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薬は飲んだ。即効性が売りのそれは、多分もうすぐ痛みをとってくれるはずだ。 本当なら今日は一日中だって寝ていたいけど、任務だからそうも行かない。 なにより先輩を何とかしないといけないから、装備を整えてから急いで身体を流した。 まだじくじくと痛むソコに何をくわえ込まされていたかなんて考えたくもないのに、浴室の床に流れていく白いものがしつこくその存在を主張する。 …後悔なんてもんじゃない。 信じられないことを、とんでもない相手としてしまった。 それだけでも頭が痛いのに。 …それを…もしかしたら一番見られたくないかもしれない人に見られてしまった。 恐ろしい怒り。 先輩は…俺の状態が悪いとイルカさんが泣くからって言うのもあったんだろう。何せ最近ずっと心配かけてばっかりだったし。 でも多分一番の理由は…今まで散々たきつけてたけど、流石にあの子がココまでするとは思っても見なかったんだろう。 任務でもないのに、同胞相手に薬を使うなんてことは、普通はありえない。時々不埒なマネをする馬鹿も出ることもあるけど、普通仲間が止めるし、最悪能力を全て封じられた上に追放か捨て駒か…処分されることだってある。 …あの子は本当に閉ざされた所で任務に必要なことだけを身に着けてきたんだろう。 先輩も幼い頃から戦場にいたけど、先輩にはイルカさんがいた。 だからきっと、こんなコトまで予想できなかったんだ。 …先輩に腹を立てても、あの子の無謀な行動を咎めても起こったことは変わらない。 「痛い。なぁ…」 この痛みが早くなくなればいいのに。 …そうなってもなかったことには出来ないけど…。 洗っても洗っても流れ出てくる昨夜の残滓を疎ましく思った。 自分の、愚かさの証明だから。 自分のことさえコントロールできずに、しかも相手が子どもと侮って隙を見せて…だから、こんな目に合った。 馬鹿みたいだ。 胸を突き刺す後悔をやり過ごし、任務のことだけに意識を集中させた。 …そうじゃないと立っていられなかったから。 ＊＊＊＊＊ 結局痛みはそんなに引かなかったけど、この程度の痛みで任務が出来なくなるほど落ちてない。肉体の痛みでどうこうなるような弱い者は暗部なんてやってられないし。 …そんなことより、先輩との移動だけが苦痛だった。 道中、ずっと先輩は無言だった。…俺も、とりなそうとか、説明しなくちゃとか…色々思うのに口が動いてくれない。結局お互い無言のまま、いつもの様に任務を淡々と片付けた。 普段より動きが悪くても、普段より早く任務が終わったのは、先輩も気詰まりに思っていたからかもしれない。 ターゲットを無事始末して事後の始末も黙々と終わらせた。 後は里へ帰るだけ。…僕たちの存在を気取られる心配の無いところまで離れてから、意を決して僕は先輩に話しかけた。 「あの、先輩。」 「…。」 先輩は、視線をちらりと向けただけで、一言も喋らない。 チャクラは…静か過ぎるほど静かで、…まあ帰還するまで追っ手が掛かる可能性もあるからっていうのもあるけど…普段ならとっくに怒ったり冷たい言葉をぶつけてくるのに。 沈黙が流れて、ものすごく話し辛い。…元々積極的に話したい話題じゃないから余計に。何で黙ってるのか分からないけど、きっと先輩は怒ってるんじゃないかと思うと、足がすくむ。 …でもこのままにしておくわけにはいかない。 「イルカさんのことは、すみませんでした。でも僕は…！」 面があって良かったと思った。きっと僕は最高に情けない顔をしている。 それに、多分恐怖も隠しきれてはいないだろう。バクバク言ってる心臓の音だって、先輩には聞こえてるにちがいない。 …だって、ここまで怒るなんて、多分イルカさん絡みのことだからに決まってる。それならきっと恐ろしいコトに鳴るのは間違いないから…。 多分、やっと僕のやらかした告白が伝わったか、それとも僕の様子がおかしいからちゃんと話聞いてあげて？ってイルカさんが心配してくれちゃったか…その辺だと思うんだけど。 それとも、サイの態度が原因で怒ってるのか…！？ それでなくても一杯一杯だった頭が更にぐちゃぐちゃになってるのが自分でも分かる。 薬で間隔を誤魔化してるせいじゃなくて、コレは…。 でも、予想に反して、先輩の応えは淡々としていた。 「それはもういい。…知ってた。イルカは譲れないし、イルカは俺以外見ないからいい。」 「…そう、ですね…。」 そう、あの人は先輩意外を見ていない。であった頃…ほんの小さな頃からずっと、先輩だけを見つめて、心配して、それに愛している。 先輩がこうやって言い切るのは、自信じゃなくて確信だ。 先輩とイルカさんは、どっちかに何かあったら一緒に消えてしまうくらいひとつだから。 割って入ろうなんて想像もできないくらいに…。 何だか、今更だけど凄く納得した。 まだ、胸は軋んでいるけど…。だからこそ、僕は二人を守りたいと思ってるんだ。 「アレがあんなことまでするとは…。お前はアレでいいのか？」 「…子どもの勘違いですよ。僕が隙を見せたからいけなかっただけで…」 話題が変わったのはありがたいと思うべきなんだろうか？ 確かに、僕だってまさか…いきなりこんなコトされるなんて思っても見なかった。 そもそも、恋とか愛っていうのは、こんなに激しい物なんだろうか？ 僕は…イルカさんが好きだったけど、こんな風に強引に体だけ奪おうなんて考えもしなかった。 ただ、幸せに笑っていてくれればイイとだけずっと…。 だから、きっとあれは恋じゃない。 ただ、初めて知る外を…根の者じゃない他人との接触で勘違いして…熱病のように僕に執着してしまっただけだ。 あんなに激しいのは、違う。 先輩たちみたいにお互いで一番な訳じゃなくて、全てを奪うような愛を、僕は知らない。 考え込む僕に、ため息を一つついた先輩が、まるで愚痴をこぼすように警告めいた言葉を吐いた。 「お前にも、もっと…こっち方面のコトも見せてやればよかったな。あれは本気だ。お前も嫌なら俺に言え。」 「なっ！？」 本気？あの子が？サイが？ …ありえない。 丁度…その、そういうコトに興味が一番ある時期だし、きっとそのせいだ。 まあ、普通暗部なんかにいたら、あの年ならソレ相応の経験をさせられているはずだけど。 …でも、あの子はまだ子どもだ。 しかも根なんかにいたから、きっと愛なんか分からないんだ。 たまたま…側にいた珍しい相手を闇雲に欲しがっているだけ…。 否定の言葉を重ねて、そう思い込もうとしたのに。 「…ああいうのは諦めないからな。お前の手に負える相手じゃない。」 「まだ子どもです！」 先輩の言葉は残酷なまでに淡々としていた。当然の事を言っているとでもいうように。 そう。先輩がこういう話し方をする時は、大概本当のことを言っている。 戦略を考えさせたら、僕はこの人の上を行く人を知らない。 でも…そんなことを認めたら…！ 思わずみっともなくも取り乱して、珍しく先輩に言い返してしまった僕に、先輩の白い手が伸びて…。 無造作に襟首を、めくった。 「そうやって油断するから、…こういう目に合ったんだろう？自覚しろ。」 「…！」 露になったのは、機能の執着の後。 隙放題に嬲られて、犯されて…それだけじゃなく僕も…その快楽に溺れた。 罪悪感が今更ながら自分を追い詰める。…今すぐにでも皮膚を抉り取ってしまいたいくらいに。 あがいても、もう取り返しがつかない。 あんな子どもに、僕は確かにみっともなくも縋って、喘いで、欲望の糧にした。薬を使われてからってあんな風になるなんて…！ 「イルカは…そういうの知らないから無理でも、俺なら少しは何とかしてやる。」 「はい…。」 静かな、先輩の声に縋りそうな自分がいやだった。 いつまでも先輩に助けを求めてしまう自分が…すごく。 確かに先輩ならいくらでも方法を思いつくだろう。 あんなに愛してる人がいるのに、周りの人間は…特に女たちは諦めようとしなかった。 まあ、当然かもしれない。写輪眼の上忍で、暗部で、なによりこの容姿と戦跡。 対するあの人は…中忍で教師だ。 実力的には確かに僕より劣るけど、正確な術や戦略的思考なら先輩に仕込まれているだけあってそんじょそこらの中忍なんか足元にも及ばないくらいなのに、それでも下に見て、悪し様に言われることが多かった。男だってことも、少しは関係してたのかもしれない。 …まあ、先輩がそんなのを許したりはしなかったけど。 だから、きっとそういうのを追払い退けることなら誰よりも詳しいってことは分かってる。 だけど、だからって…いつまでもこの人に甘えていたくなかった。 冷たくて厳しくて…でも、イルカさんのせいかもしれなくても、最後にはその手を差し伸べてくれるって分かってるからこそ、絶対に。 …自分で、解決しなくちゃいけない。特に、こんなことは。 「お前は背負い込みすぎる。…無理は、するな。」 「！…はい…。」 僕の決意に気付いたのか、先輩が珍しくフォローしてくれたのが嬉しかった。 「…帰るぞ。」 「はい。」 ぶっきらぼうな…ちょっと照れてるようなその態度に励まされる。 僕には…そういう経験も、あの子の思考も分からないけど、立ち向かってみなくては。 「…お前になんかあるとイルカが泣く。…その辺も考えろ。」 「はい…。」 イルカさん…確かに凄く心配させてしまったから、挨拶だけでもいかないと。 これが、片付いたら。きっと。 後は、無言で里への道を急いだ。 思考をあの子のことで一杯にして…。 ＊＊＊＊＊ 「なんで…！ここにいるんだい！？」 僕の部屋だ。ソレは間違いない。 でも、サイは確かに僕の部屋にいた。 結界は僕が任務に出るときに閉じたから、この子はソレをかいくぐってココに入り込んだってことか…！？ 流石に、根の者なだけはある。 …でも、コレはいい機会かもしれない。 ずっと考えてた。サイのこと。戦ってるときも、帰還中も。 目の前で真剣な瞳をしてるサイが、本気なのかもしれないって。 サイはいつもみたいにうそ臭い笑顔じゃなくて、お帰りなさいも言わずに怒りに似た光を宿した瞳で僕の腕をつかんだ。 「逃がしません。」 低い声と腕をつかむ力の強さが、僕の胸にギリギリと締め上げるような痛みをもたらした。 …ああ、そうだ。この子は本気だ。 僕に。僕なんかに。 今更分かった。ふざけているように見えて、ずっときっとこの子は…本気だったんだ。 ソレが恋なのかは分からないけど…。いつか冷める熱病なのかもしれなくても、少なくとも今は…。 腕をつかむサイの手もそのままに、僕は真っ直ぐにサイを見つめ返した。 この子を経歴からして怪しんでいたから、このこの瞳を真っ直ぐに見たことなんかほとんどなかった。 だから…こんなにも狂おしい光を宿しているなんて知らなかったんだ。 例え一瞬のものかもしれなくても、激しい炎のようなそれをなかったことになんかできない。 ちゃんと話さなきゃいけない。 「…逃げないよ。少し、話がある。」 「僕にも、話があります。」 サイは必死で、いつも真剣だったのかもしれない。 …まあ、大分明後日なことばっかり言ってたからどうなんだろうと思っちゃったけど…。 叩き込まれた根の教育をねじ伏せてまで外の世界を欲するこの子の力になりたいから。 いや、それだけじゃなくて…僕をこうまでして欲しがってくれるこの子が僕はきっと…。 だから、ゆっくり分かるように話そうと思った。 「君の事をちゃんと考えてみる。」 まずはそこからだ。 ずっと…偵察活動なんじゃないかとか、若いからちょっとおかしくなっちゃったんだろうとか…真剣にこの子の思いを見てこなかった。 だから、焦れてあんなことをしたんだろう。 ソレは僕のせいでもある。…あんなやり方は絶対に認めないけど、それでも…その思いをちゃんと考えないなんて、イルカさんだって怒る。 僕としても真剣に必死で話したつもりだったんだけど…。 「一緒に住みましょう。アナタを一人にするのは不安です。僕が側にいないと…。」 「え！？」 ぎゅっと僕を抱きしめたサイは、また突拍子も無い事を言い出した。 一緒に…住むだって！？ 「考えてくれるのは歓迎です。一緒に住みながら考えてください。じっくり。」 「何を…言ってるんだ！？」 とっさにその腕を振り払った。 あの時のことを思い出しそうだったってのもあるけど…。 なにより、その言葉に混乱した。 だって、この子は子どもで…でも、ああいうことをしでかした前科があって、しかも多分常識なんてモノは欠片も身に着けてなくて…。 そんな相手と住む！？ …そんなコト考えられるわけがない。 僕がちゃんと事態を理解できる前に、サイはまるで任務の経過報告のようにサラッととんでもない事実をいってくれちゃったし…！ 「僕の荷物のほうが少ないから、ヤマト隊長の家に運んでおきました。」 「ええ！？…そういえば家がちょっとなんかちがう…！？ 」 たんすが増えてる。それに見たことがない棚に詰まった巻物とか武器とか…それに絵までふえてる！？いつのまに！？ 「僕を見てください。僕だけを。」 あまりのことに呆然とする僕を、当然のように腕の中に閉じ込めて、サイはどこか誇らしげに笑った。 それがあんまりにも綺麗で、心臓が勝手に喚きだして。 僕は言葉さえなくして、立ちすくむことしか出来なかった。 何故かかすかな安堵感に包まれながら…。 ********************************************************************************* 保護者の説教編終了？あとは保護者その2による心配編かなぁ…？ どこまでも突っ走る狼と、頑張ってみるけどあんまり上手くいかなそうな羊さん。 これからどこまでも押し切られるのか、はたまた押し返せるのか…！？…どうしようかなぁ？ うっかり読んで気分を害された方は、すぐさま記憶から消去されることをお勧めします…。 それでも…ご意見ご感想突っ込み等は大歓迎！！！ |