縛る



イルカてんてーが結構な人格崩壊気味(超後ろ向き)につきご注意をー!!!
カカチはいつも通り変質者です。←だめじゃん。



「逃がしたりしないよ?」
そうだ。この男が俺を逃がすはずなど無かったのに。
「遊びにはもう飽きたと言っても…?」
震えるでもない妙に冷静な己の声がおかしかった。…内心は嵐の只中にいるというのに。
「遊びじゃ、ない」
飄々として見える男が俺を捕らえるに任せ、その腕の振るえが演技じゃないコトにうっとりと目を細めた。
そうだ。知っていた。だから…。
*****
最初から奇妙な男だと思っていた。能力的にこの男と勝負にすらならないというのに、なぜか任務に指名された。一度だと思っていたそれが幾度も続く内に、気がつけばこの男を近しく思っていた。
同時に、何を企んでいるのかとも。
共に任務についても、殆ど言葉を交わすことなくただ目の前の敵を屠り、与えられた任務遂行することだけを優先した。
だからただ単に上忍よりも扱いやすいからだと…狐つきと里内で疎まれる自分ならば最悪の事態で捨て駒代わりにしても惜しくないからだ思っていた。
だがそれだけにしてはずば抜けた頻度。利用されることには慣れていたが、違和感は拭えなかった
それでも…共に過ごすにつれ相手のくせや思考も理解し始め、馴染んだ相手に一方的な連帯感すら抱き始めていたころ…。
毒にあたった。…それも、タチの悪いものに。
敵はもう気配を隠すことすら十分に出来ていなかった。そんなもの避け切れなかったはずがないのに、油断したのだ。
ソイツを含め、敵の殆どを倒したとはいえまだ残っているかもしれない状況下で、毒に当たって…解毒に手間取るこの手の毒は治療する間にもいつ奇襲されるか分からない。
当然…不甲斐ない己に最後のときが訪れるかもしれないことを俺は自分でちゃんと理解できたし、面倒でやっかいな解毒などこの男がわざわざする必要などないと思い、伝えもした。
己の失態は己であがなうと。先に帰れと。
だが男はソレを鼻で笑って聞き入れず、淡々と俺の面倒な手当てを済ませると、当然のように俺を守った。
「アンタを、失えない。側において見てるだけでもいい。だから…無茶はするな」
突然の告白めいた独白は驚かせるには十分で、どうしたらいいか分からなかった。
ただどこかで…やはり。とだけ思った。
滲ませることすらしなかった男の思いではなく、それを聞いて恐ろしいほど己の感情がみだされたことに。
*****
言うつもりなど無かったのだろう。それでも誤魔化すこともせず、男が語るその思いに、歓喜してしまってから気づいた。
ただの仲間であったはずの男を失えないほど身の内に食い込ませてしまっていることを。
予感はあった。それが確信に変わっただけだ。
…それでも、酷く寂しさを纏っている男には、俺の思いなど分からないだろう。
まだあの子どもを受け持つ前は、まるで里の象徴のように言われることがあったから。穏やかでありたいと望み、そう振舞うのは、ソレが全て崩れることを知っているから…その苦痛を今でも思い知らされ続けているからだ。
それでも…きっとこの男が求めているのも、そんな虚像だ。
潜んでいた敵を屠りながら里に程近い定宿にもぐりこみ、報われない気付きたくもない思いを持て余して一人泣いた。
魘されているとでも思ったのか、男がぎこちなく触れて涙を拭ってくれるのが辛かった。向けられる視線が俺への労わりと不安を滲ませているのがたまらなく苦しかった。
だから…毒の熱に浮かされているとはいえ、ありえない行動を取ってしまったのだ。
「っ…!」
俺の頬を撫でる手を握りしめ、とっさに退こうとしたその指に口づけを落とした。
言葉など出てこなかったし、柔らかくもないこの体に欲情する訳も無いだろう。誘い方など知らない俺には、自分が浅ましい行動を取ることへの言い訳さえ思いつかなかった。
ただ、気付かれたからには離れていくだろうこの男を、欠片でもいいから欲しいと思ってしまっただけ。
だから。
「そんなことして…知らないよ…意識がそんなだからって、言い訳にしてあげない」
まるで己に言い聞かせるようにそう呟いた男が、ぞんざいに俺に着せ付けた浴衣を剥ぎ取っても、ただその気まぐれに縋ろうとしか思えなかった。
*****
それからも、幾度となく任務を共にした。どこも変わらないとさえ思える態度に拍子抜けしたが、一夜の過ちで終わるはずの行為が当たり前のように付随するようになって、この男が何を考えているか分からなくなった。
想像していた里の象徴が、欲望のままに拙い誘いをかけて来たことに幻滅しただろうに。男はおくびにも出さずに、ただ俺を当然のように組み敷いた。
いっそ体のいい処理だと思いこみたかった。捨てられない恋情が疎ましくても、かけられる情けに何も知らなかった身体は馴染んでしまった。…その快感と一体感と痛みすら愛おしく思える不毛な思いに。
だが、終わりがくるのは目に見えていた。面を付けた男の名など聞いたことはなかったが、閨で目にするその姿は高名な…生きながら伝説にさえなりかけた上忍そのものだったから。
いずれ、引き離されるだろう。情人にするにしても、中忍で…しかも訳ありの男など、邪魔にしかならないのだから。
でも、それまでは縋っていたい。
頻繁な任務指名に、アカデミーでもいい顔はされなかったが、元々あの子の担任というだけで強かった風当たりが多少程度を酷くしただけだとそれを受け流した。
そうまでしてあの男を求める己の貪欲さと醜さに反吐が出そうだというのに、その思いを捨てることも出来ずに引きずって、男の気まぐれがいつまで続くのかに怯えながら時を重ねた。
…一度だけ、逃げてみようと思ったこともあった。
多忙を理由に指名を断り、だからと言って逃げることなどできずに、言い訳に使った書庫の整理をしていた。
実際任務の内容はサポートなしでも男なら簡単にこなせるはずのものだったし、これ以上あの男に溺れてしまうのが恐ろしかったのだ。
いずれ捨てられる時が来るのを怯えるより、自分から諦めてしまおうと思った。
自分の心のように乱雑に書棚に突っ込まれていた本を手にとり、整理していて…唐突に抱きしめられた。
いや、むしろ肋が折れるのではないかというほどに力強いそれは拘束だったかもしれない。
「逃がさないよ」
囁かれたその声に歓喜した。
男が何を考えているかなど知らない。ただ従うだけだった玩具が逆らったから気に障っただけかもしれない。
それでも、その執着が嬉しくて体が震えた。
「怯えてるの?かわいそうに…でも、駄目」
その震えを怯えとったのか、男はくすくすと笑って俺の服をはいで、蹂躙した。
逆らう気など毛頭なかったが、怒りの炎を点したその瞳の中に、どこか苦しそうですらある光を見て取って、あったはずの羞恥と僅かな恐怖は霧散して、ただひたすらに熱に溺れた。
男が飽きるのがこれで少しでも遅くなるといい。…暗い思いとその執着に胸をきしませながら。
*****
…今度こそもう諦めなくてはいけないと思ったのは、面倒を見てきた狐を宿す子どもが、己の足で歩き始めたから。
もう自分は必要ない。きっとあの子どもは痛みを知ってもなお強く歩んでいけるだろう。
そうして、唐突に気付いたのだ。
あの男が俺に構う理由が、俺を守るためだったとしたら?
…実際あの男との任務が入り始めてから、一方的な暴力と嫌がらせの類は格段に数を減らしていた。
何故この可能性に気付かなかったのか…そうまでして、その可能性に目を瞑ってまで、気付かないようにしてまであの男が欲しかったのかと自嘲した。
だがそれだけではない。長く続く関係に自分自身が疲弊していた。もう離れるコトに耐えられそうにも無いのだから、いっそ自分ごとこの思いを消してしまいたいと思い始めていた。
だから…あの日以来、里にいても俺を貪るようになった男を受け入れて、まるで色狂いのようになって男を求めた。
最後、だからと。
淫乱…睦言めいたその言葉に、胸は痛みさえしなかった。自分の浅ましさなど疾うに思い知っている。思い切るために抱かれるなど未練が過ぎて、自分でも気分が悪くなったが、どうせ最後だと男に強請り、縋って、男が少しでも自分で気持ちよくなれるように羞恥などかなぐり捨てて腰を使った。
自分の中で何度目かの精を吐き出して、倒れこんできた男を抱き寄せながら事後の余韻に浸った。腰も足もガタガタで、明日は使い物にならないだろう。
そんな己の必死さを嗤うのも今日で終わりだ。
肩に回された腕を引き剥がし、真っ直ぐに男を見つめた。…最後まで焼き付けたいと。
「もう、終わりにしましょう?」
誘ったのは…きっかけを作ったのは自分だ。男はソレに乗っただけ。
…だから出来るだけ言葉は軽くした。まるで女のようなそのセリフは滑稽ですらあったが、今更取り繕うのも馬鹿馬鹿しい。
ずっとこのままでいたいと思うその体温を自分の手で引き離し、力の入らない足を叱咤して、そのまま風呂場に向かうつもりだった。
欲しいのはただ一人だけ。ソレを自ら手放そうとしているのに涙すら出なかった。もうそんな感覚さえ失うほど、男が自分の全てになりかけていた。
振り返りもしなかったのに…抱きとめられた。あの時と同じに。いや、もっと強く。
「逃がしたりしないよ?」
そうだ。この男が俺を逃がすはずなど無かったのに。
ソレをどこかで分かっていて、でも信じられなかった。
…だからこそ、離れるだけで苦しくなるというのに、その手を拒んだ。
「遊びにはもう飽きたと言っても…?」
震えるでもない妙に冷静な己の声がおかしかった。…内心は嵐の只中にいるというのに。
その言葉を否定されるのを待っている自分を知っていた。
ずるく矮小な自分。…それでも欲しいと言ってくれるのを。
「遊びじゃ、ない」
飄々として見える男が俺を捕らえるに任せ、その腕の振るえが演技じゃないコトにうっとりと目を細めた。
そうだ。知っていた。だから。
「なら、最後まで…最後まで離さないでくれ」
「アンタも、最後まで逃がさないから」
誓う言葉は、いつもの言葉少なな男らしく真摯なもので…その約束が絶対だと信じることなど出来はしなかったが、もう、己を騙さなくてもいいのだと、体中の骨が溶けてしまったんじゃないかと思うほど安堵した。
失う想像で狂う前に、縛ってしまえばいい。
…どこかで、そうしようと思っていたのかもしれない。
男に手に絡め取られながら、その心をもっとずっと深くまで縛り付けているだろう己を、一人、静かに笑った。


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くろいるかふぇあ?うすっくらい。
あれです。キリリク的なもの練習だったりして。
一応ー…ご意見ご感想などお気軽にどうぞー!!!

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