「幸せになりたいなぁ…」 ま、そんなのは無理だろうけど。 自分と、そしてそれよりもずっと多くの他人の血で汚れた手は真っ赤に染まり、鼻を刺す鉄さびくさい匂いは肺の奥にまで入り込んでいる。 かぎなれたそれはきっともう全身に…洗っても拭い取れないほどしみこんでいるだろう。 冷たい手は自分が今屠った相手よりもずっと死の匂いがして、あたり一面息のあるモノがいない空間はある意味心地よい。 そう、感じるようになってしまった。 死は静謐な停滞だ。 これ以上なく壊れて戻らないものたちが形作る終焉は、俺を安心させてくれる。 いつか、自分もこうやって地に倒れ、起き上がらなくなる日が来るのだろう。 それはきっと安息だ。もう誰かを失うことを恐れることもなく、生きることを苦痛に思わなくてもいいのだから。 俺の場合は敵の手に渡る前に恐らく骨さえ残さず燃やされるはずだから、残されるのは精々ひとにぎりの灰くらいのものだろう。 それで終わりだ。 いくら名が売れていても、友から譲り受けた瞳が優秀でも。 なんてあっけない…だが、自分らしい終わり方。 じわじわと這い登る痛みはもはや慣れきったものだが、こうして物言わぬ躯に混じって転がっているとこれ以上動きたくなくなってきた。 「致命傷ってわけじゃないんだけどねぇ…」 だがチャクラ切れしかけた身体を手当てもせずにこのまま放っておけば、最近冷え込みを増した山中ではあっという間に体温を奪われ、最悪死に至るだろう。 今目の前に転がっている虚ろな瞳の…かつては魂を宿していた空っぽの入れ物のように。 「幸せに、なりたいなー…」 誰に問いかけるでもなく、独白というよりは思わず口をついて出た溜息のようなソレ。 返事なんて帰ってくるわけがないと思っていたのに。 「アンタなにやってんだ!」 血とチャクラを失いすぎたせいで気付かなかったが、他にも誰かいたらしい。 怒声とともに当たりの空気を一変させたのは、見覚えがあるような気もする一人の男だった。 額宛からすると木の葉の…同胞のようだが。 「アンタ誰?」 そう口にした瞬間、良く響く場違いな大声で何故か胸を張られた。 「仲間だ!木の葉の忍!」 「あ、そ」 どうやら、苦労してやる気を掘り起こさなくても助かるらしい。 見覚えがあると思ったのも、もしかしたら、同じ任務にでもついたことがあるのかも知れない。 とにかく、穏やかで死臭の漂う時間はもうすぐ終わりそうだ。 「幸せ?なればいいじゃないですか!ほら、いいからしっかり立って!歩けるんなら大丈夫ですね?」 歩けるかと問いかけたくせに、力の入らない俺の身体を軽々と…とまではいなくても、当然のように担ぎ上げ、男はそのまま歩き出す。 その歩みも声も力強く、どこまでも生きていることを感じさせる。 それに。 幸せに、なればいいと、幸せになってもイイって言ってくれた。 「ねぇ。名前、教えて?」 「こんな時に自己紹介でもないでしょうが?…うみの、イルカです。階級は中忍。名前は後で聞きますから、これ飲んで。そんで寝てて下さい。俺が絶対に連れて帰りますから!」 中忍か。なんとなく納得した。 大雑把というかおおらかというか…今まで生きてきた中ではあまり見ないタイプの人間だ。 口の中に無理やり放り込まれた兵糧丸を飲み込んで、絶対になんて言う男の名前を胸に刻み込んだ。 「帰ったらさ、御礼させて」 「礼?そんなもん当たり前だからいりません。それよりさっさとその怪我直して下さいよ?アンタ手当てもせずに良く分からんことを言ってましたが」 うん。やっぱり気に入った。 助けてくれたお礼には…俺の持ってるものの中で一番役に立ちそうな物を上げよう。 「やっぱり俺、かなぁ…?」 上忍だし、そこそこ強いし、それに…責任とって貰わないといけないしね? この男なら俺のこと、絶対に幸せにしてくれそうだ。 「毒か幻術か…?急がないと!」 俺の言動に何か勘違いしたらしく、一層足を速めた男の背で幸せな未来を思った。 「ふふ…これから…」 きっと、全部全部変わるだろう。 何も知らない男が焦っているといのに、俺は胸の中をまるでハチミツのように蕩けさせながら、幸せな夢に落ちていったのだった。 ********************************************************************************* しあわせになるためにひつようなもの=鼻傷で男前なかわい子ちゃん はた迷惑な恋心? 受付!受付にいただろうこの鼻傷のかわい子ちゃんは!という話? 中途半端に長いのでド粗品じゃなくてこっちにあげてみる。 一応ー…ご意見ご感想などお気軽にどうぞー!!! |