず目を奪われる程完成された肉体だが、コレを敵に回すのだとしたら恐怖でしかない。
しばらく男は俺を見つめたまま微動だにしなかったが、俺の言葉にすうっと息を吸い込んだ。
そして。
「ふつつかものですが…」
深く深く…それはもうふかふかした頭の天辺が見えるほど深く頭を下げられて、しかも相手は上忍で。
土下座されている俺はただの中忍だ。
…俺の精神はその辺で限界を迎えた。
「も、申し訳ありません!失礼します!」
理解できないコトに遭遇すると頭が真っ白になると言うのは本島だったらしい。
男に背を向けるのすら怖かったが、すぐさま背後の入り口に手をかけた。
逃げることしか考えられなかった俺は、ただ垂れ下がっているだけのはずのそれが触れもしないと気付いた時には、冷静さなど欠片も残っていなかった。
じわじわと嫌な汗がこみ上げてきて、だが敵陣ならまだしも相手は上官で、武器を向けるなんてありえない。そもそも勝ち目もないし。
必死でこじ開けようとしても、カリカリと薄い何かに爪がぶつかる音だけが響くばかりだ。
ふっと、首筋に何かが増えて、総毛だった。
…背後にいる…!
「…っ!」
振り返るとやはり一矢纏わぬままの上忍が、俺の肩に手をかけていた。
もう、だめだ。
鼻水を啜り上げる音で、いつの間にか自分が半分泣いていたらしいコトに気付いたが、今更だ。それより、今日で俺の中の何かと…多分貞操とかそういったものとさようならなんて…考えたくもない事態が進行している方が問題だ。
「イルカ、せんせい」
「ひぃっ!?」
熱っぽい呟きが耳をなでて、ゾクっとした。
声だけで力が抜けそうだ。…さっきから想像を絶する恐怖を味わっているせいだろうか?それとも、男が何か術でも使ったんだろうか?
怯え、震えるしか出来ない俺に、男は…。
「好きです!お、俺を貰ってください!」
いきなりひざまずいて愛を請うなんて暴挙に出た。
「へ?」
「クリスマスイブだから…あ、あの!勝負っていうか!あ、あの、食事とか!…でもプレゼントだからって、勝負パンツ迷ってたら任務入っちゃって、だけどイルカ先生も一緒だったからこれはもう運命だと思うんです!」
なんだそれは。もっとちゃんと物事を整理して話せ。
そういいたいんだが、俺の手をとり摺り寄せて縋るような視線をよこす男に、俺の中で絶対に揺らがないと思っていた何かがぐらぐらと揺さぶられている。
その必死さに流されてしまいそうで恐ろしい。
「そ、の、えと、あの、俺、そういう風に考えたことが…」
とりあえず逃げよう。無視とかそういうんじゃなくて、今は考えられない。この異常な状況に流されたらダメだ。
ふっと逸らしたはずの視線を追いかけるように、男の手が伸びた。
「プレゼント、貰ってください」
プレゼントは好きだ。
物がもらえるってことよりも、俺のためだけに用意されていることが嬉しい。貰って困るものもあるが、それでもその気持ちが大事だと思う。
だがクリスマスプレゼントっていうのは、子どものためのものだし、もっとこう…そっと置かれるものじゃないだろうか?
そっとどころか堂々とプレゼントの方からやってくる方がおかしい。
そもそもが人がプレゼントってとこからしておかしい。むしろおかしい所だらけだ。
それなのに、向けられる視線から目を逸らせない。
そんな目で…懇願と狂おしい光を混ぜ込んだ瞳で俺を見ないでくれ。
これを受け取ったら大変なコトになるってわかっているのに、ぐらつく意思はこの男に向かって倒れそうだ。
「俺、は…」
振り払うことも触れる手に答えることもしない俺に焦れたのか、男が動いた。
「こっちで。寒いでしょ?」
全裸の男に言われたくないと思ったが、ぼーっと突っ立っているわけにも行かない。開放する気もないようだ。
気付いたら、何故かまたベッドの上で正座している男に向かい合うように俺まで正座している。視界になんというかこう…見たくもないモノが入ってくるが、そこはそれだ。
でかいとかなんでもう勃ってるんだとかその辺はできる限り考えないコトにして、深呼吸してから一息に言った。
「あのですね、俺は、カカシさんのことを…」
好きとか嫌いとかまだ分からないと告げるつもりだったんだ。
終始潤んだ瞳をしたままの上忍に感極まった声で抱きつかれなければ。
「カカシさんって…呼んでくれた…!」
「え、あの、だっていつも…」
カカシ先生っていう呼び方を変えてほしいと言ったのはこの人だ。
あなたに先生って言われると、なんだか照れくさいからって、随分前からずっとこうなのに。
先生をさんに変えてもはにかんでいたのを覚えているから、その頃からひょっとするとこの人は…。
やめよう。考えたら怖いことになりそうだ。
一途なイキモノだって知ったら…うっかりほだされるに決まってる。意識したら負けだ。
もう手遅れかも何てことも気付かないコトにしなければ。
「うん。でもね?告白なんてしたから、もうダメかなって。それだけで嬉しいんです」
あんまり切なげに言うから、呼吸が止まったかと思った。
背に回された手がぎこちなく俺に触れてきて、大切そうに抱きしめられて。
もう、ダメだ。なんでこんなにこのひと可愛いんだ!
俺の人生設計とかそういうものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
平和で普通な生活よりも、このプレゼントを受け取ってしまう決意を、俺は今してしまった。
「カカシさん」
「ふふ…!はい」
「あの、プレゼント、謹んでお受け取り致します。その、末永く…んむっ!?」
いきなり口をふさがれた。それも男の唇で。
にゅるにゅると這い回るものがなんなのか理解するより先に、瞳を閉じて熱心に俺を貪る男に見蕩れていた。薄赤く上気した肌に、自分の方まで引き摺られそうだ。
ただ、気持ちイイのだけはわかる。もっと続きが欲しいのも。
「は、ぁ…イルカ先生…!」
「ふぁ…!」
息をついで、それから今度は俺の方から口づけた。
こんなに可愛い顔されて我慢できるほど枯れていない。
そう考えると服を脱がせる隙を伺わなくてもいいわけだし、男相手のやり方は書物でしかしらないけど、これだけ協力的なんだから何とでもできる気がしてきた。
「カカシさん…続き、してもいいですか…?」
「嬉しい…!」
あーもう。かわいいなぁ!
そう思っていられたのは本当にごく僅かな間だけだった。
「カカシ、さん…」
「サンタさんに、初めてお願いってやつをしてみたんです。12月になったら、一番大きいお星様にお願いしなさいって。一度だって信じたことなんてなかったけど」
この人が随分早く親も、それから師も失ったことを知っているだけに、プレゼントなんてものを貰った経験は殆どないのかもしれない。
話自体は泣ける。…俺の服がいつの間にか脱がされていて、ついでに指が変なところを触っていなければ。
「あ、あの…!」
「お願い、本当に叶うんだったら、もっと早くしておけばよかった」
「ん…っ!」
前を触られて、さっきまでめそめそしてたのにリードされてるのが悔しくて、俺も触り返した。
「ふ…気持ちイイ…もっと、触って…?」
言葉通り、確かに気持ち良さそうだ。それだけでゾクゾクする位に色っぽい表情。
それに触れている部分の熱がじんわりと俺を興奮させる。自分以外の同性の性器なんて触ったこともなかったのに。
さっき見たときも思ったが、もうすっかりしっかりその気だ。…多分、俺のも。
だが前以外に後ろに回された手が気になる。キスは凄く気持ちいいけど、腰骨の辺りからその下まであやすように触れられて、時々ソレが変なところまで触るのだ。
こんな風にして誘ってくる位だから、てっきり俺が上だと思っていたんだが、これはもしかしなくても…!?
「あああああの!カカシさん…!そこ、や…!」
「怖がらないで?大丈夫。ちゃんと用意してきてあるんです…!パンツはずっと決められなくてさっきまで悩んでたせいであんな格好になっちゃったんですけど…!」
ちょっと恥ずかしそうに言われても、安心なんてできない。というかむしろ不安だらけだ。
「用意って…!?」
「これです。ちゃんと痛くないようにゆっくりしますね…?」
ごそごそサイドボードを漁って取り出したのは、赤い半透明の液体だ。チューブが透明でラベルがないのが恐ろしい。
「そ、それって…!?ま、待ってください!」
慌ててぐいっと押し返したら、そのままポテっと男が転がった。
勢いで一緒に転がった俺を、ぎゅうっと何かが拘束する。
「イルカ先生…!イルカ先生から欲しがってくれるなんて凄く嬉しいです!俺、がんばりますね!」
俺に向けられた熱っぽく、だがきらきらと輝く瞳は、聖夜の星空よりも煌いて見えた。
…怯えていたはずの俺の目を眩ませてしまう位に眩しく。
*****
つながるまでは大騒ぎだったが、それからはあれよあれよという間だった。
いざ入れるという段になったら流石に抵抗したのだが、男は終始「好き」だの「きもちいい」だのいうから、最終的には俺が折れた。
だが元々何かを受け入れるように出来ていないソコの異物感と恐怖は誤魔化しようがなくて、呻いてもがいて思わず項に噛み付きさえした俺に、男は却って喜んだ。
急所に歯を立てた俺を殴るでもなく、俺の項に同じ痕を残して「おそろいですね」なんていって笑って。
あんまりにも嬉しそうだから、受け入れた部分の苦しさなんてどうでもよくなった。我ながら現金すぎる。噛み付かれた痛みさえ快感に変えられてしまったのだから、これが計算ずくなら恐ろしい。
…まあ多分、素だろう。そうだなければわざわざ素っ裸で待ってる意味が分からないし。
「く…!イルカせんせ…!」
「あっ…!あつ…っ!」
ぐちゅりと音を立てるそこが、もう何度男の精を受け止めたのか覚えていない。
新しく腹の中に吐き出されたせいであふれ出したそれが、ぬるりと太腿を汚していく。
男の上に座りこむような格好だから、つながった部分もそれ以外もどろどろだ。
「ふ、ぅ…!」
流石に疲れた。
上がったままの呼吸のせいか、意識がふわふわして妙に現実感がない。
このまま眠ってしまいたいのに、突き立てられたままの男が性懲りもなくその存在を主張しだしている。
「イルカせんせ…!どうしよ、また…!」
「や…!も、もぅ無理…!」
「すぐ済ませます…!」
結局するのか!って叫ぶ前に俺の喉は馬鹿みたいに甘い喘ぎばかり吐き出して、どろどろの下肢はもっとどろどろになって、ついでに頭の中まで真っ白く染めてくれた。
*****
クリスマスプレゼントはどんなに喚いても返品不可だったなぁと今更思い出した。
本当は飾り手裏剣セットが欲しかったのに、一緒に届いたのはその時苦手だった算術の解説書で解かないと手裏剣セットもお預けだったとか。…今思えばアレは親心だったんだろうなぁ…。
結局、起きて、動けなくて、でも任務は終わっていて。
帰還するにも立てないなんて情けない状態で、早速このクリスマスプレゼントに悪態をついた俺だ。
…もったいなくて返品なんてできないけどな。
「ごめんなさいごめんなさい…!イルカ先生がすっごくかわいいしきもちいいし…!」
「…も、いいです…。俺は体調を崩して遅れるってことにしてください…」
しきりに頭を下げて、俺の体を気遣うようになでるくせに、でれーっと笑ってみたりもする男が可愛いと思う辺り、我ながらすっかり嵌ってしまったようだ。
心配して見に来た仲間には悪いが、感染ると悪いとでも言って貰おう。
隊長の天幕を占領するのは流石に不自然だから、どこか近くの宿まで自力で撤収できればいいんだが。
さっき口の中に放り込んだ痛み止めの効きが悪いのにも溜息をついたら、男がぎゅうっと抱きついてきた。
「イルカせんせ、もらっちゃいましたね?俺も…」
「あー…そうですね」
「俺、一生大切にします!イルカ先生に一緒にいてもらえるように!」
「…そう、ですね」
いちいち俺のツボを突くのが上手い人だ。
何だかその一言でわずらわしいもの全てがどうでも良くなった気がする。
「ちゃんと運びますから安心してくださいね!」
妙にやる気まんまんなこの男をどうやって落ち着かせようか?
そんなコトを考えながら、とりあえず俺のかわいいプレゼントにキスをしてから考えるコトにしたのだった。


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という訳でそっとアホの子上忍クリスマスを放置プレイ!
ひゃっほうめりくり!ってことで!寛容な心で生温く見守ってやってください!

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