選びとるべきじゃない相手であることは確かなのに。 中忍としては望むべくも無い良縁。それも里長自ら勧めてきたそれを、分かっていても受け入れられなかった。 「なぜじゃ?子が欲しいといっておったじゃろう?そろそろ年ごろも丁度良かろうに…」 残念そうに語る里長に、曖昧に誤魔化した答えしか告げられない自分が情けない。 でもいえない。言えるわけがない。 「子ども、か…」 あの人にも俺にも産めるわけがない。それ以前にこの思いを告げることさえはばかられるというのに。 それでも捨てられないこの胸の熾火に焦がされて、いつかきっと耐え切れなくなる日がくるのだろうか? ずっとずっと押さえて隠して誤魔化して…気が狂いそうなほどに。 里長には感謝と共に、だがきっぱりと断った。…気がついたら断ってしまっていたというのが正しいが。 だんだんと理性が擦り減っていく。募る思いは抗い難く俺を駆り立てる。 そう、夢の中でさえ。 微笑むあの人の肌に触れて触れられて…それから目覚めてもその残滓を欲望の糧にしてしまうほどに飢えている。 あの人にあったら、溜め込んだ全てを吐き出してしまいそうな自分が恐ろしかった。 できるだけ距離を置こう。 もう何度目かもわからない、出来るわけもない決意をして、執務室を後にした。 これから受付だ。 あの人に一番会える可能性が高いそこに向かう足は勝手に浮き足立って、自分の恐ろしいまでの執着を思い知らされる。 うんざりするほどあの人だけが俺の中心だ。 あと少し、少しだけでいいからこの思いを捨てられるように努力しよう。どうしても駄目ならいっそ長期任務でも申し出ればいい。 悩むよりきっとその方がましだ。たとえ会えなくても忘れられないだろうと諦めていても。 ***** 元々そうなんでも欲しがる方じゃない。その代わり欲しいと思ったものを絶対に諦められない方だ。 一生ずっとこの人だけだと思う人を見つけてしまった。 相手にとっては不幸かもしれない。 だが俺にとっては…多分、幸運だ。 あの人を思うだけでこんなにも胸が苦しい。この激情を押し隠して側にいることにもぞくぞくした。 まだ好きだと告げていなくても、この気持ちを胸の中だけで終わらせるつもりなど欠片も無い。 …ただ、少しずつ追い詰めて確実に手に入れるために。 そう、今は。 「イルカせんせ」 甘い声であの人を唆し、落ちて来いと願う。 逃がすつもりなどないのだから。 ああ、あの人はだから俺を見て怯えた瞳をしたのかもしれない。 獲物を捕らえた瞳が飢えを隠しきれているとは思えない。 …でも、あの怯えはきっと。 あの人が俺のモノになることを望んでいるからだ。 見合いなんてものを成功させる気などさらさら無かったが、その前に自らあの人はそれを捨てた。 子ども好きで、いつかは沢山子どもが欲しいと言っていたのを知っている。 それでも、あの人贔屓の老人が持ってきた最上級だろう縁談を振った。 それに、俺を見る瞳が。 切なげで苦しげなソレの奥に宿る俺と同じ光が。 「カカシ、さん」 名を呼ぶ声にすら欲情する俺とこの人は、きっと。 ***** いっそ白状してしまおうか。この薄汚い劣情を。 まるで測ったようなタイミングであの人は俺の前に現れる。 受付に行く途中だから、報告書をだすこの人とすれ違うのはそう不思議なことじゃない。 だが、いつだってこの人は俺を捕らえて離さない。 今にもあふれ出しそうな言葉を飲み込んで、挨拶にもならない言葉を吐き出した。 「あの、俺、受付…」 「ね、なんで?」 「え?」 笑っている。顔は。…でもその瞳は何か別のものを秘めている。 「見合い。どうして?」 それをアンタが言うなと叫べたらどんなにいいだろう? 「…まだ、早いといいますか…」 言葉を濁し、曖昧に微笑んで、里長と同じように交わせると思ったのが甘かった。 「ウソついちゃ駄目でしょ?好きな人、いるんじゃないの?」 ああいるとも。今目の前で残酷に笑うアンタに、気が狂いそうになるほど惚れている。 からかわれている。…なら、いいじゃないか。冗談めかしてでも告げられる。 一度だけ、この思いを。 「ええ。…アナタが」 上手く笑えているといい。滑稽なこの気持ちを笑うか、驚いた顔でもしてくれれば冗談にできる。 …そう。一度だけでもこの逃げ場の無い思いを告げられたのだから。 「ああ、やっと」 抱きしめられた。息ができないほど強く。 囁かれた言葉は聞き違いでもなければありえない物で、求めすぎていたぬくもりにめまいがする。 「え…?」 「ねぇ。俺も好き。もう離さない」 ああ、最悪だ。俺の恋は叶ってしまった。 きっともう二度と、この男から離れられない。 …番は離れては生きられないのだから。 ********************************************************************************* 粗品にしちゃ長い気がしてこっちにおいてみる。 えー…一応!ご意見突っ込み感想などございましたらお気軽にどうぞー! |