忍び寄る変態

教師の仕事には休みが無いといっても過言ではない。昼休みでも生徒たちが質問にくれば答えなくてはならないし、いつ何時トラップやいたずらを仕掛けられるか 分からない。
…そしてソレは放課後であっても同じだ。今日も職員室で残業中のイルカの元に、子どもの呼ぶ声が届いた。
「せんせー!!!」
見ない顔だ…。…?こんなにキレイな顔をした子がいただろうか?少なくとも自分の担任するクラスにはいないはずだ。 …だが教師である以上子どもにはいつも全力で接していきたい。
イルカは見慣れない子どもの前にしゃがみこんで視線を合わせた。
「どうした?」
「あのね。…あの…。」
こういうもじもじしてうまく話が出来ない引っ込み思案な生徒は、ゆっくり相手をしないといけない。
「ゆっくりでいいぞ。なにかあったのか?」
「あのね。先生。ここで話すのはちょっと……。」
「あーそうかそうか。」
こういうのは大抵好きな子がいるんだけど告白できないとか、そういう類の話だろう。自分にとっては、はるか昔すぎて甘酸っぱさなど思い出せないが、 こういう子どもたちをみるとちょっと昔が懐かしくなる。
…初恋…近所のお菓子を良くくれる、キレイなお姉さんが好きだったっけなぁ…。でも、結婚してたって分かって泣いたっけ…。ああ、懐かしい…。
「じゃ、んー…?そうだな。校舎の裏でもいいか?」
「うん!ありがとう!先生!!!」
教室に入ってきたときの表情が、暗く不安そうだったのに、今は花が咲くように笑っている。
…こういう明るい笑顔を見ていると、教師をやっていてよかったとしみじみ思う。ちゃんと、この子の悩みを聞いてやらなければ。
「先生!行こう!!!」
俺の手をにぎってひっぱりながらそういう生徒と一緒に、俺は職員室を後にした。
*****
アカデミー校舎の裏にちょっとした広場があって、修行するには狭いが、遊ぶには十分な広さがある。そこには小さなベンチも置いてあって、 休憩するにも重宝している。
イルカはまず、自分がそのベンチにこしかけ、隣に生徒も座らせた。
「で、どうした?」
二人っきりになったのに、まだもじもじしている。…よほど悩んでいたんだろう。可哀相に。忍のたまごだからと言って、感情を殺すような教育はしたくない。 忍として生きていく内に、どうやって感情を制御するか学んでいけばいいことだ。
「…先生に話してくれないか?」
その一言で決心がついたのか、うつむいていた頭を上げ、こちらの瞳を見つめてきた。こちらも視線で促してやる。生徒は大きく息を吸うと、一気に言った。
「先生!俺と結婚して!!!」
…ああ、こっちの方の悩みだったか…。教師をしていれば、この位の年齢の子どもたちに毎年のように告白される。大きくなったらそんなことは笑い話になる のだろうが、本人にとっては一生物の決意のつもりでいるから、こちらとしても気を遣う問題だ。
…それにしても、この子キレイだけど男だよな…?
…忍には結構その辺が適当な者が多いが、いくらなんでもこの年齢で初恋が男では将来が危ぶまれる。それに、自分で言うのもなんだが、外見的にも少しも 女性らしいところも無い上に、どちらかというとおっさんくさい自分が好きとは…マニア予備軍だろうか…。
とりあえずはそこそこ納得できそうな方向に話を持っていって、それからその辺のことも考えてやらねばなるまい。
「あー…そのな。大きくなって、それでも気が変わらなかったらまた言ってくれな!そうしたら、考えてみるから。ほら、お前はまだまだ勉強とか遊びとかで 忙しいだろ?これからいろんな人にも会うだろうし、その中にもっといい人がいるかもしれないしな!…もうちょっとゆっくり考えてみろ。な?先生は…多分 しばらく結婚とかしないだろうから。モテねぇしな!」
自分の縁遠さもネタにして、当たり障り無く言ったつもりだが、どうだろう…?不安になりながら、子どものほうへ目を向けると、嬉しそうに言った。
「やったー!大きくなったら考えてくれるんですね!!!」
…アレ?この口調…それにこのテンション……まさか?!
そう思ったとき、目の前の子どもかポンと言う音ともに煙に包まれた。
「はい!大きくなっても気が変わりませんでしたので、ささ!早く結婚式を挙げましょう!!!大丈夫!!!準備はちゃんとできてます!!!新居もベッドも 完璧です!!!!!!」
「…アンタか!!!!!」
やはり変態上忍!!!素顔を見るのは初めてだが、結構きれいな顔をしていることにも腹が立つ。大体姑息な手を使いやがって!!!
最近変化にも警戒するようになったので大丈夫かと思ったが、流石は上忍というべきか、イルカの弱点を正確について、ついつい警戒心が薄くなる子どもを 利用してきた…!!!それに気配もチャクラも完璧に子どものものだったが…一体どうやったんだ?!
…卑怯な手を使いやがって!!!
「ね、先生!指輪はプラチナですよ!!!それと、式場は一応チャペルです!!!あ、でもー…いつでも変更できますよ!!!神式でも、仏式でも!!!」
「アンタの人生の予定をまず変更しろ!!!たちの悪ぃいたずらしかけてきやがって!!!…覚悟はできてんだろうな!!!」
ヤツにこれ以上クナイをくれてやるのももったいないので、こんなこともあろうかと仕込んでおいた目潰しをたたきつけた。
「…っ!」
よしっ!手ごたえあった!!!…この隙にどてっ腹に一発くれてやる!!!
思いっきりこぶしにチャクラをこめ、渾身の一撃をお見舞いしてやろうとしたが。
「この匂い…ああ、イルカ先生のお手製ですね…!!!感動です!!!」
この変態は、いつもどおりの無駄にすばやい動きで、俺の手を握り締め…あまつさえ頬ずりまでしやがった!!!
…効いてないのか!?っていうか、何度も言うけど気持ち悪いんだよ!!!
「放せ!この変態野郎!!!」
さっと手を振り払ったが、ヤツが意味不明なことを言った。というか、いつもコイツの言動は意味不明だが…。
「ああ、やっぱりぴったりです!!!とても良く似合ってますよ!!!」
ぴったり?似合う?何のことだ!?
「ほら!俺のもおそろいです!!!」
…ヤツの指に銀色に輝く指輪が見えた。…もしや!?
「ぎゃああああ!!!なんだこれ!なんだこれ!!!…ってはずれねぇ!!!」
俺の指にもいつの間にかヤツ同じ形の指輪が嵌っていた。しかも…薬指に…!!!
…なんでこんなものが!!!いつの間に!!!
慌てて力いっぱい引っ張ったが、不吉な銀色は一向に取れない。きっと何かの術…というよりむしろ…呪いがかかっているんだ!!!
…呪いの指輪が俺の指に…!!!
「えーっと。やめるときも、健やかなるときも、あと、着替え中でも、トイレの中でも、入浴中でも、イチャイチャ中でも、ジジイになっても、 もちろん死んでも!一生ぴったりとくっついて未来永劫!永遠に離れないことを誓います!!!愛してます!!!イルカ先生!!!老後の介護も来世の ラブライフもドーンと任せてください!!!」
抱きついてくる変態の手はいつもどおり俺のケツを撫で回す…。
もう駄目なのか…諦めるしか…いや!この変態の良い様にされてなるものか!!!きっと三代目とかに頼めばはずしてもらえるはず!!!
「覚えてろよてめぇ!」
「はい!先生。今日この日のことは一生忘れません!!!やっとイルカ先生と結婚指輪の交換が出来ました!!!!!感動で…ついつい…」
「ぎゃあ!だから触るんじゃねぇ!!!大体指輪なんか交換してねぇ!!!アンタが勝手にやったんだろうが!!!」
「あ、やっぱり婚約指輪も欲しかったですか?実はもうすでに用意してあるんです!!!でもほら、結婚って響きが…いいでしょ?だからこっちが先で!!! 式も今すぐでもいいですよ!!!衣装も完璧!会場も押さえてあります!!!」
「知るかそんなもん!!!その前にどっちもいらん!!!大体絶対に式なんか挙げるか!!!」
そもそもこの呪いの指輪を受け取るとも言ってない!!!
「嬉しいなぁ…!!!あ、生まれ変わってもって言うの忘れてましたね!」
「全部お断りだ!!!」
「先生は誓いの言葉を言わなくても大丈夫です!!!聞かなくても分かってますし!!!それに!俺が一生どころか永遠にくっ付いて貴方のおしりを守り抜き ますから!!!なんてったって俺の可愛いイルカ先生の大事な大事なステキなおしりですからね!!!」
本当にコイツならやりとげそうだ…。だが、断固断る!!!中忍の根性舐めるなよ!!!
「自分のケツは自分で守る!!!大体貴様以外に俺のケツを追い回すような変態はいない!!!」
…さっきから何が悲しくてケツケツ言ってるんだ俺は…。むなしい…。
「えええー!!!イルカ先生は自分のおしりの魅力を理解してないんですね!!!大丈夫です!!!そのすばらしさ!今日、たっぷり一緒に体験しましょう!!!」
「頼む…せめて会話をしてくれ…。」
野郎のケツの魅力なんぞ心底どうでもいい…それより何より…一体何を体験させるつもりなんだこの変態は!!!うすうす感づいてはいるが、 恐ろしくて考えたくない…。
「あ、もちろん今日は全身で!奥の奥まで!じっくりたっぷり!!!身体と身体で語り会いましょう!!!」
「もういい…!とりあえず消えろ!!!!!」
この変態上忍と会話…成立していないが、ただ話を聞いているだけでも疲弊する。当たらないのを承知で回し蹴りを放ち、とにかく距離をとろうと試みた。
「そうですか!この感動に浸りたいんですね!!!…じゃ、ちょっとだけ一人にしちゃいますけど、寂しくなったらいつでも呼んで下さい!!!ほら、 もう一人じゃないんだし!!!ね!!!」
変態は俺の脚を掴んでなでまわすと、一応は満足したのか力いっぱいアホなことを言って離れていった。
「…永遠に呼ばん!!!」
…会話の内容は…もうどうでもいい。とにかくさっさとどっか行ってくれ…!!!
「じゃ!また後でー!!!」
やっと行ったか…どうしてあの変態は…!!!というかひょっとして、俺は今、貞操の危機に瀕しているのか…!?恐れおののく俺は、脱力のあまり、 思わずその場に膝を着いた。
…落ち込む自由くらいは、まだ俺に残されているはずだ…。
だが…
「あ、忘れてました!!!」
まだいたのか!!!
「オイ!さっさと失せろ!それに二度と俺の前に現れるな!!!」
なんなんだ!!!この変態は!!!
「いやーホラ。大事なものを忘れてたから!!!俺たちのスウィートホーム!!!ここです!!!じゃ、楽しい夜にしましょうね!!! 待ってますからー!!!」
…それだけ言うとヤツはいなくなった…ようだ。
きっと行っても行かなくてもヤツはまた俺の前に現れるだろう…。ひょっとすると迎えに来る可能性もある…。
だが…俺は負けん!絶対に負けんぞ!!!
俺は打倒変態上忍の決意を胸に、今これからとるべき行動について考えた。
クナイでは駄目だ!ヤツには毛の先ほどのダメージも与えられない…。だが、ヤツの目的から考えると、答えが見えてくる…。
…そう、ヤツの狙い。それは俺のケツだ!自分で言ってて悲しくなるが…つまり自分の身を守るためには、まず、ケツを防御する方法を考えなければ ならないということなのだ。
生徒たちには怪我をさせずに、ヤツだけを選択的に排除するトラップを考える必要がある。
今まで俺があの変態対策に、何もしてこなかったわけではない!
…こんなにすぐに使うことになるとは思わなかったが、このままでは…ヤツの餌食になるのを待つばかりだ!
「今日は…とにかく部屋に帰って…」
ヤツをしとめる準備をしなくては…。
「あ、すみません!イルカ先生!!!」
「またアンタかー!!!!!」
マズイ、まだ何の準備も出来ていない!!!…このままでは…ヤられる!?
「あのね…今日急に任務入っちゃって…。…どうしても行かなくちゃいけないんです…。酷い話ですよね!!!新婚なのに…!!!…イルカ先生には 寂しい思いをさせちゃいますが…その分帰ってきたら濃厚な愛の交歓が待ってますから!!!」
「いらん!!!!!!!そもそもかけらも愛など無い!!!!!!!」
「じゃ、そういうことで!!!」
そういうと上忍は、今度こそいなくなった…と信じたい…。
「当面の危機は…脱したのか…?」
だが、油断は禁物だ!ヤツが…いつ帰ってくるか分からないのだ…。任務の予定など今までも入っていたのに、ほとんど毎日!ヤツは俺の家に来ていた。 というか、俺の側に潜んでいた…。
…早急に対策を講じることを心に決め、俺はつかれきった身体を引きずって、自宅に帰ったのだった…。

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次回、戦えイルカ先生編でお送りするかもしれません。←適当。
…こんなんでましたけど…。アンケート的な何か。での密かな人気が…管理人を変態製造に駆り立てます…。←言い訳。
まあ、つまりアレです。今日も暑いからです。←相変わらず…。

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