先輩‐衝突‐

「あ…!」
風を切る音が緩み、抱き上げられたまま鳥から下ろされた。
…木の葉の大門前だ。
「着きましたよ。僕の家がいいですか?それとも隊長の家に?」
サイより大分大きい僕を抱き上げてるっていうのに、余裕たっぷりの表情で、サイが歩き出す。
門番はいつでも出入りする人間を監視してるって言うのに…!
「いい加減離してくれ!」
慌ててサイを引き離そうとしたんだけど、簡単にいなされた。
「それはできませんよ。」
「わっ!?」
力が入らないのもあるけど、ソレよりサイの動きが俊敏なのも大きい。…結果的に僕の意図とは裏腹に、しっかり抱き込まれてしまった。
…こんな子ども相手に…!
「隊長の家の方がいいかな?近いし。」
「いいから!離しなさい!」
もがくだけで色々…痛みが走る。
それに、触れる体温が昨日の記憶をよみがえらせて…。
考えたくなくて、誤魔化したくて、いっそ術でもと考えたのに、にっこり笑ったサイに当然のように言われた。
「ああ、暴れない方がいいですよ?…目立ちたくはないでしょう?」
「くっ!」
確かに大門前で暴れたら、術でも食らったと思われて拘束されてもおかしくない。
里の中だからなおさら。
門番にこんな所見られたら…!
「でも下手に目立つのは良くないか。アナタを傷つけたいわけじゃないですから。」
「あ…。」
そっと地面に下ろされて、でも腰をつかまれて支えられた。
でも、とにかくコレで逃げられる。薬が残ってるのか、異常にだるいし腰とか…痛むけど、この程度の痛みなら耐えられる。
早速逃げ出そうと思ったのに、腰をつかまれて肩を貸されたままサイが歩き出してしまった。
「これで、任務帰りの仲間を助けたように見えるでしょう?本当はおおっぴらにしてもいいんですけどね。あなたの部下にでも見つかったらコトだ。」
「ソレが分かってるなら…なんであんなこと…!」
「欲しかったからです。どうしても、アナタが。」
「なっ!?」
もうイヤだ。どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ!
近づいてくる唇をよけようとした時、刺すような殺気に気付いた。
「テンゾウ。お前…」
怒ってる。なんて間が悪いんだ!?
もしかしなくてもやっとイルカさんの件が伝わったか、それとも、僕が…演習場でごたついてる間に僕宛に任務でもきたのか…?
とにかく、この状態はマズイ。
先輩は鼻がいいし、いくらお膳立てしたからって、こんな状況は見たくないだろう。
イルカさんの件ならこのままどっかに連れて行かれて、念入りに半殺しにされるだけだからいいけど…任務ならどっちにしろこんな状態でいけない。
せめて装備ぐらいは整えないと…!
「先ぱ…」
言いたいことがまとまらないながら、何とかしようと口を開いたのに、先輩に遮られた。
「俺は強姦しろとは言わなかったはずだけど?」
口調は軽い。でも、射殺すような視線と殺気をサイに向けている。
コレはまずい。相当怒ってる!
でも、ご、強…っ!?何でバレてるんだ!?
僕がサイにされたこと…先輩なら見抜くのもあたりまえか…。
でも、こんなコト誰にも知られたくなかったのに…!
泣きそうになりながらサイから離れようとしたのに、逆にぎゅっと抱きしめられてしまった。
「ちょっと強引な方がいいとおっしゃってましたよね?」
殺気をものともせずに、淡々と、…まるで僕を守るようにサイが話す。
苦しいくらい強く僕を抱きしめて。
ソレを鼻で笑って、先輩が鼻を鳴らした。
「だからって…この匂い。お前コイツに薬使ったな…? 」
先輩の鼻は下手な忍犬よりいいから、ソレで気づかれたのかもしれない。
先輩はどこまでも俺様な人だけど、基本的には仲間思いで…特に、部下の怪我とかには敏感だ。僕も毛がなんかすると、「お前あんなんで怪我するなんて、馬鹿じゃないの?」とかって、怒られてばっかりだったっけ…。
とにかく、早朝の里にふさわしくない殺伐とした雰囲気に、すさまじい殺気とチャクラ。
…コレじゃ騒ぎになるし、なによりサイが危ない。こんな状態だと仲間でも半殺しか…へたするとそのまま…!
それなのに、サイは相変わらずだ。
「いけませんか?欲しいモノを手に入れるのになりふり構ってたら失うって…」
全部言い切らないうちにぶわっと吹き上がる殺気。
先輩は完全に怒ってる。コレは…昔イルカさんが同行者のミスで怪我したときと同じくらいの殺気だ!あの時も、 同行者の人は原形をとどめないくらいぼこぼこに…!
イヤあの時より先輩だって落ち着いたはずだ!あれは…若気の至りだよね!?そうだよね!?
でも、チャクラのうねりは大きくなってるし…!
「待って!待ってください先輩!僕が隙を見せたのが…!」
僕は慌てて先輩を止めに入った。
サイに捕まったままだけど、とにかくこのままじゃ…恐ろしいコトになる。
あの時は止めに入った僕も、弾き飛ばされたせいでかなりのダメージを受けたけど、今ならきっと多少は…!
そう思って先輩に伸ばした手はサイに引き戻された。
「お前は黙ってろ。俺の部下に手を出したらどうなるか今こいつに…しっかり教えてやるから。」
冷静な口調と目が合うだけで凍りつきそうな冷たい視線。
ああ…もう絶対にヤバイ! こうなったら…イルカさん以外止められないんだよ先輩は!
捕まった腕をよじって、何とかしてとにかく時間稼ぎだけでもしようとしてるっていうのに、サイは火に油を注いでくれた。
「あなたにはもう大事な人がいるんでしょう?僕が欲しいのは…ヤマト隊長だけです。 」
…ああ…まだこの子はおかしいままだし…!
そもそも自分のやったことの重大性を理解してないみたいだ。
もう先輩を見るのも怖くて、視線が上げられない。
「…だからなんだ?」
苛立ちを隠そうともしない先輩が、じりっと距離をつめたのが分かる。
このままじゃ…!
背中を嫌な汗が伝った。
そんな僕をなだめるように、サイが僕の顎を引き寄せて…。
「あなたの大事な人が僕の恋人を誘惑する隙がないように、ちゃんと捕まえといてください。それに、僕の恋人を泣かせるのは僕だけでいい。」
「わー!?わー!?何言ってるんだ!誰がこ、恋人だ!?」
なんてこというんだこの子は!?
公衆の面前で恥ずかしげもなく…!今までもそうだったけど!でもこんな…先輩の前なのに…!
羞恥心で叫びだしたいくらいだったけど、その前に先輩がソレを許してくれなかった。
「テンゾウ。…コイツに何された。」
「え、いえその!僕は…!」
一体なんで僕はこんな目に合ってるんだ…!?
頭に血が上って、でもすぐに引いて…もうどうしたらいいのか分からなくなった。
誰にも言えないよ!こんなこと!…いくら先輩でもっていうか…先輩だからこそ、絶対!
それなのに…言葉に詰まって慌てふためく僕を気にもせずに、サイはサラッと言ってしまった。
「最後まで貰いましたよ。全部。当然ですよね?」
「わ−!わー!!!だからどうして!?」
だからさっきから…なんてこというんだこの子は…!?
口をふさごうにも身動きできなくて涙目になりながら地面を睨んでたら、スッと開放された。
「いい度胸だ…。テンゾウ。任務には出られそうか?」
先輩だ!先輩がサイの腕から僕をつまみ出してくれたみたいだ!
助かった…!でも、サイが腕を押さえて臨戦態勢っぽくなってるし!
それにしても、先輩、やっぱり僕への任務持ってきたんだな。一緒の任務の時は結構いうコトもあるから。…って言っても、普段は僕の方が呼びに行くんだけどね…。
とにかく、任務だ!急がないと!
「はい!…あの、半刻だけ時間を!装備を整えてきます。任務内容は?」
それだけあれば身体流して、服着替えて装備整えて、それから…後は薬の効果で何とかできるはずだ。
「暗殺。2日。…30分やるから何とかして来い。」
30分か…。まあ、ちょっときついけど何とかできる。暗殺なら多分待機時間もあるし…。
「はい!あ、でも!その!サイは…!」
サイは、そのままに出来ない。
このままじゃ…!下手したら、僕が準備してる間に消される。
さりげなく先輩とサイの間に回りこんでみたけど、容赦なく殺気を向けられてしまった。
「いいから、行け。」
ダメだ…!このままじゃ!
「できません!この子はまだ子ども…!」
とめないと酷いコトになる。
…こうやって、先輩に本気の殺気を向けられたのは久しぶりだ。
イルカさんが先生になるって言い出したときと、イルカさんに怪我させた仲間を襲撃してるの止めたときと…。
先輩の本気は正直キツイ。僕も…弱いわけじゃないけど、先輩は別格だ。
…本気でこられたら里が崩壊しかねない。
ビリビリと肌を焼く殺気とチャクラに耐えながら、何とか踏みとどまった。
ココで倒れるわけには行かないんだ!
その時…殺気を纏ったままの先輩がスッと距離をつめて、僕の襟首をめくった。
「子どもは、お前にこんなことしない。」
「あ。」
昨日、ソコに残されたのは…サイの残した所有印。
子どものくせに全然子どもらしくない声で勝手なことを囁いて、痛みを感じるくらいきつく吸い上げて跡を残された。
それを、見られた。先輩に。
…僕は、頭の中が真っ白になった。
「…触らないで下さい。僕のものなのに。」
立ちすくむ僕を庇うように腹に腕を回し、僕の肩越しに先輩をにらみつけるのは…サイだ。
「ガキが…いきがるなよ?」
練りこまれていくチャクラに先輩が本気でヤル気だと分かって、とっさに僕は動いていた。
「ちょっと!サイ!いいからこっち来なさい!先輩!この子も…その、汚れてるので洗ってきます!!!」
さっきとは逆に、痛む腰を庇いながらサイの腕をつかむ。
「テンゾウ!」
「すみませーん!!!」
先輩の怒鳴り声を背に受けながら、僕は後ろも振り返らずに走った。
僕の家まで一目散に。
*****
家の中に飛び込んで、結界のほころびなんかがないのも確認した。
それから先輩が跡を追ってきてないのも。
それだけやってから、腕を引かれるままについてきたサイを、思いっきり怒鳴りつけた。
「ああもう…何やってるんだ君は!?」
ころされるかも知れなかったってわかってるんだろうか!?
仲間には優しいけど、裏切りは何よりも嫌うし、元々素性からして先輩は警戒してた。
その上こんなことしたら…!任務上の都合とか何とか言って本気で消されかねないのに!
それでなくても疲れきっていた身体に無理をさせたせいで、眩暈がする。
とにかく幸い、これから僕と先輩は任務だ。
針の筵状態なのはきついけど、何とかサイのことをとりなしておかないと…!
頭の中はこれからどうしたらいいのかで一杯なのに、僕の手をつかんだままのサイは、何故か満足げに笑ってる。
「僕の方を、取りましたね。自覚がでてきましたか?」
「は?」
先輩から守ったのは事実だけど、それは…だってこの子はまだ更生の余地があるし、味方に手をかけたって知ったらイルカさんが悲しむし、先輩だって立場が悪くなるかもしれないし…!
ぐるぐるする思考と何故か熱くなる顔を抱えて、僕はへたり込んでしまった。
「あなたを手に入れられるなら、僕は怖いものなんかない。」
そんな僕を抱きとめて、熱っぽく囁くサイは…多分冷静さってモノをどこかに置き忘れてきたんだろう。
「敵を理解せずに突っ込むようなバカは僕は嫌いだ。…真っ先に死ぬからね。いいから体洗ってきなさい!」
情けないけど、ちょっと動けそうにない。
サイが風呂に入ってる間に薬で何とかするしかないだろう。
ベストの中を探る前に、サイが僕を抱き起こしてくれた。
でも…。
「僕が洗います。任務も僕が。」
そう言って、そのまま風呂場に連れて行こうとした。
あんなことされたのに、この上風呂に一緒入るなんて無理だ!
それに任務!そんなことしたら先輩に…!
「駄目だ。…準備があるから先に入って。」
極力冷静さを装って、部下に指示するように厳しい口調でそう言った。
「…はい。」
一応素直に風呂場には行ってくれたみたいだけど…。
「全く…!ってて!くそっ!」
準備をしなくちゃならない。
とりあえず仕込んどいた薬を飲み下して、サイの着替えも出してやる。
って言っても、僕のうちには僕以外の服なんかないから、だぼだぼだろうけど忍服にした。
幸い急な任務には先輩のお陰で馴れてるから、武器だの何だのはすぐに用意できた。
後は…湿った服を何とかしないといけない。
確か放置しとくと体調を崩すって聞いたことあるし、何よりヌルついた物が散々蹂躙されたところから流れ出てきて…それがなんとも言えず気持ち悪い。
適当に下着とかだけ用意して、サイが帰ったらすぐに洗い流してしまうつもりだった。
僕が準備を終えたとたん、サイが風呂場から出てきた。
折角着替え用意したのに、わざわざバスタオルだけで。
僕の任務があるから慌ててたのかもしれないけど…その姿に、昨日のコトを思い出して…。僕は、視線をそらしてしまった。
「もう、いいから帰りなさい。僕にも準備が…。」
本当は大方終わってるけど、急がなきゃいけないのは事実だし…何よりもう今日はこの子のことを考えたくない。何とか身体は動いてくれそうだから、早く帰してしまおう。
そう思ったのに、サイは僕に向かってとんでもないことを言った。
「中、キレイにしますから。こっちきてください。」
中…中って…!もしかしなくても…!?
「…な!?っ…自分でやるから!早く服着なさい!」
そんなコトさせられるわけがない!
もう二度とこの子に触れさせるつもりもないし、こんなこと…子ども相手にするもんじゃない!
「初めてでしょう?できないんじゃないですか?」
コレだけ怒っても、サイは淡々とした口調で当然のように僕を誘う。
「いいから行きなさい!いい加減からかうのは…!」
ダメだと思ったのに苛立ちをぶつけてしまった。
悲鳴じみた怒鳴り声を打ち破ったのは、サイの静かな怒りだった。
感情を露にしたことにも驚いたけど、その中身も僕を驚愕させた。
「…あんな男に渡さない。」
あんな男…?先輩のことか!
「…落ち着きなさい!いいかい?先輩は自分の部下を凄く大切にするんだ。だから君に…その、怒ってるけど、僕がちゃんとと説明する。君は帰って休みなさい。」
先輩に関しては、絶対になんとかしないと、とんでもないコトになる。
でも、説明すれば大丈夫…のはずだ。
イルカさんだったらもうとっくに…へたすると里ごと滅ぼされてただろうけど、幸いにして、被害者っていうか…この子に、その、されたのは僕だし。
どうも理解が怪しいサイに、言聞かせるように、ゆっくりと言ってやった。
「なぜ? 僕は…任務に行きます。今のあなたじゃ…」
ああ…なんでわかんないかな!
殺気だけでもあれだけのプレッシャーだったのに…それも自分に向けられてるんじゃなくて回りにいるだけでああだ。
豪胆って言うかなんていうか…根ってホントどうなってるんだろうね…!?
こうなったら…最終手段だ。
「君は…僕の部下だ。命令、聞けないのかい?」
任務が関わってるから、曲がりなりにも暗部のこの子なら何とかできると踏んだんだけど…。
「あなたのためなら。…待ってます。」
「…待ってないでいいよ。僕も忘れる。」
どうしてこんな答えが返ってくるんだろう?
あんなこと、覚えてちゃいけない。
…この子だって、いずれ後悔する日が来るのに。
「出来ませんよ。あなたには。」
自信満々に話す口調に、これ以上言っても無駄だと知った。
「いいから…もう行きなさい。…しばらく先輩には気をつけるように。」
無駄と知りつつ一応警告した。
この様子だと、僕が何とかするしかないだろう。
「今日は、帰ります。でも、僕は…」
「早く。着替えも返さなくていいよ。」
それでもまだ何か言おうとしてるのを遮って、この子を追い出すことを優先した。
任務のこともあるけど…何より自分のために。
「はい。」
サイは、流石に僕の怒りを察したのか、素直に服を着て帰って行った。
「…コレで、良かったんだ。」
これ以上考えたくなかった。サイは傷ついたかもしれないけど、きっといつか冷静になった時に分かるだろう。
…先輩がやり過ぎないようにしないといけないけど、まずは任務だ。
まだ思い足を引きずって風呂場に向かいながら、僕は出来るだけサイのことを思考から追い出そうとした。
あんまり、上手く行かなかったけど…。


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保護者の怒り編?その1。
これから先輩と針の筵で任務編の予定?
毎度ながら…うっかり読んで気分を害された方は、すぐさま記憶から消去されることをお勧めします…。
…ご意見ご感想突っ込み等は大歓迎!!!

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