しがつのあるひのはなし


「ちょっとだけ、いいですか?」
知り合いといえる位には面識があるが、つまりはその程度の関係の相手に声を掛けられた。
近づき難いその人との距離は、あまりにも遠かったのに。
「はぁ」
相手は上忍だ。それに特に断る理由も無かった。
…むしろ今日ここを抜け出せるなら大歓迎だ。
どこのだれが持ち込んだか分からない行事だが、元々忍には上手く相手を騙す能力も必要とされるだけあって、この異国の慣わしはあっという間に馴染んだ。
つまり…今日職員室にいるだけで、ウソを付くために必死な生徒の相手をしなければならないのだから。
「…ちょっとだけ」
そう言って穏やかに微笑む男は、所謂イイ男の部類に入る。
一度だけみせられた素顔は、同性の自分が思わず目を奪われるほど整っていたし、何よりその戦績が。
…腹立たしさを通り越して、どこか遠く感じるほどの相手だ。
だから、俺はきっともっと良く考えるべきだった。
釣られるように笑っていられたのも、そのにこやかな笑顔のまま、服をひん剥かれるまでの話だったのだから。
*****
…この年まで幸い守り通してきたというか、経験がないのは、このゴツイからだが恐らく男にとってどう考えても魅力的ではないからだったんだろう。まあ女にもだというのが悲しいところなのだが。
とにかく、それを。
「サイコー…!」
俺の上で気持ちよさ気に腰を振っている男にあっさり奪われてしまった。
「や、やだ…!も、やめ…っ!」
泣きが入っていることにも、それでも強請るように勝手に腰が揺れることにも恥ずかしいと思う余裕なんてなかった。
ただ思うのは、なんでこんなことになってるんだっていうことだけだ。
「あのね?ちょっとだけなんて無理なの。だって…もうずっとずっと好きだったんだから」
それが四月の最初の日のウソなのは分かりきっていた。それなのに、なぜか苦しい。
腹の中を一杯に満たし、狂おしいほどの熱を与えるソレのせいだけなんかじゃなくて、理不尽な目に合ってるせいだけでもない。
尊敬だと思っていた。それなのに、こんなに。
…演技にしては強すぎる視線と熱く暴れる楔に全てを塗り替えられてしまった。
「うー…!」
全てが終わってから、こぼれる涙を堪えることもできなかった。
力の入らない体が疎ましい。必要な部分だけを晒して行われた行為は、あからさまに遊びだってことを匂わせて、空しさと息が詰まるほどの苦しさで何も考えられない。
「泣かないで?止められなくなっちゃう」
いつの間にか日は暮れて、ウソの日だって終わりそうなこの時間になるまで交じり合っていたことになる。
全部が、ウソだったらいいのに。
優しい目が怖くて、動きの鈍い体をもごもごとよじると、男が俺に囁いた。
「ねぇ。ウソからでた真って言葉、あるでしょ?…ちょっとだけじゃなくて、これからもずっといっしょにいて」
「ウソつき…っ!」
必死さを滲ませた言葉すら拒み、暴れる俺に、男は溜息をついた。
「うそじゃないよ。…帰ろう?一緒に。もうだめ。だって離れるだけで死にそう」
訳のわからないうちに抱き込まれて攫われて…頭が一杯になった俺は、情けないコトに途中で意識を手放した。
*****
「おはよ」
笑う男は昨日声を掛けてきたときと同じ綺麗な顔を晒し、だがその中に輝くような喜び宿していた。
「…え?」
ベッドは温かい。寄り添う男と自分の体温のせいだ。
それから、きっとこの状況も。
「カレンダー見る?それともテレビ?新聞…はとってないんだけど。里にいないから」
そういって見せられたテレビは、確かにもう今日がウソの日じゃないことを教えてくれた。
「え?…え?」
「もう、いいよね?…好き。ずっと。ずるいってわかってたけど、絶対気付いてなかったでしょ?俺のもだけど、自分の気持ちに」
そうだ。全然そんなこときづけなかった。
…近づきたくない理由がなにかなんて。
「見られてるだけでドキドキしちゃうのに、ぜーったい近づいてこないから。…でも、ウソは嫌いでしょ?だから昨日までずーっと我慢したんです!」
そういって、男は子どもみたいに笑った。
…結局。ウソツキ男への制裁は、しばらくその腕に触れないことにしたんだが、俺が早々に我慢できなくなったから、来年は俺からもっと何かすごいことを仕掛けてやろうと思う。


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というわけでうそのひー!
一応!ご意見突っ込み感想などございましたら御気軽にどうぞー!

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