先輩‐波乱の幕開け‐

サイが引っ越してきた。しかも勝手に。
その腕の中に閉じ込められていることに安堵するよりも先に、方策を考えるべきだったのに。
やっとそのこと理解すると同時に、今更痛みが戻ってきた。
腰とあらぬ部分と、それから勿論頭にも。
「君は…どうしてそんなに常識が無いんだい…?」
これからどうにかしてこの子を納得させて、それからここから荷物を運び出して…そんなコトを考えるだけで痛みは増した。
どうしたってサイは納得しないだろうって分かってたし、普段は冷静…いや、冷淡っていうか、機械的に任務をこなすだけに見えたのが、ここまで変わったのはイイことなんだろうか?なんて考えたら、これからどうするのが一番いいのかすら決められない。
ヘマをすれば体に風穴を空けられかけるなんて日常茶飯事だった。それなのに慣れているはずの痛みがこれほどまでに堪えるのは、やっぱり精神的ダメージがそれだけ大きいってことなんだろうか?
任務ではそういう意味で体を使うことはなかったけれど、ある程度納得も覚悟もしていた。…でも、これは違うから。
その思いを受け止めて、考えなきゃいけない。
ふらつく体に鞭打って、とりあえず話をしないとと思ってた僕の腕を、サイが引いた。
「…っ!」
うめき声は堪えられたけど、顔には出てしまったかもしれない。
痛みと、それから僕の苦悩が。
「ああ、痛いんですね…?」
自分より大分小さな体に抱きとめられて、すんっと耳元で鼻を鳴らす音がしたから、てっきり泣いてでもいるんじゃないかと慌てたのに、サイは笑っていた。
…それも、思いっきり何か企んでそうな顔で。
普段どおりの作り笑顔…それだけならまだマシだ。
こんな風にちょっと先輩が悪巧みしてる時を思い出すような嫌な予感を感じるのは久しぶりだ。
「…いいかい?とりあえず僕は任務明けで疲れてるんだ。君は帰りなさい!」
年上の威厳と上司としての立場ってものがある。
これだけ言えば、流石に感覚がずれているサイでも気付くだろうと思ったのが甘かった。
「あ、それは無理です。僕、賃貸契約解約しちゃったので」
「何だって!?」
賃貸…そりゃ僕だって賃貸ぐらい知ってるけど、その言葉は中々頭に入ってこなかった。
宿くらいどうとでもなるだろうって、突き放せばよかったんだ。
でもその時の僕の頭では、この子の帰る家がないってことと、それを嬉々として告げてくることへの混乱だけで一杯になってしまった。
なんてことしてるんだこの子はってことだけで。
暗部失格だったってことは自覚してる。
任務でこんな風に冷静さを欠けば、ソレはすぐに命を失うコトにつながる。だからこそ、生き残り続けられた僕はずっといつだって…冷静でいられるって言う自信もあった。
そんなのはこの子の前じゃ通用しないって、わかっておかなきゃいけなかったのに。
この子の前でそんな隙だらけな状態でいるなんて、馬鹿もいいところだ。
「じゃ、早速」
にっこり笑うサイに気を取られているうちに…気がつけば視界は反転して、背中を軟らかいものが受け止めていた。
つまり、僕のベッドの上に二人一緒に…!
「わー!?わー!?」
痛みどころじゃない自体だ。大慌てで引き離そうとするのと立ち上がるのをいっぺんにしようとして、みっともなく足をばたつかせた僕を、サイがそっと撫でた。
うっとりとした瞳で僕を見つめながら。
「ああ、大丈夫ですよ。なにもしません。…流石に今は」
「ああそうかい…って!?今は!?ちょ、ちょっと待った!それって…!?」
悪夢だ。悪夢が正に僕の憩いの我が家の…しかもイルカさんに買ってもらった大事なベッドカバーの上でにっこり笑っている。
「あなたの体を傷つけるのは本意じゃありませんし。ああでも、慣れて欲しいので、ちゃんと毎日気持ちよくしますよ?」
そんなことを一方的に話しながら、僕の抵抗なんてどこ吹く風で、当然のように布団をまくりあげ、僕と…それから自分の体を滑り込ませてしまった。
「くっ…!」
こうなったら僕の家は諦める…のはイヤだけど、一旦撤退するしかない。
幸い家ならなんとか作れるんだし、結界だって…!
ベッドから飛び出して瞬身の印を結ぶ前に、僕は無様に倒れこむコトになった。
「え…!」
この眩暈…先輩に限界まで修行させられたときと同じ…ってことは、もしかしてチャクラ切れ!?
ガタがきてた身体でいきなり激しく動いたせいで、僕の体はもう欠片も動いてくれそうにない。
無防備に、ただそこに転がっていることしかできないってことだ。
…真っ青になった。このままじゃ何をされるか分からないって。
でも、サイは。
「ほら、寝て下さい。ちゃんと側にいますから」
簡単に僕を抱き上げて、布団に寝かしつけるその手際のよさに、なんとなく安堵して、それから激しい苛立ちが僕を襲った。
サイの行動にも、自分がうっかりほっとしちゃったりなんかしたことにも。
「…僕は寝たいんだ。君がここにいていいから、ソファーで寝る」
本当はもう動けるはずなんてないのに、どうしてもそれをサイに知られたくなかった。
こうなったら意地でもとふらつく足を動かそうとしたのに。
「そうですか。では僕もソファで」
その足の動きを助けるように…いや、むしろ体格差のある僕を当然のようにまた抱き上げようとしたサイに、思わず悲鳴じみた叫びをあげてしまった。
「なんでそうなるんだい!?僕はゆっくり寝たいだけだ!…君も分かるだろう?」
暗部なら誰かと眠るなんてことには慣れてるけど、だからって警戒する相手と眠るなんて…ありえない。
そもそもあんなことになった相手と、素直に同衾なんてできたら、そっちの方が頭がおかしいだろう?
そのとき僕は睨みつけるような顔をしていたかもしれない。
でも、サイはにっこり笑った。あの仮面みたいな笑顔じゃなくて、心底楽しそうに。
「そうですね?今日は…ゆっくり寝ましょうか」
そう言って、当然のように僕の唇にその薄く冷たい唇を重ねて…!
「んむっ!?んー!?んー!?」
殴りつけようにももがくことくらいがせいぜいな自分に情けなさを感じながら、僕はそれでも抵抗を止めなかった。
それが、逆にまずかったらしいと後で知った。
「そんな顔されるとそそりますね。入れないからちょっと気持ちいいことしましょうか?慰めてあげます」
そんなこと分かるわけ無いだろ!
そう叫びたかった口はまたふさがれて、今度は当然のように拭くの中にまで手が入りこんで…確かにいれ…いやその!そこまではいかないにしろ、高みまで追い上げられて肌に飛び散る熱い自分以外の熱を感じて、それからすぐに意識の限界に来て失神した。
*****
それから…全部夢だと思いたかった僕を待っていたのは、目覚めてすぐ間近で微笑むサイだったわけなんだけど。
「おはようございます。かわいかったですよ。寝顔も体の反応も」
にこやかな笑顔といってる内容が全く全然欠片も、合ってない。
朝っぱらからなんてことだ!
「うわあああああ!」
…これから、どうなっちゃうだろうって不安は、僕の心に重く圧し掛かって消えてくれそうにも無かった。


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とりあえず、狼が住み着きましたとさ!
木製暗部の明日はどっちだ!?←鬼。
えー…うっかり読んで気分を害された方は、すぐさま記憶から消去されることをお勧めします…。
それでも…ご意見ご感想突っ込み等は大歓迎!!!
…保護者その2に目撃編とかマニアックなのもいつか書くんだ…!


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